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新聞販売店(しんぶんはんばいてん)とは、各世帯と紙の新聞の宅配契約を結び宅配、集金をする店(営業所)のことである。新聞社とは別の会社によるものであり、新聞社との契約によって販売事業を行っている。新聞屋とも言われるが反社会的勢力の新聞屋とは異なるものである[1]。
日本の新聞戸別宅配制度を維持するシステムとなっており、日本の高い新聞購読率は新聞販売店が支えている。2023年10月時点で全国に13,373軒の販売店があり[2]、10年前と比較すると4,649軒減少している。
新聞販売店は、特定の新聞社の新聞のみを扱う「専売店」、特定の新聞社の系統に属しながら他紙も扱う「複合店」、その地域の全ての新聞を扱う「合売店」の3種類に分けられる。都市部では専売店が多いが、新興住宅地や地方では複合店も多く、人口の少ない地域では合売店が多い。また、専売店は他紙販売店の廃業などにより、他社からの業務委託を受けて複合店に変わることがある。
販売店では店頭などで新聞を一部のみ購入することや、新聞社が刊行している書籍や雑誌を注文することができる場合もある。さらに販売店によっては食品の販売・宅配など、独自の購読者向けサービスを実施している場合がある。
業界全体では2023年10月時点で220,457人の従業員が居る。うち新聞少年(中学生及び高校生)は、466人[2]。
新聞販売店は、新聞社との契約により販売の拡張と購読者の管理および集金業務を行うのが主業務である。新聞購読料と折り込みチラシの売り上げが主な収入源であり、これに付随して本社から支給される様々な補助費も加算される。
全国の販売店合計で年間約1兆7500億円が売り上げて本社へ納められており、この内、合計約6500億円が配達手数料として、さらに約1500億円が販売促進費として本社から販売店へ還元される仕組みとなっている。全体から占める販売経費の比率からすれば、販売コストの高い業種でもある[3]。
販売店と本社の営業担当者との取り決めにより担当地域の世帯数から算出した基数が設定され、これを基にして補助金や奨励金などが決まる。金額は、自販売店の扱う銘柄の購読者が世帯数に占める割合が多いほど高額となる。
補助金の内訳としては他にも従業員の厚生費の補助や新聞拡張団を入れるための補助など非常に多岐に渡る項目があり、販売店の経営者ですら掌握しきれない場合もあるほど分かりづらい構造となっている[4]。また補助金の内訳は本社販売担当者の裁量下にあるため、新聞社としての明確な規定はないとされる[5]。
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新聞宅配契約は販売店が独自に行う場合と「拡張団」または「団」と呼ばれるセールスマンが行う場合がある。拡張団は販売店とは異なる独立した存在で、取り付けた定期購読契約を販売店に買い取ってもらうことで利益を得る。しばしば拡張団の暴力的な勧誘が問題視される。
新聞販売店にとっては、地元に根ざしているために強引な勧誘がやり辛い身内の社員よりもよそから来た拡張団の営業力に頼らざるを得ない面もある。これは後述するノルマ達成と現状維持のためという面が大きく、部数の逼迫した状況では社員よりも遥かに高額のカード料(新聞契約カードと引き替えに拡張団へ支払う報酬)を負担して拡張団に頼る事になる。しかし、そのような状況下で強引に契約を行った購読者は以下の理由により将来的に購読者として定着することは少ない。
連日に渡り拡張団の営業力に依存して部数を維持しても、それは高いコストを掛けた見かけ上の部数維持にしかならない。しかし、販売店としては部数の低下を防ぐために拡張団に頼り続けるという悪循環になっている。
また、販売店が受け持った地域の購読者が拡張団が提示する好条件の契約に慣れてくると販売店の社員では対応していくのが困難となってしまい、購読者にとっては都合が良くとも販売店にとっては経営維持が苦しい状況となる。
新聞社は販売部数拡大と発行部数に比例して広告収入が決定されるため、広告費収入の維持・増益を目的として、しばしば「目標数○○万部」などと契約上の優越的地位を利用して過大なノルマを販売店に課すことがある[6]。これらは販売しなければならない新聞を販売店に押しつけている形になっていることから、「押し紙」と呼ばれている[7][8]。なお、押し紙制度は新聞社の販売部局に長く在籍した飯田真也(朝日新聞代表取締役会長)が作り出したといわれる[9][10]。
販売店は新聞社に対して従属的な立場にあり要求を拒めば販売店契約の解除を暗にほのめかされるなど不利な状況に追い込まれるため、「押し紙」を所謂自爆営業で受け入れざるを得ない。新聞社は販売店に「押し付けた」時点で利益を計上することができるが、販売店は売れ残った新聞の代金も新聞社に一方的に支払い続けなければならない[6]。
こういった行為は独占禁止法に抵触する。1997年、公正取引委員会は、北國新聞社(石川県)に対し、「大部分の新聞販売店に対し、その注文部数を著しく超えて供給しており、その結果、新聞販売店においては、相当部数の販売残紙が生じ、経済上の不利益を受けている」としたうえで、排除措置命令を発出している[11]。また、2016年には、参議院経済産業委員会で、山田昭典公正取引委員会審査局長が、朝日新聞社による販売店に対する新聞の販売方法に関し、公正取引委員会から注意を行ったことを明らかにした[12]。
発行業者が、販売業者に対し、正当かつ合理的な理由がないのに、次の各号のいずれかに該当する行為をすることにより、販売業者に不利益を与えること。
- 一 販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)。
- 二 販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。
— 新聞業における特定の不公正な取引方法(平成十一年七月二十一日公正取引委員会告示第九号)
なお、全国の日刊紙で発行部数の2割程度、約1000万部が日々廃棄されているという。ただ新聞配達業務には、輸送やチラシの折り込み作業で破れる、配達時に落とす、雨に濡れるなどのトラブルはつきものであり、多少の予備も必要になるため廃棄される新聞全てが押し紙とはいえない。
月刊誌『財界にっぽん』によれば、元販売店と新聞社との民事訴訟で実売2000部に対し押し紙が3000部だったケースも報告されている。2007年秋に総部数2010部となっているところ、実際に読者に配達していたのは1013部と997部、実に半分もの新聞が押し紙となっている例もあるという[13]。新聞各社は押し紙の存在を否定するが、漫画『ミナミの帝王」などで言及され、特にネットなどではよくその存在が既成事実として語られる[14]。
「押し紙」の存在は販売店にとって大きな経済的負担になっており、経営に行き詰った元販売店が新聞社を相手取って実際に訴訟をおこすケースもある。2009年3月には、押し紙をめぐる裁判でフリー記者の黒藪哲哉が読売新聞に勝訴した[15]。また同年6月、『週刊新潮』が、滋賀県内の読売新聞は18%(全国平均では3〜4割)、朝日新聞は34%、毎日新聞と産経新聞は57%が押し紙であるとした特集を組むなど、近年はこれまでのタブー視を打ち破るような情勢が形作られてきている[16]。同誌の記事の信憑性を問う裁判では、週刊新潮側が敗訴している[17]が、2016年4月28日号掲載の記事では、販売店主の告白という体裁で、再び各紙の押し紙(水増し)率を記事にしている[18]。
新聞社は広告主に対し公称部数を元に広告枠を販売している[6]ため、「押し紙」を差し引いた実売部数が明らかになれば「押し紙」分だけ新聞社の広告費収入や販売店の貴重な収入源であるチラシ収入が減少する[19]こととなる。
週刊文春は新聞販売の闇として、押し紙で講読者数を偽装して、そのデータを基準とした広告料を掲載主らから取ることで差額を莫大な利益としていると報道した[20]。2015年に退職した元朝日新聞社販売管理部長の畑尾一知によると新聞を読む人の数はとてつもない勢いで減少していると明かしている。それにも関わらず、日本新聞協会が毎年発表する新聞の発行部数はそこまでは落ち込んでいない背景について、「そのギャップは押し紙として、販売店に押しつけられているのが実情だ」と明かしている[21]。毎日新聞では押し紙率が多かったため、販売店と度々訴訟になっている[22]。
押し紙の一部はの店舗や店員の知人に緩衝材、包装紙などとして譲渡されていた[23]。近年では新聞販売店から未使用の新聞紙を回収し、インターネットショップで「ペットのトイレシート」などの名目でキログラム単位で販売するビジネスモデルが定着している[23]。
主に新聞の販売益と新聞に折り込まれる折込チラシの手数料収入が経営を支えている。新聞販売店の原価率は極めて高く、粗利は低い。配達員の給与も時間的特殊性から高く、営業(訪問セールス)に支払われる対価も決して小さくはない。そのため人件費のウエイトが非常に大きい。特にチラシの多い都市部ほどチラシの収入から営業活動やいわゆる押し紙の経費を捻出している割合が高い。このような経営体系のため、チラシの指数と実際の新聞の扱い部数が乖離し、配布されることのない余分なチラシに対しても手数料を徴収していた事例が過去には非常に多く見られたが、最近では新聞雑誌部数公査機構であるABC(Audit Bureau of Circulations)の店別指数公表もあって以前よりは改善され、さらにインターネットの普及によりチラシ自体が減少傾向にあるために、その経営環境はますます厳しくなっている。
また、表向きは再販制度及び新聞特殊指定により「全国同一価格」が謳われているが実際は新規契約に際して「3ヶ月間無料」といった条件が提示されるなど同じ新聞の販売店でも月極で800円前後の価格差が存在し事実上の値下げが行われ、「全国同一価格」が部分的に守られていないことが知られるようになってきている[24]。
地方の販売店では以前からよく見られたが、都市部でも単独の新聞社系列の商品だけでなく複数新聞社系列の商品を取り扱うことで収益をあげようという経営努力がみられるようになる。例えば、朝日新聞販売店で産経新聞も取り扱うなど新聞社の主義主張とは異なる取り合わせも見られる。
おおむね以下のような待遇となっている。
近年、本社営業部門の方針もあり業界全体のクリーン化が進められているが、長年にわたり定着してきたイメージはなかなか変化していない。また、このようなクリーン化の方針を長年在籍していた中堅以上の社員に対してどのように指導していくかも難しい課題となっている。
都市部では奨学金を提供する代わりに一定年数の労働に従事する新聞奨学生も存在する。
全国的な購読数落ち込みにより環境の良くない販売店は次第に淘汰されており、環境改善への取り組みは強まってはいる。しかし、下に挙げるような職場環境の販売店は現在も無くなっていない。
新聞を宅配契約していて長期間旅行などで留守にする場合、販売店に宅配を止めてもらうことができる。2004年にはこの制度を悪用し、留守宅に空き巣に入るという事件が発生した。
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