ヨヒンベノキ属 (ヨヒンベノキぞく、学名 : Corynanthe )[1] とは、アカネ科 の属 の一つである。分布は熱帯アフリカ 西部からアンゴラ にかけてである[2] 。2014年に完全な統合が結論付けられるまでPausinystalia 属と近縁属の関係にあると見做され、アカネ科における連 階級の位置づけに関しても21世紀初頭にタニワタリノキ連 に落ち着くまではキナノキ連 やヒョウタンカズラ連 に置かれていた(参照:#分類史 )。
概要 ヨヒンベノキ属, 分類(APG IV) ...
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催淫剤 の原料となるヨヒンビン を含有するヨヒンベノキ (Corynanthe johimbe )が本属に属すが、本属の他の種にもそれとは異なる交感神経遮断 作用を有するアルカロイド を含むものが見られる(参照:#利用 )。
ヨヒンべノキ属の特徴として挙げられるのは、重ならず敷石状となる花冠 裂片、これを延長する無毛でよく発達した付属物、基部に接着し上向きに重なり合う覆瓦状の多数の胚珠 、そして蒴果 の存在である[3] 。ただこれは2014年に分子系統学 的研究に基づいて Corynanthe 属とPausinystalia 属が統合された後に結論付けられたものであり(参照:#分類史 )、各部位の形態について体系的に述べたものは分子系統学が盛んとなる21世紀より前の著作からCorynanthe 属とPausinystalia 属それぞれについて、以下に引用することとする[4] 。
Corynanthe 属
Corynanthe paniculata の図版(C: 花; D: 果実; E: 種子)[5]
高木性: 葉軸、生長軸、花序軸が十字対生。
葉が突出した二次脈を有し二次脈間が網目状; ダニ室 が大抵の場合存在し、有毛もしくは稀に無毛で、crypt型[注 2] もしくは穴型(英 : pit-type )との中間体に属す。
托葉が脱落性で葉柄 間性、芽内形態では相互に連結するか相互をくるみ合い、内側では基部が有毛で、通常の粘液毛が托葉外縁と平行に着生し、多くの場合Λ の基部2ヶ所に集中する。
花序が頂生 もしくは腋生 、密錐性 [注 3] 、多かれ少なかれ疎生だが頂生の花の房はほぼ頭状。
花が4(-5)数性。
萼 が3角形から円形の萼片 付きの短い萼筒 から成り、しばしば1-2本の粘液毛が萼片の凹所に見られる。
花冠が白色もしくは桃色、外側が無毛、高坏 形の花冠筒付き; 花冠裂片が重なり合わない敷石状、内側有毛、修道士の頭巾状の頂点のほぼ先端部に長い/線形の/先端部が肥大化した/球状の/湾曲した付属物が見られる。
葯 が花冠外に突出し、矢じり状、縦方向に開き、中間部で接着(英 : medifixed )、短い花糸 が花冠裂片基部間に接着。
花柱 および柱頭 が花冠外に突出; 柱頭が球状、分岐せず乳頭毛あり。
子房 が胎座 が下垂し、隔壁の頂点に接着、多数の上向きとなった覆瓦状に重なり合う胚珠 により覆われる。
蒴果が2室、細長く、頂点から開き、ほぼ100パーセント胞背裂開性[注 4] であり聊か胞間裂開性[注 5] ; 萼は宿存性。
種子が有翼; 翼 ( よく ) が双極性、内胚乳 を有する部分の高さでは細く、先端が3角形、基部は(燕尾様に)分岐; 内胚乳を有する部分の基部でへそが点状; 内胚乳は油質、種子全長の1/3-1/4; 線状の胚芽 が楕円形の子葉 を有し、へそ向きの幼根 も有す。
旧Pausinystalia 属
高木性で樹高9-40メートル。葉軸、生長軸および花序軸は十字対生、ヨヒンベノキは3輪生。
葉は無毛、二次脈が突出し、二次脈間網目状脈が顕著; ダニ室 (時に存在せず)は有毛もしくは無毛、crypt型[注 2] 、穴型もしくは中間体に属す。
托葉は葉柄間性、形態的にCorynanthe 属のものに類似する。
花序は頂生もしくは腋生、密錐性[注 3] 、疎生だが頂生花を有するグループもしくは3対のものは密生しがちな傾向が見られる。
花は(4-)5-(6)数性。
萼は3角形から円形の萼片付きの短い萼筒から成り、時に1-2本の粘液毛が萼片の凹所に見られる。
花冠は白色もしくは桃色、外側は無毛、花冠筒は基部となる短くして細く円筒状の部分と大きな囊 ( のう ) 状の先端部が変化に富む; 花冠裂片には重なり合わない敷石状の芽層[注 6] が見られ、修道士の頭巾状、内側が特に上方に向かって有毛、外側は無毛、先端部に長い線形の付属物有り。
葯は花冠内に納まり、矢じり状、縦方向に開き、中間部で接着、無柄、花冠の囊状部の基部に接着。
花柱は着生し、短く2裂の柱頭が葯の着生間に存在。
子房は胎座が下垂し、隔壁の頂点に接着、多数の上向きとなった覆瓦状に重なり合う胚珠により覆われる。
蒴果はほぼ100パーセント胞間裂開性[注 5] で聊か胞背裂開性[注 4] 。
種子は双極性の翼 ( よく ) 付き、内胚乳を有する部分の高さでは細く、先端が3角形、基部は(燕尾様に)分岐; 内胚乳を有する部分の基部でへそが点状; 内胚乳は種子全長の1/3-1/4、油質; 線状の胚芽が楕円形の子葉を有し、へそ向きの幼根も有す。
Dupouy & Beille (1905) や後世の多数の研究者たちにより採用されてきたCorynanthe 属とPausinystalia 属との間の形態的な差異は次のようなものである[8] 。
さらに見る Corynanthe属, Pausinystalia属 ...
伝統的にCorynanthe 属とPausinystalia 属の差異とされてきた要素
Corynanthe 属
Pausinystalia 属
備考
花冠
漏斗 状
花冠筒は基部が細く円筒状であり先端に囊 ( のう ) 状の部分を有し、変化に富む
-
花柱
花冠外に突出
突出せず
-
葯
花冠外に突出
突出せず
-
柱頭
球状
2裂
-
蒴果
胞背裂開性[注 4]
胞間裂開性[注 5]
Stoffelen, Robbrecht & Smets (1996 :301) は両属それぞれが100パーセント胞背/胞間裂開するが、両属とも部分的に正反対の裂開の仕方も見られ得るという旨のことを述べている。
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ヨヒンベノキ属について述べるには、いずれも19世紀後半以降に設けられたCorynanthe 属とPausinystalia 属の両方をめぐる歴史を紐解く必要がある。
まずCorynanthe 属はフリードリヒ・ヴェルヴィッチュ がアンゴラ 現クアンザ・ノルテ州 ゴルンゴ・アルト (英語版 ) 方面で自ら採取した標本に基づき、1869年に Corynanthe paniculata を新種記載 した際に共に新設された属である[10] 。その後カール・モーリッツ・シューマン が当時ドイツ領 であったカメルーン 産標本を基に1896年に C. macroceras [11] 、1901年に C. brachythyrsus 、ヨヒンベノキ こと C. johimbe 、C. pachyceras を立て続けに記載した[12] 。
この流れを変えたのがジャン・バティスト・ルイ・ピエール (英語版 ) であり、死後出版によりヨヒンベノキや C. macroceras をPausinystalia 属へと組み替えた[13] 。その後Corynanthe 属はタイプ種である C. paniculata を除き、ここまでに言及されたほとんどの種がPausinystalia 属に組み替えられる傾向が見られた[14] 。Razafimandimbison & Bremer (2002) による分子系統学 と形態分析の複合による系統樹では両属を単一の亜連 (英語版 ) Corynantheinae 下にまとめつつ、Pausinystalia 属を単系統群 、Corynanthe 属を C. paniculata を唯一の種として亜連 Corynantheinae の残りの姉妹群とする解決法が取られたが、Corynanthe 属は側系統群 のままとされた[15] 。なおこの際に1909年記載のPseudocinchona 属[注 1] を C. mayumbensis (R.D.Good )N.Hallé と C. pachyceras を適用対象として試験的に復活させる措置も取られた[20] [15] 。Razafimandimbison & Bremer (2002) の結果を受けた Löfstrand et al. (2014 :306 & 309–311) の分析ではCorynanthe 属とPausinystalia 属の側系統性を支持する結果が得られ、また従来Pseudocinchona 属とされた左記の2種自体は単系統群となったものの、その単系統群が側系統的な Pausinystalia の内群に含まれることが判明し、単系統性を重視して Stoffelen, Robbrecht & Smets (1996) の定義によるPausinystalia 属も Chevalier (1909) の定義による Pseudocinchona 属もいずれもCorynanthe 属へ統合するという結論が下されることとなった。
検索表
#特徴 でも述べた通り、ヨヒンベノキ属は2014年になるまでCorynanthe 属とPausinystalia 属とに分かれており、検索表に関しても属統合を反映したものが確認されない限り、已むを得ず以下のように属ごとに別個のものを掲示することとなる[26] 。なお Hallé (1966 :65 & 73) に C. talbotii を除く全種の、少なくとも花の図版が掲載されているため、そちらも併せて参照されたい。
Corynanthe 属
C-1.
C-1a. 花序 が腋生 ; 花冠 が4数性; 花冠の付属物が球状か細長くかつ湾曲; 花糸 が0.8-1.8ミリメートル; 種子が内胚乳 を有する部分が長さ0.6-1.2ミリメートルの幅0.25-0.4ミリメートル。…… C-2. へ
C-1b. 花序は頂生 ; 花冠は5数性; 花冠の付属物は線形、直生し、頂部で肥大化; 花糸は0.2ミリメートル未満; 種子が内胚乳を有する部分は長さ1.5-2ミリメートルの幅0.5-0.8ミリメートル。…… C. paniculata
C-2.
C-2a. 花冠の付属物が球状; 花糸が0.8-1.2ミリメートル; 花柱 が3.6-6.7ミリメートル; 蒴果 が10パーセントを超えて胞間裂開[注 5] することは稀; 種子が幅0.7ミリメートル未満。…… C. pachyceras
C-2b. 花冠の付属物は細長くかつ湾曲; 花糸は1.2-1.8ミリメートル; 花柱は1.6-3.5ミリメートル; 蒴果の胞間裂開は50パーセント未満; 種子は幅0.8ミリメートル超。…… C. mayumbensis
旧Pausinystalia 属
P-1.
P-1a. 葉軸、生長軸、花序軸が3輪生; 葉身 が長さ24センチメートル超; 花序基部の托葉が宿存性; 花序が長さ5センチメートル超。…… ヨヒンベノキ
P-1b. 葉軸、生長軸、花序軸は十字対生; 葉身は長さ24センチメートル未満; 花序基部の托葉は脱落性、稀に宿存性(この場合、花序は4センチメートル未満; C. macroceras [注 14] )。…… P-2. へ
P-2.
P-2a. 花序が長さ3センチメートル前後で幅2センチメートル未満、密生; 腋性花序基部の托葉が宿存性; 花冠裂片の付属物が3ミリメートル未満。…… C. macroceras [注 14]
P-2b. 花序は長さ・幅ともに5センチメートル超、疎生; 腋生花序基部もしくは頂生花序基部の托葉は脱落性; 花冠裂片の付属物は3ミリメートル超。…… P-3. へ
P-3.
P-3a. 花序が頂生 …… P-4. へ
P-3b. 花序は腋生 …… P-5. へ
P-4.
P-5.
P-5a. ダニ室が存在する場合、有毛; 葉身が楕円形もしくは卵形、決して倒卵形とはならない; 花冠内部が非常に顕著に有毛; 萼 と子房 が顕著に有毛; 子房から萼への遷移が段階的; 蒴果が多くの場合に胞背裂開[注 4] し、胞間裂開[注 5] も見られる; 種子が幅2ミリメートル超。…… C. talbotii
P-5b. ダニ室は存在する場合、無毛; 葉身は楕円形もしくは倒卵形、決して卵形とはならない; 花冠内部はまばらに有毛; 萼と子房は無毛か有毛; 子房から萼への遷移はくびれにより明瞭; 蒴果は純粋に胞間裂開性; 種子は幅2ミリメートル未満…… C. macroceras
種の一覧
シノニム は必ずしも網羅的なものではないという点に留意されたい。
ヨヒンベノキ(Corynanthe johimbe )
ヨヒンベノキの「アイソネオタイプ」標本(WAG0003014; オランダ国立植物標本館 所蔵)
Corynanthe lane-poolei
C. lane-poolei subsp. ituriense
Corynanthe lane-poolei subsp. ituriense (De Wild. )Å.Krüger & Löfstrand [35]
シノニム: Pausinystalia ituriense De Wild. ; P. lane-poolei subsp. ituriense (De Wild.)Stoffelen & Robbr. [34]
タイプ産地: コンゴ民主共和国イトゥリ州 [34]
分布: アフリカ高山地域のキヴ ・ルウェンゾリ 領域(コンゴ民主共和国、ルワンダ )とギニア・コンゴ地域の下ギニア領域(ガボン)に隔離分布[36]
Corynanthe macroceras
Corynanthe macroceras K.Schum.
シノニム: Pausinystalia macroceras (K.Schum.)Pierre ; Corynanthe brachythyrsus K.Schum. (Wikispecies ) ; Pausinystalia brachythyrsum (K.Schum.)W.Brandt [37]
タイプ産地:
分布: ギニア・コンゴ地域の下ギニア領域(ナイジェリア、カメルーン、赤道ギニア、ガボン、アンゴラのカビンダ州)やコンゴ領域(コンゴ民主共和国)に広く分布[39] 、アンゴラのベンゴ州 でも標本が採取されている[40]
Corynanthe mayumbensis
C. mayumbensis のタイプ標本(BM000902805; ロンドン自然史博物館 所蔵)
Corynanthe pachyceras
Corynanthe pachyceras K.Schum. (Wikispecies )
シノニム: Pseudocinchona africana A.Chev. ; Pausinystalia pachyceras (K.Schum.)De Wild. ; Pseudocinchona pachyceras (K.Schum.)A.Chev. [43]
タイプ産地:
分布: ギニア・コンゴ地域の上ギニア (英語版 ) (ギニア 、シエラレオネ、リベリア、コートジボワール)、下ギニア(ガーナ、ベナン 、ナイジェリア、カメルーン、赤道ギニア、ガボン)、コンゴ領域北部(中央アフリカ共和国 、コンゴ民主共和国)に広く分布[44]
Corynanthe talbotii
Corynanthe talbotii (Wernham )Å.Krüger & Löfstrand
シノニム: Pausinystalia talbotii Wernham
タイプ産地: ナイジェリアのオバン(Oban)[46]
分布: 下ギニア領域(ナイジェリア、カメルーン)[47]
ヨヒンベノキ樹皮
ヨヒンベノキ の樹皮には催淫剤 である塩酸ヨヒンビン の原料となる、ヨヒンビン やヨヒンビニン (yohimbinine)といったアルカロイド が含まれており[28] 、このうちヨヒンビンは生殖器 末梢の血管 を拡張させ、腰髄 の勃起 中枢への作用により陰茎 の勃起を促すものであり、薬理学 的には交感神経α受容体遮断薬 として扱われるが、大量投与すると延髄 麻痺 を引き起こし、痙攣 、呼吸麻痺、心停止 に至る危険性も存在する[48] 。
なおヨヒンビンは1941年以前の時点でPausinystalia 属とされていた種(ヨヒンベノキもこれに該当)や Corynanthe paniculata には含有されている一方、Corynanthe pachyceras (シノニム: Pseudocinchona africana )や C. mayumbensis (Pseudocinchona mayumbensis )には見られず、Raymond-Hamet (1941) はこれをもってPseudocinchona 属を独立属として認めた[17] 。Pseudocinchona 属とされた2種はコリナンチン (英語版 ) やコリナンテイン (corynantheine)という物質を含有するが、これらは対照的に左記の旧Pausinystalia 属や C. paniculata には見られない[8] 。コリナンチンやコリナンテインなどもアルカロイドに属し、化学構造 自体はヨヒンビンを彷彿とさせるものである[49] 。コリナンチンはヨーロッパの治療学 にも取り入れられており、顕著な交感神経遮断 作用や、コカイン よりも下等な局所麻酔 作用を有する[49] 。
注釈
英 : loculicidal 。果実を形成する心皮 それぞれの外縫線沿いに裂開する性質を有するということ[7] 。英 : (a)estivation 。芽の内部に将来的に葉や花となる部位が並んでいる状態[7] 。英 : equitant 。2つ折り葉の中にさらに折り重ねがくるまれている状態[7] 。英 : obvolute 。2つ折り葉のうち一方の半片がもう一方の半片を互いに外側からくるんでいる状態[7] 。原典ではこの後にミトラガイナ属と Hallea J.-F.Leroy の区別が示されているが、Löfstrand et al. (2014 :308 & 311–312) においてHallea 属をミトラガイナ属に統合する扱いが確立されたため、省略とする。 原典においては "P. brachythyrsum " と表示されている。
出典
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