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『あの夏、いちばん静かな海。』(あのなつ いちばんしずかなうみ)は、1991年公開の日本映画。
ビートたけしが本名の北野武名義で監督した3作目の作品である。本作で初めて、音楽に久石譲が起用された。
キャッチコピーは、『浜辺に捨てられた折れたサーフボード、もう誰も振り向かなかったけど二人にとっては大切な宝物だった』『一生にいちど、こんな夏がくる』
収集車でのごみ回収を仕事とする聾唖の青年・茂がごみとして出された先端の欠けたサーフボードを見つけ、持ち帰る。彼はそのボードに発泡スチロールを継ぎ合わせ、同じ障害を持つ彼女・貴子を誘い海へ向かう。
茂はサーフィンにのめり込み、貴子は砂浜に座っていつもそれを見つめていた。修繕したボードはほどなく壊れ、新品を買った彼はますますサーフィンに夢中になる。初めは茂をバカにしていた地元のサーファーたちも、サーフィンに打ち込む彼を見直すようになる。ついに茂は仕事を休みがちになり上司に叱咤される。しかしその後は上司の理解もあり、上達した腕前で大会での入賞も果たす。
そんなある日、いつものように貴子が海にやってくるが、そこには茂の姿は無く、波打ち際で漂う彼のサーフボードだけが残っていた。
2023年現在《首》の公開まで、たけしの監督作で唯一の東宝配給だった。
たけしの監督作品として初めて本人が出演しなかった。
主演の大島弘子唯一の映画出演作である。バラエティ番組『少女雑貨専門TV エクボ堂』に出演していた際、共演していた司会の兵藤ゆきの紹介で北野と会い、彼は一目見て即座に映画への起用を決めたという。大島はパンフレットのインタビューにおいて今後も映画出演を続けたい旨を語っていたが、日本アカデミー賞授賞式のインタビューで役者を続けるかどうか問われ「分かりません」と答え、その後はTVにも映画にも出演することなく芸能活動を引退した。
サーフィンに打ち込む茂を初めはバカにするものの、次第に感化されてしまうボンクラコンビのサッカー少年を演じた小磯勝弥は、子役時代に「たけしくん、ハイ!」で少年期のたけし役を演じていた。
音楽を担当した久石譲は、本作の依頼を受ける以前から北野の前2作を見ており好きだったが、作品のスタイルから自分への依頼は人違いだと思ったのとコンサートツアーの予定があったことから一度は断ったが、北野サイドが1ヶ月待つという決断を下したことに感銘を受け仕事を引き受けた。音楽打ち合わせの際に北野から「通常、音楽が入る場面から全部、音楽を抜きましょう」と提案され、久石も共感したが具体的にどういう音楽を付ければよいのか困ったという。考えた結果、エリック・サティ風のメインテーマを作り、これなら映画をクールに見せられると考えたが、サブテーマとして作られた「Silent Love」を北野が気に入ったため、こちらがメインテーマに採用された。久石はこの曲だとロマンチックすぎてクールな映画にならないと主張したが、たけしにはサティ風だと『その男、凶暴につき』のイメージに戻ってしまい、ラブストーリーにならないという計算があったのだろうと久石は述べている[5][6]。
プロデューサーの森昌行によると、前作『3-4X10月』の際にジャン=リュック・ポンティやエリック・ドルフィーの既存曲が著作権の問題で使用出来なかったため、それならいっそ音楽は一切使用しないという方針にしたことを踏まえ本作で改めて映画音楽に向き合ったという。久石の起用についてはスタッフ間でふと名前が上がったことが発端だったが、宮崎駿作品との印象が強く一見は接点が無さそうに見えるものの、映画制作における常套手段を持たず文法を外した北野映画には逆に合うのではないか、ミスマッチなほどハマるのではないかと考えオファーしたと述べている[7]。
公開の前年、サザンオールスターズの桑田佳祐が制作した映画『稲村ジェーン』が大ヒットしていたが、桑田本人も「若気の至りの極地」と後年振り返ったように[8]、批評的には決して芳しいものではなかった。たけしも自著の中で、「(音楽は良いが)邪魔なセリフがありすぎて音楽を殺している」「音楽と絵(だけ)でやったほうがインパクトの強いものになる」と評している。本映画は『稲村ジェーン』と同じく、サーファーの若者たちの恋愛模様を描いた映画であるが、セリフをほとんど排した内容であることから、「『稲村ジェーン』に触発されて作られた映画ではないか」という批評が存在する[9]。本作は『稲村ジェーン』とは正反対に批評面で成功したことで、たけしは本格派の監督としてこののちスターダムを駆け上がることになる。
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