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日本の法律(昭和16年法律第97号) ウィキペディアから
言論、出版、集会、結社等臨時取締法(げんろん、しゅっぱん、しゅうかい、けっしゃとうりんじとりしまりほう、昭和16年法律第97号)は、太平洋戦争下における言論、出版、集会、結社等の自由の制限とその取締について規定していた法律。終戦後、昭和二十年勅令第五百四十二号「ポツダム」宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件ニ基ク国防保安法廃止等ニ関スル件(昭和20年勅令第568号)により、1945年(昭和20年)10月13日に廃止された。
太平洋戦争前の日本においては、大日本帝国憲法第29条の規定に基づき、言論、出版、集会、結社の自由はいずれも法律の範囲内で保障されており、その制限についても規制の根拠である治安警察法により原則結社・集会は届出制が採用されていた[1][2][3][注釈 1]。
そのため、特に治安維持法で禁じられている国体の変革を目的とするような結社等でもなければ、安寧秩序を乱し戦争遂行に支障を及ぼすことが明らかな結社・集会であっても、一応これを認める建前となっていた。しかし、太平洋戦争の勃発により時局が重大性を増す中、戦時下では敵国の謀略等により各種の扇動が行われるおそれがあるほか、悪意はなくとも軽率な言動によるデマにより戦争遂行に支障を及ぼすこともある。戦時下においては国民が団結して同じ目的に向かって秩序ある行動を行うことが不可欠であることから、国内の対立関係を解消し、挙国一致の体制を整えることが必要であって、そのためには国民の言論、結社等の自由を一定程度制限する必要があり、かつ、それはやむを得ないものであるとして本法は制定された[1][4][5]。
なお、戦時下において国民の自由を制限するものとして戒厳があるところ、政府も太平洋戦争において戒厳の宣言を行うことを考えたが、宣言によって国民に混乱をもたらすおそれがあるので国家総力戦においては相応しくないとして取りやめたため、本法を制定して戒厳と同じ効果を狙ったとされる[6][7]。
本法は、言論、出版、集会、結社等ノ臨時取締法ヲ樺太ニ施行スルノ件 (昭和17年勅令第23号)により樺太に、関東州言論、集会、結社等臨時取締令(昭和17年勅令第22号)により関東州に適用された。
本法による規制は、結社・集会に係る許可制の導入、新聞紙類の発行の許可制の導入、出版物の発行停止処分、造言飛語の制限に大別される。本法は治安警察法の特別法であり、本法に規定のない部分については治安警察法が適用された[8]。なお、戦前においてもこのような政治的不自由は本来あり得るべきではないと考えられており[2]、あくまで戦時下における緊急やむを得ない措置であり、その適用は太平洋戦争の平和条約の締結の時までになると言われていた[9][10]。
なお、当該許可制の採用が大日本帝国憲法第29条に抵触するのではないかとの疑義について、政府側は、政治結社を一切許可しないという訳ではなく、あくまで安寧秩序を妨げて戦争遂行に支障のある結社だけを不許可とし、それ以外は許可するので憲法の精神に反するものではないと説明していた[11]。
これらの制限の必要性について、政府は、戦時下においては国民一般が異常な興奮状態にあるあまり、各種の造言飛語いわゆるデマの流布により、どのような影響が生じるかが不明のためこれを制限する必要がある、と説明している[1]。
前述のとおり、本法第17条は「時局ニ関シ造言飛語ヲ為シタル者」を処罰しているが、当該規定がどのような言動を処罰しようとしているのかが法文上明らかではないことが刑事裁判で問題となった。
被告人は1941年(昭和16年)3月に満蒙開拓青少年義勇軍に入り、満洲国東安省で訓練を受けていたが、1942年(昭和17年)1月に所属していた隊の中隊長より帰国を命じられた。帰国後、中隊長に反意を抱いていた被告人は、要旨次に掲げるような発言を行った。
これらの言動により、被告人は本法第17条「時局ニ関シ造言飛語ヲ為シタル者」に当たり、その連続犯であるとして、岐阜区裁判所・岐阜地方裁判所は被告人を罰金20円に処した。
これに対して被告人は、原審の判決は1の発言について「一定の事実を誇張」、2の発言について「他から聞いた不確実な事実を真偽を確かめずに話した」ことのみから「時局ニ関シ造言飛語ヲ為シタ」と速断しているが、その発言のうちどの部分が誇張でどの部分が不確実な事実なのかを確定しておらず、判決に理由不備の違法がある等主張し、大審院に上告した。
1942年(昭和17年)11月20日、大審院第四刑事部は本法第17条について次のとおり解釈を示した。
続いて大審院は、この解釈を前提として次のとおり各発言について判断し、被告人の言動は「時局ニ関シ造言飛語ヲ為シタ」ものといえるから、原審の判断は相当であるとして上告を棄却した。
本判決について美濃部達吉は、「造言飛語」とはただ虚偽・誇張・不確実である言動を指し示すのではなく、社会・人心に悪影響を与えることが重要な要素であるとし、本件事案は被告人の言動を聞いた者が義勇軍に入ることを忌避する可能性がある点を大審院は重視したのではないか、としている[22]。
本法によって既存の団体に対しても改めて許可申請を求めた結果、有名無実の団体がこれを機に団体を解消したほか、内務省は結社として価値がないか内容が不穏当なものは積極的に不許可とする方針を採用し、立憲養正会・農地制度改革同盟を不許可処分とするなどして、申請書を提出した約500団体の半数近くが整理された[23]。
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