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『母と暮せば』(ははとくらせば)は、2015年12月12日に公開された日本映画。主演は吉永小百合と二宮和也。監督は山田洋次。
松竹創立120周年記念作品。第89回アカデミー賞・外国語映画賞部門 日本代表作品[2]。
井上ひさしが晩年に構想していた、「ヒロシマ」・「ナガサキ」・「沖縄」をテーマにした「戦後命の三部作」の遺志を山田が引き継ぎ、「ナガサキ」をテーマに制作された[5]。「ヒロシマ」が舞台である井上の戯曲『父と暮せば』と対になる形となっている[6]。山田洋次監督の84本目の映画である。
本作のタイトルである『母と暮せば』は、原案としてクレジットされる井上ひさしが命名し、2007年の長崎大学で講演した際に公表していた[7]。「戦争」をライフワークとした井上ひさしは[7]、1994年初演の『父と暮せば』の前口上で「おそらく私の一生は、ヒロシマとナガサキとを書き終えたときに終わるだろう」と話していた[7]。2009年秋に肺ガンが見つかった井上は1992年頃から構想を練っていた沖縄の物語(後に『木の上の軍隊』として舞台化)に取りかかり[7]、最後に『母と暮せば』の執筆を決めていた[7][8]。2010年に井上が亡くなり、沖縄、長崎を舞台にした作品はいずれも未完のままになった[7]。長崎出身の市川森一は東京紀伊國屋ホールであった井上の追悼公演に出かけ、書籍売り場で、原爆で廃墟になった浦上天主堂の写真集を思わず購入した[7]。市川は「ふっと、これは井上さんが買わせたんじゃないかな、井上さんは浦上を書きたかったんじゃないか」と思い、井上の遺志を継ぎ、『母と暮せば』を引き継ごうと決意した[7]。市川はこまつ座の社長で井上の三女・井上(石川)麻矢にも「長崎の仕事を僕に引き継がせて下さい。長崎人としての義務だと思うから」と伝えていた[7]。2010年秋に記者の取材に原爆劇への意欲を語っていたが、市川も2011年暮れに亡くなった[7]。
1945年8月9日午前11時2分、主人公の長崎医科大学に通う福原浩二は長崎の原爆で跡形もなく被爆死した。それから3年後、助産婦を営む浩二の母・伸子もようやく息子の死を受け入れようとしていた。浩二の墓参りから帰った伸子が夕食時に息子の写真に語りかけていると、原爆で被爆死したはずの彼が亡霊となって現れる。
伸子は驚きながらも浩二との再会を喜び、その日から息子の子供の頃の話、生前の将来の夢や死んだ浩二の兄の思い出などを語り合う。浩二の生前の恋人・町子は今でも彼を想い続け伸子との交流を続けていたが、彼もまた彼女に未練が残っていた。伸子はそれぞれとの会話で浩二と町子のお互いの想いを知るが、若い彼女が死んだ息子を想って残りの人生を過ごすのを不憫に思い始める。
伸子は町子のことを思って他の男性との恋を考えるよう助言するが、町子はその申し出を拒む。一方同じく伸子から町子を諦めるよう説得された浩二は、数日間悩んだ末彼女から身を引く決心をする。浩二は助産師をする伸子の体を心配するが彼女は「大丈夫」と言った後、生前息子が憲兵にスパイ容疑をかけられたことや高校時代の文化祭のことなどを懐かしそうに聞く。
ある日の会話で伸子は、町子に気になる男性が現れたことに気づくが、頑なに結婚を拒む彼女にその理由を尋ねる。町子は3年前の原爆で親友を亡くして自分だけ助かったことに負い目を感じていたことを打ち明ける。町子を慰めた伸子は、「きっと浩二もあなたの幸せを望んでいるはず」と説得するが、彼女は戸惑ってそのまま帰ってしまう。その日から町子は伸子の前に姿を見せなくなるが、同じ頃から伸子は生活の疲れが出て徐々に体に影響が始める。
年の瀬が迫る頃一人の男性を連れた町子が久しぶりに伸子の家に訪れ、彼と婚約したことを告げる。申し訳無さそうに謝る町子に伸子は「これで良かったのよ」と抱きしめ、婚約者との幸せを願い送り出す。その夜伸子は浩二に町子の婚約のことを伝えた後床につくが、数日前から体調が悪かった彼女はそのまま息を引き取ってしまう。浩二と同じく霊となった伸子は、自らの葬儀が行われている教会へ行き、参列した町子の幸せを祈った後2人で天国へと旅立つ。
2015年4月26日にクランクインし、同年7月10日・11日の長崎ロケをもってクランクアップ[10]。制作から完成までの様子は、ドキュメンタリー番組『BS1スペシャル 戦争を継ぐ 〜山田洋次・84歳の挑戦〜』(2015年11月15日、NHK BS1)で放送された[11]。
なお『小さいおうち』(2014年)まで山田洋次監督作における冒頭の松竹ロゴは、富士山の風景画をバックに「松竹映画」の文字とロゴが描かれたものだったが、本作からは本物の富士山の映像をバックに「松竹」の文字とロゴが描かれたものに変更された。
『父と暮せば』『木の上の軍隊』に続くこまつ座「戦後“命”の三部作」の最後の1作として、井上ひさしによる原案をもとに畑澤聖悟が脚本を手掛け二人芝居として舞台化。こまつ座第124回公演として2018年10月5日に東京・紀伊國屋ホールにて栗山民也の演出、富田靖子と松下洸平の出演で初演された[3][17][18]。映画版で監督・脚本を担当した山田洋次が本作では監修を務めた[4][19]。東京のほか、茨城、岩手、滋賀、千葉、愛知、埼玉、兵庫で上演。
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