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月由来の岩石 ウィキペディアから
月の石(つきのいし、英: lunar rock)は月で生成された石。「月の石」という呼称は厳密なものではなく、月面探索中に収集された他の物質についても用いられる。
現在地球上には以下4種類のソースから採集された月の石が存在する。
2415サンプル(総重量382キログラム)が主にアポロ15号・16号・17号によって、6度のアポロ計画による月面探索中に採集された。3機のルナ計画宇宙探査機はさらに326グラムのサンプルを持ち帰った。2006年後期において月から飛来した隕石は90以上(総重量30キログラム以上)確認されている。2020年の嫦娥5号は旧ソ連の合計を上回る1731グラムを持ち帰っている。2024年の嫦娥6号は史上初めて月の裏側からの採取・帰還に成功した[3]。
アポロ計画において、月の石はハンマー、レーキ、スコップ、トング、コアチューブといった様々な道具を使って採集された。石のほとんどは採集前に発見された時点の状態を写真に記録された。石は採集時にサンプル袋にいったん入れられ、それから汚染を防ぐための特別環境試料容器に格納され、地球へ持ち帰られた。
放射年代測定によると、一般に月の石は地球上の石に比べはるかに古く、最も新しいものでも地球上に見られる最古の石より古い。その年代は月の海から採集された玄武岩サンプルの32億年から高地で採集されたものの44.4億年と幅広く、太陽系の歴史の初期に遡るサンプル資料となる。月の石は超塩基性岩や塩基性岩であり、地球表面上で一般的に見られる地殻の岩石と比べると、月の石は地球の岩石と比較して、マグネシウムに対する鉄の含有量が少なく、カリウム、ナトリウムといった揮発性元素が地球の地殻岩石と比べて乏しく、また、水分をほとんど含まない。他方、酸素同位体の分別線は地球のそれとよく重なる。かつては水分子を全く含まないと思われていたが、2008年になって微量な分子も検知できる二次イオン質量分析法を使用することでごくごく微量の水が含まれていることが判明し、月の地中深くには地球のマグマと同様の水分が含まれている可能性が出てきた[4]。2011年の北海道大学のグループのSIMSを用いた研究成果では、月の水は地球のそれとは水素同位対比が異なり、彗星の水素同位対比に似ている。
月面は砂(レゴリス)によって覆われている。レゴリスは隕石などによって細かく破砕された岩石片が堆積したものであり、月面のほぼ全体を数十センチメートルから数十メートルの厚さで覆っている。新しいクレーターなどの若い地形ほどレゴリス層は浅い。レゴリス粒子は非常に細かく、宇宙服や精密機械などに入り込みやすく問題を起こす。しかしその一方でレゴリスの約半分は酸素で構成されており、酸素の供給源や建築材料としても期待されている。また太陽風によって運ばれた水素やヘリウム3が吸着されており、その密度は低いもののそれらの供給源としても考えられている。ヘリウム3は核融合の原料となる。
月面で発見された新鉱物には、アポロ11号に搭乗していた3名の宇宙飛行士の、アームストロング、オルドリン、そしてコリンズにちなんで名づけられたアーマルコライト、パイロクス鉄石、トランキリティアイト、嫦娥石がある。ただし、嫦娥石以外は後に地球上でも発見されたため、月に固有の鉱物というわけではなくなっている。また、パイロクロアスーパーグループの「酸化灰ベタフォ石(Oxycalciobetafite)[5]」、「酸化ウラノベタフォ石(Oxyuranobetafite)[6]」が報告されているが、結晶構造が不明なため2022年現在は認定されていない。
アポロ計画によって持ち帰られた月の石の主な貯蔵庫はテキサス州ヒューストンのリンドン・B・ジョンソン宇宙センター内、月試料実験室施設にある。安全のために、ニューメキシコ州ラスクルーセス近郊のホワイトサンズ試験施設にも少量の資料が保管してある。ほとんどの石は湿度を遮断するために窒素の中に保存してあり、取り扱いは特殊なツールを介して行われる。
月面探索の際に採集された月の石は、当初、安全性が確認されていなかったため危険物扱いもされていた。1969年12月1日、アポロ12号が持ち帰った石を研究していた11人の科学者らが、取り扱い中に石の粉で汚染されたとして隔離される出来事もあった[7]。 また、石は非常に貴重なものとされており、1993年にルナ16号から採取されたおよそ0.2グラムの小断片が44万2500米ドルで売却され、2002年には月試料実験室施設から極めて微小な月と火星の岩石資料が入った保管庫が盗まれた。これらの資料は後に回収されたが、2003年にアメリカ航空宇宙局 (NASA) が訴訟のためにこれらの価値を算出したところ、285グラムに対しておよそ100万ドルの査定額がつけられた。月から飛来した隕石については高額ではあるが、個人収集家の間で広く取引されている。
日本では、1970年の大阪万博においてアメリカ館で実物が展示され人気を博した。あまりにも反響が大きすぎたため、入館待ち行列・時間が長くなり体調を崩す来場客が相次ぎ、事態を重く見た日本政府が、万博開催前に政府間レベルの友好の証しとしてアメリカ政府から寄贈されていた月の石(ただし、体積はアメリカ館で展示されていた物よりはるかに小さい)の日本館展示を会期途中から始め、アメリカ館関係者から不満・苦情を寄せられたという話もある。
その後、2005年の愛知万博でもグローバルハウスのオレンジホール内のグローバルショーケースに大阪万博のものとは別の物が展示され、大阪万博で断念した来場客を喜ばせることとなった。常設の展示品としては、国立科学博物館で見ることができる。
また、2022年4月28日から、北九州市科学館(スペースLABO)で常設展示[8]されている。これは、1969年にアポロ12号が持ち帰った実物で、重さは176.4グラムと国内で常設展示されている中で最大、1990年から2017年まで博物館の隣接地にあったテーマパークスペースワールドに展示され、その後2018年12月22日から北九州市立いのちのたび博物館で常設展示されていたものである[9]。
さらに、一般財団法人日本宇宙フォーラムが、アメリカとロシアから月の石と月の砂を借りており[10]、各地の科学館などで開催される企画展などを展開している。
2009年8月、オランダのアムステルダム国立美術館は、所蔵している「月の石」が、実際には樹木の化石だったことを明らかにした[11]。この樹木の化石は、1969年にウィリアム・ミッデンドーフ (en:J. William Middendorf) 駐オランダ米大使から、「同年7月10日に人類初の月面着陸を果たした米国人宇宙飛行士ら3人からの贈り物」として、元首相のウィレム・ドレース (nl:Willem Drees) 個人に贈られたとされ、ドレースの死後の1988年に遺品として美術館に寄贈された[12]。今後は「ドレース氏の月の石」として所蔵を続けるという。
誤りが発覚したのは2006年に展示品を見た宇宙関係の専門家からの指摘をきっかけに地元大学で鑑定を行ったためだが、長年間違いが気づかれなかったのは、博物館ではなく科学は専門外である美術館が管理していたことが理由として考えられる。
この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
アポロ計画陰謀論を取り扱ったテレビ番組において、早稲田大学の客員名誉教授であり、タレントの大槻義彦が「アポロの回収した月の石は偽物で、アメリカの砂漠で拾ってきたものではないか」との談話を繰り返し発言[13][14]している。これらはニュース番組ではなく、あくまでバラエティー番組ではあるが、彼の発言には多数の事実誤認が見られる。
また、ブログではアポロ計画で設置されたレーザー反射鏡での実験が現在できないと発言しているが[15]、現在もカリフォルニア大学サンディエゴ校でApache Point Observatory Lunar Laser-ranging Operationと称したレーザー測距実験は行われている[18]。
大槻は反オカルト主義の物理学者としてテレビ番組に多く出演しているが、専門分野はプラズマ物理学、放射線物性、核物性、大気電気学である。同位体地質学、地球化学、宇宙化学、岩石学、鉱物学は専門外である。もし月の石が偽物であれば、科学に対する歴史的背信行為となるはずであり、ジョークではすまされない重要事項である。大槻が本気でそれを主張するのであれば、科学者の常識として該当分野の学会で堂々と意見をのべ科学論文専門誌に投稿し討論すべきであるが、彼はそれを行っていない。すなわち、彼が捏造と主張する問題にまじめに取り組んではいない。彼が専門外の分野で、マスコミを通じて繰り返しこのような論を展開するに至った理由は不明である。
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