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憲法を公式に改めること。全部、または条文の一部を修正、追加または削除すること。 ウィキペディアから
憲法改正(けんぽうかいせい、英語: Constitutional amendment)とは、国民または権力者が、憲法の政体や組織などの記述について、公式に改善あるいは訂正すること。主権を有する国民が国家権力を行使する権力者の行為を制限しながらも不作為を回避させて信託できるあり方が成文法で示されることが期待されている。改憲(かいけん)とも呼ばれる。
日本の憲法学では、現在の憲法を自作物ではなく他作物として捉えたり(押し付け憲法論)、改正の限界や大日本帝国憲法との連続性が問題とされたり、憲法の条文が変わらないまま権力者によって規範の意味が変更・修正される憲法の変遷[1]とは区別されたりする。
憲法の改正に適切な手続きを定めるのは、革命やクーデターなどの非合法な改憲を防ぐという目的がある[2][3]。適切な改正手続きがあれば、重要な政治体制の変革はすべて憲法改正の形で合法的におこなえるからである[4]。憲法の定める改正手続きによらない憲法の変更は非合法であり、許されない。しかし、そういう禁止が必ずしも事実において守られないことも、諸国の歴史の示すところである[5]。
なお、改正の実際上の難易について、硬性憲法であることが常に事実として改憲困難であるとはいえない。同じ硬性憲法であっても、明治憲法は50年以上にわたって一度の改正もなかったが、スイス憲法やアメリカの多くの州憲法は、しばしば改正されている。これに反して、軟性憲法の一つであるはずのイギリス憲法では、必ずしも改正が容易に行われるとはいえない。憲法の規定が詳細か簡潔か、憲法を政府や国民がどのような規範として意識しているか、政治的・社会的変化により憲法と実際との間に厳しい隔離が生じているかどうか、その空隙を埋めるために解釈運用の果たす役割をどう考えるか、改正を実現するに足りる政治力が存在しているかどうかなどによって決まるものである[6]。
憲法制定権の下に憲法改正権があるとみるか、憲法制定権と憲法改正権が同等なものと見るかで、憲法改正の限界に関する立場が変わってくると考えられている[7]。
憲法改正(ここでは、憲法典の改正のこと)は、その性質によって以下の通り、制定法(憲法典や憲法附属法などの法令)と解釈法(判例・政府の解釈・学説など)の複合したものである実質的意味の憲法を変更する効果が出やすいものと出にくいものがあるとされる[10]。
政治学者の待鳥聡史教授(京都大学)は、実質的意味の憲法とは実質的な基幹的政治制度を定める諸ルールのことであることから、基幹的政治制度の変革が実質的意味の憲法の改正であると指摘している[11]。なお、基本的人権に関する記述については、政治学的分析という観点からはあまり大きな意味を持たないことや、先進諸国において基本的人権を否定することに現実性がないことをあわせて指摘している[11]。このことから、選挙制度(議席決定方法、選挙区定数、投票方法、選挙サイクル)、執政制度(大統領制・半大統領制・議院内閣制の間での変化、執政長官に与えられる権限などの大きな変化、政治家と官僚間の権限などの変化)のいずれかの変化を実質的意味の憲法改正とみなすことを提唱し、1990年代から2000年代にかけての政治改革を日本における憲法改正として分析している[11]。憲法改正をこのようにとらえる視点は、国際的には憲法やその改正についての多様な状況があることを前提とすると、憲法改正について国際比較や時系列比較をする上で有益であろうとしている[11]。
ブルース・アッカーマン教授は、アメリカ合衆国における1930年代のニューディール政策や1960年代の公民権運動などを取り上げ、これらの成果が法律の制定として結実した後も正式の改憲手続きを経ない「インフォーマルな憲法改正」であったことを主張し、正規の憲法改正という形式を重視して投票権法の一部を無効とした判決を批判している[12]。なお、アッカーマンにおいては憲法改正権と憲法制定権の区別はなく、「立憲政治 (constitutional politics)」における人民の判断には限界がない[13]。
日本国憲法は、日本国憲法第96条においてその改正手続を定めている。
アメリカ合衆国憲法はいわゆる硬性憲法である。憲法の修正がなされた場合にはそれまでの条文はそのまま残され、憲法修正条項として追加される形で憲法第5条によって修正される。
1については、現在までに連邦会議による修正のみが行われている。2については、唯一の例外である修正第21条を除いて、全て議会によって承認されている(修正第21条のみが、各州の憲法会議による承認を経て成立した)。
なお、アメリカ合衆国は各州にも独自の憲法が存在する。
イギリスは、判例・慣習法・法律などのうち、国家の性格を規定するものの集合体が憲法とされる不文憲法国家である。よって、イギリスにおける実質的意味の憲法は、法的には通常の法律制定手続きで成立した法律によって変更される。
ドイツ連邦共和国基本法(ドイツにおいて憲法と扱われている)の改正は、以下のように行われる。ただし、戦う民主主義にもとづき、民主主義破壊につながるような改正は認めていない(第1章「基本権」)。
元々西ドイツの憲法に相当する法律として作成されており、基本法第146条にはドイツが再統一した際にドイツ国民の自由な意思の元で制定された憲法が施行された場合は、基本法が効力を失う旨の条文がある。しかし、再統一後も基本法が施行され続けている。
フランス共和国憲法の改正手続はフランス共和国憲法第89条に規定されており、概要は以下の通りである。
フランス共和国憲法第11条を根拠に、以下の手続きで改正されたこともある。
フランス共和国憲法第11条では公権力の組織に関する法律案は議会を通すことなく上記の手続きでも成立するとされている。また、憲法もここでいう法律に含まれるとされる。そのため、過去には憲法改正案(大統領の選挙方法を間接選挙から直接選挙に変更)が公権力の組織に関する法律案に含まれるとして、上記の方法で憲法改正が行われた。元老院は憲法第89条にもとづかない憲法改正を違憲として憲法裁判所に訴えたが、憲法裁判所は国民投票で成立した法律は審査の対象外で判断する権限を有さないと判示し、憲法第11条にもとづいて憲法が改正されることが確定した。
1945年以降の、アメリカ・カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・オーストラリアの6か国における憲法改正について見れば、統治機構・地方自治(中央と地方の権限変更など)に関する改正が多く、人権に関する改正、憲法改正手続きの改正も見られる[16]。改正の際には、このように統治機構・地方自治・人権などの政体にかかわる規定が取り上げられることが多いが、法律で規定しても良いような政体の変更に結びつかない事項について改廃する場合[注 1]もある。
以下において、特段の注釈を記載しない場合は、同一の日付に公布された改正は1回と数えている。
大韓民国憲法は9回にわたって憲法が改正され、そのうちの5回は韓国の国家体制を大きく変えるほどの改正がなされた。現在の憲法は第六共和国憲法と呼ばれる。
1947年に大日本帝国憲法に変わる日本国憲法が施行された。その後、現在まで一度も改正されていない。ちなみに、大日本帝国憲法も全く改正されなかった。
アメリカ合衆国憲法は、1788年に発効した世界最古の成文憲法である。基本的人権については当初は記載されておらず、1791年12月に施行の修正第1条から修正第10条(権利章典)にて記載された。2003年時点で18回[18]、27か条を修正・追補している。
メキシコ憲法は、1910年のメキシコ革命で1917年に制定された後、頻繁に改正が行われており、2002年11月までに119回、のべ408条について改正されている[19]。
スイス連邦憲法は1999年に行われた全面改正の後、2003年3月までに6回[注 2][18]の改正が行われている。
なお、1874年憲法も1999年の全面改正までに、140回の部分改正が行われている[20]。
デンマーク王国憲法は、1849年に制定後4回改正されている。1953年に二院制から一院制に移行した憲法改正が4回目となっている。
ドイツ連邦共和国基本法は、第二次世界大戦後に新たに制定され、63回の憲法改正をおこなっている(2019年11月9日現在)。63回は多いが、連邦制を採用していて、連邦と州との権限配分を基本法で細かく規定しており、見直すたびに改憲が必要になるのも改正回数を押し上げている一因だという[21][16]。また、日本であれば法律レベルで規定されている内容も基本法で規定しており、基本法の改正の回数を多くしている[21][16]。
また、連立政権も珍しくなく、政党間での政治的取引が活発なことも回数を押し上げてきた。保守派が求めた州の権限強化を認める見返りに、反対する左派が、環境や動物の保護規定をセットで改憲案に加えさせるといったような妥協案がたびたび図られてきたという(フンボルト大学、クリストフ・メラース教授(公法学))。メラース教授は「基本法の改正はあまりにも簡単であるため、重要でないことまでどんどん取り込まれてしまった。(憲法として)もはやあるべき姿ではない」としている[21]。
リトアニア共和国憲法は、1992年に制定後10回改正された。しかし1996年以降は、改憲のために実施した7つの国民投票すべてが過半数に届かない「否決」か、投票率が基準に満たない「不成立」となった。リトアニアでは「過半数の賛成」という基準以外にも、改正項目ごとに「投票率50%以上」や「絶対得票率50%以上」といった条件が細かく規定されている。この状況については、世論の理解が追いついていないためとの指摘もある。同国のラウラ・マティヨシャイティーテ中央選挙管理委員長は、国民投票の際に広告を出す習慣がそもそもなく、過去の投票では賛成派、反対派とも宣伝活動をほとんどしてこなかったと説明する。広告費には110万ユーロ(約1億3300万円)の上限があり、マティヨシャイティーテ委員長は「一般国民が(内容の詳細を)理解できない状態で行われてきた」と語った[21]。
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