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埼玉県比企郡吉見町にある国の史跡。200基を超える古墳時代の横穴墓群。 ウィキペディアから
吉見百穴(よしみひゃくあな/よしみひゃっけつ)は、埼玉県比企郡吉見町にある古墳時代後期の横穴墓群の遺跡。太平洋戦争下の地下軍需工場建設のために破壊された十数基を除いても、219基が現存している[1]。1923年(大正12年)3月7日に国の史跡に指定された[2]。2020年(令和2年)現在、有料で一般公開されている。
凝灰岩の岩山の斜面に多数の穴が空いていることから、一見異様な印象を受ける遺跡である。穴の数は219個と言われ、このような遺跡としては日本一の規模である。穴の入り口は直径1メートル程度だが、内部はもう少し広くなっていることが多い。古墳時代後期(6世紀-7世紀頃)に造られたものであり、他の多くの古墳が土を盛った小山の中に1つだけ玄室が存在する構造であるのに対し、岩山の表面から数メートルの小穴(古墳の玄室に相当するもの)を多数掘って造られた集合墳墓である。多くの穴に古墳と同様の台座状構造があり、ここに棺桶を安置したとされる。なお、台座は穴によっては複数存在しており、このような穴には家族単位で葬られたものと考えられている。多くの穴の入口の周囲には段差状の構造があり、ここには緑泥片岩という緑色の石で作られた板状の蓋がはめ込まれていた。これは後から穴を容易に開閉可能とするものとされ、複数の台座状構造と合わせて同一の穴に追葬が行われたことを示すものと考えられている。場所により穴の並びが整然、不規則と差がある。不規則な箇所は比較的初期に、整然と並んでいる箇所は後期に造られたものと考えられている。殆どの穴を自由に入り見学できるが、一部の穴には鉄格子がはめられており、内部に入れなくなっている。また、心ない者により損壊が行われた例もある。
岩山の下方には、ヒカリゴケが自生している穴がある[1]。関東平野におけるヒカリゴケの自生地は非常に貴重であり、「吉見百穴ヒカリゴケ発生地」として国の天然記念物に指定されている。近年は自生している穴の乾燥化が進み、ヒカリゴケが著しく減少したため、ヒカリゴケが自生している穴の中に水を満たした鉢を置いて湿度を保ち、入り口に鉄格子をはめて入ることができないよう、保存対策をしている。
弥生土器発見者の一人でもある東京大学の学生坪井正五郎は、1884年(明治17年)に人類学会を創設した。そして大学院生となった坪井は1887年(明治20年)、卒業論文の一環として吉見百穴の発掘を行い、地元の素封家で貴族院議員、郷土史家根岸武香が発掘を支援した。吉見百穴の発掘は、日本における人類学、考古学の黎明期に、その中心人物である坪井の手によって行われたものであり、日本考古学史上重要な位置を占める[6]。
発掘調査の後、坪井は横穴を住居とする説を唱えた。その趣旨は以下の通り。
しかしすぐに、弥生土器の共同発見者であり人類学会創設の同志である白井光太郎が神風山人の名[7]で学会誌に反論を掲載した[8]。白井は、横穴は墓であるとした。白井ら及び後の研究による反論の趣旨は以下の通り。
当初、坪井対白井の構図に論客を交えて「居穴か墓か」論争が続いたが、明治時代から大正時代にかけての考古学の発達及び坪井の死去(1913年(大正2年))によりコロポックル住居説は衰え、集合墳墓という説が定説となっていった。そして吉見百穴は1923年(大正12年)、国の史跡に指定された。また地元松山高校郷土部は永く地域の埋蔵文化財の調査を行っており、吉見百穴についても調査に貢献している。
太平洋戦争中、この岩山の地下に中島飛行機の地下軍需工場を建設するため、岩山の最下部に大きなトンネル(直径3メートルほど)が碁盤の目状に掘られ、その出入口として吉見百穴には3か所の坑口が掘り出された。また、吉見百穴のすぐそばを市野川が蛇行して流れていたが、軍需工場の前面に用地を確保するため、流路を西側へ移動する河川改修も合わせて行われた。この際、元から存在していた横穴が十数個崩されて消滅している[9]。これらの軍用トンネルの内壁は、ほぼ素掘りのままとなっている。夏期は涼風が吹き出すことがある。軍用トンネルの奥は危険なため、途中から鉄柵で塞がれている。なお、2024年現在軍需工場跡への立ち入りは禁止されている。
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