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オートバイのリヤサスペンションは車体を構成する要素の一つで、車軸を支持しながら路面の凹凸を吸収して振動を抑制しタイヤの接地を適切に保つための構造である。
初期のオートバイは自転車にエンジンを付けただけの形態で、前後輪ともにサスペンションを持たない車体構造であった。やがてエンジン性能の向上に伴い、安全でより速く走行するために、はじめは前輪にサスペンションが組み込まれ、やや遅れて後輪にも組み込まれて現在に至っている[1]。
現在の典型的なオートバイはリヤサスペンションにスイングアームを持つ[2]。
フロントサスペンションは第一次世界大戦前までには普遍的に採用されたが、リヤサスペンションを持たない車種は多く、代わりにサドルにばねが付けられていたものが多かった。こうした車両の構造はリジッドフレームと呼ばれている。現在では、ほとんどの車種でスイングアーム式が採用されていて、スクーターにはユニットスイング式が用いられる例が多い。
リジッドフレーム構造は現在でも改造車として製作する業者がある。日本では改造車を輸入して登録することはできるが、登録済みの車両をリジッドフレーム構造に改造することは保安基準に適合しない[3]。
現在のオートバイでリヤサスペンションに使用されるスプリングとダンパーは、ほとんどの場合でダンパーの外側にコイルスプリングを被せて一体化されたコイルオーバーユニットが採用されている。
スイングアーム(swing arm)式はトレーリングアームサスペンションの一種であり、車体フレームに回転可能に支持されたスイングアームの後端に車軸が支持される。車軸の左右両方を支持する物と片側だけを支持する物がある。車体フレームと同様に、部品コストを重視する車種では鋼管で作られ、ばね下重量の軽さを重視する車種ではアルミニウム押出成形材で作られる。フレームに支持される軸(ピボットシャフト)には強い荷重がかかるため、樹脂ブッシュを介してフレームへの強い衝撃を防止したり、ローラーベアリングで回転をスムーズにしたりといった工夫がされていることが多い。
スイングアームには駆動伝達装置や制動装置の部品が固定される場合が多い。車種によってはタンデムステップやサイドスタンドが取り付けられる。
車軸の左右両方を支持するスイングアームはスイングフォーク(swing fork)とも呼ばれ、ピボットシャフトやその近辺で左右がつながった二又のフォーク状のアームの間に後輪が支持される。後述の片持ち式と対比して両持ち式と呼ぶ場合がある。
車軸の片側だけを支持するスイングアームは片持ちスイングアームまたはプロアームとも呼ばれ、後輪の交換は容易なものとなるが、リヤサスペンションのばね下重量は増加する。これは両持ち式スイングアームと同じ剛性を確保するために、より多くの材料を追加する必要があることによる。[要出典]片持ち式スイングアームの採用例として、ホンダ・VFR800やBMW・Rシリーズ、Kシリーズ、耐久レースへの参戦を意図して設計された[要出典]ホンダ・RVF/RC45、ドゥカティ・916などが挙げられる。ドゥカティ・1098は純粋にスタイリング上の理由から[要出典]片持ち式が採用されている。MVアグスタ・F4シリーズはマグネシウム合金製の中空断面スイングアームを採用して、バネ下重量の欠点を補っている。
多くのスイングアームにはピボット部分にグリースを注入するためのグリースニップルが用意されており、定期的な注油を行う必要がある。ピボットシャフトに組み込まれた樹脂ブッシュの硬化やニードルベアリングの摩耗が発生してサスペンション性能が低下する場合もあるため、ピボットシャフトの分解整備が必要となる場合もある。
スイングアーム式サスペンションでは、ばね下重量の軽減のために軽量な材質のものに交換する場合やピボット部やリンケージにベアリングを内蔵した物に交換する場合、タイヤ幅を太くするために左右の幅が広い物に交換する場合がある。ドラッグレースやヒルクライム競技では前輪の浮き上がりを抑えるために、標準装備されるスイングアームよりも長いものに交換してホイールベースを延長する場合がある。長いスイングアームをロングスイングアーム(long swing arm)とよび、日本では略して「ロンスイ」とも呼ばれる。スカチューンと呼ばれる外観重視の改造でも用いられる場合がある。
スイングアームに対するスプリングとダンパーの配置によりいくつかの方式に分類できる。
平行リンク式はスイングアームに平行したリンクロッドを追加してブレーキ装置と車体フレームを連結した方式[6]である。従来のスイングアーム式ではリヤブレーキの作動による反トルクによって、スクワットとも呼ばれるサスペンションの沈み込みが発生し、極端な場合は後輪の接地面圧が不安定に変動してブレーキがロックしやすくなる。追加されリンクロッドはトルクロッドとも呼ばれ、ブレーキ装置に発生する反トルクによる沈み込みを打ち消すように働く。[7]
平行リンク式のうち、駆動伝達にシャフトドライブを採用した車種では、「パラレログラモ」(マーニ)や「パラレバー」(BMW)、「CARC (Cardano Reattivo Compatto, compact reactive shaft drive)」(モト・グッツィ)などと呼ばれる。シャフトドライブでは加減速の際にベベルギアに伝達する駆動力の反トルクによりリヤサスペンションが上下する挙動を示すが、平行リンク式はブレーキ装置だけでなくベベルギアにかかる反トルクも打ち消す働きをする構造である。
リーフばね式は後輪車軸の上下にリーフスプリングを配置して、スプリング自身がリヤアームとして軸の位置決めを兼ねる構造である。スプリングの一端が車体に固定され、多端が車軸の上下によってたわむカンチレバー構造である。リーフスプリングの板間摩擦によって減衰力が発生するためダンパーは省略される。[9]アメリカのインディアンから1913年に発売された車種に採用された。
プランジャ式は、後輪付近に立てて配置された円筒に沿って上下にスライドするスライダが車軸を支えている。スライダの上下は円筒内部に組み込まれたコイルスプリングで保持され、円筒は車体フレームの後端部に固定される。車軸は垂直にストロークするのでドライブスプロケットとの距離の変化が大きく、ドライブチェーンの耐久性に影響を及ぼす。そのため、ストロークを大きくできない欠点を持つ。[10][11]1913年にen:Pope_Manufacturing_Companyから発売された車種[12][13]や、アドラー、アリエル、BMW、BSA、インディアン、MZモトラッド、ノートン、ツェンダップなどに採用された。
ハブクッション式はサスペンションユニットを後輪ハブ内に収めた構造である。車体フレームはリジッドフレームが車軸を支持するのと同様に、スライダと呼ばれる部品を固定支持する。スライダはドライブチェーンの軸間距離に相当する半径を持つ円弧形状で、ハブに内蔵された円弧状のスライダガイドを上下に揺動する。ハブはスライダの上下に配置されたコイルばねで支えられて路面の凹凸を吸収する。プランジャ式と異なりドライブチェーンへの負担は少なくなるが、ハブの内側という限られたスペースに納められるためストロークは大きくない。[14]
ユニットスイング式(Unit Swing)は、エンジンとトランスミッション、後輪軸受けを一体としたユニットが前部を車体フレームに支持され、スイングアームのように動作する構造で、スクーターに広く採用されている。ユニットの中央付近で車体フレームに支持される方式も採用された例があり、座席の下方に配置されたピボット部に対してエンジンが前方に配置されていて、エンジンと車輪が互いにカウンターバランスのように上下に揺動することから、カウンターバランス式と呼ばれる。カウンターバランス式はエンジンを露出させるデザインとするために採用された。[15]
エンジンと駆動伝達系をコンパクトにまとめることができる。後輪の上下動によってチェーンやベルトの張りが変化しないため、駆動系統の耐久性を確保しやすい。一方、エンジンやトランスミッションなどの重量の一部もばね下重量となる欠点を持つ。また、フレームのスペースによってはホイールトラベルが制限されたり、大きくて重い多気筒エンジンを搭載することが難しい。
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