名詞: 海人
あま【海人・海夫・蜑・蜑家・蜑女・海士・海女・塰】
- (日本史) 、《漁撈》[原義・古義](海人、海夫、蜑、蜑家、蜑女) 日本において、海を主する水域(河川や湖沼を含む)を生業の場とし、素潜りする漁民を始め、釣漁・網漁・塩焼(藻塩の製造)・水上輸送・航海などに携わる人のこと。古代・中世では性で区別する概念は未発達で、古代から見られる「海夫」も「漁夫」などと同じく、男性という意味は含まない。「蜑」「蜑家」「蜑女」は近世の文書に見られる語で、全て「あま」と読むが、中国の水上生活者を意味する「蜑(タン)」に由来する。
- 伊蘇其登尓 海夫乃釣船 波氐尓家里 我船波氐牟 伊蘇乃之良奈久
- 書き下し:磯毎に 海夫の釣船 泊てにけり 我が船泊てむ 礒の知らなく。 #::*解釈:磯という磯に海夫の釣船が既に碇泊してしまっている。私の船が碇泊すべき磯は見当たらない)(『万葉集』巻十七・3892)〔7世紀後半-8世紀後半頃〕
- 荒布の 藤江の浦に鱸釣る 海人とか見らむ 旅行く吾を (柿本人麻呂 『古今和歌集』羇旅の歌)〔歌人は飛鳥時代の人。編纂は平安時代前期〕
- 飼飯の海の 庭よくあらし苅薦の 乱れ出づ見ゆ 海人の釣船 (上に同じ)
- (職業) 《漁撈》[近現代の意義](海人、海士、海女、塰) 海を主とする水域を生業の場とし、素潜りする漁民(※この意味では語義1より狭義)。基本的には日本国内での呼称であるが、韓国・済州島の同業者(海女〈ヘニョ〉(wp))や中国の同業者(採珠女)も同じく「海女」と呼ぶことも多い(※この意味では、国内に留まる語義1より広義)。性で区別する場合、男性は「海士」、女性は「海女」と書き分ける。「塰(あま)」は「海士」の合字で「海人」を意味する和製漢字(日本語国字)であるが、固有名詞の造語成分として地名や姓に用いられる(例:塰泊〈あまどまり〉、塰河〈あまがわ〉)に留まる。
- 随分昔のことであるけれども、房州の白浜へ行って海女のひとたちが海へ潜って働くのや天草とりに働く姿を見たことがあった。(宮本百合子 『漁村の婦人の生活 』)〔1941年〕
- (春の季語, 晩春の季語。分類は人事) (海女) 語義2のうち、女性のみ。
- 子季語 :磯人。かつぎ。もぐり。磯海女、沖海女。海女の笛。磯嘆き。海女の小屋。
- 《日本伝統芸能》(海人。現代の別表記:海士) 能の演目の一つ。世阿弥の作品とされてきたが、彼の時代には既に存在していたことが判っている。詳しくは「w:海人 (能)」を参照のこと。
語誌
語義1
- 『魏志倭人伝』にて「倭水人(倭の水人)」の名で触れられているのが、かかる職業人についての最古の記述。日本語での初出は『万葉集』。
- 大化前代(大和王権時代末期)には海部/海人部(あまべ)に属していた。そのような人々。
- かかる職業人についての「あま」以外の読みも含む包括的解説は、「海人」に譲る。
名詞: 尼
あま【尼】
- (仏教) 女性の出家僧。キリスト教の修道女など、仏教以外の宗教における類似の女性を指す場合もある。
- 「尼削ぎ」の略。肩の辺りで頭髪を切りそろえた、平安時代の髪型。また、その髪型の少女。
- (蔑称) 女性に対する蔑称。「阿魔」とも書く。
- 「このアマめ。貴様、死ぬと見せて、男だけ殺したな。はじめから、死ぬる気持がなかったのだな、悪党めが!」(坂口安吾『行雲流水』)
- おい、しっかりしろ、あの娘はとんでもない阿魔だぞ。(吉行エイスケ『大阪万華鏡』)
類義語
- 語義1: 尼法師、尼僧、比丘尼
- 語義2: うない、ふりわけがみ
- 語義3: 尼っ子、尼っちょ
名詞: 天
あま
- (古用法) あめ(天・雨)の、名詞又は助詞「が」「の」に接続する際の変化。
- 安乎尓余志 奈良能美夜古尓 多奈妣家流 安麻能之良久毛 見礼杼安可奴加毛(『万葉集』巻十五・3602)
- 青丹吉 奈良の都に 棚引ける 天の白雲 見れど飽かぬかも
- 奈良の都に棚引いている、空に浮かぶ白雲は、見ていても飽きないものだ。
語源
- 「あめ」の母音変化とするのが通説であるが、「漁師」の意の「あま」との関係を見いだし、天孫族の漁撈的性格の共通性を唱える説もある。
名詞: 海
あま【海】
- (地形) 海。
同音異義語
あま
- 【安摩 / 案摩】雅楽の曲の一つ。
- 【亜麻】アマ科の一年草。茎は織物の、種は亜麻仁油の原料となる。花は夏の季語、実は秋の季語。