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国家の司法権・裁判権の存在を前提として、その裁判権の裁判所間における分担に関する管轄 ウィキペディアから
裁判管轄(さいばんかんかつ)または司法管轄(しほうかんかつ、英: jurisdiction)とは、国家の司法権・裁判権の存在を前提として、その裁判権の裁判所間における分担に関する管轄をいう。管轄のある裁判所を管轄裁判所という。
裁判権(さいばんけん)とは、国の司法権に基づき裁判を行う権限をいう。
ある国の裁判所が裁判管轄を有するためには、その国の司法機関に裁判権が存在することが前提であり、国際法により当該国の裁判権が制限されている場合には、そもそも裁判管轄は発生し得ない。このような裁判管轄の前提となる裁判権が否定される場合には、治外法権と主権免除がある。
裁判権は、条約によって制限することが可能である。日本は、開国当初はいわゆる不平等条約により治外法権(締約相手国の領事裁判権)が認められていた。すなわち、安政4年(1857年)の日米修好通商条約4条は、次の通り(表記を現代化し、句読点を補う)。
しかし、条約改正の達成により、不平等条約に基づく治外法権は撤廃された。
今日において残る治外法権には、外交使節に関するものがある。外交関係に関するウィーン条約によれば、次の者が、接受国の裁判権からの免除を享有する。
但し、派遣国は、上記の者に対する裁判権からの免除を放棄することができる(32条1項)。この場合、放棄は、常に明示的に行なわなければならない(32条2項)。民事訴訟又は行政訴訟に関する裁判権からの免除の放棄は、その判決の執行についての免除の放棄をも意味するものとはみなされない(32条4項1文)。即ち、判決の執行についての免除の放棄のためには、別にその放棄をすることを必要とする(32条4項2文)。
なお、上記の者が訴えを提起した場合には、本訴に直接に関連する反訴について裁判権からの免除を援用することができない(32条3項)。
今日、国際慣習法として認められている裁判権の制限は、いわゆる主権免除(裁判権免除)のルールである。
主権免除とは、ある国の裁判所において他の国家が被告となった場合に、国際法上の主権平等の原則から、その国の裁判権から当該他の国家は免除される、ということである。主権免除については、次の二つの考え方がある。
絶対免除主義から制限免除主義へ、というのが世界的な潮流であるといわれており、すでに1886年にはイタリアで、1903年にはベルギーで制限主義に立脚した判例が登場していた。その後、アメリカでは1976年に制限免除主義が立法化され、カナダやオーストラリアもこれに続いた。
日本では、絶対免除主義を採る大審院判例(大審院決定昭和3年12月28日民集7巻1128頁)が形式上は生きていると考えられてきた。しかし、最高裁判所平成18年7月21日判決、民集第60巻6号2542頁は、「外国国家は商取引や雇用契約など、私法的行為などについても民事裁判権から免除されるとの国際慣習法はもはや存在しない」として、国際慣習法が変更されたという理解を示し、「外国国家の主権を侵害するおそれがあるなど特段の事情がない限り、日本の民事裁判権は免除されない」として、制限免除主義の立場を明らかにした。
国家の最高法規である憲法により、裁判権が制限されることがある。最高裁判所は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴である天皇に対しては、下記のとおり民事裁判権は及ばないと判示した(最高裁判所平成元年11月20日判決、民集43巻10号1160頁)。
民事裁判管轄(みんじさいばんかんかつ)とは、民事訴訟において、特定の事件について、どの裁判所が裁判権を行使するかという分担(管轄)の定めのことをいう。
今日の日本法の民事訴訟においては、国際裁判管轄・職分管轄・審級管轄・事物管轄・土地管轄のすべてが揃った裁判所が、事件を管轄する。職分管轄、審級管轄、事物管轄、土地管轄については法律で定められているが、土地管轄については一定の場合に合意管轄や応訴管轄も認められている。
法律の規定により直接定まる管轄のことを、法定管轄という。
取り扱う事務について定める管轄のこと。訴訟する事件の内容によって、裁判所は変わる。例えば、訴訟事件を処理する権限と民事執行事件を処理する権限は別々の職分権である。
事件の性質の違いに基づいて定められる管轄のこと。訴額(訴訟物の価額)が140万円以下の場合(不動産に関する訴訟を除く)は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所が第一審の裁判権を有する(例外的に高等裁判所が第一審の裁判権を担当する場合もある)。
事件について、どの土地の裁判所が担当するかの定めをいう。事件と管轄区域の関連(裁判籍)の有無により定まる。
法定管轄のうち、当事者の利益を図る目的で定められたもので、当事者の意思で変更することも差し支えない管轄をいう。反対は専属管轄。
法定管轄のうち、公益的要請から裁判権が特定の裁判所に専属し、当事者の意思により変更することのできない管轄をいう。反対は任意管轄。
専属管轄の例 会社法835条(但し、著しい遅滞等を避けるのに必要と認められる場合、申立により移送が可能(第3項))、民事執行法19条、特許法178条
アメリカは連邦に起因する司法制度と州に起因する司法制度が併存する。連邦に起因する司法制度が関与するのは、連邦憲法第3条第2節[1]に列挙され、これに限られる。前記限定列挙された法律問題は、連邦裁判所が管轄する。一方、各州で確立された州憲法、州法その他州の司法制度で判断される法律問題は、州裁判所が管轄する。州籍相違事件については、連邦裁判所が一方の州法を適用する場合があり、さらに他州の州法の適用も検討が必要になる(この場合、州際私法によって、適用すべき州法を決めることになる)。類似の問題(対人管轄権(In Personam Jurisdiction)、日本での土地管轄に相当する)は、州裁判所に提訴した複数州にまたがる争訴にも生じ得ることがある(対人管轄権に関する判例としてワールドワイドフォルクスワーゲン事件などが知られている)。これらを調整する法理に、いずれの州の裁判所で提訴できるかの基準としてミニマムコンタクトなどがあり、ミニマムコンタクトはロングアームの法理で論じられる。
アメリカ連邦最高裁の1877年のペノイヤー判決(Pennoyer v.Neff)は州裁判所の管轄権の基本原則に関する解釈をまとまった形で出した初めての判決となった[2]。ペノイヤー判決では州裁判所の非居住者に対する管轄権は州内で直接に送達を行ったときまたは州内でその所有する財産を差し押さえたときに限って裁判管轄権を有すると判断した[2]。
アメリカ連邦最高裁の1945年のインターナショナルシュー判決では州裁判所の管轄権について法廷地との間で最小限度の接触(minimum contact)があるのと同時に訴訟の提起が伝統的な公明正大で実質的正義という概念に矛盾しないことを要件とし州裁判所の人的裁判管轄権を拡張した[3]。1977年のアメリカ連邦最高裁判決(Shaffer v.Heitner)でインターナショナルシュー判決の基準は州裁判所の物的裁判管轄権にも拡張された[4]。
民事法において当事者の意思が最大限に尊重されていること(民法における私的自治(Privatautonomie)・国際私法における当事者自治(Parteiautonomie)・民事訴訟法における処分権主義や弁論主義など)に鑑みれば、国際裁判管轄についても当事者の合意を尊重すべきだという考えが生じる。日本法には2011年の民事訴訟法・民事保全法一部改正まで国際裁判管轄に関する明文の規定はなかったが、最高裁判所は、いわゆるチサダネ号事件において、次の通り、その要件について詳しく論じつつ、国際裁判管轄に関する管轄の合意は有効であると判示した[5]。
以上の最高裁の判示した国際裁判管轄の合意の有効要件を要約すると、次のようになる。
実質的有効要件については、明確でないので、補って考える必要がある:
なお、チサダネ号事件判決(1975年)は、合衆国最高裁判所(Supreme Court)のBremen対Zapata事件判決[6]の強い影響の下で出された判決だといわれる。
当事者間に国際裁判管轄に関する合意がない場合には、国際裁判管轄が法定されることになる。
国家が主権的である以上、裁判権の行使については国家の裁量で決定される。日本においては2011年の民事訴訟法・民事保全法一部改正まで、国際裁判管轄に関する明文の規定はなかったため、何を国際裁判管轄についての法源とするかについて次の学説の対立があった。
この点について判示した最高裁判所判例と考えられているのが、いわゆるマレーシア航空事件判決である(最高裁判所昭和56年10月16日判決、民集35巻7号1224頁)。最高裁判所は、次のように判示する:
従って、最高裁判所は、両説を折衷した立場にあると考えることができる。すなわち、条理説をベースとして、条理の内容として逆推知説を採用しているのである。
従って、原則として、民事訴訟法の土地管轄の規定を適用した結果、日本のいずれかの裁判所に土地管轄が認められれば、日本の裁判所は国際裁判管轄を有するということになる。すなわち、国際裁判管轄の原因は、次の通りとなる:
但し、特別裁判籍に基づく国際裁判管轄をすべて認めるといわゆる過剰管轄(exorbitant jurisdiction)となるので、判例では、民事訴訟法の逆推知によると条理に反する「特段の事情」を認定し、それにより一定程度で過剰管轄を制限する取扱いが確立している。過剰管轄が生じるのは好ましくない(いわゆるフォーラム・ショッピングなどが生じる)一方、国際裁判管轄を安易に否定すると、国際的な裁判拒絶(Rechtsverweigerung)が生じ、国民の裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害することになってしまうので、衡量の難しいところである。
上記の法改正以後は、民事訴訟法3条の2~3条の12、民事保全法11条に従うこととなった。
応訴管轄とは、民事につき訴えの提起のあった当該裁判所において、相手方が管轄を問題とせずに訴訟に応じた場合、専属管轄外でない限りは当該裁判所に管轄が発生することをいう(民事訴訟法12条)。当事者間の裁判所へのアクセス負担の公平化という管轄の趣旨からは、相手方が応訴することで管轄に合意しているのであれば、あえて管轄を問題とすることがないという、民事訴訟法における私的自治の一表象であるといえる。
英米法においては、国際裁判管轄が肯定されるような場合でも、forum conveniensでないとして裁判を拒絶する法理があり、これをforum (non) conveniensの法理という。
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