Remove ads
株式会社が有する自己の株式 ウィキペディアから
自己株式(じこかぶしき、英: Treasury stock、英: Treasury share)は、株式会社が有する自己の株式をいう。金庫株(きんこかぶ)、社内株とも呼ばれる。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
株式会社の立場から見て「自己株式」は、日本語としては
の可能性が考えられるが、2006年に日本で施行された会社法では、自己株式を「株式会社が有する自己の株式」と定義しており(113条4項)、「自己の株式」と「自己株式」とが明確に呼び分けられている(少なくとも同法条文上は自己株式は自己の株式の一部ということになる)。
株式会社は新株を発行することで発行済株式総数を増やし、資金を調達する。自己株式を取得することはこの反作用、すなわち、既発行の株式を入手回収 (自己の株式を取得) し、手元資金を放出して、発行済株式のうち自己株式以外の総数を減らす働きを持つ。取得された自己株式は、それ以外の自己の株式と区別して扱われることがある(例として、新株予約権発行可能数の算出時)。また、様々な目的のために処理 (再度放出 (自己株式の処分) または消却 (自己株式の消却) )されることがある。
自己の株式の取得は、米国においては、多くの州によって古くから一般的に認められていた。一方、英国においては絶対禁止とされていたことがあり、ドイツにおいても「会社の重大な損害を避けるために必要な場合」には、資本の一割を限度として自己の株式の取得を認める[1]等、国によって規制は一様ではなかった。
日本においては、次のとおり制度変更を経て現在に至っている。(商法改正全般については、商法の改正参照)
まず、1890年(明治23年)に商法が制定された当時は、自己の株式の取得が絶対禁止とされていた[2]。これは株式が、株主の会社に対する権利義務の主体であることから会社が取得できると民法第520条の混同の法理に反する(出資を募った株式が戻入されたのだから消滅すべきではないか)と考えられること、かつ、会社が同時に株主(構成員・社員)になることが不可能だからであるという理論に基づくものであった[3]。もっとも、実際界や学界はその緩和を望んでおり、株主失権、株式消却および合併の場合に一時的な自己の株式の取得が可能であると解釈上、認められていたこともあり、社団の法理に基づく前述の理由だけでは禁止の説明に窮する上、有価証券たる株式は発行会社自体も理論上、有効に取得し得るとされていた(通説)[4]。
そこで、1938年(昭和13年)の商法改正により、(1)株式の消却、(2)合併・営業譲渡および(3)権利の実行の3つが初めて例外的許容事項として明文で規定された。
もっとも、自己の株式の取得が原則禁止とされたのは、
等の理由によるものとされており、このため、許容事項を限定列挙するに留まっていた。
もっとも、1.については配当可能利益を財源とした場合には弊がないこと、2.については投機取引のために会社財産を処分する罪・株主の差止請求権による抑止、3.については証券取引法第125条・58条等による弊害の防止、4.については市場取引を通じた場合には該当しづらいこと、5.については取締役の忠実義務等、6.および7.については不法行為自体の抑止など、法令により対策が施されていた。
とはいえ、これらの場合の違法の追及には実際上、立証の困難が伴いやすいことから、法律政策上の理由で、自己の株式の取得が原則として禁止とされた。
1950年(昭和25年)の商法改正により、合併・営業譲渡に株式買取請求権制度が導入されたことに伴い、(4)合併・営業譲渡における反対株主買取請求権の行使が、新たに例外的許容事項として追加された。続いて、1966年(昭和41年)の商法改正で、株式の譲渡制限に関する定款変更についても株主買取請求権制度が導入され、合併・営業譲渡に加え、例外的許容事項として追加されている。
1994年(平成6年)の商法改正により、新たに(5)使用人に譲渡する場合、(6)定時総会決議で利益により株式を消却する場合、(7)譲渡制限会社における買受人として指定の請求をされた場合についても自己の株式の取得ができることとされた。取得に関する目的が緩和されたことに伴い、これを補うものとして以下の方策が手当てされた。
また、証券取引法においては自己の株式の取得に関する不公正取引に対処する規定の整備が進められ、自己株券買付状況報告書の提出が義務付けられた。
1997年(平成9年)には、株式の消却の手続に関する商法の特例に関する法律(平成9年法律第55号、消却特例法)が施行され、定款に定めを置くことで、取締役会決議で利益により株式を消却することができるものとされ、手続規制の一部が緩和された。この際、取締役会決議で自己の株式を取得できる旨のほか、その効力発生開始時期および取得することができる株式数の上限を定めなければならなかった。
2001年(平成13年)の商法改正は議員立法により行われ、その際、目的規制および数量規制を法文上から完全に無くし、併せて処分義務も廃止し取得した自己株式の保有を認めた。これにより、自己の株式の取得は、原則禁止から方向転換がなされ、配当可能利益の範囲内であれば定時株主総会の決議によって行えるようになった。これに伴い、前述の消却特例法は廃止された。当時のニュースでは、金庫株解禁という言葉が頻繁に使用された。これにより、自己の株式は急増するに至り、バブル期に集めすぎた過剰資金、不景気による資金需要の低迷、株式持合いの解消等が重なった結果、増資額を自己株式の消却額が上回る事態となった。
2003年(平成15年)の商法改正によって、定款授権による取締役会決議に基づく自己の株式の取得が解禁(商法第211条ノ3)となり、手続きの簡便さも手伝って自己の株式の取得が普及し始めた。特に上場会社による自己の株式の取得は、証券市場に対し会社が現在の株価を割安と考えているサインを伝える、いわゆる「シグナリング効果」があるとされている。
2006年(平成18年)に会社法が施行されたが、改正商法の趣旨(自己の株式の取得の自由化)は引き継がれ現在に至っている。もっとも法文構成自体は商法時代と同じく、許容事項を限定列挙する形を採っている。なお、海外からの日本株への資金流入(対外直接投資)が増加したこと等により、アメリカ的な考え方として「自己の株式の取得は、配当と同様に株主還元の一つである」という考え方も浸透しつつあり、配当性向に替わり総還元性向(配当総額と自己の株式の取得額の合計を、当期純利益等で除して株主還元率を示す考え方)を採用する上場会社も現れている。
自己の株式を取得することのメリットとして、次のことが挙げられる。
2001年の商法改正に伴い解禁された金庫株制度の流れをうけ、自己の株式の取得(英: Aquisition of own share、独: Erwerb eigener Aktien、仏: rachat par une société de ses propres actions)は、会社法上、次のとおり定められている。
自己の株式の取得に関する会計上の考え方は2種類存在している。財務会計・税務会計とも2001年商法改正に伴う金庫株制度解禁の影響を受けた。
日本においては2001年商法改正を転機として資産説から資本控除説へと異なる考え方が採用され、企業会計基準委員会は2002年(平成14年)2月21日付けで次のとおり会計基準を設け、同年4月1日以降に適用となった。
これらの会計基準は、2005年12月27日に改正された後、会社法施行に合わせて2006年5月にこれらを改正し、上記1.は「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」に、上記2.は「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」となっている。
資産説から資本控除説への移行に伴う会計処理の変化は、下表のとおり。
商法改正前の貸借対照表(資産説)
|
2001年商法改正後の貸借対照表(資本控除説)
|
なお、自己の株式の取得に要した附随費用は、損益計算書上の営業外費用に計上される。また、会社法施行に伴い資本の部は、純資産の部へと名称変更しているが、上表では便宜上、旧称のままとしている。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
資本金等 | 100 | 現金 | 100 |
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
資本金等 | 100 | 受取配当金 | 100 |
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
資本金等 | 150 | 資本金等 | 100 |
利益積立金 | 50 |
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
資本金等 | 100 | 現金 | 150 |
利益積立金 | 50 |
総資産=純資産(上段) 現金10で自己株式を取得後(下段)
|
負債と純資産が存在(上段) 現金10で自己株式を取得後(下段)
|
保有している自己株式の処理には、(1)自己株式の消却、(2)自己株式の処分(狭義)および(3)新株の代用の3つ方法がある((2)と(3)、または全てを自己株式の処分と取扱う場合もある)。会社法においては、消却を直接的に規定する条文が存在しているが、処分については旧商法と異なり間接的に規定する程度で、新株の代用に至っては規定している条文が存在しない。もっとも新株の代用が禁じられているわけではなく、「株式を交付する」という文言が使用されており、株式の交付には新株発行に限らず自己株式の代用が許容されているとされ従前のとおり運用されている。なお、4つ目の処理方法として、「自己株式の市場売却」(179条)が会社法立案当初に検討されていたが、国会審議を経る際に規定が削除されることとなり、会社法が施行されたときから条数のみが残存している。
株式会社は、取得した自己株式を、取締役会設置会社の場合には取締役会の決議(非設置会社の場合には取締役の決定)により、消却することができ(178条)、これを自己株式の消却(英: Cancellation of Treasury share、独: Einziehung von Aktien、独: Amortisation、仏: amortissement des actions)という。その際、決定すべき事項は次のとおり。
商法においては、自己株式の消却には(1)取締役会決議による消却(旧商法212条)、(2)資本減少の規定に従う消却(同法213条)または(3)定款の規定に基づき株主に配当すべき利益をもってする消却(同法同条)の3種類があり、消却した際に減少する資本項目は、取締役会等の決議に従うこととされていた。また、自己株式を消却した場合には、同時に授権資本枠(発行可能株式総数)を減少させることが通常とされていたため、消却株式数分だけ自己株式と授権資本枠の両方を減ずる必要があった。本来、授権資本枠は株主総会の特別決議を経て定められる「枠」であるから、消却によってこれを減らさなければならないという実務慣行に異議を唱える説もあった。会社法施行に伴い、自己株式の消却により減ぜられるのは自己株式に限定されることが明確にされ、授権資本枠を減少させる必要がなくなった(定款に一律減少させる規定がある場合は別)。また、会社法上の公開会社は、定款変更によって授権資本枠を発行済株式総数の4倍を超えて増加させてはならないとされている(113条)が、消却によって結果的に授権資本枠が発行済株式の総数の4倍を超えた場合は、同規定に反しないとされている[5]。
上場会社の場合は取得により減少した流通株式を、消却により再流通させないことが確定するため証券市場から歓迎され、株価に一定の効果をもたらすとされている。ただし、授権資本枠に変化はないことから、単に発行可能株式の数が増加する効果を生んでいるという説も一方ではある。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
その他資本剰余金 | 100 | 自己株式 | 100 |
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
その他利益剰余金 | 100 | ||
自己株式 | -100 | ||
その他資本剰余金 | 100 | 自己株式 | 100 |
会社法施行に伴い、自己株式の処分(英: Disposal of Treasury share)は、募集株式(199条)の規定において、株式を引受ける株主を募集する行為の中で、引受ける対象として新株の発行と自己株式の処分が同等のものとして整理されている。これは、自己株式の処分が新株発行と同様の効果を有していることに着目し、既発行なのか未発行なのかが実質的に問題とならない点に着目しているからである。従って、自己株式の処分については、会社は新株発行と同様の手続きをとらなければならない。
その仕訳は下表のとおり。
自己株式処分差益が生じた場合
|
自己株式処分差益が生じた場合
|
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金 | 100 | 資本金等 | 100 |
吸収合併等の組織再編等、また新株予約権・転換社債型新株予約権付社債の対価として受渡す新株に代えて交付することができる。これを「代用自己株式」(英: Substitute for share issue)という。
また、会社は定款に定めれば、株主からの単元未満株式の売渡請求(194条、買増請求(かいましせいきゅう))に対し、保有する自己株式を売り渡すことができる。この場合、市場売却ではなく株主との相対取引で行うため、上場会社の場合、請求の到達した日の終値を用いて自己株式を売却するのが一般的である。なお、当該売渡請求に対し、会社は自己株式を交付することと明文化されており、上記の例と異なり、新株を発行する義務がそもそもない。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.