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ある株式会社の株を市場外で買い集める制度、TOB ウィキペディアから
株式公開買付け(かぶしきこうかいかいつけ)とは、ある株式会社の株式の買付けを、「買付け期間・買取り株数・価格」を公告し、不特定多数の株主から株式市場外で株式等を買い集める制度のことである。日本では公開買付けをTOB(take-over bid)と言うことが多い。
公開買付けとは、経営権の掌握等を目的にその会社の株券や資本性証券を市場外で一定期間のうちに一定価格で買い取ることを公告して取得する方法をいう[1]。株式公開買付制度は投資家の保護と証券取引の秩序維持のために設けられている[1]。株式公開買付制度を導入している国には、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本などがあるがその内容は異なる[1]。
第三者が、企業買収や子会社化など、対象企業の経営権の取得を目的に実施することが多い。成長力のある会社を完全子会社あるいは社内事業部門に取り込むことで、親会社の企業価値を上げるという考え方もある。他には市場に流通する「自社の株式」(自己株式)を購入するために使われることもある[注釈 1]。
公開買付けの買付け量によっては、対象となった企業が上場廃止になる場合がある。例えば東京証券取引所の場合、少数特定株主持ち分比率が90%を超えないことが、上場基準のため、この基準を抵触する量を買付けすると、対象企業は上場廃止となる。マネジメント・バイ・アウト (MBO) などのための公開買付けでは意図的に上場廃止する場合も多い。
公開買付けを略してTOBと言うが、これは英語のtakeover bidが語源である。アメリカ英語では、tender offerという表現もあり、投資銀行の世界では tender offer or public tender offerという言い回しの方が通りがよい。
日本では金融商品取引法(旧証券取引法)において一定の場合に公開買付けを義務づける強制公開買付制度が採用されている[1]。
具体的には金融商品取引法第27条の2により、有価証券報告書の提出が義務付けられている株式会社等(証券取引所に上場する株式会社など)の「株券等」[注釈 2]を発行者以外の者が市場外で一定数以上の「買付け等」[注釈 3]をする場合などには、原則として公開買付けによらねばならないと定められている。
同法に定められた公開買付けは、その実施主体者の違いにより「発行者以外の者による株式等の公開買付け」と「発行者による上場株券等の公開買付け」に分けられている。
公開買付けが強制されることの趣旨は、経営権の移転に関する情報開示、株主平等の原則、コントロール・プレミアムの平等分配の3つにあるとされる。
実施に際しては、条件の新聞への公告や、財務局への届出の手続が必要となる。実施中は、この方法以外で当該株を購入することはできない。
公開買付けの方法及び公開買付けに関する開示方法等については金融商品取引法第27条の2~第27条の22の4に、公開買付者等関係者の禁止行為は同法第167条に、それぞれ規定されている。
特定企業が保有している株式を容易に取得し易くするために市場よりも割安な価格で株式公開買付けを行うこと(「ディスカウントTOB」と呼ばれている)も日本国内では可能[注釈 4]で三菱商事[注釈 5]やコカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス[注釈 6]などが実施している。この方法は市場で大量の株式を売却すると株価が下がり、他の株主に影響を受けることを回避することが出来る一方、価格の妥当性などに不透明な余地が残ることから、「本来受け取るべき利益を毀損している」との批判の声もある[注釈 7][2]。
日本で公開買付制度が導入されたのは1971年(昭和46年)で、1990年(平成2年)にほぼ現行の制度となった[1]。
のちに市場内で議決権が全体の3分の1以上の株式を取得しても問題とならない、との解釈に基づき、ライブドアが東証の取引開始前の時間外取引でニッポン放送株式の29.5%を取得、グループとして発行済み株式のうち35%を保有するに至った件(2005年2月)や、村上ファンドが市場内・市場外を併用して阪神電気鉄道 株式38%を取得した件(2005年10月)などの反省から、平成17年の証券取引法改正により、市場内取引でも、ToSTNetなど証券取引所の立会外取引(時間外取引)によって、買付け後の株券等所有割合が3分の1を超えるものについては、同じく公開買付けによらなければならないこととされた。
これらの騒動の影響により、2006年(平成18年)12月13日に施行された政省令によって、3か月以内に、市場外で5%超取得し、市場内と合わせて10%超取得し、保有割合が3分の1を超える場合は公開買付けが義務付けられた。しかし、この時点では市場内のみでの株式買い集めは対象外だったこともあり[注釈 8]、アジア開発キャピタル子会社による東京機械製作所株式の急速な買い集めを防ぐことは出来ず、問題になった。これを受けて、市場内のみでの株式買い集めについても買付け後の株券等所有割合が3分の1を超える場合は公開買付けの義務づけを検討する方向で調整していることが2023年3月に報じられた[3][4][5]。
なお、買付け後の株券等所有割合が3分の1を超えなくても公開買付けを行うことは可能である。2022年8月から同年10月までシダックス株式の公開買付けを行っていたオイシックス・ラ・大地はユニゾン・キャピタル(ユニゾン)が保有しているシダックス株式(27.02%)の取得を目的としているため、通常であれば公開買付けを行う必要性はないが、ユニゾンによる意向により、敢えて公開買付けを実施していた事例がある[6][7][8]。
公開買付けによって株券等の買付け等を行わなければならない者は公開買付開始公告を行う必要がある(金融商品取引法27条の3)。
公開買付開始公告を行った者(公開買付者)は買付条件等を記載した書類及び内閣府令で定める添付書類(公開買付届出書)を内閣総理大臣に提出をしなければならない(金融商品取引法27条の3)。
公開買付期間とは公開買付開始公告を行った日から公開買付けによる買付け等の期間の末日までをいう(延長した場合は延長した期間を含む)(金融商品取引法27条の5)。公開買付期間は公開買付開始公告を行った日から起算して20日以上で60日以内でなければならない(金融商品取引法施行令8条)。
公開買付けをされる株券等の発行者は、公開買付開始公告が行われた日から10営業日内に、当該公開買付けに関する意見等、所定の事項を記載した意見表明報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない(金融商品取引法27条の10)。
意見表明報告書の意義は、公開買付けをされる株券等の発行者による当該公開買付けに関する意見を開示することで、当該公開買付けの位置付けを明らかにすることにより、投資者を保護するとともに証券市場の信頼性を確保することにあるといえる。
提出を義務付けられている者は、第4号様式により意見表明報告書を3通作成し、関東財務局長に提出し、かつ、公開買付者に対しても送付しなければならない。
意見表明報告書の記載事項は以下のとおり。
※ 期間の延長は、当該買付け等の期間が政令で定める期間より短い場合に限られ、政令で定める期間まで延長可能。
内閣総理大臣は当該意見表明報告書を公衆の縦覧に供する。
公開買付者は、原則として、公開買付開始公告をした後は、当該公開買付けを撤回することができない(金融商品取引法27条の11本文)。
しかし、以下の場合は、例外的に公開買付者が撤回することができる(金融商品取引法27条の11但書)。
前者の対象会社に生じた「公開買付けの目的の達成に重大な支障となる事情」は以下の事情をいう。ただし1.から3.までに掲げるものについては、軽微なものとして内閣府令で定める基準に該当するものを除く(金融商品取引法施行令14条)。
後者の公開買付者に生じた「政令で定める重要な事情の変更」は以下の事情をいう。
公開買付けの撤回等を行おうとする場合には、公開買付期間の末日までに、公開買付けの撤回等を行う旨とその理由等を公告しなければならない。(公告を期限までに行うことができない場合は、公告に記載すべき内容を公表し、その後直ちに公告を行う)
公告または公表を行った者は、当該公告または公表を行った日に、公告の内容等を記載した書類(公開買付撤回届出書)を内閣総理大臣に提出しなければならない。公開買付撤回届出書の意義は、原則として撤回ができない公開買付けを、例外的に撤回する公開買付者がその理由を明らかにすることで、投資者を保護するとともに証券市場の信頼性を確保することにあるといえる。
報告書の内容は、金融庁の電子開示・提出システムEDINETを通じて電子提出することが義務づけられており、同庁が設置したウェブサーバ経由での縦覧ができるほか、財務局や証券取引所、場合によっては自社のウェブサイトにPDFファイルの形で登録してあることもある。
公開買付けの撤回等は、当該公告をした場合に限り公告を行った時(公表および公告を行った場合は公表を行った時)に発効する。
英国でも強制公開買付制度が採用されており、買収者が単独もしくは共同で被買収者(公開会社)の30%以上の株式を取得する場合や被買収者の議決権の30%~50%を保有する者がさらに単独もしくは共同で株式を取得する場合には発行済株式のすべてを現金で買い取る公開買付けによらなければならない[9][10]。また、買取価格規制がありその買付価格は公開買付けの発表前12か月の間に買付者が当該株式を取得していた場合には、そのいずれの価格も下回ってはならないとされている[9][10]。
英国では米国や日本の買収防衛策の規制のアプローチとは異なり、買収者側には強制公開買付制度や買取価格規制を課しつつ、被買収者側が買収を阻害することを原則として禁止してバランスを取ろうとしている[10]。
米国の証券取引法等では強制公開買付制度が採用されていない[9][10]。ただし、以下の要件が存在する場合にはTOB規制の対象となりうる[9][10]。
買収される会社の経営陣等の賛同を得て実施する企業買収は、友好的買収 (friendly takeover) と言われ、その場合の公開買付けのことを友好的TOB (friendly bid or offer)と呼ぶ。友好的TOBでは、経営陣は株主に対して「適正な買付け価格」だとして、買付けを受け入れることを勧告する。また買収後、旧経営陣が経営に留まることが多い。友好的TOBでは、買付け価格を競り上げる圧力が十分でないので、買付け価格が株式市場の価格より安く、値段の妥当性について、他の株主側に不満が残りやすい。
マネジメント・バイアウト (MBO) においても、公開買付けが利用される。MBOでは経営陣が、一方で買収する会社を設立し、他方で売り手になるので、売り手と買い手の双方の利益を代弁することになる。そのため、売り手の利益を十分に代弁しない利益相反行為を犯す可能性が高いと指摘されており、買付け価格の妥当性が、MBOではしばしば問題になる。
友好的TOBに対して、経営陣の賛同を得ずに行われる企業買収は敵対的企業買収 (hostile takeover) と言われ、その場合の株式公開買付けを、敵対的TOB (hostile bid of offer) と呼ぶ。会社乗っ取りとほぼ同義。
敵対的TOBでは経営陣は買収対抗策を講ずるとともに、株主に対して買付け価格が低いとして買付けに応じないように勧告する。敵対的TOBでは、買付け価格が引き上げられることがしばしば見られる。しかし買付け価格が十分高く設定された場合には、経営陣が抵抗を止め買収に応ずる判断をすることもある。
経営陣の買収対抗策としては、白馬の騎士 (white knights) と呼ばれる第三の友好的な企業による合併や新株引受けにより、買収を避けることがある。また、買収対象とされた企業が、買収しようとする企業を逆に買収すると脅し、買収を思い留まらせようとする戦法もある。これは「パックマン・ディフェンス」と呼ばれる。このほか自社の重要資産を他企業に営業譲渡することで買収する側からみた「買付けする価値」自体を失わしめ買収意欲を削ごうとすることがある[注釈 9]。これを大規模に行うことを「焦土作戦」と呼ぶ。
さまざまな買収対抗策は、アメリカ合衆国で発達したが、イギリスでは公開買付制度そのものを厳格に運用する代わりに、買収対象となった企業の経営者に対抗策を取ることなく中立を保つこと(中立義務)を求める考え方が見られる。たとえば、イギリスでは「シティ・コード」として知られる民間自主規制がある。コードでは、議決権で30%以上を取得しようとする者に対して、ほかのすべての株主に対して、買付けの申し込みをすること(強制申込)、またその対価を現金で支払うことを求めている。これにより買い付ける側は、未取得株式すべてを買い取る現金を用意する必要がある。このことが、安易な買収を抑制すると考えられている。
日本では前述のライブドアによるニッポン放送買収騒動や村上ファンドによる阪神電鉄株取得のように新興企業や投資ファンドによる敵対的TOBへの拒否感が強く、株主からもTOBへの賛同を得られないこともあり、2010年代前半までは敵対的TOBが行われたケースは少なく、成功した事例もごく僅かだった[11]。しかし、2010年代後半になると、新型コロナウイルスによる保有資金の増加やコーポレート・ガバナンスによる株式持ち合い解消の促進、2022年4月に行われた東京証券取引所の市場再編を背景として敵対的TOBを含むM&A事例が増加しており、中には伊藤忠商事や日本製鉄、SBIホールディングスなどの大企業が敵対的TOBを主導したケースもある[11][12]。
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