微量アミン関連受容体

ウィキペディアから

微量アミン関連受容体(びりょうアミンかんれんじゅようたい、: trace amine-associated receptorTAAR、微量アミンレセプター(TA、TAR)と呼ばれることもある)は、2001年に発見されたGタンパク質共役受容体のグループである[1][2]。ヒトには6種類存在する機能的なTAARの1つであるTAAR1英語版は、フェネチルアミンチラミントリプタミン(それぞれフェニルアラニンチロシントリプトファンの代謝産物である)、エフェドリン、そしてアンフェタミンメタンフェタミンメチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)といった合成精神刺激薬などの微量アミン英語版に対する内在性受容体としての役割のため、学術研究や医薬品開発において大きな関心が寄せられている[3][4][5][6][7][8]。2004年、哺乳類のTAAR1は甲状腺ホルモン脱炭酸・脱ヨード化類縁体であるチロナミンの受容体であることも示された[5]。脊椎動物では、TAAR2からTAAR9は揮発性のアミン系の匂い物質に対する嗅覚受容体として機能する[9]

動物のTAAR

さまざまな動物のゲノムに含まれているTAAR遺伝子・偽遺伝子の数を下に示す[10][11]

ヒトのTAAR

ヒトでは6種類のTAAR(TAAR1、TAAR2、TAAR5、TAAR6、TAAR8、TAAR9)が同定され、部分的に特性解析が行われている。下の図は総説や薬理学関連データベースのほか、発現プロファイル、シグナル伝達機構、リガンド、生理学的機能に関する一次資料からの情報をまとめたものである。

さらに見る サブタイプ, 以前の名称 ...
ヒトのTAARの薬理学的・分子生物学的性質
サブタイプ 以前の名称 シグナル伝達 発現プロファイル ヒトにおける既知もしくは推定される機能[note 1] 既知のリガンド 文献
TAAR1英語版 TA1
TAR1
GsGqGIRK
β-アレスチン2英語版
CNS:(広範)脊髄
末梢:β細胞十二指腸白血球その他[note 2]
  CNS:モノアミン/グルタミン酸神経伝達の調節
  CNS:認知過程、気分状態の調節
  末梢:白血球の走化性
  末梢:消化管ホルモン英語版放出と血糖値の調節
  満腹感と体重の調節
  微量アミン(チラミン、フェネチルアミン、N-メチルフェネチルアミン英語版など)
  モノアミン神経伝達物質ドーパミンなど)
  アンフェタミンと一部の構造的アナログ
[3][12]
[14][15]
TAAR2英語版
[note 3]
GPR58 Golf英語版、その他不明な共役Gタンパク質[note 4] CNS:(限定的)[note 5]
末梢: 嗅上皮英語版、腸、心臓精巣、白血球
  末梢:白血球の走化性
  嗅覚:揮発性匂い物質に対する化学受容体[note 6]
[9][12]
[14][15]
[17][18]
TAAR3 GPR57 N/A N/A ヒトでは偽遺伝子 N/A N/A [16][12]
[14]
TAAR4 TA2 N/A N/A ヒトでは偽遺伝子 – N/A N/A [16][12]
[14]
TAAR5英語版 PNR GsGolfGqG12/13 CNS:(限定的)、脊髄
末梢:嗅上皮、腸、精巣、白血球
  嗅覚: 揮発性不快臭に対する化学受容体[note 6]   アゴニスト: トリメチルアミンN,N-ジメチルエチルアミン
  インバースアゴニスト: 3-ヨードチロナミン英語版
[9][12]
[14][20]
[21][22]
[23]
TAAR6英語版 TA4
TAR4
Golf、その他不明な共役Gタンパク質 CNS:
末梢:嗅上皮、腸、精巣、白血球、腎臓
  嗅覚: 揮発性匂い物質に対する化学受容体[note 6]   アゴニスト: プトレシンカダベリン[24] [9][12]
[14][25]
TAAR7 N/A N/A ヒトでは偽遺伝子 – N/A N/A [9][12]
[14]
TAAR8英語版 TA5
GPR102
GolfGi/o CNS:
末梢:嗅上皮、メラノサイト[26]、胃、腸、心臓、精巣、白血球、腎臓、筋肉脾臓
  嗅覚: 揮発性匂い物質に対する化学受容体[note 6]   アゴニスト: プトレシン、カダベリン[24] [9][12]
[14][27]
TAAR9英語版
[note 7]
TA3
TAR3
Golf、その他不明な共役Gタンパク質 CNS:脊髄
末梢:嗅上皮、腸、白血球、下垂体骨格筋、脾臓
  嗅覚: 揮発性匂い物質に対する化学受容体[note 6]   アゴニスト: N-メチルピペリジン(N-methyl piperidine、CAS: 626-67-5[28] [9][12]
[14][29]
Notes
  1. 2017年12月時点では、TAAR2、TAAR5、TAAR6、TAAR8、TAAR9の嗅上皮以外の末梢組織、中枢神経系における機能は明らかにされていない[12]
  2. TAAR1は嗅上皮に発現していない唯一のTAARである[9][13]。したがって、他のTAARのように嗅覚受容体として機能しているわけではない[9][13]
  3. TAAR2はアジア人の10–15%では、上流の終止コドン形成と関係したSNPのため機能的な受容体とはならない[16][12]
  4. TAAR2はGαタンパク質と共発現していることが明らかにされているが、正確なシグナル伝達機構が確立されているわけではない[12][17]
  5. TAAR2の発現は小脳で観察されている[18]
  6. ヒトやその他の動物では、嗅上皮に発現しているTAARは揮発性のアミン系の匂い物質(特定種のフェロモンなどを含む)を検知する嗅覚受容体として機能する[9][14]。これらのTAARはフェロモン受容体の一部として機能していると推定されている[9][14]。ヒト以外の動物での研究に関する総説では、嗅上皮のTAARがアゴニストに対する誘引・忌避行動を媒介している場合があることが指摘されている[9]。この総説では、TAARを介して引き起こされる行動応答が種によって異なる場合があることも指摘されている[9]。一例としてTAAR5は、トリメチルアミンに対するマウスの誘引行動、ラットの忌避行動を媒介している[9]。ヒトでもTAAR5はトリメチルアミンに対する忌避を媒介していると考えられている。トリメチルアミンはヒトTAAR5のアゴニストであり、ヒトの嫌がる魚のような悪臭を有する[9][19]。一方、TAAR5はヒトにおけるトリメチルアミンの嗅覚検知を担う唯一の嗅覚受容体であるわけではない[9][19]。2015年12月時点で公表されている研究では、ヒトTAAR5を介したトリメチルアミンに対する忌避行動が実験的に示されているわけではない[19]
  7. 大部分の人ではTAARは機能的受容体であるが、10–30%の人では上流終止コドン形成を伴う多型による機能喪失が生じている[16][12]
閉じる

臨床的意義

ウロタロント英語版/SEP-363856は、統合失調症に対する第3相臨床試験、パーキンソン病における精神症状に対する初期段階の試験が行われているTAAR1アゴニストである。この薬剤はFDAによる「画期的治療薬」指定を受けている[30][31][32]

出典

関連項目

Loading related searches...

Wikiwand - on

Seamless Wikipedia browsing. On steroids.