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ヤキュリニクス(学名:Jaculinykus)は、モンゴル国の上部白亜系の地層から化石が産出した、アルヴァレスサウルス科に属する絶滅した獣脚類の恐竜の属[1]。2023年に記載され、タイプ種Jaculinykus yaruui(ヤキュリニクス・ヤルウイ)が命名された[1]。アルヴァレスサウルス科の中でも派生的なパルヴィカーソル亜科[注 1]に属しており、また太い第1指と痕跡的な第2指という前肢の構造からアルヴァレスサウルス科特有の手指の特殊化における中間的状態が示唆される[1]。また本属のタイプ標本は鳥類の休息姿勢に類似する姿勢を取っており、鳥類の休眠行動の系統的起源について従来よりも基盤的な段階まで遡ることができる可能性が示唆される[1]。
ヤキュリニクス Jaculinykus | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ホロタイプ標本とその骨格図 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
地質時代 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
後期白亜紀カンパニアン | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Jaculinykus Kubo et al., 2023 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
タイプ種 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Jaculinykus yaruui Kubo et al., 2023 |
ヤキュリニクスの化石はモンゴル科学アカデミー古生物学研究機関による許可の下でのフィールドワークを経て、2016年にモンゴル国ウムヌゴビ県のネメグト・ロカリティで発見された[5]。発見者は同国の古生物学研究機関のOtgonbat Besudeiであった[5]。化石が産出した層準は上部白亜系のうちおそらくカンパニアン階にあたるバルンゴヨット層の上部層であり、またKubo et al. (2023)はこれをマーストリヒチアン階のネメグト層との移行区間 "Big Red" に位置付けている[5]。
ホロタイプ標本 MPC-D 100/209 はほぼ完全で関節した骨格であり、頭蓋・軸骨格・肩帯と前肢・腰帯と後肢といった大まかな部位が一通り揃っている[5]。保存されていない部位としては頭蓋骨の一部(鋤骨・鼻骨・後眼窩骨・上後頭骨)や、頸椎の一部(8個または9個)、後側の胴椎、前側の尾椎の一部(7個)、胸骨、叉骨、右手の第II指第2指骨、右手の末節骨、左腓骨がある[5]。骨格は背腹方向に圧縮を受け、また一部の骨が外側に外れているものの、多くの骨が元の正しい位置に位置しており、かつ全体が3次元的に保存されている[5]。
タイプ種Jaculinykus yaruuiは、久保孝太を筆頭著者とし、久保および小林快次、ツクトバートル・チンゾリッグ、ヒシグジャウ・ツクトバートルによる研究グループが命名した[1]。属名はギリシア神話に登場する小型のドラゴンであるヤクルス("Jaculus")と「鉤爪」を意味する"onykus"に由来し、種小名はモンゴル語で「素早い」を意味する"яаруу"に由来する[5]。
頸椎・胴椎・尾椎において神経弓と椎体が完全に癒合していること、また仙椎同士が癒合していること、加えて近位の足根骨と脛骨が共に骨化していることから、ホロタイプ標本は少なくとも成体に近い個体成長段階にあったと判断される[5]。
Kubo et al. (2023)では、ヤキュリニクスは前上顎骨の外鼻孔が背腹方向に高いこと、頭頂骨の傍矢状稜が内側に湾曲すること、歯骨が細長くほぼ直線状であること、三角筋稜が切痕によって上腕骨頭から隔てられていること、第I中手骨の内側にtabが発達すること、第I指の基節骨が近位背側に弱く発達すること、腓骨顆に対して脛骨の内側顆が頑強であること、距骨の上行突起の基部が鋭く窪むことが標徴形質として挙げられている[5]。またこの他にも、恥骨体と比較して坐骨体が長いこと、大腿骨の膝窩が開放していること、大腿骨のectocondylar tuberが外部へ顕著に突出するという形質状態の組み合わせにより、他のアルヴァレスサウルス科の属種から区別が可能である[5]。
Kubo et al. (2023)は、ヤキュリニクスの前肢の指骨が完全に保存されていながら太い第I指と小型の第II指しか確認できないこと、また第III中手骨が退縮している一方で第II中手骨の遠位端が発達することに触れている[5]。アルヴァレスサウルス科の前肢は非常に短く、退縮した手は太い爪を伴う機能指が1本しか存在しないことで知られるが[2]、機能性を喪失した指が残されている場合がある[5]。ヤキュリニクスの前肢は機能指と別に付随する1本の指を有しており、これは付随する2本の指を有するシュヴウイアと完全に1本の指しか持たないリンヘニクスとの間の中間的状態を示唆するものと考えられている[5]。
系統解析によりヤキュリニクスはパルヴィカーソル亜科に属するとされており、これはパルヴィカーソル亜科のアルヴァレスサウルス類が当時乾燥環境から湿潤環境へ変化する中で適応し、ネメグト盆地で高い多様性を持ったことを示唆する[1]。以下のクラドグラムはKubo et al. (2023)に基づく[5]。
アルヴァレスサウルス類 |
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Kubo et al. (2023)はヤキュリニクスのホロタイプ標本の姿勢が鳥類の休息姿勢と類似することを指摘している[1]。具体的には、標本は頸部で体を包むようにして頭部を体に埋め[1]、後肢と左前肢を体の左右に折り畳み、また尾で後肢を取り巻いている[5]。こうした姿勢は恐竜に多く見られるデスポーズと異なり[5]、現生鳥類が体温調整を目的に行うと見られる休息姿勢と共通する[1]。非鳥類型恐竜が休息姿勢を取った例はメイやシノルニトイデスで既に知られているものの、これらの恐竜は鳥類に近縁なトロオドン科に属する[1][5]。ヤキュリニクスをはじめとするアルヴァレスサウルス類はそれらよりも以前に分岐したグループであり、鳥類と同様の休眠行動は基盤的なマニラプトル類においても成立していた可能性がある[1][5]。
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