YMF262は ヤマハが開発し、1991年10月からサンプル出荷が開始されたFM音源チップである。販売当時のサンプル価格は5500円[1]。このチップはOPL3(FM Operator type-L3) という名称でも呼ばれている。
PC用サウンドボードであるSound Blaster Pro2のために開発され、PC用内蔵音源のデファクトスタンダードとして全世界的に普及した。
後の携帯電話向け音源チップのベースにもなった。
YM3812(OPL2)の上位チップであり、機能的にはほぼOPL2を2個搭載した場合に相当する。これは、Sound Blaster ProにOPL2が2個搭載されていたのを1つにまとめるという要求から開発された経緯による。
ソフトウェア的にもOPL2×2とほぼ同等であるが、OPL2と比較して以下のような相違点がある。
- CSM(複合正弦波)音声合成モードの廃止
- CSM音声合成モードは音源チップのタイマー割り込みとともに使用する前提の機能であったが、OPL2を搭載していたAdLib、Sound Blasterともに割り込みラインを使用しておらず、事実上CSM音声合成モードも使用できなくなっていたため。
- 音声出力のステレオ化
- 実際には音声出力が4chあり、各ボイスごとにどのチャンネルに出力するかを設定できる。SBPro2の実装では、ch1, 2がそれぞれ左、右に割り当てられた。上位機種では、ch3, 4がDSP向け出力に割り当てられているものもある。
- リズム音モードに設定した場合、リズム音は全体で5ch
- OPL2×2個では両方ともリズム音モードに設定することでリズム音を10chとすることができたが、Sound Blaster Proにおいてそのような使用法はステレオ化(SBProでは2個のOPL2が左右片方ずつの定位で固定されていた)の目的でのみ使用されており、ステレオ出力となったOPL3では不要であるため。
- 変調波形の追加(4→8)
- OPL2で新設された波形選択がさらに拡張され、合計8種類の波形をモジュレータ/キャリアのいずれでも使用することができる。
- モジュレータ/キャリア間の位相の改善
- OPL/OPL2では、モジュレータの位相がキャリアに比べて1サンプル分遅れて出力されていたが、OPL3では完全に同期するように修正された。これにより、直列アルゴリズムにおける変調の特性が若干変わっている。
- 4オペレータモードの追加
- 2つの2オペレータボイスを連結して4オペレータボイスとして使用できるモードが追加された。(合計で6ボイスまで)
- 2オペレータ18音
- 2オペレータ15音+リズム5音
- 4オペレータ1音+2オペレータ16音
- 4オペレータ2音+2オペレータ14音
- 4オペレータ3音+2オペレータ12音
- 4オペレータ4音+2オペレータ10音
- 4オペレータ5音+2オペレータ8音
- 4オペレータ6音+2オペレータ6音
- 4オペレータ1音+2オペレータ13音+リズム5音
- 4オペレータ2音+2オペレータ11音+リズム5音
- 4オペレータ3音+2オペレータ9音+リズム5音
- 4オペレータ4音+2オペレータ7音+リズム5音
- 4オペレータ5音+2オペレータ5音+リズム5音
- 4オペレータ6音+2オペレータ3音+リズム5音
1994年7月からサンプル出荷が開始されたOPL3の低電圧・省電力版。出荷当時のサンプル価格は2500円[2]。3.3V動作のほか[2]、スリープ機能が追加された。デジタル出力のフォーマットも一般的なI2Sに改められた。
PC用サウンド機能を集約してワンチップ化したもの。
- YMF297(OPN3) - OPN3-LとOPL3-Lの機能を内包したハイブリッド音源チップ。OPNモードとOPLモードは排他利用となる。NEC PC-98シリーズ向け。
- ESS ESFM - 米ESS Technologyによる互換IP。同社のPC向けサウンドLSIに互換機能として搭載された。
出典
「ヤマハ、マルチメディアPC用LSI」『日本経済新聞』1991年9月28日、静岡版。
「ノートパソコン、音源LSI開発、ヤマハ──省エネ小型化成功。」『日本経済新聞』1994年6月28日、静岡版。
- Heimlich, Richard; Goldben, David M.; Luk, Ivan; Ridge, Peter M. (1994-10) (日本語). SOUND BLASTER オフィシャルブック マルチメディアプログラミング. アスキー書籍編集部 監訳. アスキー出版局. ISBN 4-7561-0472-X