増殖細胞核抗原(ぞうしょくさいぼうかくこうげん、: proliferating cell nuclear antigen、略称: PCNA)は、真核生物細胞においてDNAポリメラーゼδ英語版プロセシビティ英語版因子として作用するDNAクランプであり、DNA複製に必要不可欠である。PCNAはホモ三量体を形成し、DNAを取り囲むことでプロセシビティを高め、DNA複製、DNA修復クロマチンリモデリングエピジェネティクスに関与するタンパク質をリクルートするための足場として機能する[5]

概要 PCNA, PDBに登録されている構造 ...
PCNA
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
PDBのIDコード一覧

4D2G, 1AXC, 1U76, 1U7B, 1UL1, 1VYJ, 1VYM, 1W60, 2ZVK, 2ZVL, 2ZVM, 3P87, 3TBL, 3VKX, 3WGW, 4RJF, 3JA9, 4ZTD, 5IY4, 5E0U, 5E0T, 5E0V

識別子
記号PCNA, ATLD2, proliferating cell nuclear antigen
外部IDOMIM: 176740 MGI: 97503 HomoloGene: 1945 GeneCards: PCNA
遺伝子の位置 (ヒト)
20番染色体 (ヒト)
染色体20番染色体 (ヒト)[1]
20番染色体 (ヒト)
PCNA遺伝子の位置
PCNA遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点5,114,953 bp[1]
終点5,126,626 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
2番染色体 (マウス)
染色体2番染色体 (マウス)[2]
2番染色体 (マウス)
PCNA遺伝子の位置
PCNA遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点132,091,082 bp[2]
終点132,095,234 bp[2]
RNA発現パターン
さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 MutLalpha complex binding
identical protein binding
酵素結合
receptor tyrosine kinase binding
DNA結合
DNA polymerase binding
damaged DNA binding
dinucleotide insertion or deletion binding
血漿タンパク結合
クロマチン結合
histone acetyltransferase binding
estrogen receptor binding
purine-specific mismatch base pair DNA N-glycosylase activity
DNA polymerase processivity factor activity
細胞の構成要素 細胞核
レプリソーム
核質
エキソソーム
複製因子C
中心体
PCNA complex
nuclear replication fork
PCNA-p21 complex
replication fork
核内構造体
クロマチン
生物学的プロセス replication fork processing
translesion synthesis
DNA複製
nucleotide-excision repair, DNA gap filling
protein sumoylation
regulation of DNA replication
transcription-coupled nucleotide-excision repair
positive regulation of deoxyribonuclease activity
nucleotide-excision repair, DNA incision
error-free translesion synthesis
positive regulation of DNA repair
regulation of transcription involved in G1/S transition of mitotic cell cycle
positive regulation of DNA replication
脂質への反応
心臓発生
DNAミスマッチ修復
cellular response to DNA damage stimulus
mitotic telomere maintenance via semi-conservative replication
上皮細胞の分化
response to cadmium ion
細胞増殖
telomere maintenance
error-prone translesion synthesis
cellular response to UV
発情周期
cellular response to hydrogen peroxide
デキサメタゾンへの反応
nucleotide-excision repair, DNA incision, 5'-to lesion
liver regeneration
エストラジオールへの反応
酸化ストレスへの反応
DNA修復
response to L-glutamate
DNA damage response, signal transduction by p53 class mediator resulting in cell cycle arrest
DNA ligation
leading strand elongation
protein ubiquitination
telomere maintenance via semi-conservative replication
viral process
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_182649
NM_002592

NM_011045

RefSeq
(タンパク質)

NP_002583
NP_872590

NP_035175

場所
(UCSC)
Chr 20: 5.11 – 5.13 MbChr 20: 132.09 – 132.1 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス
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PolD-PCNAプロセッシブ複合体のCryo-EM構造

多くのタンパク質は、PIP(PCNA-interacting peptide)ボックス[6]とAPIM(AlkB homologue 2 PCNA interacting motif)[7]という2つのPCNA相互作用モチーフを介してPCNAと相互作用する。PIPボックスを介してPCNAに結合するタンパク質が主にDNA複製に関与しているのに対し、APIMを介してPCNAに結合するタンパク質は主に遺伝毒性ストレスとの関係で重要である[8]

機能

PCNA遺伝子にコードされるPCNAタンパク質は内に存在し、DNAポリメラーゼδ(Pol δ)のコファクターである。PCNAはホモ三量体の形で機能し、DNA複製時にリーディング鎖合成のプロセシビティの向上を補助する。また、DNA損傷に応答してPCNAはユビキチン化され、RAD6依存的DNA修復経路に関与する。この遺伝子には同一のタンパク質をコードする2種類の転写産物が見つかっている。この遺伝子の偽遺伝子4番染色体英語版X染色体に存在する[9]

DNA合成時における核内での発現

PCNAはもともと、細胞周期のDNA合成期(S期)に細胞核で発現している抗原として同定された[10]。タンパク質の配列の一部が解析され、それをもとにcDNAクローンが単離された[11]。PCNAはPol δのDNAへの保持を補助する。PCNAは複製因子C英語版(RFC)の作用によってDNAへのクランプを形成する[12][13]。RFCはAAA+英語版ファミリーのATPアーゼのヘテロ五量体型のメンバーである。PCNAの発現は、転写因子E2Fを含む複合体の制御下にある[14][15]

DNA修復における役割

DNAポリメラーゼδやε英語版はDNA修復時に除去された損傷DNA鎖の再合成に関与しているため、PCNAはDNA合成とDNA修復の双方に重要である[16][17]

PCNAは複製後修復英語版(PRR)と呼ばれるDNA損傷トレランス経路にも関与している[18]。PRRには2つのサブ経路が存在し、損傷乗り越え(translesion)経路は損傷したDNA塩基を活性部位に取り込むことができる特殊なDNAポリメラーゼによって行われ(通常の複製ポリメラーゼは停止してしまう)、鋳型乗り換え(template switch)経路では相同組換え装置のリクルートによって損傷部位の迂回が行われると考えられている。PCNAはこれらの経路の活性化や、どちらの経路が利用されるかの選択に重要である。PCNAはユビキチン化による翻訳後修飾が行われる[19]。PCNAのリジン164番のモノユビキチン化は損傷乗り越え経路を活性化する。このモノユビキチンに対して非典型的なリジン63番連結型のポリユビキチン化が行われると、鋳型乗り換え経路が活性化されると考えられている[19]。さらに、PCNAのリジン164番(と程度は低いもののリジン127番)のSUMO化は鋳型乗り換え経路を阻害する[19]。SUMO化されたPCNAはSrs2と呼ばれるDNAヘリカーゼをリクルートし[20]、相同組換えの開始に重要なRad51ヌクレオタンパク質フィラメントを破壊することでこの拮抗的な作用を示す。

相互作用

PCNAには、DNAポリメラーゼクランプローダー英語版フラップエンドヌクレアーゼ英語版DNAリガーゼトポイソメラーゼライセンス化因子英語版E3ユビキチンリガーゼE2 SUMO結合酵素、ヘリカーゼATPアーゼ)、ミスマッチ修復酵素、塩基除去修復酵素、ヌクレオチド除去修復酵素、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ英語版、ヒストンシャペロン、クロマチンリモデリング因子、ヒストンアセチル化酵素ヒストン脱アセチル化酵素DNAメチルトランスフェラーゼ姉妹染色分体接着因子、プロテインキナーゼ細胞周期調節因子、アポトーシス関連因子など、多くのタンパク質が結合する[21]

より具体的には、次の挙げる因子との相互作用が示されている。

利用

PCNAに対する抗体またはKi-67と呼ばれるモノクローナル抗体が、星細胞腫英語版などさまざまな新生物のグレーディング英語版に利用される。これらは診断や予後の判定に利用できる。抗体標識によるPCNAの核内分布のイメージングは、細胞周期のS期の初期、中期、後期を区別するために用いることができる[89]。しかしながら、抗体を用いる際の重要な制限として、細胞を固定する必要があるためにアーティファクトが生じる可能性がある。

一方、生細胞における複製と修復のダイナミクスの研究は、PCNAと蛍光タンパク質などとの融合タンパク質の導入によって行われる場合がある。また、トランスフェクションの必要性やトランスフェクションが困難であったり細胞の寿命が短いといった問題を回避するために、細胞透過性ペプチドによる複製・修復マーカーが利用される場合がある。これらのペプチドは、生きた組織においてin situで使用でき、複製中の細胞と修復中の細胞を区別することもできるという利点がある[90]

PCNAは、がん治療における治療標的としての可能性がある[91]

出典

関連文献

関連項目

外部リンク

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