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日本が開発した宇宙ロケット ウィキペディアから
H-IIBロケット(エイチツービーロケット 、エイチにビーロケット、H2Bロケット)は、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が共同開発し三菱重工が製造及び打ち上げを行った[1]、宇宙ステーション補給機打ち上げ用液体燃料ロケットで使い捨て型のローンチ・ヴィークル。日本の衛星打ち上げの自律性をになうロケットとして基幹ロケットに位置づけられる[7]。H-IIAロケットの設備と技術を使い、H-IIA以上の能力を持つロケットとして日本で初めて官民が対等な関係で開発したロケットで、第1段エンジンを2基束ねた日本初のクラスターロケットでもある。2009年9月から2020年5月までに9機全ての打ち上げを成功させ、打ち上げ成功率100%を達成し運用を終了した。
H-IIB | |
---|---|
H-IIB 8号機 | |
基本データ | |
運用国 | 日本 |
開発者 | JAXA、三菱重工業 |
運用機関 |
JAXA(3号機まで) 三菱重工業(4号機から[1]) |
使用期間 | 2009年 - 2020年 |
射場 |
種子島宇宙センター 大崎射場吉信第2射点 |
打ち上げ数 | 9回(成功9回) |
開発費用 | 271億円[2] |
打ち上げ費用 |
147億円(TF1)[3][2] 118億円(予定)[2] |
姉妹型 | H-IIAロケット |
発展型 | H3ロケット |
公式ページ | JAXA - H-IIBロケット |
物理的特徴 | |
段数 | 2段[4] |
ブースター | 4基[4] |
総質量 | 531 t[4] |
全長 | 56.6 m[4] |
直径 | 5.2 m(第1段コア)[4] |
軌道投入能力 | |
低軌道 |
19,000 kg[5] 300 km / 30.4度 |
静止移行軌道 |
最大8,000 kg[2] 250 km x 36,226 km / 28.5度 |
ロングコースト 静止移行軌道 |
5,500 kg[6] ⊿V=1500m/s |
HTV軌道 |
16,500 kg[4](最大16,950kg[2]) 200 km x 300 km / 51.7度 |
日本は1994年の予備設計、1995年の概念設計を経て、1997年(平成9年)から国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給を行なう宇宙ステーション補給機(HTV、H-II Transfer Vehicle)の開発を進めてきた[8]。HTVの質量は当初15トンと設定され、H-IIAロケット標準型では打ち上げることができないため、1996年(平成8年)から打ち上げ能力がLEOに17t、GTOに7.5tのH-IIAロケット増強型(H2A212)の開発が進められていた[9][10]。
H-IIA増強型(H2A212)は、H-IIA標準型とほぼ同じ第1段にLE-7Aを2基装備した液体ロケットブースタ(LRB)を1基追加する計画[10]であったが、1999年(平成11年)のH-IIロケット8号機の失敗を受けて、H-IIAの開発は標準型を最優先にするため、一部の構造系及び電気系の開発を完了した時点で開発が凍結された[9]。
増強型の見直しは2002年(平成14年)から行われ[11]、HTVの質量が当初の15tから16.5tへと予定よりも若干増加していること[10]、世界の輸送系の費用が低下してきていることを踏まえて、増強型の以下のような要因を改善する検討が官民共同で実施された。
この結果、2003年8月に宇宙開発委員会において、従来の計画の代替として、H-IIA標準型の要素を流用しつつも以下のような新設計の第1段を採用する新たな能力向上案、H-IIAロケット能力向上型(H-IIA+)が決定された[10][13]。
こうしてH-IIAロケット能力向上型(H-IIA+)は2003年(平成15年)に「開発研究」が開始され[注 1][14]、2005年(平成17年)にH-IIBロケットとなり「開発」フェーズへと移行した。これと同時にロケット開発における新たな官民の関係が確認され、H-IIBロケットは日本で初めて宇宙機関と民間企業が対等な形で開発を進めるロケットとなった。予定打ち上げ能力は低軌道(LEO)へ19,000 kg、HTV軌道(HTVが自力でISSへのランデブー飛行に移る前に、ロケットにより投入される低高度の楕円軌道)へ16,500 kg、静止トランスファ軌道(GTO)へ最大8,000 kgとされた。また、第1段機体を直径5m級に拡張するにあたって、5m案、5.2m案、5.4m案の3案が候補に上がり比較検討した結果、5.2m案が採用されている[15]。
その後、打ち上げ能力の要求値であるHTV軌道16.5トンに対して余裕を持たせた16.7トンを目標値に開発が行われ、プロジェクト完了後の事後評価において、試験機の第2段推進薬の消費率が事前の予測通りであり、HTV軌道16.5トンを0.45トン上回る16.95トンの打ち上げ能力を持っていることが確認されている[2]。
H-IIBロケットではH-IIAロケットと同じくSRB-Aが用いられているため、SRB-Aを4本使用したH-IIAロケット11号機の打ち上げをもって、SRB-A4本分の推力を受けるH-IIBロケット本体の強度の設計妥当性の確認が行われた[16]。
従来のロケット開発では、開発費全額が政府予算で賄われ、運用開始後はJAXAがロケット購入費用として製造費分を三菱重工に支払ってきた。一方、H-IIBロケットでは、開発費をJAXAと三菱重工がそれぞれ負担し、運用開始後は開発費の三菱重工負担分をH-IIBの販売価格に上乗せして回収する手法が採られた(開発費における三菱重工負担分は設備投資等の初期投資分である[3])。2003年8月時点では、JAXAが機体開発に108億円、設備開発に42億円を負担し、三菱重工が負担する50億円の計200億円を予定していた。その後、2006年5月時点ではJAXAが機体開発に136億円、設備開発に51億円を負担し、三菱重工が負担する76億円の計263億円になり、最終的にプロジェクト完了後の2010年9月21日時点では、実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)の回数増加や油圧アクチュエータの設計変更などによる8億円の増加分も含め[17]、JAXAが機体開発に144億円、設備開発に51億円を負担し、三菱重工が負担する76億円の計271億円になり、試験機1機147億円[2]と合わせて合計418億円のプロジェクトとされている。[2]
試験機を除いた開発費は、H-IIBロケットの271億円にH-IIAロケットの1,532億円やH-IIの2,700億円を加えても4,503億円と、諸外国のロケット開発費と比較しても低く抑えられている[2]。H-IIBロケットの開発費の低さについて、H-IIAロケットプロジェクトマネージャであった遠藤守が「インクレディブル(信じがたい)というより、クレージー(あり得ない)なものだった」と語っている[16]。
JAXAと三菱重工の合同チームによって、開発計画とシステム仕様が策定されている。主要な開発担当企業は以下の通り。[2][18]
各段 | 第1段 | 固体ロケットブースタ | 第2段 | 衛星フェアリング |
---|---|---|---|---|
全長 | 38.2 m | 15.1 m[20] | 10.7 m | 15.0 m (5S-H) 16.0 m (4/4D-LC) |
外径 | 5.2 m | 2.5 m | 4.0 m | 5.1 m (5S-H) 4.0 m (4/4D-LC) |
各段質量 | 202 t (段間部含む) |
306 t (4本分) |
20 t | 3.2 t (5S-H) (アダプタ、分離部含む) |
エンジン(モータ) | LE-7A (再生冷却長ノズル) |
SRB-A3 | LE-5B-2 | N/A |
推進薬重量 | 177.8 t | 263.8 t (4本分) |
16.6 t | |
推進薬種類 | LOX/LH2 | ポリブタジエン系 HTPBコンポジット |
LOX/LH2 | |
真空中推力 | 2,196 kN(224 tf) (エンジン2基) |
9,220 kN(940.8 tf) (最大4本分) |
137 kN(14 tf) | |
真空中比推力 | 440.0 sec | 283.6 sec | 448.0 sec | |
燃焼時間 | 352 sec | 114 sec (長秒時燃焼モーター[20]) |
499 sec | |
姿勢制御方式 | ジンバル | 駆動ノズル | ジンバル ガスジェット装置 | |
主要搭載電子装置 | 誘導制御系機器 指令破壊システム レートジャイロパッケージ 横加速度計 VHFテレメトリ 電力 |
誘導制御系機器 慣性計測装置 レーダトランスポンダ(Cバンドトラッキング) テレメータ送信機(UHFテレメトリ) 指令破壊装置 (指令破壊システム、指令破壊コマンド受信機) 電力 |
H-IIBロケットの部品総点数は約100万点である[21]。H-IIAと同じく、材質は機体外壁と推進剤タンクとフェアリングがアルミニウム合金[10][22]、SRB-AがCFRPであり[23]、強度を確保したまま機体を軽量化するためにアルミ合金製の推進剤タンクの内面が格子状に抉られたアイソグリッド構造をしている[10]。推進剤の温度は-250度℃となっており、この温度を維持するために燃料タンクの周りに断熱材(耐久温度は約120℃)が塗装されている[24]。断熱材はスプレーにより約20mmの厚さに塗装されており、断熱材は元は白色であるが紫外線を浴びると橙色に変色する[24]。
燃料、火薬類
第1段機体
第2段機体
固体ロケットブースタ(SRB-A3)
衛星フェアリング
アビオニクス
射点設備
全て種子島宇宙センター大崎射場吉信第2射点(LP-2)から打上げ。
機体番号 | 画像 | 打上げ日時 (日本時間) |
成否 | 積荷 | 投入軌道 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
試験機 (1号機) |
2009年9月11日 2時1分46秒[40] |
成功 | 宇宙ステーション補給機 HTV技術実証機 |
HTV軌道 | 計画書[41]の予定通り延期無く打上げ。 HTV軌道に16.95トンの打ち上げ能力確認[42]。 | |
2号機 | 2011年1月22日 14時37分57秒[43] |
成功 | 宇宙ステーション補給機 「こうのとり」2号機(HTV2) |
HTV軌道 | 1月20日[44]の予定が天候不良により延期[45]。 ミッション終了後に第2段の制御落下実験を行った。 | |
3号機 | 2012年7月21日 11時6分18秒[46] |
成功 | 宇宙ステーション補給機 「こうのとり」3号機(HTV3) |
HTV軌道 | 3号機から新型アビオニクス(参照)を初適用し、極低温点検は実施しない[47]。 打ち上げは計画書[48]の予定通り延期無く打上げ。 ミッション終了後に第2段の制御落下実験を行った。 こうのとり3号機の与圧部には、きぼうから軌道へ投入する(参照)5機のCubeSat[注 3]を搭載。 | |
4号機 | 2013年8月4日 4時48分46秒[50] |
成功 | 宇宙ステーション補給機 「こうのとり」4号機(HTV4) |
HTV軌道 | 4号機からH-IIBの打ち上げ業務が三菱重工に移管された。 打ち上げは計画書[51]の予定通り延期無く打上げ。 こうのとり4号機の与圧部には、きぼうから軌道へ投入する4機のCubeSatを搭載。 | |
5号機 | 2015年8月19日 20時50分49秒[52] |
成功 | 宇宙ステーション補給機 「こうのとり」5号機(HTV5) |
HTV軌道 | 8月16日の打ち上げ予定[53]が天候不良により延期、17日[54]も天候不良により[55]延期。 こうのとり5号機の与圧部には、きぼうから軌道へ投入する18機のCubeSatを搭載。 また、米露の補給船打上げ失敗が相次いだことから、NASAの要請により緊急物資など約210キログラムを「レイト・アクセス」の能力を活用して追加搭載した[56]。 | |
6号機 | 2016年12月9日 22時26分47秒[57] |
成功 | 宇宙ステーション補給機 「こうのとり」6号機(HTV6) |
HTV軌道 | 打ち上げは計画書の予定通り延期無く打上げ。 こうのとり6号機の与圧部には、きぼうから軌道へ投入する7機のCubeSatを搭載。 | |
7号機 | 2018年9月23日 2時52分27秒[58] |
成功 | 宇宙ステーション補給機 「こうのとり」7号機(HTV7) |
HTV軌道 | 9月11日の打ち上げ予定がグアム局の天候不良により延期[59]、14日[60]は種子島の天候不良により延期[61]、15日はロケットの推進系統に確認を必要とする事象が生じたため打ち上げを中止[62]、22日は種子島の天候不良により延期[63]。 | |
8号機 | 2019年9月25日 1時5分5秒[64] |
成功 | 宇宙ステーション補給機 「こうのとり」8号機(HTV8) |
HTV軌道 | 9月11日の打ち上げ予定が発射台の火災により中止、24日は打ち上げ後の第2段機体がソユーズ宇宙船に接近するおそれが判明したため延期[65]。 →詳細は「H-IIBロケット8号機」を参照 | |
9号機 | 2020年5月21日 2時31分0秒[66] |
成功 | 宇宙ステーション補給機 「こうのとり」9号機(HTV9) |
HTV軌道 | 新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、見学者の来島自粛が呼びかけられ、南種子町が管理する全ての打ち上げ見学場が閉鎖された。 |
H-IIBはHTVだけでなく静止衛星の打ち上げも想定していた。静止トランスファ軌道(GTO)への投入能力は8 tで、商業打ち上げで大きなシェアを持つアリアン5に近い能力である。アリアン5ECA型の静止トランスファ軌道へのペイロードは10 tで、2機の静止衛星を相乗りで搭載して打ち上げることが多く、H-IIBも4/4D-LC型フェアリングを使用して静止衛星を2機搭載することが想定されていた。
H-IIA202型を2機打ち上げる際の費用は合計で170億円だが、GTO投入能力は合計8.2 tでH-IIB1機とほぼ等しい。一方、H-IIB1機の予定打ち上げ費用は110億円とされており、H-IIB1機で2機の静止衛星を相乗りで打ち上げれば費用が3割から4割減となる。H-IIB3号機以降は極低温点検が省略されたことで費用が7億円削減されて[67]、4号機からは打ち上げが三菱重工業に移管され商業打ち上げロケットの選択肢に加わることから[68]、価格競争力の強化が期待されていた。一方、アリアン5が衛星2機の相乗り打ち上げを円滑に行えるのは多数の受注残を抱えているためであり、衛星打ち上げの受注数が少なければ衛星側の日程調整が困難になると予想されていた。
H-IIBの展示モデルは、2011年11月6日から名古屋市科学館に屋外展示されている。この機体は、構造試験に使われた試験用の機体で、第1段エンジン部、第1段液体水素タンク、第1段中央部、段間アダプター、フェアリングが試験に使われた実機で、それ以外は展示用に製作したモデルとなっている[78]。
2010年4月7日に開催された第39回日本産業技術大賞において、「HTV/H-IIBロケットの開発」として、H-IIBロケットとHTVの開発に携わったJAXAと、三菱重工業、三菱電機、IHIエアロスペース、有人宇宙システム、宇宙技術開発、NEC、川崎重工業、IHI、日本航空電子工業、三菱プレシジョン、三菱スペース・ソフトウエアの11社が、次席の文部科学大臣賞を団体で受賞している[2][79][80][81]。
H-IIBロケットは2020年5月21日の9号機打ち上げをもって退役した[82]。後継はH3ロケットである[83]。
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