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FOXO1(forkhead box protein O1)またはFKHR(forkhead in rhabdomyosarcoma)は、ヒトではFOXO1遺伝子にコードされるタンパク質である[5]。FOXO1はインスリンシグナルによる糖新生と解糖系の調節に重要な役割を果たす転写因子であり、また脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化(アディポジェネシス)の決定に中心的な役割を果たす[6]。主に複数の残基へのリン酸化によって調節されており、その転写活性はリン酸化状態に依存している[7][8]。
FOXO1はアディポジェネシスを負に調節する[9]。現在のところ、その正確な機構は完全には理解されていない。現在受け入れられているモデルでは、FOXO1はPPARG遺伝子のプロモーター部位に結合して転写を阻害することでアディポジェネシスを負に調節する。PPARGレベルの上昇はアディポジェネシスの開始に必要であるため、FOXO1が転写を阻害することでアディポジェネシスの開始が阻害される。インスリン刺激時にはFOXO1は核から除去され、PPARGの転写を防いでアディポジェネシスを阻害することができなくなる[10]。一方で、FOXO1とPPARGプロモーターの間の相互作用を媒介する他の因子が存在すること、またアディポジェネシスの阻害は完全にFOXO1によるPPARG転写阻害に依存しているわけではないこと示唆する証拠も得られている[11]。アディポジェネシスの阻害は、主に活性化したFOXO1が下流の未知の標的の活性化を介して細胞をG0/G1期で停止させるためであり、その下流標的の候補としてはSOD2が考えられている[12]。
FOXO1は転写因子のフォークヘッドファミリーに属し、このファミリーのタンパク質はフォークヘッドドメインの存在によって特徴づけられる。このタンパク質は筋原性細胞の成長と分化にも関与している可能性がある[13]。FOXO1はヒトの胚性幹細胞の多能性の維持にも必要不可欠である。この機能はFOXO1によるOCT4、SOX2遺伝子の直接的な制御によるものであり、FOXO1はそれぞれのプロモーターに結合して活性化を行う[14]。肝細胞では、FOXO1はホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼやグルコース-6-ホスファターゼ(メトホルミン/AMPK/SHP経路を介して遮断される酵素)の発現を増加させるようである。この転写因子の遮断は糖尿病の新たな治療法となる可能性がある[15]。膵臓α細胞では、FOXO1はプレプログルカゴンの発現調節に重要である[16]。膵臓β細胞では、FOXO1はβ細胞量に対するGLP-1の作用を媒介する[17]。
血糖値が高い場合、膵臓はインスリンを血中へ放出する。インスリンはPI3Kの活性化を引き起こし、PI3KはAktをリン酸化する。AktはFOXO1をリン酸化し、核からの除去を引き起こす[18][19]。その後、リン酸化されたFOXO1はユビキチン化され、プロテアソームによって分解される[20]。FOXO1のリン酸化は不可逆的であり、グルコース代謝と肝臓でのグルコース産生に対するインスリンの阻害効果を延長する。FOXO1のリン酸化によってグルコース-6-ホスファターゼの転写は低下し、その結果、糖新生とグリコーゲン分解の速度は低下する[21]。
FOXO1はグルコース-6-ホスファターゼの他に、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼの転写も活性化する。この酵素は糖新生に必要である[22]。
FOXO1の活性はCBPによって誘導される、 Lys242、Lys245、Lys262に対するアセチル化によっても調節されている[23]。これらのリジン残基はDNA結合ドメインに位置しており、アセチル化によってFOXO1-DNA複合体の安定性が低下し、FOXO1のグルコース-6-ホスファターゼのプロモーターとの相互作用が阻害される。さらに、このアセチル化はAktによるSer253のリン酸化率を増加させる。Ser253のアラニンへの変異によって、FOXO1は恒常的に活性化状態となる。SIRT1はこのアセチル化を除去するが、SIRT1がFOXO1を脱アセチル化する正確な機構は研究中である。アセチル化は、FOXO1の転写活性を緩和することで、インスリン/PI3K経路とは独立した新たなレベルでの代謝制御を行うと考えられている[24]。
FOXO1はAKTによってリン酸化されて阻害されるため、アポトーシスに重要な役割を果たしている可能性がある[25]。ヒトLNCaP前立腺がん細胞では、FOXO1の過剰発現はアポトーシスを引き起こす[25]。また、FOXO1はTRAILを調節する。ヒト前立腺がん細胞株LAPC4でFOXO1をアデノウイルスを用いて過剰発現した場合、TRAILはFOXO1誘発性のアポトーシスを引き起こす[25]。FOXO1はFasリガンドの転写をアップレギュレーションすることでも、アポトーシスによる細胞死をもたらす[25]。さらに、FOXO1はBcl-2ファミリーのメンバーであるBimをトランス活性化し、Bimはミトコンドリアのアポトーシス経路に関与してアポトーシスを促進する[25]。FOXO1がsiRNAによってサイレンシングされた場合、p53欠損細胞と機能細胞の双方でDNA損傷による細胞死が減少することが明らかにされている[25]。2型糖尿病の膵臓では、通常インスリンを産生しているβ細胞がアポトーシスを起こすため、インスリン産生が大きく低下する。β細胞の脂肪酸はFOXO1を活性化し、β細胞のアポトーシスをもたらす[26]。
FOXO1の活性化は細胞周期の進行の調節に関与している。サイクリン依存性キナーゼ阻害因子であるp27KIP1の転写や半減期は、FOXO1が活性化されている場合に増加する。ブタの顆粒膜細胞では、FOXO1はp27KIP1の核局在を調節し、細胞周期の進行に影響を与えることが見いだされている。さらに哺乳類では、FOXO1を介した細胞周期の停止はサイクリンD1とサイクリンD2の抑制と関連付けられている。ヒトのFOXO1はサイクリンD1のプロモーター領域に結合することがChIPアッセイによって示されている。典型的なフォークヘッド転写因子応答エレメントに結合してp27KIP1の発現を誘導することができないヒトFOXO1のH215R変異体も、サイクリンD1とサイクリンD2のプロモーター活性を抑制することでG1期での細胞周期の停止を促進することができる。このように、FOXO1の活性化は遺伝子の転写の促進や抑制を通じて細胞周期をG1期で停止させる[25]。
非リン酸化状態のFOXO1は核に局在し、そこでグルコース-6-ホスファターゼのプロモーターに位置するインスリン応答配列に結合して転写率を増加させる。FOXO1は、グルコース-6-ホスファターゼの転写の増加を通して、間接的に肝臓のグルコース産生速度を増加させる[22]。しかし、AktによってThr24、Ser256、Ser319がリン酸化されると、FOXO1は核から除去され、その後ユビキチン化されて分解される。AktによるFOXO1のリン酸化はグルコース-6-ホスファターゼの転写の減少を介して肝臓のグルコース産生を低下させる。
FOXO1の活性は、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化による調節が行われる[27]。
FOXO1のリン酸化はPI3K/AKT経路の活性化によるものである[27]。また、SGK1もFOXO1をリン酸化して不活性化することができる[25]。FOXO1はAKT/SGK1によるリン酸化によって核から細胞質へ移行し、不活性化される[27]。FOXO1はAKT/SGK1によってThr24、Ser256、Ser319の3か所が直接リン酸化される[28]。さらに、AKT/SGK1によるSer256のリン酸化はDNA結合ドメインの電荷を正電荷から負電荷へ変化させるため、FOXO1はDNAとの相互作用を喪失する[27]。
インスリンシグナル伝達カスケードのIRS1とIRS2もAKTのリン酸化を介してFOXO1を調節する[27]。AKTはFOXO1をリン酸化して細胞質へ蓄積させる[27]。成長因子によって活性化されるプロテインキナーゼであるカゼインキナーゼ1もFOXO1をリン酸化して細胞質へ移行させる[27]。
FOXO1はインスリンによる転写と代謝の制御を関連付ける因子であるため、2型糖尿病の遺伝的制御の標的となる可能性がある。インスリン抵抗性マウスモデルでは、インスリン感受性の喪失のために肝臓でのグルコース産生が増加しており、通常のマウスと比較して肝臓での糖新生とグリコーゲン分解が加速しているが、これはおそらくFoxo1が調節を受けないためである。同じ実験をFoxo1ハプロ不全型マウスで行った場合、インスリン感受性は部分的に回復し、肝臓でのグルコース産生は低下する[29]。同様に、高脂肪食で飼育されたマウスでは、骨格筋と肝細胞でインスリン抵抗性の増加がみられる。しかし、Foxo1ハプロ不全型マウスを同じ高脂肪食で飼育した場合、骨格筋と肝細胞の双方で顕著なインスリン抵抗性の低下がみられる。この効果は一般的に処方される抗糖尿病薬であるロシグリタゾンを同時に投与することで大幅に増大する[30]。これらの結果は、2型糖尿病におけるインスリン脱感作の緩和に向けた、遺伝子治療に基づく新たなアプローチの可能性を示している。
糖尿病(1型と2型の双方)においては、腎臓での糖新生が通常時よりも血糖値に大きく寄与している[31]。インスリンによるFOXO1の抑制を高めることで、肝臓と腎臓の双方での糖新生を低下させることができる[31]。
高脂肪食で飼育されたマウスでは、Foxo1とNotch-1のハプロ不全の組み合わせによって、Foxo1のハプロ不全単独の場合よりもより効果的にインスリン感受性が回復する[32]。
成体組織から単離された腸管幹細胞から作り出された腸オルガノイドでは、FOXO1の阻害によってインスリン産生細胞を作り出すことができる[33]。
FOXO1は次に挙げる因子と相互作用することが示されている。
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