FOXO1

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FOXO1

FOXO1(forkhead box protein O1)またはFKHR(forkhead in rhabdomyosarcoma)は、ヒトではFOXO1遺伝子にコードされるタンパク質である[5]。FOXO1はインスリンシグナルによる糖新生解糖系の調節に重要な役割を果たす転写因子であり、また脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化アディポジェネシス英語版)の決定に中心的な役割を果たす[6]。主に複数の残基へのリン酸化によって調節されており、その転写活性はリン酸化状態に依存している[7][8]

概要 PDBに登録されている構造, PDB ...
FOXO1
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
PDBのIDコード一覧

3CO6, 3CO7, 3COA, 4LG0

識別子
記号FOXO1, FKH1, FKHR, FOXO1A, forkhead box O1
外部IDOMIM: 136533 MGI: 1890077 HomoloGene: 1527 GeneCards: FOXO1
遺伝子の位置 (ヒト)
13番染色体 (ヒト)
染色体13番染色体 (ヒト)[1]
13番染色体 (ヒト)
FOXO1遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点40,555,667 bp[1]
終点40,666,641 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
3番染色体 (マウス)
染色体3番染色体 (マウス)[2]
3番染色体 (マウス)
FOXO1遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点52,175,757 bp[2]
終点52,260,642 bp[2]
RNA発現パターン


さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 sequence-specific DNA binding
DNA結合
beta-catenin binding
DNA-binding transcription factor activity
転写因子結合
クロマチン結合
DNA-binding transcription repressor activity, RNA polymerase II-specific
血漿タンパク結合
protein phosphatase 2A binding
ubiquitin protein ligase binding
DNA-binding transcription factor activity, RNA polymerase II-specific
transcription coactivator binding
細胞の構成要素 細胞質
細胞質基質
核質
ミトコンドリア
細胞核
生物学的プロセス insulin receptor signaling pathway
negative regulation of fat cell differentiation
regulation of transcription, DNA-templated
positive regulation of protein catabolic process
glucose homeostasis
positive regulation of autophagy
cellular glucose homeostasis
cellular response to hyperoxia
regulation of transcription by RNA polymerase II
cellular response to starvation
negative regulation of apoptotic process
negative regulation of transcription by RNA polymerase II
regulation of reactive oxygen species metabolic process
transcription, DNA-templated
regulation of neural precursor cell proliferation
デキサメタゾン刺激に対する細胞応答
cellular response to DNA damage stimulus
neuronal stem cell population maintenance
オートファジー
positive regulation of transcription, DNA-templated
response to insulin
血管発生
cellular response to cold
response to fluoride
regulation of cell population proliferation
cellular response to insulin stimulus
positive regulation of apoptotic process
negative regulation of stress-activated MAPK cascade
cellular response to oxidative stress
enamel mineralization
cellular response to nitric oxide
positive regulation of gluconeogenesis
temperature homeostasis
negative regulation of transcription, DNA-templated
脂肪細胞の分化
negative regulation of canonical Wnt signaling pathway
膵内分泌発生
protein acetylation
positive regulation of transcription by RNA polymerase II
cellular response to hydrogen peroxide
アポトーシス
解剖学的構造の形態形成
細胞分化
negative regulation of cardiac muscle hypertrophy in response to stress
サイトカイン媒介シグナル伝達経路
energy homeostasis
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_002015

NM_019739

RefSeq
(タンパク質)

NP_002006

NP_062713

場所
(UCSC)
Chr 13: 40.56 – 40.67 MbChr 13: 52.18 – 52.26 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス
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機能

要約
視点

アディポジェネシス

Thumb
アディポジェネシスのFOXO1依存的阻害

FOXO1はアディポジェネシスを負に調節する[9]。現在のところ、その正確な機構は完全には理解されていない。現在受け入れられているモデルでは、FOXO1はPPARG遺伝子のプロモーター部位に結合して転写を阻害することでアディポジェネシスを負に調節する。PPARGレベルの上昇はアディポジェネシスの開始に必要であるため、FOXO1が転写を阻害することでアディポジェネシスの開始が阻害される。インスリン刺激時にはFOXO1はから除去され、PPARGの転写を防いでアディポジェネシスを阻害することができなくなる[10]。一方で、FOXO1とPPARGプロモーターの間の相互作用を媒介する他の因子が存在すること、またアディポジェネシスの阻害は完全にFOXO1によるPPARG転写阻害に依存しているわけではないこと示唆する証拠も得られている[11]。アディポジェネシスの阻害は、主に活性化したFOXO1が下流の未知の標的の活性化を介して細胞をG0/G1で停止させるためであり、その下流標的の候補としてはSOD2が考えられている[12]

FOXO1は転写因子のフォークヘッドファミリーに属し、このファミリーのタンパク質はフォークヘッドドメイン英語版の存在によって特徴づけられる。このタンパク質は筋原性細胞の成長と分化にも関与している可能性がある[13]。FOXO1はヒトの胚性幹細胞多能性の維持にも必要不可欠である。この機能はFOXO1によるOCT4SOX2遺伝子の直接的な制御によるものであり、FOXO1はそれぞれのプロモーターに結合して活性化を行う[14]肝細胞では、FOXO1はホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼグルコース-6-ホスファターゼメトホルミン/AMPK/SHP英語版経路を介して遮断される酵素)の発現を増加させるようである。この転写因子の遮断は糖尿病の新たな治療法となる可能性がある[15]。膵臓α細胞では、FOXO1はプレプログルカゴンの発現調節に重要である[16]。膵臓β細胞では、FOXO1はβ細胞量に対するGLP-1の作用を媒介する[17]

糖新生と解糖系

Thumb
インスリンによって調節されるFOXO1の核からの除去と、グルコース-6-ホスファターゼの転写への影響

血糖値が高い場合、膵臓はインスリンを血中へ放出する。インスリンはPI3Kの活性化を引き起こし、PI3KはAktをリン酸化する。AktはFOXO1をリン酸化し、核からの除去を引き起こす[18][19]。その後、リン酸化されたFOXO1はユビキチン化され、プロテアソームによって分解される[20]。FOXO1のリン酸化は不可逆的であり、グルコース代謝と肝臓でのグルコース産生に対するインスリンの阻害効果を延長する。FOXO1のリン酸化によってグルコース-6-ホスファターゼの転写は低下し、その結果、糖新生グリコーゲン分解の速度は低下する[21]

FOXO1はグルコース-6-ホスファターゼの他に、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼの転写も活性化する。この酵素は糖新生に必要である[22]

FOXO1の活性はCBP英語版によって誘導される、 Lys242、Lys245、Lys262に対するアセチル化によっても調節されている[23]。これらのリジン残基はDNA結合ドメインに位置しており、アセチル化によってFOXO1-DNA複合体の安定性が低下し、FOXO1のグルコース-6-ホスファターゼのプロモーターとの相互作用が阻害される。さらに、このアセチル化はAktによるSer253のリン酸化率を増加させる。Ser253のアラニンへの変異によって、FOXO1は恒常的に活性化状態となる。SIRT1英語版はこのアセチル化を除去するが、SIRT1がFOXO1を脱アセチル化する正確な機構は研究中である。アセチル化は、FOXO1の転写活性を緩和することで、インスリン/PI3K経路とは独立した新たなレベルでの代謝制御を行うと考えられている[24]

アポトーシス

FOXO1はAKTによってリン酸化されて阻害されるため、アポトーシスに重要な役割を果たしている可能性がある[25]。ヒトLNCaP英語版前立腺がん細胞では、FOXO1の過剰発現はアポトーシスを引き起こす[25]。また、FOXO1はTRAIL英語版を調節する。ヒト前立腺がん細胞株LAPC4英語版でFOXO1をアデノウイルスを用いて過剰発現した場合、TRAILはFOXO1誘発性のアポトーシスを引き起こす[25]。FOXO1はFasリガンドの転写をアップレギュレーションすることでも、アポトーシスによる細胞死をもたらす[25]。さらに、FOXO1はBcl-2ファミリーのメンバーであるBimをトランス活性化し、Bimはミトコンドリアのアポトーシス経路に関与してアポトーシスを促進する[25]。FOXO1がsiRNAによってサイレンシングされた場合、p53欠損細胞と機能細胞の双方でDNA損傷による細胞死が減少することが明らかにされている[25]2型糖尿病の膵臓では、通常インスリンを産生しているβ細胞がアポトーシスを起こすため、インスリン産生が大きく低下する。β細胞の脂肪酸はFOXO1を活性化し、β細胞のアポトーシスをもたらす[26]

細胞周期の調節

FOXO1の活性化は細胞周期の進行の調節に関与している。サイクリン依存性キナーゼ阻害因子であるp27KIP1の転写や半減期は、FOXO1が活性化されている場合に増加する。ブタの顆粒膜細胞では、FOXO1はp27KIP1の核局在を調節し、細胞周期の進行に影響を与えることが見いだされている。さらに哺乳類では、FOXO1を介した細胞周期の停止はサイクリンD1サイクリンD2の抑制と関連付けられている。ヒトのFOXO1はサイクリンD1のプロモーター領域に結合することがChIPアッセイによって示されている。典型的なフォークヘッド転写因子応答エレメントに結合してp27KIP1の発現を誘導することができないヒトFOXO1のH215R変異体も、サイクリンD1とサイクリンD2のプロモーター活性を抑制することでG1での細胞周期の停止を促進することができる。このように、FOXO1の活性化は遺伝子の転写の促進や抑制を通じて細胞周期をG1期で停止させる[25]

作用機序

非リン酸化状態のFOXO1は核に局在し、そこでグルコース-6-ホスファターゼのプロモーターに位置するインスリン応答配列に結合して転写率を増加させる。FOXO1は、グルコース-6-ホスファターゼの転写の増加を通して、間接的に肝臓のグルコース産生速度を増加させる[22]。しかし、AktによってThr24、Ser256、Ser319がリン酸化されると、FOXO1は核から除去され、その後ユビキチン化されて分解される。AktによるFOXO1のリン酸化はグルコース-6-ホスファターゼの転写の減少を介して肝臓のグルコース産生を低下させる。

調節

FOXO1の活性は、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化による調節が行われる[27]

リン酸化

FOXO1のリン酸化はPI3K/AKT経路英語版の活性化によるものである[27]。また、SGK1もFOXO1をリン酸化して不活性化することができる[25]。FOXO1はAKT/SGK1によるリン酸化によって核から細胞質へ移行し、不活性化される[27]。FOXO1はAKT/SGK1によってThr24、Ser256、Ser319の3か所が直接リン酸化される[28]。さらに、AKT/SGK1によるSer256のリン酸化はDNA結合ドメインの電荷を正電荷から負電荷へ変化させるため、FOXO1はDNAとの相互作用を喪失する[27]

インスリンシグナル伝達カスケードのIRS1IRS2もAKTのリン酸化を介してFOXO1を調節する[27]。AKTはFOXO1をリン酸化して細胞質へ蓄積させる[27]成長因子によって活性化されるプロテインキナーゼであるカゼインキナーゼ1もFOXO1をリン酸化して細胞質へ移行させる[27]

研究

FOXO1はインスリンによる転写と代謝の制御を関連付ける因子であるため、2型糖尿病の遺伝的制御の標的となる可能性がある。インスリン抵抗性マウスモデルでは、インスリン感受性の喪失のために肝臓でのグルコース産生が増加しており、通常のマウスと比較して肝臓での糖新生とグリコーゲン分解が加速しているが、これはおそらくFoxo1が調節を受けないためである。同じ実験をFoxo1ハプロ不全英語版型マウスで行った場合、インスリン感受性は部分的に回復し、肝臓でのグルコース産生は低下する[29]。同様に、高脂肪食で飼育されたマウスでは、骨格筋と肝細胞でインスリン抵抗性の増加がみられる。しかし、Foxo1ハプロ不全型マウスを同じ高脂肪食で飼育した場合、骨格筋と肝細胞の双方で顕著なインスリン抵抗性の低下がみられる。この効果は一般的に処方される抗糖尿病薬であるロシグリタゾンを同時に投与することで大幅に増大する[30]。これらの結果は、2型糖尿病におけるインスリン脱感作の緩和に向けた、遺伝子治療に基づく新たなアプローチの可能性を示している。

糖尿病(1型と2型の双方)においては、腎臓での糖新生が通常時よりも血糖値に大きく寄与している[31]。インスリンによるFOXO1の抑制を高めることで、肝臓と腎臓の双方での糖新生を低下させることができる[31]

高脂肪食で飼育されたマウスでは、Foxo1とNotch-1英語版のハプロ不全の組み合わせによって、Foxo1のハプロ不全単独の場合よりもより効果的にインスリン感受性が回復する[32]

成体組織から単離された腸管幹細胞から作り出された腸オルガノイドでは、FOXO1の阻害によってインスリン産生細胞を作り出すことができる[33]

臨床的意義

  • この遺伝子のPAX3英語版遺伝子座への転座は、胞巣型横紋筋肉腫英語版と関係している[5][34]
  • 糖新生において、FOXO1遺伝子は肝臓でのグルコース産生を低下させることにより、グルコースレベルを調節している[27]。マウスでは、糖新生遺伝子の発現を抑制することで、空腹時血糖を低下させている[27]
  • FOXO1は酸化ストレスからの細胞の保護に関与している[27]。糖尿病の合併症と関係して組織内で酸化ストレスが高まった場合には、細胞死を促進しているようである[27]。このような状況では、FOXO1は保護的ではなく破壊的な役割を果たす[27]
  • マウスでは、Foxo1はケラチノサイトの応答と機能を調整することで酸化ストレスを低下させ、創傷治癒を補助する[27]。創傷治癒は非常に複雑な生物学的過程であるが、FOXO1はケラチノサイトの治癒過程を促進するイベントの統合を補助している[35]。創傷治癒中のケラチノサイトでは、FOXO1の核局在は4倍に増加している[35]。また、FOXO1は成長因子をアップレギュレーションすることで、ケラチノサイトの移動を促進する[35]
  • 自然免疫系では、FOXO1はいくつかの炎症促進遺伝子の発現を増加させることで炎症を亢進させることが示されている[27]。FOXO1は高血糖値、TNFLPSによる刺激に応答した炎症性サイトカインの発現を媒介する[27]
  • 獲得免疫系では、FOXO1はL-セレクチンのアップレギュレーションによって末梢B細胞のホーミングを調節し、末梢B細胞のクラススイッチを調節する。T細胞では、CD8メモリーT細胞の生存を高める[27]
  • 発がん英語版においては、FOXO1はがん抑制因子としての役割を果たしており、その不活性化はヒトの多くの種類のがんで確認されている[27]。FOXO1は、前立腺がんや神経膠腫の細胞において、アポトーシス促進因子をアップレギュレーションすることでアポトーシスを誘導し、腫瘍細胞の生存を抑制する[27]。FOXO1の活性化の増大は、遊走や浸潤を抑制したり、RUNX2英語版の転写活性を抑制したりすることで、前立腺がん細胞の他の器官への転移を阻害する可能性がある[27]

相互作用

FOXO1は次に挙げる因子と相互作用することが示されている。

出典

外部リンク

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