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血液型の分類法の一種 ウィキペディアから
ABO式血液型(ABOしきけつえきがた)は、血液型の分類の一種。ヒトの場合はA、B、O、ABの4型に分類する。型を決定する対立遺伝子はA、B、Oの3種、遺伝子型はAA、BB、AB、AO、BO、OOの6種がある。
血液型は初め血液の型として出発したのでこの名があるが、その後の研究において血液のみに関わらず一個人の細胞、臓器、体液にはもちろん、毛髪などの硬組織にも分布する個人を血清学的に識別できる方法であることが分かっている[1]。
赤血球の表面には250種以上の表面抗原があるが、A/B型抗原はその代表的な抗原である。 赤血球の表面にA抗原があるとA型、B抗原があるとB型、AとB両方の抗原があるとAB型、両抗原が無いとO型とする[2]。先の遺伝子型でいうと、AA・AOがA型、BB・BOがB型、ABがAB型、OOがO型となる。
逆に血漿中には各抗原に反応する抗体があり、通常A型の血漿中には抗B抗体があり、B型の血漿中には抗A抗体があり、AB型の血漿中には抗A抗体も抗B抗体のどちらも無し、O型の血漿には抗A抗体と抗B抗体両方が存在する[2]。
血漿中の抗体を調べることで血液型を判定することを裏試験ともいう[2]。表面抗原に、それぞれ対応する抗体が反応すると赤血球は凝集してしまう。
最も初期に発見された血液型分類である。
1900年にオーストリア・ハンガリーのウィーン大学で病理学教室の助手をしていたカール・ラントシュタイナー(Karl Landsteiner, 1868年 - 1943年)は、イギリスの病理学者シャタックの「肺炎患者の血球と血清(それぞれ別人)を混ぜていた際に凝集があった」という報告を聞いて、これが正しいか、正しければ肺炎の診断に利用できないかの追試を行った。
そこで自分を含む22人の健康な人の血液を血球と血清に分けて互いに混ぜ合わせて調べた所、以下のような凝集反応の有無が確認され、凝集は健康な人同士でも起こりうる生理的現象で肺炎診断には使えないが、同じ血清を入れた場合でも血球の持ち主によって凝集するときと凝集しない時があるという事に気がついた。
(以下の表は要点を抜粋したもので、残り16人分は省略されている)
液性成分/細胞成分 | Storck博士 | Pletschknik博士 | Sturli博士 | Erdheim博士 | Zaritsch氏 | ラントシュタイナー[注釈 1] |
---|---|---|---|---|---|---|
Storck博士 | ||||||
Pletschknik博士 | ||||||
Sturli博士 | ||||||
Erdheim博士 | ||||||
Zaritsch氏 | ||||||
ラントシュタイナー |
(山本文一郎『ABO血液型が分かる科学』P4 表1-1「ランドスタイナーの赤血球の凝集実験の結果」より)
これらより凝集のする・しないのグループ分けをするとErdheim博士・Sturli博士、Pletschknik博士・Zaritsch氏、Storck博士・ランドスタイナーと分けられ[3]、ランドスタイナーは「人の血液は3つの群に分けられる」として、「A型」「B型」、「C型(このC型は現在のO型である)」と名付け、翌年の1901年11月14日に論文発表した[4]。
さらにその翌年(1902年)にアルフレッド・フォン・デカステロとアドリアノ・シュテュルリによってこの3群のいずれにも入らない第4の型が追加発表された[5]。
こうした血液の型の呼び方について1906年と1909年にポーランドのヤンスキー、アメリカのモスがそれぞれ独自にこの4つの型を番号で第I〜IV群と呼んだが、お互い順番がバラバラ(I・IVがヤンスキーとモスで逆)でそれぞれの分類を使う人同士に混乱が起き、これとはさらに別に1910年にエミール・フォン・デュンゲルンとルドヴィク・ヒルシュフェルトが4種類の血液について詳しい研究をして「人の血液中には凝集原(抗原)AとB、それぞれに反応する抗体αとβがある。」とまとめ、「A抗原を持っている人をA型(抗体はβ)」というようにまとめ、両方の抗原を持つ人をAB型、両方の抗原がない人をO型と呼んだ[6]。
(なお、C型をO型に変更した理由は、数字の「0」(ゼロ)ではなく、ドイツ語の「ohne」(「 - ない」などの意味)の頭文字である可能性が指摘されている[7]。)
その後1928年の国際連盟の血清標準委員会で、フォン・デュンゲルンとヒルシュフェルトの名称を国際的に使うことが決められた[8]。
その後、フォン・デュンゲルンとヒルシュフェルトは1911年に72家族348人の血液型を調べた結果、血液型は遺伝要素があるという仮説を唱えた。
これにより「凝集原を持つ人は必ず親がそのタイプの凝集原を持つ」、「両親ともに凝集原のないO型の場合は子供は必ずO型」という法則を知り、これをもとに血液型は、メンデルの法則に従って遺伝し「Aとa」「Bとb」という二対の対立因子を考えた。(二対対立因子説)
表現型 | 因子型 |
---|---|
O型 | aabb |
A型 | AAbb、Aabb |
B型 | aaBB、aaBb |
AB型 | AABB、AABb、AaBB、AaBb |
一方、1925年にドイツのゲッティンゲン大学の数学者フェリックス・ベルンシュタインは、「二対対立因子説で予測できる数値に比べ現実のAB型が少なすぎる」という理由から、同年日本の古畑種基・市田賢吉・岸孝義(以下、「古畑ら」と表記)は親にAB型がいる場合、二対対立因子説ではいかなる型の子も生まれる(=親子鑑定に使えない)はずだが、調べているうちに逆に「AB型の親からO型の子がいる例が見当たらない[注釈 4]」という理由から別々に二対対立因子説が誤りではないかと推測し、お互いに「三複対立因子説」を提唱した。
(三複対立因子説の詳細については因子の組み合わせは「機構」、遺伝は「ABO型における親子の理論的な血液型の組み合わせ」を参照。)
両者の内容には差異があるが(後述)どちらもO型は「対立因子がない」のではなく「対立因子の1つを持つが他の因子に潜性遺伝する(古畑の言葉を借りると「AとBに対し潜性するa・bが同じもの[12]」)」という考えで、これならばAB型が少ない理由も子供の生まれる組み合わせも説明できるため、確認のため別の学者たちが何度か家族調査を行った結果、日本国内で合計で958家族、3954人を調べ三複対立因子説の通りの調査成績になったため、1927年のアムステルダムで開かれた第3回国際人類学会とベルリンの第5回国際遺伝学会で古畑らはこれを報告し、ついで1933年の第5回太平洋学術会議で1595家族6826人(子供3636人)の調査結果を報告し、血液型の遺伝は三複対立因子説で説明されるようになった[13]。
なお、ベルンシュタインと古畑らの三複対立因子説の一番大きな違いは「O型に型特異性の抗原性があるか否か」についてで、ベルンシュタインはR凝集原とそれに反応する抗R凝集素(ρ)を仮説として唱え、古畑は抗原は有ったとしても全部の型に共通の基本型抗原だとした[注釈 5][14]。
(実際のO型血球に存在したH抗原はAB型血球にも存在するため、ベルンシュタインのいうR凝集原ではなく古畑の言う基本型抗原に近い。)
A型はA型転移酵素をコードする遺伝子を持っており、この酵素が元になるH物質にN-アセチルガラクトサミンをつけてA抗原を作るのに対し、B型はB型転移酵素をコードする遺伝子を持っていてこちらの酵素はガラクトースをつけB抗原を作る。AB型は両方の遺伝子を持っているためAとB双方の抗原を作るが、O型はどちらも作れないのでH物質のままになる[15]。 これらの抗原が最初に血液から発見されたために「血液型」という名称を冠するもので、血液以外にも唾液・精液など、すべての体液にも存在する。ただし血球などに抗原をつける遺伝子と唾液などの体液に抗原をつける遺伝子は別系統(後述)なので、1/4の人は後者の遺伝子が働かない非分泌型という血液以外の体液に抗原が出ない(もしくは微量で検出されない)体質である。
ABO式血液型を決定する抗原を作る遺伝子は第9染色体に存在し、通常のA型とB型の遺伝子では両方355個分(厳密には最後が終止コドンなので354個分)のアミノ酸のデータでそれぞれA抗原とB抗原の転移酵素を作り、これでH抗原を作った後追加の糖をつけるが、A型とB型では中~後半部に7か所(99・176・219・235・266・268・310番目)作られるアミノ酸が違うものがあり、この違いでA酵素はN-アセチルガラクトサミン、B酵素はガラクトースがそれぞれH抗原につけられ、これがA抗原とB抗原の違いになっている。O型の遺伝子の場合は、AやBの遺伝子の後半部分が機能しておらず途中で終止コドンになって、通常のO型では87番目のアミノ酸用の塩基配列が1つ抜けているので以後がずれ、118個分(厳密には最後は終止コドンなので117個分)のアミノ酸のデータで酵素を作るため追加の糖が付けられなくなっている[16]。
一方、H物質を発現させる遺伝子は第19染色体に位置し、H前駆物質をH物質へ変換させる。後述のボンベイ型とパラボンベイ型は、H物質を組み立てる際にフコースをつける工程でこの酵素が作られない遺伝子のため「H物質自体が完成せずに、ここから先のA抗原とB抗原も作られない」というものだが、分泌型か非分泌型かでさらに違いが生じており、非分泌型のボンベイ型ではこれらの抗原が血球以外にも存在しないが、分泌型のパラボンベイ型では体液分泌細胞や上皮細胞用の抗原を作る1型糖鎖(血液細胞や血管壁用の抗原の糖鎖は2型)を作る遺伝子は別系統(分泌・非分泌型の遺伝子)で機能しているため、体液中にはH物質があり、遺伝子によってはAやBの抗原も保有している他、そこから漏れたこれらの抗原が赤血球に吸着されて「わずかだがABOに関する抗原を持つ赤血球」を持つことがある[17]。
A抗原とB抗原は、持っていないとそれに対する自然抗体が形成されることが多く、この場合、型違い輸血により即時拒絶が起きショック状態となる[18]。自然抗体がなくとも型違い輸血により1週間程度で新しいIgM抗体が生産されこれが拒絶反応をおこす。そのため、基本的には型違い輸血をしてはならない。輸血される血液は受血者の血液より少量のため、血漿によって希釈されて抗原抗体反応が起こらなくなる。
なお、「自然抗体」というのはRh型のように不適合輸血[18]を受けた後などに抗体を生じる「免疫抗体」に対する呼び方だが、実際にはこれも免疫機構によるもので、1950年代にペンシルバニア大学のゲオルク・スプリンガーの実験で無菌状態で育てたヒヨコはABO式血液型の抗原を持っていない[19]が、B抗原を持つ大腸菌を投与すると抗B抗体を持つようになったという報告があることや、人間も腸内細菌のいない新生児の頃は抗A抗体や抗B抗体をもたないが、生後3か月から6か月ほどで持つようになることなどから腸内細菌などに対する免疫の結果生じた抗体とされる[20]。
ABO式血液型の遺伝子分布は母集団(地域や人種)によって差が大きく、コロンブス以前の分布[注釈 6]では、O型遺伝子の率は世界的にどこでも多い[注釈 7]が特にアメリカ大陸の先住民[注釈 8]で、中南米ではO型が100%近くになる地域がある。A型遺伝子が多い地域はヨーロッパ(約25~35%)とオーストラリアの南部と西部の先住民(約30~35%)、また北米でもカナダ・アルバータ州からアメリカ・モンタナ州にかけてのブラッド族・ブラックフィート族(黒足族)と呼ばれる先住民集団[注釈 9]は例外的にA型遺伝子の比率が高い(最大50%以上)。ただ、この3か所はMN式血液型で調べると分布が全く異なる[21]他、後述のB型の分布も大きく異なる。B型遺伝子が多い地域は北部インドからモンゴル(約30%)となり[注釈 10]、逆に南北アメリカ大陸やオーストラリア先住民では極めて少なく(ほぼ0%)、同じモンゴロイド系の人種でもアジア側とアメリカ側で結果が大きく違うため、B型は「アメリカ先住民の新大陸移住(約2万年~1万5千年前)後にアジアで増加した」か「偶然アメリカ先住民の先祖にB型がほとんどいなかった」のどちらかの可能性が高いと考えられる[22]。
なお、アフリカ大陸のABO型分布には取り立てて特徴がなく、大半の地域で一番多いのはO型(65~75%)だが特にこの地域が多いわけではなく、シベリアやヨーロッパ西沿岸部とさほど変わらず、A型はアジアの大半地域並み(15~25%)・B型は東ヨーロッパ(10~15%)程度である[23]。
日本人のABO式血液型の分布はおよそO型32%、A型37%、B型22%、AB型9%だが、古畑種基らの研究によるとわずかに地域差があり、九州・四国・中国ではA型、東北・北陸ではO型がわずかに多く、それぞれ反対の方がその分少ない[注釈 11]という分布の勾配があった。
国 | 人口[24] | O+ | A+ | B+ | AB+ | O− | A− | B− | AB− |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
オーストラリア[25] | 21,262,641 | 40.0% | 31.0% | 8.0% | 2.0% | 9.0% | 7.0% | 2.0% | 1.0% |
オーストリア[26] | 8,210,281 | 30.0% | 37.0% | 12.0% | 5.0% | 6.0% | 7.0% | 2.0% | 1.0% |
ベルギー[27] | 10,414,336 | 38.0% | 34.0% | 8.5% | 4.1% | 7.0% | 6.0% | 1.5% | 0.8% |
ブラジル[28] | 198,739,269 | 36.0% | 34.0% | 8.0% | 2.5% | 9.0% | 8.0% | 2.0% | 0.5% |
カナダ[29] | 33,487,208 | 39.0% | 36.0% | 7.6% | 2.5% | 7.0% | 6.0% | 1.4% | 0.5% |
中国[30] | 1,339,724,852 | 30.1% | 30.2% | 29.1% | 9.6% | 0.3% | 0.4% | 0.3% | 0.1% |
チェコ[31] | 10,532,770 | 27.0% | 36.0% | 15.0% | 7.0% | 5.0% | 6.0% | 3.0% | 1.0% |
デンマーク[32] | 5,500,510 | 35.0% | 37.0% | 8.0% | 4.0% | 6.0% | 7.0% | 2.0% | 1.0% |
エストニア[33] | 1,315,819 | 29.5% | 30.8% | 20.7% | 6.3% | 4.3% | 4.5% | 3.0% | 0.9% |
フィンランド[34] | 5,250,275 | 27.0% | 38.0% | 15.0% | 7.0% | 4.0% | 6.0% | 2.0% | 1.0% |
フランス[35] | 62,150,775 | 36.0% | 37.0% | 9.0% | 3.0% | 6.0% | 7.0% | 1.0% | 1.0% |
ドイツ | 82,329,758 | 35.0% | 37.0% | 9.0% | 4.0% | 6.0% | 6.0% | 2.0% | 1.0% |
アイスランド[36] | 306,694 | 47.6% | 26.4% | 9.3% | 1.6% | 8.4% | 4.6% | 1.7% | 0.4% |
インド[37] | 1,236,344,631 | 35.1% | 21.7% | 30.5% | 7.3% | 2.0% | 1.2% | 1.7% | 0.4% |
アイルランド[38] | 4,203,200 | 47.0% | 26.0% | 9.0% | 2.0% | 8.0% | 5.0% | 2.0% | 1.0% |
イスラエル[39] | 7,233,701 | 32.0% | 34.0% | 17.0% | 7.0% | 3.0% | 4.0% | 2.0% | 1.0% |
イタリア[40] | 62,402,659 | 39.0% | 36.0% | 7.5% | 2.5% | 7.0% | 6.0% | 1.5% | 0.5% |
日本[41] | 127,368,088 | 29.8% | 37.8% | 21.9% | 11.3% | 0.15% | 0.2% | 0.1% | 0.05% |
韓国[42] | 51,835,110 | 26.8% | 34.6% | 26.8% | 9.0% | 0.1% | 0.1% | 0.1% | 0.1% |
オランダ[43] | 16,715,999 | 38.2% | 36.6% | 7.7% | 2.5% | 6.8% | 6.4% | 1.3% | 0.5% |
ニュージーランド[44] | 4,213,418 | 38.0% | 32.0% | 9.0% | 3.0% | 9.0% | 6.0% | 2.0% | 1.0% |
ノルウェー[45] | 4,660,539 | 34.0% | 40.8% | 6.8% | 3.4% | 6.0% | 7.2% | 1.2% | 0.6% |
フィリピン[46] | 99,863,000 | 44-46% | 22-23% | 24-25% | 4-6% | <1% | <1% | <1% | <1% |
ポーランド[47] | 38,482,919 | 31.0% | 32.0% | 15.0% | 7.0% | 6.0% | 6.0% | 2.0% | 1.0% |
ポルトガル[48] | 10,707,924 | 36.2% | 39.8% | 6.6% | 2.9% | 6.0% | 6.6% | 1.1% | 0.5% |
サウジアラビア[49] | 28,686,633 | 48.0% | 24.0% | 17.0% | 4.0% | 4.0% | 2.0% | 1.0% | 0.3% |
南アフリカ[50] | 49,320,000 | 39.0% | 32.0% | 12.0% | 3.0% | 7.0% | 5.0% | 2.0% | 1.0% |
スペイン[51] | 47,125,002 | 35.0% | 36.0% | 8.0% | 2.5% | 9.0% | 7.0% | 2.0% | 0.5% |
スウェーデン[52] | 9,059,651 | 32.0% | 37.0% | 10.0% | 5.0% | 6.0% | 7.0% | 2.0% | 1.0% |
スイス[53] | 8,403,994 | 35.0% | 38.0% | 8.0% | 4.0% | 6.0% | 7.0% | 1.0% | 1.0% |
トルコ[54] | 76,805,524 | 29.8% | 37.8% | 14.2% | 7.2% | 3.9% | 4.7% | 1.6% | 0.8% |
イギリス[55] | 61,113,205 | 37.0% | 35.0% | 8.0% | 3.0% | 7.0% | 7.0% | 2.0% | 1.0% |
アメリカ[56] | 307,212,123 | 37.4% | 35.7% | 8.5% | 3.4% | 6.6% | 6.3% | 1.5% | 0.6% |
加重平均 | 2,744,996,114 | 41.9% | 31.2% | 15.4% | 4.8% | 2.9% | 2.7% | 0.8% | 0.3% |
50.0%以上 40.0–49.9% 30.0–39.9% 20.0–29.9% 10.0–19.9% 5.0–9.9%
民族別ABO式血液型割合[57] | ||||
---|---|---|---|---|
民族集団 | O (%) | A (%) | B (%) | AB (%) |
アボリジニ | 61 | 39 | 0 | 0 |
アビシニア人 | 43 | 27 | 25 | 5 |
アイヌ | 17 | 32 | 32 | 18 |
アルバニア人 | 38 | 43 | 13 | 6 |
大アンダマン人 | 9 | 60 | 23 | 9 |
アラブ人 | 34 | 31 | 29 | 6 |
アルメニア人 | 31 | 50 | 13 | 6 |
アジア系アメリカ人 | 40 | 28 | 27 | 5 |
オーストリア人 | 36 | 44 | 13 | 6 |
バントゥー | 46 | 30 | 19 | 5 |
バスク人 | 51 | 44 | 4 | 1 |
ベルギー人 | 47 | 42 | 8 | 3 |
ボロロ人 | 100 | 0 | 0 | 0 |
ブラジル人 | 47 | 41 | 9 | 3 |
ブルガリア人 | 32 | 44 | 15 | 8 |
ビルマ族 | 36 | 24 | 33 | 7 |
ブリヤート人 | 33 | 21 | 38 | 8 |
サン人 | 56 | 34 | 9 | 2 |
中国人-広東人 | 46 | 23 | 25 | 6 |
中国人-北京人 | 29 | 27 | 32 | 13 |
チュヴァシ人 | 30 | 29 | 33 | 7 |
クロアチア人 | 42 | 34 | 17 | 7 |
チェコ人 | 30 | 44 | 18 | 9 |
デンマーク人 | 41 | 44 | 11 | 4 |
オランダ人 | 45 | 43 | 9 | 3 |
エジプト民族 | 33 | 36 | 24 | 8 |
イングランド人 | 47 | 42 | 9 | 3 |
エスキモー (アラスカ) | 38 | 44 | 13 | 5 |
エスキモー (グリーンランド) | 54 | 36 | 23 | 8 |
エストニア人 | 34 | 36 | 23 | 8 |
フィジー人 | 44 | 34 | 17 | 6 |
フィン人 | 34 | 41 | 18 | 7 |
フランス人 | 43 | 47 | 7 | 3 |
グルジア人 | 46 | 37 | 12 | 4 |
ドイツ人 | 41 | 43 | 11 | 5 |
ギリシャ人 | 40 | 42 | 14 | 5 |
ロマ | 29 | 27 | 35 | 10 |
ハワイ先住民 | 37 | 61 | 2 | 1 |
ムンバイ | 12 | 29 | 48 | 11 |
マジャル人 | 36 | 43 | 16 | 5 |
アイスランド人 | 56 | 32 | 10 | 3 |
インド人(インド) | 17 | 22 | 53 | 7 |
ネイティブアメリカン | 79 | 16 | 4 | 1 |
アイルランド人 | 52 | 35 | 10 | 3 |
イタリア人 | 46 | 41 | 11 | 3 |
大和民族 | 30 | 38 | 22 | 10 |
ユダヤ人(ドイツ) | 42 | 41 | 12 | 5 |
ユダヤ人(ポーランド) | 33 | 41 | 18 | 8 |
カルムイク人 | 26 | 23 | 41 | 11 |
キクユ族(ケニヤ) | 60 | 19 | 20 | 1 |
朝鮮民族 | 28 | 32 | 31 | 10 |
サーミ人 | 29 | 63 | 4 | 4 |
ラトビア人 | 32 | 37 | 24 | 7 |
リトアニア人 | 40 | 34 | 20 | 6 |
マレー人 | 62 | 18 | 20 | 0 |
マオリ | 46 | 54 | 1 | 0 |
マヤ人 | 98 | 1 | 1 | 1 |
モロス | 64 | 16 | 20 | 0 |
ナバホ族 | 73 | 27 | 0 | 0 |
ニコバル人 | 74 | 9 | 15 | 1 |
ノルウェー人 | 39 | 50 | 8 | 4 |
パプア人 (ニューギニア島) | 41 | 27 | 23 | 9 |
ペルシア人 | 38 | 33 | 22 | 7 |
ペルー先住民 | 100 | 0 | 0 | 0 |
フィリピン人 | 45 | 22 | 27 | 6 |
ポーランド人 | 33 | 39 | 20 | 9 |
ポルトガル人 | 35 | 53 | 8 | 4 |
ルーマニア人 | 34 | 41 | 19 | 6 |
ロシア人 | 33 | 36 | 23 | 8 |
サルデーニャ人 | 50 | 26 | 19 | 5 |
スコッツ | 51 | 34 | 12 | 3 |
セルビア系(セルビア人) | 38 | 42 | 16 | 5 |
ションペン人 ニコバル系 | 100 | 0 | 0 | 0 |
スロバキア人 | 42 | 37 | 16 | 5 |
南アフリカ人 | 45 | 40 | 11 | 4 |
スペイン人 | 38 | 47 | 10 | 5 |
スーダン人 | 62 | 16 | 21 | 0 |
スウェーデン人 | 38 | 47 | 10 | 5 |
スイス人 | 40 | 50 | 7 | 3 |
タタール | 28 | 30 | 29 | 13 |
タイ人 | 37 | 22 | 33 | 8 |
テュルク系民族 | 43 | 34 | 18 | 6 |
ウクライナ人 | 37 | 40 | 18 | 6 |
黒人アメリカ人 | 49 | 27 | 20 | 4 |
白人アメリカ人 | 45 | 40 | 11 | 4 |
キン族 | 42 | 22 | 30 | 5 |
平均 | 43.91 | 34.80 | 16.55 | 5.14 |
標準偏差 | 16.87 | 13.80 | 9.97 | 3.41 |
(注:「民族」は本来文化的なもので人種とは無関係だが、この項の『血液型の話』からの引用部位では「民族」を人種の意味で使用している部位がある。)
地域による血液型比率の違い血液型を人類学に最初に応用したのはルードヴィヒ・ヒルシュフェルド夫妻で、第一次世界大戦終結時にマケドニアに集まった各国の兵士8500人の血液型を調べた際、人種の相違によって比率が大きく違う(下図参照)ことを発見し、1918年5月5日にサロニカの医学会で報告。その後いろいろあって遅れたものの、1919年10月18日にイギリスの著名な医学雑誌『ランセット』に掲載された。
民族名(人数) | O型% | A型% | B型% | AB型% | 民族示数 |
---|---|---|---|---|---|
イギリス人(500) | 46.4 | 43.4 | 7.2 | 3.1 | 4.5 |
フランス人(500) | 43.2 | 42.6 | 11.2 | 3.0 | 3.2 |
イタリア人(500) | 47.2 | 38.0 | 11.0 | 3.8 | 2.8 |
ドイツ人(500) | 40.0 | 43.0 | 12.0 | 5.0 | 2.8 |
オーストリア人(?) | 42.0 | 40.0 | 10.0 | 8.0 | 2.6 |
ブルガリア人(500) | 39.0 | 40.6 | 14.2 | 6.2 | 2.6 |
セルビア人(500) | 38.0 | 41.8 | 15.6 | 4.6 | 2.5 |
ギリシャ人(500) | 38.2 | 41.6 | 16.2 | 4.0 | 2.5 |
トルコ人(500) | 36.8 | 38.0 | 18.6 | 6.6 | 1.8 |
アラビア人(500) | 43.6 | 32.4 | 19.0 | 5.0 | 1.5 |
ロシア人(500) | 40.7 | 31.2 | 21.8 | 6.3 | 1.3 |
ユダヤ人(500) | 38.8 | 33.0 | 23.2 | 5.0 | 1.3 |
マダガスカル人(400) | 43.5 | 26.2 | 23.7 | 4.5 | 1.09 |
セネガル黒人(500) | 43.2 | 22.6 | 29.0 | 5.0 | 0.8 |
アンナン人(500) | 42.0 | 22.4 | 28.4 | 7.2 | 0.8 |
インド人(1000) | 31.0 | 19.0 | 41.0 | 8.5 | 0.56 |
当時は血液型が個人で不変かどうか自体不明瞭であった(上記の兵士たちは基本的に似たような環境で同じものを食べていたが、もっと長期間の環境変化ではどうなるかは分かっていなかった。)ため、これが彼らの故郷の環境によるものか血統的によるものかがはっきりしなかったため重要視されなかったが、1921年ハンガリー(原書は「ハンガリヤ」表記)のヴェルザーとウェスツェッキーが自国内で当時出自が違う民族とすでに分かっていたドイツ系・蒙古系(注:マジャール人の事)・ジプシー(インド系)の民族の血液型比率を調べたところ、下図のようになった。
民族名(人数) | O型% | A型% | B型% | AB型% | 民族示数 |
---|---|---|---|---|---|
ドイツ系ハンガリア人(476) | 40.8 | 43.5 | 12.6 | 3.1 | 2.9 |
蒙古系ハンガリア人(1500) | 31.0 | 38.0 | 18.6 | 12.2 | 1.6 |
ジプシー(386) | 34.2 | 21.1 | 39.9 | 5.8 | 0.6 |
これらの違いとドイツ系民族やジプシーはヒルシュフェルドのドイツ人やインド人との報告とほぼ同じ比率になったことなどから、離れた国に長期間住んでいても他との通婚が少ない場合血液型の比率が先祖とほぼ変わらないこと、逆に同じ国にいても先祖が違う集団は違ったままであることが判明した[60]。
こうした結果より、民族の移動などを血液型から推測する研究がされるようになり、まず最初のヒルシュフェルド夫妻は『ヒルシュフェルドらの分類』の表のデータのうち、イギリス人からギリシャ人までを「ヨーロッパ型」、マダガスカル人からインド人までを「アフリカ・アジア型」としてその間の4民族を中間型とし、O型の比率はどこも極端に違わないのにA型とB型の人種差が極端に激しいので、「かつてA型を基本とするA人種(ヨーロッパの中~北部起源)とB型を基本とするB人種(インド北方起源)がいて、これが混血していき様々なABO式血液型の比率を生み出した。」という説を提唱した[61]。
その後、世界各地の人種の血液型比率を調べていた際にスナイダーが混血が少ないアメリカ先住民族(原文は「アメリカ・インディアン」)にO型が極めて多い(453人を調べてOが91.3%だった)ことを報告し、これにより自分が提唱した後述の原則から「大昔はアメリカ先住民は100%O型だったのではないか」という説を提唱し[62]、これ以外にドイツのベルンシュタインなども自分の三因子仮説などから原始人類の血液型はO型のみでそこからA・B型が突然変異したのではないかという説を上げていた[63]が、カナダのアルバータ州でマトソンとシュラーデルが調査したところ、ほとんど混血のない先住民(前述のブラッド族・ブラックフィート族など)にA・O型が多くB・AB型が皆無という地域が見つかった他、オーストラリアでも白人との混血が少ないにもかかわらずA型の多い集団が発見され、原始人類はO型のみではないかという仮説は訂正された[64]。
スナイダーは血液型を人類学に応用する際、以下の必要な四原則を定めている。
この四原則は当てはまる場合も多いが、一致しない場合もあり他の証拠から近縁でさらに別の民族との交流が薄い民族同士でも分布率が大きく違い、逆に無関係のはずの2つの民族の血液型分布がほぼ一緒という場合もあるので、なるべく一定数以上の人数で広い範囲を確かな診断で調べる必要がある[65]。
ABO型の各型の凝集力の違いなどを元にさらに下の亜型がある。検査については亜型検査を参照。
血液型の亜型はA2が最初の発見になり、通常のA型はフジマメ科の植物ドリコス・ビフローラスからとれるレクチンで凝集が起きる(B型・O型は凝集しない)が、A型であるにもかかわらずこれに反応しないものがあったことで発見された。このA2は酵素反応してないH物質が多く、このためドリコスレクチンに反応しなかった。 原因はA2の遺伝子はABO血液型物質を作る354番目のアミノ酸の塩基配列が1つ抜けたため、次が終止コドンにならずにA1(通常のA)より長くなり、376個分のアミノ酸のデータで酵素を作るためこのような違いが起こっていた。なお後に判明した他の亜型の場合もA3は291番目のアミノ酸(塩基では871番目)、AXは216番目のアミノ酸(塩基では646番目)、B3は352番目のアミノ酸(塩基では1054番目)にこうした違いが起きていた[66]。
基本的に型が同じなら抗原は同じもの(量が異なるのみ)なので亜型が違っても通常はその型の赤血球製剤で問題ない[67]し、反応する場合も低温でのみ反応する寒冷凝集素の場合は実害がないためそのまま輸血可能だが、まれに37℃反応性のその型の抗体(A型なら抗A1抗体、B型なら抗B抗体)を持っている場合は「O型」の赤血球製剤(A抗原・B抗原を持たない)を使用する。いずれの場合も血漿・血小板剤はその型のもので問題ない[68]。
亜型 | 抗A血清との反応 | 抗B血清との反応 | 血清中の抗A | 血清中の抗B | 型物質 | A型転移酵素 | 適切な追加検査 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
A1 | + | 0 | 0 | + | A、H | あり | なし |
A2 | + | 0 | +/0 | + | A、H | あり | Hレクチンとの反応、A1レクチンとの反応、被凝集価測定、唾液・血清中の型物質測定、転移酵素活性測定、A血球との間接抗グロブリン試験 |
A3 | mf(部分凝集) | 0 | 0 | + | A、H | あり | Hレクチンとの反応、A1レクチンとの反応、被凝集価測定、唾液・血清中の型物質測定、転移酵素活性測定、混合赤血球分離 |
Ax | +/0 | 0 | + | + | H | なし | Hレクチンとの反応、A1レクチンとの反応、被凝集価測定、唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定、A血球との間接抗グロブリン試験、家系調査 |
Am | 0 | 0 | 0 | + | A、H | あり | Hレクチンとの反応、A1レクチンとの反応、吸着解離試験、唾液・血清中の型物質測定、転移酵素活性測定、家系調査 |
Ael | 0 | 0 | + | + | H | なし | Hレクチンとの反応、A1レクチンとの反応、吸着解離試験、唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定、家系調査 |
基本的に血清中に抗Aがあると、血清を使った型物質測定はできない。
B型はあまり研究が進んでいないが、A型同様のバリエーションがあると思われる。
亜型 | 抗A血清との反応 | 抗B血清との反応 | 血清中の抗A | 血清中の抗B | 型物質 | B型転移酵素 | 適切な追加検査 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
B | 0 | + | + | 0 | B、H | あり | なし |
B3 | 0 | mf(部分凝集) | + | 0 | B、H | あり | Hレクチンとの反応、被凝集価測定、血清・唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定、混合赤血球分離 |
Bx | 0 | +/0 | + | + | H | なし | Hレクチンとの反応、被凝集価測定、唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定 |
Bm | 0 | 0 | + | 0 | B、H | あり | Hレクチンとの反応、吸着解離試験、血清・唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定 |
Bel | 0 | 0 | + | + | H | なし | Hレクチンとの反応、吸着解離試験、唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定 |
基本的に血清中に抗Bがあると、血清を使った型物質測定はできない。
遺伝子型 | 表現型 | 抗A血清との反応 | 抗B血清との反応 | 血清中の抗A | 血清中の抗B | 型物質 | 転移酵素 | 適切な追加検査 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
AB/O | A2B3 | + | mf(部分凝集) | +/0 | + | A、(B)、H | なし | Hレクチンとの反応、被凝集価測定、唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定、混合赤血球分離 |
AB/A | A1B3 | + | mf(部分凝集) | 0 | + | A、(B)、H | A | Hレクチンとの反応、被凝集価測定、唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定、混合赤血球分離 |
AB/B | A2B | + | + | +/0 | 0 | A、B、H | B | Hレクチンとの反応、被凝集価測定、唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定 |
H | Se | 表記 | 抗A血清との反応 | 抗B血清との反応 | 抗H血清との反応 | 唾液中のA型物質 | 唾液中のB型物質 | 唾液中のH型物質 | 血清中抗体 | 適切な追加検査 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
不活性 | 非分泌型 | Oh | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 抗H | Hレクチンとの反応、吸着解離試験、唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定 |
活性低下 | 非分泌型 | Ah | +/0 | 0 | +/0 | 0 | 0 | 0 | 抗H | Hレクチンとの反応、被凝集価測定、唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定 |
活性低下 | 非分泌型 | Bh | 0 | +/0 | +/0 | 0 | 0 | 0 | 抗H | Hレクチンとの反応、被凝集価測定、唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定 |
活性低下 | 分泌型 | Om | 0 | 0 | +/0 | 0 | 0 | + | 抗HI | Hレクチンとの反応、被凝集価測定、唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定 |
活性低下 | 分泌型 | Am | +/0 | 0 | +/0 | + | 0 | + | 抗HI | Hレクチンとの反応、被凝集価測定、唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定 |
活性低下 | 分泌型 | Bm | 0 | +/0 | +/0 | 0 | + | + | 抗HI | Hレクチンとの反応、被凝集価測定、唾液中の型物質測定、転移酵素活性測定 |
試薬の抗A血清と抗B血清とを用いて、採取した赤血球と反応させて凝集の有無により判定する方法(おもて検査)で仮に判定される(抗H血清も使用することがある。抗H血清を使用するとボンベイ型の判定も出せる)。どちらかの血清で凝集が見られた場合はその血液型、どちらとも凝集が見られた場合はAB型、凝集が見られない場合はO型と判定される。これに加え、血液の血清を用いてA・B・O各自型の血球の凝集(O型血球は対照として用い、これが凝集する場合は判定を保留する。)を判定する方法(うら検査)で判定して結果が一致した場合に、血液型が確定される。
誕生時には、うら検査で判定するのに必要な血液型決定因子が不足しているので判定できず、おもて検査では、凝集が起きにくいタイプの場合や凝集の有無を間違って、誤って仮判定されるケースがある。そのため、成長してから正しい血液型が確定された場合に、ABO型の血液型が変わったかのように見える場合がある。なお、おもて検査とうら検査の判定が一致しなかった場合は再検査する。それでも一致しなかった場合は以下の可能性も考慮する。おもて検査とうら検査には優劣がないため、どちらかの判定を優先して血液型を決定するということはしない。
おもてとうら不一致時に考えられる可能性[76]。
血液ではなく、遺伝子から判定するという手法もあり、血清による判定に比べ、誤判定が生じにくいことが特徴である。
反応強度 | スコア | 特徴と外観 | 背景の色調 |
---|---|---|---|
4+ | 12 | 一個の大きな凝集塊 | 透明 |
3+ | 10 | 数個の大きな凝集塊 | 透明 |
2+ | 8 | 中程度の凝集塊 | 透明 |
1+ | 5 | 小さな凝集塊 | 赤く濁る |
w+ | 2 | ごくわずかな微小凝集 | 赤く濁る |
0 | 0 | 凝集も溶血もみられない | 赤く濁る |
mf | 部分凝集 | 赤く濁る | |
H(PH) | 完全溶血(部分溶血) | 赤く透明(濁る) |
また、亜型検査は、輸血検査の中でも血液型を確定するのに非常に重要である。
赤血球沈渣(6回洗浄済)と生食を1容量:1容量混和。
56℃で10分加温後、900 - 1000G(3400rpm)で2分遠心し、上清を解離液とする。
目的 | 方法 | 解離液(性状) | 反応温度 | 反応時間 | 解離液(色) | 解離後血球の利用 | 試薬 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
解離 | 熱解離 | IgM | 50 - 56 | 5 - 10分 | 淡赤色 | 不可 | 生食 |
主にAm、Ax、Ael、Bm、Bx、Belなどの亜型に対し、抗原の存在を証明する吸着解離試験で実施。処理血球の検査はできない。
赤血球沈渣(3回洗浄済)と生食、DT液を1容量:1容量:2容量混和。
37℃で5分反応後、900 - 1000G(3400rpm)で5分遠心し、上清を解離液とする。
赤血球沈渣(6回洗浄済)と生食を1:9混和。
0.5%ジキトニン液0.5mlを加え1分転倒混和し、900 - 1000G(3400rpm)で5分遠心。赤血球残渣が白くなるまで5回以上洗浄(2分遠心)。
赤血球残渣に0.1Mグリシン塩酸緩衝液2.0mlを混和し1分転倒混和。
900 - 1000Gで5分遠心し、解離液に0.8Mリン酸緩衝液0.2mlを加え、さらに2分遠心し、上清を解離液とする。
目的 | 方法 | 解離液(性状) | 反応温度 | 反応時間 | 解離液(色) | 解離後血球の利用 | 試薬 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
解離 | エーテル解離 | IgG | 37 | 30 - 40分 | 暗赤色 | 不可 | エチルエーテル |
解離 | DT解離 | IgG | 37 | 5分 | 暗赤色 | 不可 | ジクロロメタン・ジクロロプロパン |
解離 | ジキトニン酸解離 | IgG | 室温 | 1分 | 無色 | 不可 | ジキトニン液、グリシン塩酸、リン酸緩衝液 |
主に直接クームス陽性血球から、抗体が含まれる解離液を入手するために実施。処理血球の検査はできない。酸解離では酵素法で検出するはずの抗体は検出できない。
0.1Mグリシン塩酸緩衝液とEDTA溶液を20容量:5容量混和。
赤血球沈渣(6回洗浄済)とグリシン塩酸/EDTA液を10容量:20容量混和。
室温で2 - 3分反応後、1Mトリス/NaClを1容量混和。
900 - 1000G(3400rpm)で2分遠心し、上清を解離液とする。処理血球は生食で4回洗浄し使用。
目的 | 方法 | 解離液(性状) | 反応温度 | 反応時間 | 解離液(色) | 解離後血球の利用 | 試薬 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
解離 | グリシン塩酸・EDTA解離 | IgG | 室温 | 2 - 3分 | 無色 | 可 | グリシン塩酸・EDTA、1Mトリス/NaCl |
抗体解離液が得られ、処理血球の検査も可能。
赤血球沈渣(6回洗浄済)と20%クロロキン2リン酸を1:4混和。
室温で30分反応後、3回以上洗浄し血液型検査に用いる。
感作抗体だけでなく、Bg抗原を破壊できる。
目的 | 方法 | 解離液(性状) | 反応温度 | 反応時間 | 解離液(色) | 解離後血球の利用 | 試薬 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
解離 | クロロキン解離 | 解離液なし | 37 | 30分 | 解離液なし | 可 | クロロキン2リン酸 |
血液型検査を目的とした抗体解離法(抗体解離液は得られない)
赤血球沈渣とZZAPを1:2で混和し37℃30分間反応。生食で3回洗浄。
目的 | 方法 | 解離液(性状) | 反応温度 | 反応時間 | 解離液(色) | 解離後血球の利用 | 試薬 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
解離 | ZZAP処理 | 解離液なし | 室温 | 30分 | 解離液なし | 可 | DTT・フィシン |
自己抗体があると疑われた際、行われる自己抗体吸着のための抗体解離法
自己血球:自己血清:PEG=1:1:2で37℃15分間反応させ、900 - 1000G(3400rpm)で5分遠心し、上清を吸収液とする。
目的 | 方法 | 解離液(性状) | 反応温度 | 反応時間 | 解離液(色) | 解離後血球の利用 | 試薬 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
吸収 | PEG吸収 | 解離液なし | 37 | 解離液なし | 解離液なし | 解離液なし | ポリエチレングリコール |
自己抗体があると疑われた際に直接、自己抗体を吸着させる方法。ZZAPを使うより簡単だが、自己抗体以外の同種抗体を吸着させてしまうこともある。
また、寒冷凝集の場合は試薬は要らず、全血で4℃に1時間保冷すれば自己吸着できる。
感染症などによってTなどの内在性抗原が露出した血球は、どんな血清・血漿とも反応するようになる。これを汎血球凝集といい、血漿成分を含む製剤の輸血は避ける。
種類 | T | Tk | Th | Tx | Tn | Cad | HEMPAS | 正常 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
原因 | 感染症 | 感染症 | 感染症・血液疾患 | 感染症 | 血液疾患 | 遺伝 | 遺伝 | |
発現期間 | 一過性 | 一過性 | 一過性・長期 | 一過性 | 長期 | 永久 | 永久 | |
Arachis hypogaea(ラッカセイ) | + | +(酵素処理で強化) | +(酵素処理で減弱) | + | 0 | 0 | 0 | 0 |
Salvia sclarea | 0 | 0 | 0 | 0 | + | 0 | 0 | 0 |
Salvia horminum | 0 | 0 | 0 | 0 | + | + | 0 | 0 |
Glycine soja(ツルマメ) | + | 0 | 0 | 0 | + | +/0 | + | 0 |
Vicia cretica | + | 0 | + | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Griffonia simplifolia | 0 | + | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Dolichos biflorus | 0 | 0 | 0 | 0 | + | + | 0 | 0 |
ポリブレン | 0 | + | + | + | +/0 | + | + | + |
※あくまでも、メンデルの法則に基づいた、単純化した理論による血液型および確率である。現実には亜型等による例外が存在する。(例・シスAB型とO型によるAB型やO型の子供など)
ABO式血液型は、人の第9番染色体に存在する複対立遺伝子によって決定する。通常、存在する遺伝子の遺伝子型はA、B、Oの3種類であって、AとBとはOに対して顕性に遺伝し、AとBとの間には顕性潜性の差異は存在しない。すなわち、2本の第9番染色体のうち少なくとも一方にA遺伝子が存在しいずれにもB遺伝子が存在しなければ表現型はA型、少なくとも一方にB遺伝子が存在しいずれにもA遺伝子が存在しなければ表現型はB型、A遺伝子・B遺伝子の双方が存在すれば表現型はAB型、2本の染色体の双方にO遺伝子が含まれる場合は潜性遺伝するO型が表現型となる。
下の表のように、表現型がA型とB型の場合は複数の遺伝子型が存在する。
A型 | B型 | O型 | AB型 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
AA | AO | BB | BO | ||||
A型 | AA | A型 (AA) 100% | A型 100% (AA 50%、AO 50%) |
AB型 100% | A型 (AO) 50%、 AB型 50% |
A型 (AO) 100% | A型 (AA) 50%、 AB型 50% |
AO | A型 100% (AA 50%、AO 50%) |
A型 75% (AA 25%、AO 50%)、 O型 25% |
B型 (BO) 50%、 AB型 50% |
A型 (AO) 25%、 O型 25%、 B型 (BO) 25%、 AB型 25% |
A型 (AO) 50%、 O型 50% |
A型 50% (AA 25%、AO 25%)、 B型 (BO) 25%、 AB型 25% | |
B型 | BB | AB型 100% | B型 (BO) 50%、 AB型 50% |
B型 (BB) 100% | B型 100% (BB 50%、BO 50%) |
B型 (BO) 100% | B型 (BB) 50%、 AB型 50% |
BO | A型 (AO) 50%、 AB型 50% |
A型 (AO) 25%、 O型 25%、 B型 (BO) 25%、 AB型 25% |
B型 100% (BB 50%、BO 50%) |
B型 75% (BB 25%、BO 50%)、 O型 25% |
B型 (BO) 50%、 O型 50% |
B型 50% (BB 25%、BO 25%)、 A型 (AO) 25%、 AB型 25% | |
O型 | A型 (AO) 100% | A型 (AO) 50%、 O型 50% |
B型 (BO) 100% | B型 (BO) 50%、 O型 50% |
O型 100% | A型 (AO) 50%、 B型 (BO) 50% | |
AB型 | A型 (AA) 50%、 AB型 50% |
A型 50% (AA 25%、AO 25%)、 B型 (BO) 25%、 AB型 25% |
B型 (BB) 50%、 AB型 50% |
B型 50% (BB 25%、BO 25%)、 A型 (AO) 25%、 AB型 25% |
A型 (AO) 50%、 B型 (BO) 50% |
A型 (AA) 25%、 B型 (BB) 25%、 AB型 50% |
科学的には血液型と性格に関係があるとはされておらず、現時点で知られている血液型性格分類はいずれも正しいとは認められていない[78]。だが1970年代から2000年代前半にかけて、多くのテレビや書籍が根拠なく分類を広めたため、いまだに血液型と性格の関連性を信じている人もいる[79]。血液型性格分類が広まっているのは、日本とその影響を受けた韓国、台湾といった一部地域だけであり、それ以外の地域では性格と血液型を関係づける習慣がなく、日本の血液型性格分類は奇妙に思われている[80]。そもそも血液型への関心自体が薄く、自分の血液型を覚えていない人も多い[81]。本人が血液型を覚えていても医療現場でそれを鵜呑みにすることはないので、輸血が必要な時などは、日本でも海外でもその場で血液型検査が行われる。
血液型によって人の性格を判断し、相手を不快や不安な状態にさせる言動はブラッドタイプ・ハラスメント(通称:ブラハラ)と呼ばれ、近年になり社会問題として取り上げられるようになった[82]。採用試験の応募用紙に血液型の記入欄があったため、改善するよう労働局から指導された企業もある[83]。厚生労働省は「血液型は職務能力や適性とは全く関係ない」と呼びかけている[83][84]。
一方で、免疫系の観点から血液型性格分類を支持する研究[85][86]や、日本の健常人において、ABO式血液型の遺伝子型と性格特性には有意な関連が認められるとする研究もある[87]。
血液型と病気の関連性については1980年代には持てはやされていたが、ヒトゲノム計画が終りつつあった2000年に、科学雑誌『Nature』にて総説が掲載され、その内容は「胃腸管に関するいくつかの形質に弱い相関が確認できるが、血液型と疾患の相関については再現性よく示されたものは無い」というものであった[88]。その後の研究では、健康面(ストレス抵抗性や病気のリスク)へあるという報告は存在している[89]。 ABO式以外の血液型では特定の血液型のみある病気にかからないというものがいくつか見つかっている(P式血液型:p型とPk型のヒトパルボウイルスB19耐性、ダフィー式血液型:Fy(a-b-)型の三日熱マラリア耐性など[90]。)が、ABO式では完全耐性の病気は見つかっておらず、下記のように相対値で数割ほど多い少ない程度の「あえて言えば」の範囲である。
免疫機構以外の病気の成りやすさで確認されているものでは、O型は血液凝固に必要なフォン・ウィルブランド因子の濃度が他の型より25%ほど低く、このため他の型よりわずかに血液が凝固しにくく、血栓が起きにくい(エコノミークラス症候群発生率がO型を基準とすると他の型は50%ほど多い)[93]。
2022年には、科学雑誌『Nature』に、ABO型血液型と腸内細菌叢に関する論文が3報発表された[94][95][96]。この3つの論文の中で、Qin Y et al. (2022)は、ABO型血液型との直接の相関関係は発見されていないが、メンデル無作為化法を使って、腸内細菌のMorganellaとRaoultellaがうつ病に因果関係的に影響がある可能性を示唆した。また、著者らが論文の中で述べているように、この検定方法はいくつかの欠落変数がある可能性を排除できないため、厳密な因果推論ではなく、あくまで腸内細菌が病気の発病に影響を与えうる可能性を今後の研究の方向性を提案するために行なったとしている(p. 139)[95]。ABO型血液型が、実際に精神疾患罹患に影響を与えるか、今後のさらなる研究が待たれる。
ニューヨークのアルバート・アインシュタイン医学校のエドワード・ネジャトが、不妊治療を受けている女性のグループに対して検査を行ったところ、O型の女性は他の血液型の女性よりも卵子の数が少なく、その質もあまりよくなく、それとは対照的に、A型の女性は卵子も多くその質も良好であることが判明した。[97]
これは560人の女性(平均年齢35未満)を対象とした研究で、O型の女性がA型の女性よりも高いレベルの「卵胞刺激ホルモン(FSH)」を持つ可能性が高いということが判明した。不妊治療の専門家からは、高いFSHレベルはその女性の卵子の数が少ないと見なされる。
A型の女性はA抗原(細胞表面を覆うタンパク質)を保有しているが、O型の女性にはこれがないため、このことも妊娠の確率に影響している可能性があると推測している。
ルイス式血液型では出生後に血液型は変化するがABO式では稀である。
ただし、上述の病気や細菌感染症で変わることは非常に稀である。現在の知見では病気やその治療以外の原因で血液型が変化することは基本的にありえないので、病気や治療などの原因がないにもかかわらず献血等で血液検査を行ったときに血液型が異なっていた場合は、本人や親の単純な思い込みや新生児での血液検査が間違っていたと考えた方が良い。
(分泌型なら)唾液中からも血液型物質が検出できるのだが、すぐに調べればわかるのに数時間ほど放置してから調べると検出不能になる事例がかなり初期から知られており、さらに採集後すぐに加熱処理すれば長時間置いても検出できるため京城帝国大学の佐藤武雄らはこれを研究した結果「口腔内の細菌が唾液中の血液型物質を分解する」ということを発見した。これはすべての型を分解するものだったが1950年代に井関尚栄らが選択的にA・B・Oの各型質を選択的に分解する酵素を発見し、例えばB型血球にB分解酵素を使うとO型血球になることが分かった(O型血球はフコースを失い、ガラクトースだけの志賀赤痢菌などに見られる異性人血球抗体を持つ血球になった。)[98]。
上記の時点では輸血に使える代物ではなかったが、2007年4月にA型、B型、AB型の赤血球をO型に変えることのできる酵素の開発に米国のハーバード大学などの国際研究チームが成功した。O型の血液はボンベイ型を除く全ての血液型の人に輸血が可能であるため、この技術が確立すれば、輸血の際に血液型を考慮する必要がほとんどなくなることとなる[99]。
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