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血液の細胞成分を形成すること ウィキペディアから
造血(ぞうけつ、英: hematopoiesis, h(a)emopoiesis[注釈 1][注釈 2])は、血液の細胞成分を形成することである。血球造血、血球新生、血球産生とも呼ばれる。すべての細胞血液成分は、造血幹細胞に由来する[2]。健康な成人では、末梢循環の定常状態レベルを維持するために、毎日約1011から1012個の新しい血液細胞が作られる[3][4][要ページ番号]。
造血幹細胞(haematopoietic stem cells、HSC)は、骨の髄質(骨髄)に存在し、さまざまな種類のすべての成熟した血液細胞や組織を生み出す独自の能力を持っている[2]。HSCは自己複製細胞であり、分化しても少なくとも娘細胞の一部がHSCとして残るため、幹細胞の蓄えが枯渇することはない。この現象を非対称分裂という[5]。HSCの他の娘細胞(骨髄系前駆細胞とリンパ系前駆細胞)は、1つまたは複数の特定種類の血球の産生につながる他の分化経路のいずれかをたどることができるが、自らを更新することはできない。前駆細胞の蓄積は不均一であり、長期自己複製HSCと、一過性自己複製HSC(短期とも呼ばれる)の2つのグループに分けられる[6]。これは、体内の主要な生命現象の一つである。
すべての血液細胞は3つの系統に分けられる[7]。
顆粒造血(または顆粒球形成)とは、顆粒球ではあるが髄外成熟を伴う肥満細胞を除いて、顆粒球の造血である[8]。
1948年から1950年にかけて、「細胞および血液・造血器疾患の命名法の明確化に関する委員会」[訳語疑問点]が、血液細胞の命名法に関する報告書を発行した[9][10]。用語の概要は、発達の初期段階から最終段階まで、次のとおりである。
英語 | 日本語訳 (参考) |
---|---|
[root]blast | [語源]芽細胞 |
pro[root]cyte | 前[語源]細胞 |
[root]cyte | [語源]細胞 |
meta[root]cyte | メタ[語源]細胞 |
mature cell name | 成熟細胞名 |
赤芽球コロニー形成単位(CFU-E)の語源は「rubri」、顆粒球-単球コロニー形成単位(CFU-GM)の語源は「granulo」または「myelo」と「mono」、リンパ球コロニー形成単位(CFU-L)の語源は「lympho」、巨核球コロニー形成単位(CFU-Meg)の語源は「megakaryo」である。この命名法によれば、赤血球形成の段階は、rubriblast(ルブリブラスト)、prorubricyte(プロルブリサイト)、rubricyte(ルブリサイト)、metarubricyte(メタルブリサイト)、そしてerythrocyte(赤血球)となる。しかし、現在では次の命名法が主流となっているようである。
委員会\語源 | "lympho" | "rubri" | "granulo" or "myelo" | "mono" | "megakaryo" |
---|---|---|---|---|---|
系統 Lineage |
リンパ球 |
骨髄 |
骨髄 |
骨髄 |
骨髄 |
コロニー形成単位 CFU |
CFU-L | CFU-GEMM → CFU-E | CFU-GEMM → CFU-GM → CFU-G | CFU-GEMM → CFU-GM → CFU-M | CFU-GEMM → CFU-Meg |
形成過程 Process |
リンパ球形成 |
赤血球形成 |
顆粒球形成 |
単球形成 |
血小板形成 |
[語源]芽細胞 [root]blast |
リンパ芽球 |
前赤芽球 |
骨髄芽球 |
単芽球 |
巨核芽球 |
前[語源]細胞 pro[root]cyte |
前リンパ球 |
多染性赤芽球 |
前骨髄球 |
前単球 |
前巨核球 |
[語源]細胞 [root]cyte |
– | 正染性赤芽球 |
好酸性骨髄球/好中骨髄球/好塩基骨髄球 |
巨核球 | |
メタ[語源]細胞 meta[root]cyte |
大リンパ球 |
網赤血球 |
好酸性/好中性/好塩基性後骨髄球, 好酸性/好中性/好塩基性桿状核球 |
初期単球[訳語疑問点] |
- |
成熟細胞名 mature cell name |
小リンパ球 |
赤血球 |
顆粒球 (好酸球, 好中球, 好塩基球) |
単球 |
血小板 |
破骨細胞は、単球/好中球系の造血細胞から発生し、特にCFU-GMからも発生する。
発育中の胚では、血島と呼ばれる卵黄嚢内の血液細胞の集合体で血液が形成される。発育が進むにつれて、脾臓、肝臓、リンパ節で血液形成が行われる。骨髄が発達すると、最終的には生体全体の血液細胞の大部分を形成する役割を担う[2]。ただし、リンパ系細胞の成熟、活性化、および一部の増殖は、脾臓、胸腺、およびリンパ節で行われる。造血は、小児では大腿骨や脛骨などの長骨の骨髄で行われ、成人では主に骨盤、頭蓋骨、脊椎骨、胸骨で行われる[11]。
場合によっては、肝臓、胸腺、脾臓が、必要に応じて造血機能を再開することがある。これは「髄外造血」と呼ばれている。その結果、これらの臓器のサイズが大幅に大きくなる可能性がある。胎児発育期では、骨やそれに伴う骨髄の発達が後になるため、肝臓が主要な造血器官として機能する。そのため、胎児発育期には肝臓が肥大する[12]。髄外造血および骨髄造血は、成人期の心血管疾患や炎症に対して白血球を供給する可能性がある[13][14]。脾臓マクロファージと接着分子は、心血管疾患における髄外骨髄細胞生成の調整に関与している可能性がある[15][16]。
幹細胞が成熟すると、遺伝子発現が変化し、なり得る細胞型が制限されることで、特定の細胞型に近づく(細胞分化と言う)。これらの変化は、細胞表面にあるタンパク質の存在を監視することで追跡されることが多くある。逐次変化を重ねる度に、細胞は最終的な細胞型に近づき、異なる細胞型になる可能性がさらに制限される。
造血について決定論と確率論の2つのモデルが提案されている[17]。骨髄中の幹細胞およびその他の未分化の血液細胞については、コロニー刺激因子やその他の造血微小環境因子が細胞の分化経路を決定するという、造血の「決定論」で説明されるのが一般的である[2]。これは造血を説明する古典的な方法である。「確率論」では、未分化の血液細胞がランダム性によって特定の細胞種に分化する。この理論は、マウスの造血前駆細胞の集団内において、幹細胞因子であるSca-1の分布に潜在する確率的変化により、細胞分化の速度が変化するグループに集団が細分化されるという実験結果によって裏付けられている。たとえば、エリスロポエチン(赤血球分化因子)の影響下では、Sca-1のレベルで定義される細胞の亜集団は、残りの集団に比べて7倍高い割合で赤血球に分化した[18]。さらに、成長が許された場合は、この亜集団が元の亜集団の細胞を再構築することが示され、これが確率的で可逆的なプロセスであるという理論が支持された。確率論が重要と考えられるもう一つの観点は、アポトーシスと自己複製のプロセスである。この場合、造血微小環境は一部の細胞を生き残らせ、そして一部の細胞はアポトーシスを起こして死滅させる[訳語疑問点][2]。異なる細胞型間のバランスを調整することで、骨髄は最終的に生成される異なる細胞の量を変えることができる[19]。
健康なヒトでは、赤血球と白血球の産生は非常に精密に調節されており、感染症にかかると白血球の産生は急速に増加する。これらの細胞の増殖と自己複製は、成長因子に依存している。造血細胞の自己複製と発達における主要な役割を果たしている一つに、造血幹細胞(HSC)上のc-kit受容体に結合する幹細胞因子(SCF)がある[22]。SCFの欠如は致命的である。他にも、インターロイキン IL-2、IL-3、IL-6、IL-7など、増殖や成熟を制御する重要な糖タンパク質成長因子がある。また、コロニー刺激因子(CSF)と呼ばれる別の因子は、委任細胞[訳語疑問点]の産生を特異的に刺激する。CSFには、顆粒球-マクロファージCSF(GM-CSF)、顆粒球CSF(G-CSF)、マクロファージCSF(M-CSF)の3種類がある[23]。これらは、顆粒球形成を刺激し、前駆細胞または最終産物細胞のいずれにも活性化を示す。
骨髄系前駆細胞が赤血球になるためにエリスロポエチンが必要である[20]。一方、トロンボポエチンは、骨髄系前駆細胞を巨核球(血小板産生細胞)に分化させる[20]。右の図は、サイトカインとそれらが生み出す分化した血液細胞の例を示す[24]。
成長因子はシグナル伝達経路を開始し、これが転写因子の活性化をもたらす。成長因子は、因子の組み合わせと細胞の分化段階に応じて異なる結果を引き起こす。たとえば、PU.1の長期間発現は骨髄系分化が進み、PU.1活性の短期的な誘導は未成熟好酸球を形成する[25]。近年、造血においてNF-κBなどの転写因子がマイクロRNA(例:miR-125b)によって調節されていることが報告された[26]。
造血幹細胞(HSC )から多能性前駆細胞(MPP)への分化の最初の主要な役割は、転写因子CCAAT/エンハンサー結合タンパク質-α(C/EBPα)である。C/EBPαの変異は、急性骨髄性白血病と関連している[27]。この時点で、細胞は赤血球-巨核球系統系に分化するか、またはリンパ系および骨髄系の系統に分化することができる。これらの系統は、リンパ球系多能性前駆体と呼ばれる共通の前駆細胞を持っている。2つの主要な転写因子があり、赤血球-巨核球系統につながるPU.1と、リンパ球系多能性前駆体につながるGATA-1である[要出典]。
他の転写因子には、Ikaros (IKZF1)[28](B細胞の発達)、Gfi1[29](Th2の発達を促進し、Th1を抑制する)、またはIRF8[30](好塩基球および肥満細胞)があげられる。重要なのは、特定の因子が、造血の異なる段階で異なる反応を誘発することである。たとえば、好中球の発達におけるCEBPαや、単球や樹状細胞の発達におけるPU.1である。プロセスが一方向性ではないことへの注意は重要で、分化した細胞は前駆細胞の属性を取り戻す可能性がある。
たとえば、PAX5因子はB細胞の発達に重要であり、リンパ腫に関連している[31]。驚くべきことに、PAX5コンディショナルノックアウトマウスでは、末梢の成熟B細胞が初期の骨髄系前駆細胞に脱分化することを可能にした。これらの発見は、転写因子が分化の開始因子としてだけでなく、分化レベルの番人として働くことを示している[32]。
転写因子の変異は、急性骨髄性白血病(AML)や急性リンパ性白血病(ALL)などの血液癌(がん)と密接に関係している。たとえば、Ikarosは多くの生物学的事象の調整因子であることが知られている。Ikarosを持たないマウスは、B細胞、ナチュラルキラー細胞、T細胞を欠いている[33]。Ikarosは、6つのジンクフィンガードメインを持ち、4つは保存されたDNA結合ドメイン、2つは二量体化のためにある[34]。非常に重要な発見は、異なるジンクフィンガーがDNAの異なる場所への結合に関与していることで、これがIkarosの多面的作用と癌への異なる関与の理由となっており、主にBCR-Abl患者に関連する変異であり、予後不良マーカーとなっている[35]。
一部の脊椎動物では、腸、脾臓、腎臓などの、結合組織の緩い間質があって、血液の供給が遅い場所であればどこでも造血が行われる[36]。
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