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白血病の一つ ウィキペディアから
急性骨髄性白血病(きゅうせいこつずいせいはっけつびょう、英: acute myelogenous leukemia、略称:AML)は、白血病の一種で、骨髄系の造血細胞が悪性腫瘍化し、分化・成熟能を失う疾患である。
正常な造血細胞は造血幹細胞から分化を始めた極初期にリンパ系と骨髄系の2系統に分かれ、それぞれ成熟していく。この造血細胞が腫瘍化したものが白血病であり、その中でも細胞が成熟能を失うものを急性白血病と呼ぶ。さらに急性白血病の中で白血病細胞に骨髄系への分化の傾向が見られるものを急性骨髄性白血病という[1]。骨髄系への分化は早い段階で止まり、正常に成熟することはない。
急性骨髄性白血病では白血病細胞は分化・成熟能に異常を来たし、白血病細胞は造血細胞の幼若な形態をとることから、芽球とも呼ばれる。急性骨髄性白血病はこの芽球が増殖する疾患である。
白血病細胞は正常な造血細胞と比べて増殖(細胞分裂)が速いわけではなく、むしろ増殖の速度は遅い[2]。正常な血球は寿命を持ち、造血が適切なコントロールを受けているために一定の数を保っている。しかし白血病細胞はコントロールを受けることなく増殖を続けるために無制限に数を増し、骨髄中で正常な造血細胞を圧倒して正常な造血を阻害し、骨髄中から末梢血へとあふれ出てくるのである[1][2]。
白血病細胞が増殖して骨髄を占拠してしまうために正常な造血が行えなくなり、赤血球、白血球、血小板が減少するために出血、易感染症、貧血などの諸症状を起こす。また、末梢血にあふれ出た白血病細胞が各臓器に浸潤し、各臓器の組織を破壊することでさまざまな症状を引き起こす[1]。
慢性白血病は急性白血病が慢性化した疾患ではない。この両群の発生機序は基本的に異なり、急性白血病が慢性化することはないが、逆に慢性白血病が急性化することは少なからずある(急性転化)[1]。
受診のきっかけとなる初期症状としては、
などがある。
健康診断で数値異常を指摘され、発見される場合もまれにはある。早期発見すれば当然症状も軽度であり、診断までの期間が遅れるほど白血病細胞は増加して初期症状の強さがまし、脾臓、肝臓やリンパ節などに浸潤して臓器腫大をきたし、さまざまな症状が現れるようになる[1]。
通常、症状が出る段階になれば血液検査にて貧血、血小板減少が認められ、病院における標準的な血液検査さえ行えば健康人の末梢血では見られないはずの芽球が出現していることが多く、血液中に芽球が出現していれば専門医でなくとも白血病を疑うのはさほど難しくはない。ただし、血液中に芽球が出現する疾患、あるいは骨髄で芽球が正常より増える疾患は急性骨髄性白血病だけではなく、したがって2008年WHO分類では骨髄中の芽球の割合が20%以上と定義している。急性骨髄性白血病では症状がでる段階まで進んでいると、すでに体内の白血病細胞の総数は膨大なものになっているので、血液内科専門医を緊急に受診する必要がある。通常は診察を担当した医師がすぐさま血液専門医に紹介を行い血液専門医のいる病院に緊急に転院させる。血液専門医は白血病が疑われる場合、すぐに骨髄検査および遺伝子検査などを行い、診断を確定する[1]。
骨髄の中には造血幹細胞から種々の血球に分化していく途中の細胞があり、それらの内のどの段階の細胞が腫瘍化したかによるFAB分類 (French-American-British criteria) に基づいてM0-M7の病型、およびそれらの亜型に分類される。FAB分類は染色を用いた顕微鏡的観察に基づくものである。近年は分子遺伝学的な観点に基づいたWHO分類が用いられてきている(下記参照)。
腫瘍細胞の形態を重視し、それに細胞化学染色(ペルオキシダーゼ染色など)を組み合わせて判断する。近年は細胞表面マーカーも診断に用いられるようになっているが、あくまで補助的なものと考えるべきである。M0、M7以外はミエロペルオキシダーゼ (MPO) 陽性である。
近年では、血液腫瘍疾患における病態生理の分子レベルでの解明に従い、分類の再構成が試されてきた。その結果、2000年にはWHO造血器・リンパ組織・腫瘍分類が発表され(第3版)、さらに2008年に改訂された(第4版)[3]。 第4版においては大きく7つのカテゴリーに分類されている。
本記事は「急性骨髄性白血病」であるが、ここではWHO分類に準じて「急性骨髄性白血病および関連前駆細胞性腫瘍」に関して記載する。
治療は抗がん剤を用いた強力な化学療法が主体となる。このため抗がん剤の臓器毒性や合併症に耐えられるかを、年齢、全身状態、合併症有無とその程度などから評価して治療内容を決定する。 治療は寛解導入療法と寛解後療法からなる。全身に存在する白血病細胞を化学療法で減少させ、顕微鏡検査で白血病細胞が認められない状態(これを寛解という)に到達させるのが寛解導入療法である。しかしこの段階では白血病細胞は残存している(これを微小残存病変(minimal residual disease:MRD)という)ので、さらに化学療法を行い残存している白血病細胞の全滅(Total cell killと呼ばれる)を図る。これが寛解後療法である。実際には寛解後療法はある一定以上を継続しても再発率はそれ以上減少することはなく、治療に伴う有害事象の方が大きくなるので、寛解後療法の回数は4回までとなる。完全寛解の状態が5年続けば再発の可能性は低く治癒とみなしてよいとされている[1]。なお急性リンパ性白血病では有用な維持療法は、AMLでは有用性は示されていない。
全身状態が不良な場合は治療関連死の危険が高いため、症状の緩和に努めるという選択もある。
以下の治療法が選択されうる。
基本戦略は、サルベージ療法によって再度寛解に導入し、寛解導入と同程度、あるいはそれ以上の強度で寛解後療法を行い、最終的に同種造血幹細胞移植を行うことである。標準的な治療法が確立されている訳ではないが、以下の治療法があげられる。
など
高用量シタラビンを中心とした治療法または新規薬剤
APLが他のAMLと区別される最大の特徴はオールトランスレチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法が有効なことである。この薬剤の登場によりAPLはAMLのなかで最も予後良好な群となった。しかしAPLは線溶亢進を伴う重篤な播種性血管内凝固症候群を合併するため速やかに治療を開始する必要がある[11]。またATRA治療中にAPL分化症候群[註 2]と呼ばれる急激な白血球増加や発熱、浮腫、ARDS様の呼吸不全、腎不全、心不全を生じることがあるため、治療には注意を要する。レチノイン酸症候群が発症した場合はATRAを休薬し副腎皮質ホルモンを投与する。なお、ATRA治療中は、絶対にトラネキサム酸を投与してはならない(参考記事)。
原則としてアントラサイクリン系と標準量シタラビンとATRAを併用する。白血球数・APLともに少ない場合はATRA単独でもよい[12]が、この場合でも白血球数が増加した場合にはアントラサイクリン系と標準量シタラビンを追加する。
アントラサイクリン + 標準量シタラビン (+ エトボシド)[註 3]を3コース行う。 上記治療後にPCR検査でPML-RARAが陰性であれば、経過観察でよい(追加の多剤併用化学療法は成績を改善せず、有害事象が多いため)[12]。
亜ヒ酸により再度寛解に至ることが多い[1]ので、亜ヒ酸 + アントラサイクリンによる治療が第一選択となる。ただし亜ヒ酸は致死的不整脈を起こす危険があるなどの副作用も多い。また引き続き亜ヒ酸を含む化学療法を寛解後療法として行うが、再発も多い[13]ため、PCR検査でPML-RARAが陰性であれば自己造血幹細胞移植を行う。陽性であれば同種造血幹細胞移植を考慮する。 亜ヒ酸が使用できない場合は、ゲムツズマブオゾガマイシンやタミバロテンが用いられる。
造血幹細胞移植では、致死量をはるかに超えた大量の抗がん剤と放射線[註 4]によって白血病幹細胞を含めて病的細胞を一気に根こそぎ死滅させることを目指す(前処置という)。しかし、この強力な治療によって正常な造血細胞も死滅するので患者は造血能力を完全に失い、そのままでは患者は確実に死亡する。そのためにHLA型の一致した健康人の正常な造血幹細胞を移植して健康な造血システムを再建する必要がある[14]。
しかしこの方法(通常移植の前処置)はあまりに強力なため、体力の乏しい患者や高齢者は治療に耐えられない。そのためミニ移植という手段もある。ミニ移植では前処置の抗がん剤投与や放射線治療はあまり強力にはしない。そのために白血病幹細胞は一部が生き残る可能性は高いが、移植した正常な造血システムによる免疫によって残った白血病幹細胞が根絶されることを期待する。ただし、ミニ移植でもかなり強力な治療には違いないので、すべての患者が適応になるわけではない[15]。
以下の分子標的治療薬が開発研究進められており、上記化学療法との併用治療が検討されている。FLT3阻害薬であるギルテリチニブとキザルチニブは再発または難治のFLT3-ITD変異陽性例に対して認可されている。
細胞増殖促進の受容体型チロシンキナーゼである「FLT3:FMS-like tyrosine kinase 3遺伝子」の阻害剤として、FLT3遺伝子変異陽性AMLに対する薬剤として以下がある。
「イソクエン酸脱水素酵素:IDH」のIDH1/IDH2遺伝子変異陽性AMLに対する薬剤として以下がある
急性骨髄性白血病の発症率は年間人口10万人あたり3-4人と考えられている[16][17]ので年間人口10万人あたり500人強罹患[註 5]するがん全体の中ではまれながんである[18]。しかし、他のがんは青年者ではほとんど罹患しないので青年者のがんの中では急性骨髄球性白血病はもっとも頻度が高く、また青年者の死亡のなかで急性骨髄性白血病による死亡は事故死についで多い[19]。
とはいえ急性骨髄性白血病は若年者も発症するものの、高齢者の発症率はより高いため、人口の高齢化とともに発症率は増加している[16][17]。
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