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警察官職務執行法第2条に基づく行為 ウィキペディアから
職務質問(しょくむしつもん、英語:Police Questioning)とは、警察官職務執行法第2条に基づき、日本の警察官が異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問する行為。第二次世界大戦前の日本では不審尋問と称されていた[1]。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
職務質問の内容は通常、行先や用件から住所、氏名、年齢、職業、さらに所持品などに及ぶ。職務質問をその場で行うことが本人にとって不利となり、あるいは交通の妨害となるときには、付近の警察署、交番などに任意同行を求めることができるが、相手方の意思に反して連行したり、答弁を強要することはできない。判例では、その者が逃げ出したので追跡して腕をかけて停止を求める行為は正当な職務執行の範囲内としている[2]。
一般的に、警察官による職務質問は行政警察作用とみなされており[3][注釈 1]、「何らかの犯罪」について捜査の端緒を得ること等を目的として行われる。
職務質問をきっかけとして犯罪が発覚することもあるが[4]、他の警察官に職務質問の指導を行う「職質のプロ」であっても、一晩で30人以上に声を掛けても検挙者が0人である日も珍しくない[5]。職務質問は警察官にすれば、犯罪検挙の有力な武器であるが、市民の協力を前提とする任意の手段であるため、相手方が何らかの理由で拒否するときには、説得して応じてもらうほかない。そのため、警察官には難しい技能が要求される。警察では警察官の職務執行力強化のために職務質問能力向上のための研修や、職務質問技能指導官による実践的な指導により、警察官全体の技能の向上が目指されているが、ジャーナリストの原田宏二は「十分な成果が上がっていないのが現状だろう」としている[6]。なお、原田は地域警察官13万9000人に対し、年間の職務質問による検挙件数は3万5334件であることを理由に挙げて、「地域警察官の職質による検挙は、決して市民が期待するような成果を上げていない」としている[6]。
国民の権利を侵害しない様、無制限な職務質問の乱発・濫用を防ぐ目的で、活用は必要最小限に留めるよう定められている。
警察官による職務質問の法的根拠は、警察官職務執行法(警職法)2条1項である[9][10]。同条には警察官による質問、同行、凶器所持検査の権限が明記されている[9]。以下警職法第2条を列挙する。
同法第2条第2項が定めているのが任意同行である。上記のように、同項が定める任意同行とは、その場の職務質問が、質問される本人に不利である、または交通の妨げになる場合に、付近の警察署に同行を求めることができる、というものである。任意同行は、職務質問の1つのバリエーションである[10]。
なお、警察法2条1項[注釈 2]は組織規範であって、通常、職務質問のような具体的職務権限を基礎づける根拠とは解されていない[11]。警察法2条1項所定の目的を逸脱して行われた職務質問は違法といい得るが、あくまで根拠規範は警職法2条1項である。ただし、警職法2条3項は刑事訴訟法や刑事訴訟規則の規定や令状に依らない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはないと定めている[10]。
職務質問を適法に行うことのできる要件は、以下のとおり、警察官職務執行法2条1項に細かく定められている。
1. は、挙動不審者に対する質問を規定し、2. は、犯罪に関係する者への質問を規定している。1. の要件は、不審事由(ふしんじゆう)といわれる。
このように、警察官職務執行法第2条1項に明記されている、職務質問に必要な「停止と質問」の要件は相当に厳しい[9]。
これらの要件が備わっているかどうか(適法な職務質問かどうか)は、職務質問をする警察官の主観的判断によって決定されるのではなく、「普通の社会人がその場合に臨んだら当然にそう考えたであろう客観性」が必要という事になっている。このように、客観的に要件が備わっていることが要求されるため、単なる主観だけの職務質問は許されないが、警察官独自の知識、経験その他の自身だけが知りうる情報を併せて合理的な不審点が認められる場合は許される。
しかしながら、現実の職務質問においてこれらの要件は守られておらず、警察官はとにかく無差別に通行人を呼びとめて質問しているという見解がある[12]。また、「職務質問の違法性」が判決において認められるケースが後を絶たない[12]。例えば、明確に所持品検査を拒否されたにもかかわらず、令状を取らないまま荷物を検査し発見された犯罪行為の証拠品について、当該所持品検査は違法であるとした裁判例(京都地裁)がある[13]。
職務質問は、任意の捜査であるため原則として腕を掴むといった有形力は行使できないが、犯罪予防という目的との兼ね合いで判断される [14]。つまり、比例原則に従って判断される。ただし、強制手段にあたる場合には、直ちに違法とされる(強制処分法定主義)。
職務質問で許容される有形力行使の限界に関しては、任意性を厳格に求めるものから、強制捜査に至らないなら広く自由の制約を認める説まであり、学説が対立している[15]。
職務質問の要件が備わっている場合には、具体的状況に応じて、「質問を継続する」という目的の達成手段としての行為も適法とされ得る。たとえば、最高裁判所で問題となったものとしては、質問に応じるよう説得する行為、質問の対象者が閉めようとしたドアを押し開けて足を挟んでドアが閉まらないようにする行為[16]、質問対象者が運転する自動車のエンジンを切ってエンジンキーを抜き取る行為[17]、質問途中で逃走を図った対象者を追跡して、その腕をつかんで停止させた行為[18]、などがある。
職務質問に際して、対象者の携行品を取り出して調べたり、中身を検査したり、身につけている衣服等の検査をすることが一般的に行われている。このことを所持品検査と呼んでいる[19]。所持品検査を行うことが主目的で職務質問を行っているとさえ言われているが、所持品検査を明確に定めた法律は存在しない[19]。
それにもかかわらず、衣服や携帯品の上から手で触る程度の手段は対象者の承諾なしに実施できるという解釈が一般的に通用している[20]。また、職務質問に付随する活動として、所持品検査を実施することが、判例上認められている。
例えば、米子銀行強盗事件で最高裁は所持品検査を、職務質問の付随行為だと位置付け、必要性、緊急性、相当性が認められれば、対象者の合意は不要であると判示している (最高裁第3小法廷判決、昭和53年6月20日、刑集32巻4号670頁) [21]。一方で、一般的基準として同じものを用いながら、違法とした判例も存在する (最高裁第1小法廷判決、昭和53年9月7日、刑集32巻6号1672頁)。
その他の例では、施錠されていないバッグのファスナーを開けて中身を一瞥する行為を適法とした判例がある[20]。その一方で、対象者の上着のポケットに手を入れて行う所持品検査、自動車を停止させて車内を細かく調べる検査、被疑者が逃げたので取り押さえて靴下の中にある覚せい剤を取り出した行為を違法と判断した判例が存在する[20]。このように、任意手段の限度を超えた所持品検査の適法・違法の判断は判例によって異なっている。
職務質問は、「何らかの犯罪」といったような抽象的な犯罪の予防等を目的とする行政警察活動であるから、具体的な犯罪の事件処理に向けて行われる司法警察活動であるところの捜査とは区別される。しかし現実には、職務質問における司法・行政警察活動の境目はあいまいであり[22]、職務質問、強制に至らないまでの実力の行使、所持品検査の方法など、合法・非合法の判断は極めて難しい[23]。特に、初めから犯罪捜査を目的として職務質問を行うことについては争いがある[3]。
職務質問から犯罪捜査へと移行する例は多い。その場合、職務質問の段階における違法は、それに引き続き行われた捜査(取調べ等)の違法に影響する[24]。職務質問の実質が捜査に相当するなら、職務質問と言えども警察官職務執行法だけでなく刑事訴訟法による規制も受けることは論をまたない[3]。
警察官は不審な点があるかどうかにかかわらず、通行人や通行車輌を停止させて質問を行うことがある。自動車に対する交通検問が、その典型である。
各都道府県警共は、年間の職務質問による検挙実績の目標 (ノルマ) を課しているだけでなく、組織として職務質問奨励策をとっている[23]。
具体的には、地域警察官に対する「職務質問競技会」を開く、職務質問による犯罪検挙強化月間の実施を行う、職務質問による犯罪検挙を表彰の対象にする、 などである[23]。なお、警察の現場では、警察官は積極的に職務質問をするよう指示されているが、要件や限度に関しては指導されていない[23]。必然的に無理な職務質問が横行し、警察官職務執行法第2条1項にある職務質問の要件を欠いたり、任意性の限度を超えた職務質問がまかり通っている[23]。
民主主義の日本では、人権を保障する日本国憲法が存在し、日本の公務員は日本国憲法第99条により、憲法尊重擁護義務を負う。現行犯である以外では、日本国憲法第34条が不当な拘束を禁じている。このため、職務質問は被疑者の同意が無ければ行えない、任意の行為である。そのため、強制的な逮捕や捜査には令状が必要であり、これに反して行われた職務質問は、違法収集証拠排除法則に則り無効となる。
2004年(平成16年)と2006年(平成18年)の2度、国家公安委員長(1996年(平成8年) - 1997年(平成9年))を歴任した白川勝彦が、本人の弁で犯罪性のない状態で職務質問を受けるなど、職務質問が濫用されたとしている[25]。令状のない状態で腕を掴むなどの実質的な拘束や[26]、令状のない状態での捜査による逮捕が、違法な捜査であるとして無罪が言い渡された判例があり[27]、2014年(平成26年)には、裁判官もこのように警察官が無理解である状態に言及し、今後の違法捜査を抑制するために無罪を言い渡したとも述べている[27]。
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