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磁石の作用を用いて方位を知るための道具 ウィキペディアから
方位磁針(ほういじしん、英: compass コンパス)は、磁石を用いて方位を知るための道具[1]。方位磁石[2]、あるいは単に「磁針」とも呼ばれる。
ナビゲーション(航海術)などに使うための道具として仕立てられた方位磁針は伝統的には「羅針盤(らしんばん)」と呼ばれた[3]。より複雑な羅針儀(らしんぎ)は水平を維持するジンバルと呼ばれる機構と、全周の360度に目盛を付けたコンパスカードと呼ばれる板からなる[4]。また、振動等を軽減する機構をもつ磁気コンパス(電子コンパス)というタイプもある。。また、方位磁針は中国からシルクロードを使って日本に渡ってきた。
方位磁石は地磁気を利用した道具であり、磁石を自由に動くようにしておくと南北を指し示す性質を利用して方位を知るための道具である[5]。
方位磁針は、N極とS極がそれぞれ一つずつ現われるように着磁されている磁石を、自由に回転できるように支持したものである。N極を各地点でのほぼ北方向に、S極をほぼ南方向に向けた状態で停止する。
なお方位磁針が実際に指示する方向は局所的な磁界の方向であり、地図上の厳密な真北および真南を指してはいない[6]。そのズレの角度を「偏角(へんかく)」と言う。しかもそのズレ(偏角)は場所によって異なり、また時間によっても変化する[6]。例えば札幌では磁北の向きが「地図の北」よりも約9度西にずれており、それに対し那覇ではそのずれは約5度である[6]。
この局所的な磁界の方向と実際の真北および真南のなす方向との違いは、「偏差」と「自差」により説明される[7]。
方位磁針は素朴な作り方としては、縫い針(やまち針や短い針金など)に磁石をこすりつけ磁気を帯びさせ、それを小さな木の葉(発泡スチロール片、小さな木片、折り紙で作る小舟など)に乗せ水に浮かべるといった方法でも実現することができる[8][9]。
方位磁針が指示する方向は、後述する自差を無視できるとき、地磁気による磁気子午線上の北(磁北)と南(磁南)を結ぶ方向である(「磁針方位」という)。この磁針方位と、厳密な北(真の子午線上の北、地軸と地球表面の北側の交点、すなわち真北)および厳密な南(真の子午線上の南、地軸と地球表面の南側の交点、すなわち真南)を結ぶ方向とがなす角度は、現在の地球表面付近の多くの場所において0ではない。この角度を「偏差」(または「磁気偏角」あるいは単に「偏角」)と呼ぶ[10][11]。偏差はバリエーションとも呼ばれ、記号では「Var.」と略記される[12]。 偏角の向きおよび大きさは、地球上の地域によって異なり、時間的にも常に変化している[13][12]。一年間に生じる偏差のずれを年差という。
磁北が真北より右に傾いている場合を偏東(または偏東偏差)、左に傾いている場合を偏西(偏西偏差)といい、例えば「偏東〇°〇〇′」等と表現する[12]。日本国内の偏角は、国土地理院地磁気測量ホームページで概算でき[14]、地形図(国土地理院発行基本図)にも「磁針方位は西偏約〇°〇〇′」等と偏差が明示されている[15]。2015年現在の日本列島の概略の偏差は、沖縄で西偏5度、九州・四国・本州では西偏7度から西偏8度、北海道で最大西偏10度である。日本国外では、地域によっては数十度にも達する。
登山などで方位磁針とともに地形図などの地図を用いる際に方位磁針のみにより正確な真北を知りうるためには、偏差の角度に合わせた磁北と磁南を結ぶ直線を例えば数センチ間隔で分度器等により正しい角度で予め図面上に書き入れておくことが有用である。また、航海用の海図には、羅針図(コンパス図・コンパスローズ)が図面上に描かれている。これは同心円の大径円により真方位目盛を、また小径円により磁針方位目盛を描いたものであり、偏差を反映した方角を簡単に読み取ることができるようにしたものである。なおこの場合の偏差の値については、コンパス図中に「偏差(測定年)年差」の順に、例えば「Var. 9°-00′W(1989) 2′.0 W ann.」のように記載されている。
地磁気の北極については、実際の地磁気が鉛直下向きとなる北磁極がカナダの北方海上部に、また、地球を磁気双極子に見立てたときのN極(「地磁気北極」)はグリーンランド北西に位置している。これに対し、地磁気の南極については、実際の地磁気が鉛直上向きとなる南磁極は南極大陸近辺の海上部に、また、地球を磁気双極子に見立てたときのS極(「地磁気南極」)は南極大陸の陸上部に位置している。なお、これら北磁極および南磁極の近辺では方位磁針は誤差が大きい。なおバイカル湖の北にはあたかも磁極があるかのような地磁気の異常分布が存在し、これが1800年頃から顕著になっている。
方位磁針は近くに鉄製品や磁石があるとその影響を受けて磁気子午線上の北(磁北)とも若干異なる方向を指すことがある。この差を「自差」と呼ぶ[12]。自差はデビエーションとも呼ばれ、記号では「Dev.」と略記される[12]。船舶の場合、エンジンやモーター類などがその原因となる。具体的な自差の出方は、方位磁針の種類により異なり、また、船首方向の転換、船体の傾斜、積荷の移動、落雷などの影響を受け一定しない[12]。
スマートフォンに内蔵された電子コンパスは、スマートフォンの部品が発する磁気に影響を受けエラーが発生することがあるため、電子コンパスモジュールを製造している旭化成エレクトロニクスでは、キャリブレーションとしてスマートフォンを8の字に回す方法を推奨しており、特許も取得している[16][17][18]。
磁力線は赤道付近以外では地面と平行に走っているわけではなく、北半球の多くの地域の場合、地面の中に向かって突き進むような方向に走っている。そのため針が斜めになってしまわないように、S極側を重くすることで釣り合わせている[19]。
なお、均一の重心の方位磁針では、東京だと47度上下にお辞儀をしてしまう。[20]
なお方位磁針の近くに他の磁石、大きな金属物体(たとえば金属製の大きな本棚・商品棚・冷蔵庫など)、使用者が身に付けた金属物体(たとえばスチールヘルメット・銃器・刃物や工具など)、直流電流などが流れている電線、電流が流れている電磁石などがある場合も、その影響を受け、その場の磁界が変化し、方位磁針が指す向きは変化する。したがって正確な磁北を知りたい場合はそれらのものを遠ざけて方位磁針を使用するべきだ、とされている。
反対にそうした性質を利用して、学校の理科の授業で方位磁針を用いて、電磁石の実験、アンペールの実験の再現、アンペールの法則を確認する実験などが行われることがある。
11世紀の中国の沈括の『夢渓筆談』にその記述が現れるのが最初だとされる。沈括の記述した方位磁針は24方位であったが、後に現在と同じ32方位に改められた。
原型となるものとしては、方位磁針相当の磁力を持った針を木片に埋め込んだ「指南魚」が3世紀頃から中国国内で使われていた[21][22]。指南魚を水に浮かべることで、現代の方位磁針とほぼ同様の機能を実現する。名前に「魚」とつくのは、多くの場合木片を魚の形に仕上げ、魚の口の部分が南を向くようにしたもの(文字通り「南を指す魚」=「指南魚」)が使われていたため[22]。
方位磁針の改良によって航海術は著しく発達し、大航海時代が始まった。
実用的な方位磁針として最初に出現したのは、容器に入れた水の上に磁針を浮かせることで自由な回転と水平面の確保を同時に実現する方法だった。この方位磁石の欠点は、激しく揺れる船上で正確に方位を知るのが難しい点である。揺れる船上で方位を知る装置として、宙吊り式羅針盤が開発された。
ただ19世紀になると船体に木材ではなく鉄などの金属を使う船が普及し始めるが、これらの金属船では方位磁針が船体の金属の影響を受け、正確な方位を知るのが難しくなる。このためそれらの船では代わりにジャイロコンパスが方位を知るための手段として用いられるようになった[22]。
方位磁針は、その用法と縁への方位の記し方により、本針と逆針とに分類される。
本針(ほんばり)とは、針の示す方向に縁に記してある北が合致するよう、手に持って水平に回転して方位を確認する形態の方位磁針である。方位磁針の縁には、上に北、右に東、下に南、左に西と記してある。一般的な方位磁針は全てこれ。
逆針(さかばり)とは、船体などに固定して、針の示す方向の縁に記してある方位を進行方向の方位として確認する形態の方位磁針である。方位磁針の縁には、船首方向には北(子)、右舷方向には西(酉)、船尾方向には南(午)、左舷方向には東(卯)と記してある。
揺れる海上では、手に持って体を水平に回転させるよりも、船に固定したほうが使い易い。針上に記されているN極と縁に記されている方位が合致したとき、その船はその縁に記された方位に向かっていることとなる。例えば、船が東に向かっている場合には、針のN極は左舷方向である東(卯)を指しているので、船が東(卯)の方向に向かっていることが判る。先述の軍用コンパスや羅針儀にも類似する仕組みが見られる。
日本の航海用語で船の右方向への旋回のことを「面舵」と言うが、これは元来「卯の舵」であり、舵の柄を左舷壁(逆針の縁に卯と記されている)方向へ寄せることを意味している。同様に、左方向への旋回を指す「取舵」は「酉舵」、つまり舵の柄を右舷壁(逆針の縁に酉と記されている)方向へ寄せることに由来する[23]。
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