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本居宣長による源氏物語の注釈書 ウィキペディアから
『紫文要領』(しぶんようりょう)は、江戸時代中・後期の国学者である本居宣長(1730年 - 1801年)による源氏物語の注釈書である。「もののあはれ」を初めて体系的な形で提唱したことで知られる。弟子による写本である東京大学図書館本居文庫蔵本は『源氏物語玉の小琴』の内題を持っている。
本書は上下2巻計140丁からなるもので、本書の大部分(上巻の後半から下巻の前半部分にかけて)を占める「源氏物語本意のこと」において『源氏物語』の主題を「もののあわれ」であるとする論を展開している。同時期に成立したとされる歌論『石上私淑言(いそのかみささめごと)』とともに宣長の「もののあわれ」文学観の成立を示すものである。宣長は奥書において本書の内容は誰かに学んだものではなく自分で考えたことであるとしており、本書はあくまで「習作」であるとしている。現存する自筆本には長年にわたると見られる無数の加筆訂正削除の跡が見られる。宣長は本書を版本として刊行することもなく、手元の写本を人に見せることはほとんどなかったとされるものの、門人による写本が少なくとも一部現存しており、東京大学図書館の本居文庫に所蔵されている。
本居宣長はほぼ全生涯にわたって源氏物語に深い関心を寄せ続けており、20歳ころのものと思われる『源氏物語』の語釈をとりまとめた『源氏物語覚書』をはじめ『源氏物語』に関する著作も多いが、宣長が34歳のときに完成した本書は、宣長による最初のまとまった『源氏物語』論であるにもかかわらず、長年の考察の末68歳になってまとめられた『源氏物語玉の小櫛』と比べても論旨が変わる部分はほとんど無い。
本書の奥書によれば、本書は宝暦13年6月7日(1763年7月17日)に脱稿したものであり、同年5月25日(1763年7月5日)の賀茂真淵との対面後本格的に『古事記』や『万葉集』の研究を始める前に、それまで行ってきた『源氏物語』研究に一区切りつけてその成果をまとめたものであるとされる。
この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
比較的小さないくつかの章に分けて『源氏物語』の作者、本文、注釈などについての考察を行っている。この部分は安藤為章の『紫家七論』による部分が多いが、宣長独自の考察も多く含まれている。
『源氏物語』の主題について、上巻の後半部から下巻の前半部分にかけて本書の中で最も分量を割いて論じられている。最初にそれまで主流であった仏教思想や儒教思想に基づいて『源氏物語』を理解しようとする姿勢を批判し、『源氏物語』は勧善懲悪の書であるとの論を否定している。次に『源氏物語』の本文中の「物語」について触れた部分を挙げ、そこに何が書かれているのかを調べて『源氏物語』が「物語」をどうとらえているのかを探っている。特に蛍の巻において光源氏が玉鬘にたいして語っている「日本紀にはたいしたことは書いていない。物語にこそ本当のことが書いてある」との論を重要視している。これについては虚構の設定の中で本当に主張したいことを述べようとしているとして、鈴木日出男などが主張する物語虚構論につながるものであるとの見解もある。そのような考察の結果『源氏物語』の本意を「もののあわれ」であるとしている。
本書『紫文要領』は存在・書名・おおよその内容については宣長の生前から弟子や関係者の間ではある程度は知られていたとみられるものの、刊本として出版されることはなかった(下記にあるとおり本書の初めての「印刷本」は昭和時代になってから『本居全集』を出版する際にその中におさめられたものである)ために、「宣長が認めた完成形」が存在しない(あえて言えば大幅な加筆の上晩年になって完成した『源氏物語玉の小櫛』が唯一の「宣長が認めた完成形」であると見ることもできる)[独自研究?]。
宝暦13年成立の自筆稿本は三重県松阪市の本居宣長記念館に所蔵されており、通常活字本はこれを底本にしているが、これは宣長本人によって多くの書き込みや抹消がなされているものであり、どの形のものを本書の本文にするかという解釈上の問題が存在する。
このほか安永6年(1777年)時点のものを門人が書写したものが東京大学図書館本居文庫に所蔵されており、以下はこれを翻刻したものである。
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