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日本における殺人罪(刑法第199条) ウィキペディアから
殺人罪(さつじんざい)とは、人を殺すことを内容とする犯罪であり、広義には刑法第2編第26章に定める殺人の罪(刑法199条〜203条)を指し、狭義には刑法199条に規定されている殺人罪を指す。日本の刑法における殺人罪は故意による殺人をいい(刑法38条参照)、過失により人を死に至らしめた場合は過失致死罪(刑法210条)となる。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
旧・刑法では謀殺罪と故殺罪に分けられており、あらかじめ謀って殺害した場合や、毒物を用いて殺害した場合は謀殺罪、それ以外の場合は故殺罪とされていた。また故殺罪の中でも、その態様によって細かく区分され、それぞれ法定刑が異なっていた。しかし、現行法ではこのような区別は存在せず、いかなる態様であっても、故意に他人を殺害した場合は殺人罪が成立しうる。そのため、諸外国と比べても包括的な犯罪類型であり、法定刑もかなり広くとられている。
本罪の客体(対象)は「人」である。人の始期(胎児の区別)と終期(死者の区別)については問題となる。
日本法は属地主義(犯罪が行われた場所が日本国内・日本船籍船内・日本籍航空機内である場合に適用される)を原則としている。しかし、人命はきわめて貴重なものであるがゆえに、殺人罪については属地主義に限定せず広い範囲で適用されることが規定されている。
したがって、国内犯(刑法1条)はもちろん、国民の国外犯(刑法3条)、国民以外の者の日本国民に対する国外犯(刑法3条の2)にも適用がある。
本罪の客体は「人」である。
本罪の性質上、この「人」には法人は含まれず自然人のみを指す。また、行為者以外の他人であることが必要で自殺は殺人罪とはならない。
殺人罪は故意犯である(刑法38条1項)。殺人の故意はなかったが、暴行・傷害によって他人を死に至らしめた場合には、殺人罪ではなく傷害致死罪となる。殺人の故意も暴行・傷害の故意もないが過失によって人を死に至らしめた場合には過失致死罪(または、その特別類型である業務上過失致死罪や重過失致死罪等)となる。
殺人罪の法定刑は、死刑または無期もしくは5年以上の懲役である。2004年(平成16年)の刑法改正により、従来の「3年以上」から刑の下限が引き上げられた。もちろん、法律上の減軽や酌量減軽により5年未満の刑を宣告することは可能である。
なお、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織的犯罪処罰法)の適用を受ける場合には、法定刑は死刑または無期もしくは6年以上の懲役に加重される(組織的犯罪処罰法3条1項3号)。
心神喪失の状態で人を殺しても責任が阻却され、殺人罪は成立しない。ただし、殺人罪は重大な法益侵害行為であることから、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律における「対象行為」に該当し、裁判所は、心神喪失の状態で殺人を行った者に医療を受けさせるために入院させる決定等をすることができる。
未遂も罰せられる(刑法203条、殺人未遂罪)。未遂とは殺害行為に着手したが相手が死ななかった場合である。相手が怪我をしたにとどまる場合は法条競合として傷害罪ではなく殺人未遂罪のみが成立する。被害者が無傷の場合でも暴行罪や脅迫罪ではなく殺人未遂罪のみ成立する(たとえば、殺害を意図して拳銃を撃ったが弾がはずれた場合)。殺人未遂罪で逮捕されたあとに被害者が亡くなった場合は、殺人罪に変更される。
なお、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織的犯罪処罰法)の適用を受ける場合には、同法に従って処罰される(組織的犯罪処罰法4条)。
以下の犯罪は、殺人罪が成立する場合は同時に成立することはない。
以下の犯罪の実行により殺人が行われた場合には包括一罪又は観念的競合として、殺人罪より重い罪である以下の犯罪の刑罰のみによって処罰され、さらに殺人罪として独立に処罰されることはない。
加害者に殺人の故意がなくても(被害者の死亡結果に対する認容がない、または検察官が立証できない場合においても)、殺人罪同等の罪が問われるもの。
殺人罪同等の責任を問うには加害者の故意があることを要し、独立に殺人罪を構成する。この場合、元の罪は包括一罪として殺人罪に含め評価される。
致死の結果について加害者の故意がある場合、殺人罪のみが成立し当該犯罪を構成しないもの。
予備も罰せられる(刑法201条、殺人予備罪)。法定刑は1月以上2年以下の懲役である。殺人の実行の着手以前の準備行為をいい、殺人を犯す目的で凶器や毒物を用意して現場の下見を行う場合などがこれにあたる。殺人を犯す目的を必要とする目的犯である。
政治目的のために殺人予備をした場合は破壊活動防止法が適用されるため、5年以下の懲役または禁錮に処される(破壊活動防止法39条)。
奥崎謙三は首相である田中角栄の殺害を計画し『田中角栄を殺すために記す』と題する本を自費出版するなどしたが、殺人予備罪で書類送検されている(後に不起訴)。
なお、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織的犯罪処罰法)の適用を受ける場合には、法定刑は5年以下の懲役に加重される(組織的犯罪処罰法6条1項1号)。
刑法200条には、自己または配偶者の直系尊属を殺害した場合には、死刑又は無期懲役に処するという尊属殺人が規定されていたが、刑罰が極端で尊属の尊重という刑罰目的を達するに必要な合理的限度を越えているとして1973年(昭和48年)に最高裁判所で違憲判決が確定した(尊属殺重罰規定違憲判決)。以後は法務省の通達により適用されず、1995年(平成7年)の刑法改正に伴い削除された。
2010年(平成22年)4月に施行となった「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(平成22年法律第26号)」により、殺人罪等が適用される死刑に相当する凶悪事件において公訴時効が廃止された。(ただし現住建造物等放火罪は廃止されず公訴時効が25年に延長された)。
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