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裁判外紛争解決手続の一つ ウィキペディアから
あっせん(斡旋)とは、裁判外紛争解決手続の一つである。主に労働分野において、公的な紛争解決機関の力を借りて、労使双方の主張の要点を確かめ、事件が解決されるように努める話し合い手続のことである。企業において、使用者と労働者(正規・非正規は問わない)との間で各種の労働条件(賃金、解雇、配置転換、いじめ・嫌がらせ等)に関して紛争が発生した場合に、あっせん員が両者の間に入り、紛争解決に当たる。日本においては労働関係調整法(集団労働紛争)、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(個別労働紛争)等を根拠法とする。
あっせんの利点は手続きの簡易なことにある。あっせんは短時間(通常、両当事者が出頭した当日)で終了し、手続きの費用も無料である。裁判等と異なり両当事者が直接顔を会わせることはなく、法令解釈のみでは白黒つけがたい事案の合意による解決を目標としている。
過去の法令では「斡旋」と表記していたが、「斡」の字が常用漢字でないため、現行法では法令上はひらがな表記の「あっせん」である[1]。
労働関係調整法に定める三つある労働争議調整手段(あっせん、調停、仲裁)の一つである。手続が簡易で機動的なため、三つの手段の中で最も多く用いられている[2]。
労働争議が発生したときは、労働委員会の会長[3]は、関係当事者の双方若しくは一方の申請又は職権に基いて、あっせん員名簿に記されている者の中から、あっせん員を指名しなければならない。但し、労働委員会の同意を得れば、あっせん員名簿に記されていない者を臨時のあっせん員に委嘱することもできる(労働関係調整法第12条1項)。あっせん員の指名は、一事件につき2名以上でも差し支えなく(昭和22年5月15日労発263号)、多くの労働委員会では公・労・使の3名(三者構成)のあっせん員で構成している[4]。
労働委員会は、あっせん員候補者を委嘱し[5]、その名簿を作製して置かなければならない(労働関係調整法第10条)。あっせん員候補者の氏名、閲歴等は、少なくとも年一回中央労働委員会にあっては官報に、都道府県労働委員会にあっては当該都道府県公報に公示するとともに、適宜新聞紙等によって公表するものとする(労働委員会規則第68条)。あっせん員候補者の名簿には、次の各号に掲げる事項を記載する(労働委員会規則第67条)。
あっせん員候補者は、学識経験を有する者で、労働争議の解決につき援助を与えることができる者でなければならないが、その労働委員会の管轄区域内に住んでいる者でなくても差し支えない(労働関係調整法第11条)。昭和27年の改正法施行によりあっせん員候補者と労働委員会の委員との兼職は妨げないことになった。特別調整委員とあっせん員候補者との兼職も勿論妨げない(昭和27年8月1日労発133号)。あっせん員候補者の選定基準(昭和21年10月14日厚生省発労44号)は、
あっせん員は、あっせんを開始するにあたり、関係当事者に対して、労働組合法第7条4号に規定する事項(報復的不当労働行為の禁止)及びあっせんを行うに必要な事項について、趣旨の徹底を図らなければならない(労働委員会規則第66条1項)。あっせん員は、関係当事者間をあっせんし、双方の主張の要点を確め、事件が解決されるように努めなければならない(労働関係調整法第13条)。あっせん員がその職務に関して知ることができた秘密は、漏らしてはならない(労働関係調整法施行令第6条)。あっせん員は、自分の手では事件が解決される見込がないときは、その事件から手を引き、事件の要点を労働委員会に報告しなければならない(労働関係調整法第14条)。つまり、両当事者間で合意に至らなかったり、あっせん案をいずれか一方でも拒否した場合は、あっせんは不成立となり終了する。また、あっせん員が解決の見込みがないと判断した場合は、あっせん案を作成することなく終了する場合もありうる。
あっせん員は、政令で定めるところにより、その職務を行うために要する費用の弁償を受けることができ(労働関係調整法第14条の2)、中央労働委員会のあっせん員が弁償を受ける費用の種類及び金額は、行政職俸給表(一)の10級の職務にある者が旅費法の規定に基づいて受ける旅費の種類及び金額と同一とする。このほか、費用の支給については、旅費法の定めるところによる(労働関係調整法施行令第6条の2)。都道府県労働委員会のあっせん員が弁償を受ける費用の種類、金額及び支給方法は、当該都道府県の条例の定めるところによる(労働関係調整法施行令第6条の3)。なお、あっせん員候補者が任意にあっせんを行った場合には、労働関係調整法のあっせんの規定並びに費用弁償の規定の適用はない(昭和22年8月15日長野県民生部長あて厚生省労政局労政課長通知)。
労働関係調整法第2章(あっせん)の規定は、労働争議の当事者が、双方の合意又は労働協約の定により、別のあっせん方法によって、事件の解決を図ることを妨げるものではない(労働関係調整法第16条)。
労働紛争のうち、集団労働紛争は労働関係調整法により早くから手続きが整備されていたが、個別労働紛争については労働基準法に定める監督行政によって紛争解決を担わせてきた。しかし労働基準監督官の管轄外である労働契約上の諸問題については対応しえず、個別労働紛争処理への対応としては不十分であった。そこで個別労働紛争処理システムの整備が求められ、2006年4月施行の個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(個別労働紛争解決促進法)によって手続きが整備され、その中にあっせんの制度も導入された。
個別労働紛争解決促進法においてあっせんの対象となるのは個別労働紛争であるが、以下の紛争については除外される。
都道府県労働局長は、個別労働紛争解決促進法第4条でいう個別労働関係紛争(労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争を除く。)について、当該個別労働関係紛争の当事者の双方又は一方からあっせんの申請があった場合において当該個別労働関係紛争の解決のために必要があると認めるときは、紛争調整委員会にあっせんを行わせるものとする(個別労働紛争解決促進法第5条)。
都道府県労働局長は、委員会にあっせんを行わせることとしたときは、遅滞なく、その旨を委員会の会長に通知するものとする。都道府県労働局長は、あっせんの申請があった場合において、事件がその性質上あっせんをするのに適当でないと認めるとき、又は紛争当事者が不当な目的でみだりにあっせんの申請をしたと認めるときは、委員会にあっせんを行わせないものとする(個別労働紛争解決促進法施行規則第5条)。
委員会によるあっせんは、委員のうちから会長が事件ごとに指名する3人のあっせん委員によって行う。あっせん委員は、紛争当事者間をあっせんし、双方の主張の要点を確かめ、実情に即して事件が解決されるように努めなければならない(個別労働紛争解決促進法第12条)。あっせん委員が行うあっせんの手続は、公開しない(個別労働紛争解決促進法施行規則第14条)。あっせん委員は、紛争当事者から意見を聴取するほか、必要に応じ、参考人から意見を聴取し、又はこれらの者から意見書の提出を求め、事件の解決に必要なあっせん案を作成し、これを紛争当事者に提示することができる。あっせん案の作成は、あっせん委員の全員一致をもって行うものとする(個別労働紛争解決促進法第13条)。
あっせん委員は、紛争当事者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者から当該事件につき意見を聴くものとする(個別労働紛争解決促進法第14条)。
あっせん委員は、次の各号のいずれかに該当するときは、あっせんを打ち切ることができる(個別労働紛争解決促進法第15条、施行規則第12条1項)。
第15条の規定によりあっせんが打ち切られた場合において、当該あっせんの申請をした者がその旨の通知を受けた日から30日以内にあっせんの目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、あっせんの申請の時に、訴えの提起があったものとみなす(個別労働紛争解決促進法第16条)。
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