Remove ads
密教における明王の一つ ウィキペディアから
愛染明王(あいぜんみょうおう 梵: rāgarāja[1])は、仏教の信仰対象であり、密教特有の憤怒相を主とする尊格である明王の一つ。愛染王とも[1]。
『覚禅鈔』には、愛染明王の異名として「吒枳王」を挙げ、『妙吉祥平等秘密最上観門大教王経』(大正蔵No.1192)には、吒枳王が「大愛明王」と訳されている。
また『瑜祇経』における“愛染王一字心明”が「ウン・タキ・ウン・ジャク」(吽引 吒 枳 吽引 惹入聲 )とあるので、那須政隆は吒枳明王(Țaki)を愛染明王であるとしている[2][注 1][4]。
愛染明王の密号は『離愛金剛』である[5] [注 2][注 3]。ここでの「離」は生死の業となる因子の煩悩や渇愛を離れる意味で、「愛」は菩提(覚り)の妙果を愛する意味であるので[5]、『離愛金剛』は「愛欲(煩悩)を離れ、大欲に変化せしむ」の意味となる[6]。
愛染明王は一面六臂で他の明王と同じく忿怒相であり、頭には獅子の冠をかぶり、宝瓶の上に咲いた蓮の華の上に結跏趺坐で座るという、大変特徴ある姿をしている。その身色は真紅であり、後背に日輪を背負って表現されることが多い。
造像形態としては、近現代の自由な発想に依る描画・造形を除き少なくとも日本においては、前述のとおり座像で顕されることが圧倒的に多く、立像は、彫刻では和歌山県紀の川市の円福寺が所蔵する江戸時代の作例と、山梨県甲斐市の天澤寺山門の二天像(対となるのは摩利支天立像)を成す江戸時代の像、「目黒不動」と通称される東京都目黒区の瀧泉寺本堂安置の像(本尊須弥壇向かって左側の唐破風・防護ガラス付きの龕内に安置。照明も十分でなく礼拝位置からも距離があるため像容は判然としないが、江戸初期は下らない時期の作とされる)が知られる[注 4]。
また、『瑜祇経』第五品に記される偈頌(げしゅ)である「衆星の光を射るが如し」の部分を再現した天に向かって弓を引く容姿の造像も存在し、高野山金剛峯寺に伝えられる「天弓愛染明王像」や、京都府木津川市山城町の神童寺像、山梨県甲州市塩山の放光寺像などが著名である。更には、日蓮筆と伝える「愛染不動感見記」の馬に乘る八臂像や、両頭など異形の容姿で描かれた図像も現存する。
愛染明王信仰は「恋愛・縁結び・家庭円満」などをつかさどる仏として古くから行われており、また「愛染=藍染」と解釈し、染物・織物職人の守護仏としても信仰されている。さらに愛欲を否定しない[8]ことから、古くは遊女、現在では水商売の女性の信仰対象にもなっている。
日蓮系の諸宗派で祀られる「大曼荼羅御本尊」では、題目「南無妙法蓮華経」の右側に不動明王の種字「カーン」が、左側に愛染明王の種字「ウーン」が配置されている。また寺院の本堂では「三宝尊」の周囲に配置される仏・菩薩・祖師像などと並び、不動明王像と相対して愛染明王像が配置される。
いわゆる愛染明王の姿の特徴は、一面三目・六臂で、頭上には獅子の冠を頂き、冠の上には五鈷鉤が突き出ていて、その身は赤色で宝瓶の上にある紅蓮の蓮華座に、日輪を背にして座っている。これらの相が示すその象徴的な意味は以下のようになる。[10]
更に、愛染明王は一切衆生を諸々の苦悩から救うために十二の広大な誓願を発しているとされ、その内容は以下のようになる。[15]
平岡龍人は『密教経軌の説く 金剛薩埵の研究』の中で、これを「タキ = 欲(欲の自性)」と、「フン = 憤怒」と、「ジャク = (欲と憤怒の)両者を鈎招し」と訳し、「タキ・フン・ジャク」の真言を「一切世間の全ての有情を欲と憤怒で清める」と訳した上で、この「具徳金剛手」を金剛薩埵の「愛染三昧」の化身で、愛染明王と同様の姿であるとしている[21]。また、栂尾祥雲は『理趣の研究』の中で、『理趣経』の主題である五秘密について触れ、「欲・触・愛・慢」における金剛薩埵の「五秘密の三昧」は愛染明王の姿であるとし、『理趣経』の本尊は愛染明王に他ならないとしている[22]。
日本では、この不動明王と愛染明王の両尊を祀る形式が1338年頃に成立した文観の『三尊合行秘次第』[注 9]に始まるとする説がある[23]。この説に基づくならば、現在、広島県にある円光寺・明王院(福山市)[注 10]は、大同2年(807年)に空海が開基したと伝えているが、この寺の境内にある五重塔(国宝)は貞和4年(1348年)に建立され、初層に大日如来を本尊として左右に不動明王と愛染明王を祀っているので、日本におけるその初期の例として挙げることが出来る。ただ、文観自身はこの書を書写したとしており、密教の事相上では『三尊合行秘次第』の本尊となる如意宝珠は特殊な形をしていて「密観宝珠」[24]とも呼ばれ、如意宝珠形の下に五鈷杵を配した舎利塔に仏舎利を入れたものであるところから、これを如意輪観音の三昧耶形であるとして、空海の直弟子に当る観心寺の檜尾僧都実恵や、醍醐寺の開祖理源大師聖宝の口伝にまで遡ろうとする考え方もある[25]。
ちなみに、高野山には空海の請来になる品物を保管している「瑜祇塔」という建造物がある。この名は、愛染明王と同じく『瑜祇経』を典拠としているが、その正式名称は「金剛峯楼閣瑜祇塔」で、高野山真言宗の総本山である金剛峯寺の呼び名は、この「瑜祇塔」に由来する。[26]
愛染明王は守護尊(明王などの力のある尊挌を脇持や念持仏とすること)として祀られることが多いが、以下のように本尊としている例も存在する。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.