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川瀬 一馬(かわせ かずま、1906年1月25日 - 1999年2月1日[1])は、日本の書誌学者、日本文化史家。文学博士(東京教育大学・1954年)。
東京市赤坂区表町で生まれる。父方の先祖は伊勢で米商を営んだ家柄という。麹町小学校を卒業するが[2]、その間、父と母を失ったために進学の道を絶たれ東京市役所に給仕として勤める。小学校の旧師の尽力により成蹊実務学校に入学し、中村春二の薫陶を受ける。日本史専攻の志を立て東京高等師範学校文科に入学、ここで国語は松井簡治、漢文は諸橋轍次の指導を受ける[3][4]。また、学習院の山岸徳平教授(のちに東京文理科大学助教授・教授)に個人的な指導を受けた[5]。ついで東京文理科大学へ進み、卒業[6]後の1932年春に同大学国語国文研究室初代助手となる[7]が、2年あまりで職を解かれる[8]。以後は公職に就かず研究活動を続ける。この経験によって、学問に関する次のような見解を表明している。
〇何處でも大学問題がやかましく、根本的に反省しなければならなくなっているが、果してどう落着くかは甚だ心もとないと思う。卒直に申して、唯今の大学に於ける学問の研究が、まともに行なわれているかどうかは問題である。〇親や師の説を祖述するということは昔から盛んであるが、――あるいは伝統的な学派などが生れる所以でもあろうが――今の大学でも、もと大学で筆記しておいた師のノートをそのまま学生に速記をさせているという実例もあるのである。親や師の光りに頼って生きていると、その学説を論評されその欠点を指摘されれば、自己の権威も位置も崩れるかに感じて、学説に對しては学説で応酬するのが当然であるのに、社会生活の上でその返報をする。そういう連中は、各自独立自由であるべき学問の世界で、利害開係によって朋党を結んで行動をする。学生がビッピイと笛を吹いて隊伍を組んでデモっているのは、師を見習ふもので、今時よく教育が届いているというものだ。学問の研究は綱引きではないから、五の力の者が十人寄っても、六の力一人にはかなわぬ世界である。学間研究の勝負は死後に定まる。それでこそ眼のさきのことに捉われずにすむのである。—川瀬「編輯後記」『かがみ』第13巻、大東急記念文庫、1969年2月、53頁。
2代目安田善次郎の知遇を受け、安田文庫の典籍蒐集に助力。1931年、安田善次郎が、台頭してきた書誌学の進展を援助する意図のもとに発起した同人が発展して日本書誌学会となり、その機関誌として雑誌『書誌学』が1933年1月に創刊された[9]。同人には、和田萬吉、市島謙吉の図書館界重鎮、愛書家として徳富蘇峰、内野皎亭、それに官営図書館や有力文庫の担当者が加わっていた[9]。同人会合の運営には橘井清五郎と長沢規矩也、川瀬があたり、その後、同人の逝去が多く、また安田の庇護から離れ、共立社印刷所[10]社長春山治部左衛門の厚意の下で雑誌だけは発行していたが、第二次世界大戦のために1942年1月に停刊した[9]。
1965年7月に、長沢を編集兼発行者として復刊 新1号が発行され、以後不定期に発行された。復刊新1号の「復刊の辞」および「編集後記」によると、春山治部左衛門[11]に復刊をすすめられていたが春山の古希を機に実現した[9][12]。発行所は長沢の自宅を住所とする日本書誌学会となっていた[12]。長沢の死後は川瀬が編輯発行人になっていたが、1985年5月の復刊新35・36号まで発行され、その後は発行されていない。
1950年(昭和25年)から1974年(昭和49年)まで青山学院女子短期大学国文科主任となり、同時に1965年(昭和40年)から文化財保護審議会専門委員に任命され81歳まで務めている。青山学院女子短大名誉教授、財団法人大東急記念文庫理事、五島美術館理事、財団法人阪本龍門文庫理事長などの要職を兼ね、晩年には石川文化事業財団が所蔵する成簣堂文庫の再調査・目録編纂に従事[13]。静岡英和女学院院長、静岡英和女学院短期大学学長を歴任した。
1954年(昭和29年)に「古辞書の研究」により、東京教育大学から文学博士の学位を授与される[14]。1966年(昭和41年)に紫綬褒章、1976年(昭和51年)に勲三等旭日中綬章を受章している。研究者としては東洋文庫で白鳥庫吉[15]、東京高等師範学校時代の恩師諸橋轍次の静嘉堂文庫に拠って書誌学を興したいという意図の影響を受け[16]、さらに若い頃から弓道[17]・茶道・能・香道・華道に至るまで研鑽を積み、個人の文庫で珍籍を扱った経験は多数の学術書に結実している。
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