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地下経済(ちかけいざい、英語: underground economy)とは、正式な統計の範囲外で行われているインフォーマルな経済活動。アングラ経済とも言われる[1]。
世界全体では地下経済に18億人が従事していると推定される[2]。
地下経済は単一の経済では無く、複数のバリエーションが存在する。その経済活動の種類は以下の5種類で識別される。
違法経済("illegal economy")とは、法定の商業形態から外れ、法律違反状態にある経済活動をさす。違法経済参加者は、麻薬密売・武器密売・売春・違法賭博・密造酒などの物品・サービスの生産・流通活動に携わっている。
報告されない経済("unreported economy")とは、税法により制度化された金融ルールを逸脱・回避している経済活動。地下経済の規模は、本来税務当局に報告すべきであるがそれを怠っている収入の額である。非報告経済の参考となる指標は「tax gap」であり、財務当局が把握している税収と実際に得た税収の差である。米国の非報告経済の規模は二兆ドルで、そのtax gapは4500億から5000億ドルと推定される[3][4]。
記録されない経済("unrecorded economy")とは、政府機関が定める報告要件制度ルールを回避した形の経済活動。
非公式経済("informal economy")とは、法律や行政当局が定める財産関係・商業免許・労働契約・不法行為・金融信用・社会保障などのルールについて、それらのコスト回避やベネフィットや権利を除外した形での経済活動。非公式経済の規模は、その経済主体が非公式に行った活動の収入である[5][6]。非公式経済セクターは非課税経済の一つと定義され、公式経済セクターと違い、いかなる政府機関も指導されずGNPのどこにも含まれない。先進国において典型的な非公式経済セクターは非報告雇用である。これは国家の税制・社会保障・労働法制からは除かれているが、それ以外の面においては合法である[7]。
近年、インターネットの普及による利便の向上は、地下経済のネットワークにも大いに利用され、活動を広域化させる負の面ももたらした(アンダーグラウンド、闇サイトも参照)。
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これらの経済活動は違法性を含む場合も有り、当局の取締りを逃れているため正確な把握が困難である。統計当局の立場から見れば地下にもぐって見えないと同時に社会的暗部を秘めているため、地下(アンダーグラウンド)という語が当てられた。
統計に表れないとはいえ、「地上の経済」とは密接なつながりを持っているため、相互に影響しあっている。その規模は経済政策などにも影響を与えるため推測が各国で行われている。
1996年に施行された宗教法人法の改正によって、宗教法人の会計の提出が義務化された。1999年に成立した犯罪捜査のための通信傍受に関する法律によって、警察による電話傍受が行われている。2003年の民法改正によって、占有屋の問題は解決された。2005年に全面改正された不動産登記法が施行され、登記簿がオンライン化されたため地面師の問題は減少した。また、携帯電話不正利用防止法の施行によって、携帯電話の本人確認が強化された。
2008年には、戸籍法の一部を改正する法律と住民基本台帳法の一部を改正する法律が施行され、戸籍届出や住民異動届に身分証明書が必須となり、詐欺に繋がるなりすましは減少した。また、同年、暴力団の資金源を断つために暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律が完全施行されており、暴力団による資金稼ぎに対策を取っている。また、犯罪による収益の移転防止に関する法律も2008年から全面施行されており、10万円を越える現金での銀行振込や200万円を越える大口現金取引に身分証明書が必要となった。
都道府県条例における迷惑防止条例や屋外広告物条例などによっても、地下経済に対策を取っている。
欧州連合では、現金決済を制限する動きが広がっている。フランスでは3,000ユーロ以上の現金決済が禁止となっている(この上限は今後1000ユーロに引き下げられる)[16]。イタリアでは、2012年2月より施行されたイタリア救済法(高額現金決済禁止法)によって、1,000ユーロ以上の現金決済が違法となっている[17]。スペインでも、2,500ユーロ以上の現金決済が禁止となった[18]。ロシア連邦では、10万ロシア・ルーブル以上の現金決済が禁止となっている。
大韓民国では、クレジットカードやデビットカードなどでの決済に「所得控除」を行っており、最高でも5万ウォンしか無い現金払いの不便さもあり、現金払いが減ってクレジットカード払いが普及している。
アメリカ合衆国では、2006年に違法インターネット賭博禁止法が施行されており、金融機関による違法インターネット賭博サイトへの送金が規制されている。
新円切替のように、銀行口座を使った通貨切替を行うことによってアングラマネーを表に出すことができる。
生活苦や借金、ギャンブルなどが原因で、地下経済に加担するケースは少なくない。生活保護や公営住宅などのセーフティーネットの拡充、借入総額を制限する総量規制、安価で健全な娯楽提供の拡充 (図書館や市民利用施設など)などによって、地下経済に関わる動機を減らすことができる。
また、自身の失敗や秘密を隠すために地下経済に加担するケースもある。社会的にヒューマンエラーを起こりにくくすることによって、ミスにつけこまれる人を減らすことができる。また、プライバシーの保護を強めることによって、性癖などの恥ずかしい情報につけこまれる人を減らすことができる。
税務署による税務調査によって、申告納税の検証や課税の推計が行われている。消費税にインボイス方式を導入することで税務署が取引を把握しやすくなるが、日本では行われていない。
イタリアでは高級リゾート地や高級商店街などでの検問・取り締まりや、高級車やヨットの所有者に対する重点的な調査が行われている。
銀行による自動検証によって、怪しい取引の検出と口座凍結が行われている。また、ATMには監視カメラが設置してある。そのため、地下経済は現金取引で行われることが多く、キャッシュレス化が進むことによって難しくなる。
車による当たり屋や保険金詐欺は、ドライブレコーダやイベントデータレコーダー (EDR)の搭載が普及することで検出することができる[19]。アメリカでは2014年9月からEDRの搭載の義務化を行うことが提案されている[20]。
銀行では犯罪対策として、バーチャルオフィスの住所での法人口座開設を規制しているほか、個人は一人一口座までの制限が増えている。
アメリカでは低所得者対策として、食料品を対象とした補助制度のフードスタンプが行われているが、クーポン形式のフードスタンプは違法な売買が行われていた。最近は行政コストを抑えるためにデビットカード形式のEBTカードが導入されており、譲渡が不可能となっている。
盗難対策が増えることによって、盗品売買も減ることになる。キャッシュカードやクレジットカードは盗難・複製された場合、電話やインターネットでの企業への届け出を行えば、利用停止することができる。スマートフォンは盗難防止のために、遠隔ロックしたりGPSの場所を送信する機能がある。
万引き防止のために万引き防止システムがあり、レンタル店や図書館、一部の小売店などで使われている。
また、中古で売る場合、身分証明書の提示が必須となっているほか、同一商品の大量買い取りを拒否する企業が多い。しかし、オークションなどで盗品が売買されることは多い。
磁気カードの偽造や印刷による偽造が横行している。そのため、様々な対策がなされている。
各種カードや紙幣の偽造対策として、ホログラムが使われている。また、最近は偽造対策や保守費用削減のために、カードは磁気カードから接触型ICカードへ、さらに非接触型ICカードへと主流が移っている。その他、紙幣やパスポートには凹版印刷、すかし、超細密画線、不可視インクなどの技術が使われている。なお、紙幣には記番号があるものの、トラッキング(紙幣追跡)があまり行われておらず、記番号はあまり生かされていない。偽札や変造硬貨は検出技術の強化によって減っているものの、未だに手渡しや投入などの未検証な手段が残っているために、出回ることがある。特に露天やコンビニエンスストアなどの忙しい店が狙われやすい。また、偽札が発行国外で流通することも多い。
電子化によって、偽造を防ぐこともできる。上場企業の株券は完全に電子化(証券保管振替機構)されており、手形や債権、チケットなどの電子化も始まっている(有価証券のペーパーレス化、電子航空券)。
トレーサビリティの確保と検証によって、偽装問題や盗品問題をある程度防ぐことができる。現在はトレーサビリティシステムにバーコードが用いられているが、RFIDを使うトレーサビリティシステムが考案されている。ワインやコインなどの偽造対策には既にICタグが使われはじめている。産地判別技術も開発されているが、使われることは少ない。
身分証明書はIC化が進んでいるが、未だに印刷コピーが使われることが多い。また、オンライン化によって印鑑から電子署名へと移行が始まっているが、未だに電子化や連携化されていない情報の書類が多く、補助金詐欺などの詐欺行為が頻繁に起きている。社会保障については、2015年(平成27年)に個人情報が開始され、2016年(平成28年)に個人番号カードが発行された。
ウェブサービスの偽造対策として、非対称鍵と電子署名を組み合わせたHTTPSが使われている。また、企業の実在性を認証するEV SSL証明書が使われるようになってきている。また、ソフトウェアにおいては、海賊版対策にシリアルナンバーが使われる。
空港などにおいて、違法物の探査に麻薬探知犬・検疫探知犬・銃器探知犬・爆発物探知犬・DVD探知犬などの使役犬が利用されている。密航者を発見・検挙するためには沿岸警備が行われている。また、不法投棄を防ぐために、民間企業によって監視カメラ設置やパトロールが行われている。密漁を防ぐために、海上保安庁や警察が水産庁に協力して取り締まりを行っている。
監視カメラの普及や、高機能携帯の普及によるカメラやボイスレコーダーの一般化によっても、地下経済が防がれている。受け渡しは手渡しやコインロッカーが使われることが多いが、監視カメラの設置されたコインロッカーも多い。
また、自動車ナンバー自動読取装置や顔認識システムの活用も増えている。
その他、省力化や自動化を進めて目が届く範囲まで人の手を減らすことで、内通者や横領、偽装などの問題を減らすことができる。また、サプライチェーンを短くすることで偽造品・偽装品の混入や不正の機会を減らし、地下経済の介入を防ぐことができる。半導体においては、Rochester Electronics社が生産中止品の発注から在庫のトレーサビリティ管理までを代行することで、偽造の締め出しに貢献している。
電話を使った詐欺への対策としては、家庭用固定電話ではナンバーディスプレイが有効的である(携帯電話では、公衆電話以外からの非通知設定をこちらに接続させない事もできる)。電話番号が分かれば、インターネット検索により電話帳から業者を調べられる。また、悪徳な目的に使用されていると思われる電話番号の共有もインターネットなどを介し広がっている。また相手の住所が分かれば、インターネット上の地図サービスを使うことによって、会社の住所や建物を知ることができる。
金融業者は登録制であるため、省庁のウェブサイトで業者の確認をすることができる。また、屋外広告業も登録制であり、都道府県のウェブサイトで確認することができる。古物商も登録制であり、都道府県警察のウェブサイトで確認することができる。
専門家の確認の方法は、様々である。例えば弁護士は、必ず弁護士会に所属しており個人個人が登録番号を持ち、それらは各弁護士会のホームページで一覧を確認することができる。また一級建築士かどうかは、日本建築士会連合会や都道府県建築士会の窓口で確認することができる。偽医者については、厚生労働省の医師免許検索サイトで、医師かどうかを検索することが出来る。
電子遊技機におけるゴト行為は、多数のセンサーによる検知やホールコンピュータによる統計情報収集などによって対策されているが、未だに被害の発生は続いている。
インターネット上での違法行為は、セキュリティ会社などによって発見され、送金手段の停止やアカウント削除、ドメイン差し押さえやサーバー差し押さえなどで対処されている。
ポスターや張り紙などで注意喚起なされることが多い。注意喚起の手段として、テレビCMや新聞広告などが使われることもある。また、一件一件見回りなども行われている。
地下経済に関わっていることの多い不法滞在者だが、それを通報すると報償金を貰えるというインセンティブ制度がある。
国内総生産 (GDP) は、その概念からすべての経済活動を計算に入れる必要があるが、地下経済に関しては実態がつかめないため通常GDPの計算には含まれない。しかし2010年欧州ソブリン危機が発生すると、EU各国は財政赤字を対GDP比3.0%以内に抑える基準の達成する必要に迫られ、イギリスとイタリアは地下経済をGDPの計算に算入することを検討。2014年5月には、イタリアが2015年からGDP統計に加算すると発表している[21]。以下はGDPに対する地下経済の規模の推測値である。あくまで捉え切れていないのが前提なので憶測の域を出ない。
(オランダのABN-AMRO銀行レポート Enrorand Economic Update 2001.8.30 より)
シャドー・エコノミーのGDP比(2015年)
ある年時点でのシャドー・エコノミーのGDP比の158カ国の最高と最低の国と平均値
日本のシャドー・エコノミーのGDP比の推移:
日本周辺諸国・地域のシャドー・エコノミーのGDP比の推移(2015年)
※中国の場合、経済体制が自由経済と計画経済が混合しているため、地下経済を部分的にしか捕捉していない可能性があることに留意する。
(IMFの調査報告書「Shadow Economies Around the World: What Did We Learn Over the Last 20 Years?(世界地下経済:過去20年間の教訓)」)[22] より)
近代以前においては、GDPの概念もなく税収や税源の一部を何とか把握するのが限界であった。近代以降、国民経済化が進行する中で、中央集権政府の徴税力と統計把握力は格段に向上した。
しかし、現代においても未だに把握されない経済活動が存在する。
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