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日本のアニメ映画作品 ウィキペディアから
『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』(げきじょうばん はがねのれんきんじゅつし シャンバラをゆくもの、Fullmetal Alchemist the Movie: Conqueror of Shamballa)は、2005年7月23日に公開されたアニメ映画。
2003年から2004年にかけて放送されたテレビアニメ『鋼の錬金術師』の最終話以降を描くシリーズ完結編。テレビアニメ版と同様に月刊誌かつ連載終了の目途も立っていない時期に制作されたため、原作漫画『鋼の錬金術師』とはストーリーや世界観、登場人物の設定などが異なる、アニメ独自の完全オリジナルストーリーとなっている。原作に準拠して2009年に製作されたテレビアニメ『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』や、2011年公開のアニメ映画『鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星』の作品世界ともつながってはいない。
舞台はパラレルワールドの1923年のドイツ(ワイマール共和国)にあるミュンヘン[2]。当時のドイツでは、第一次世界大戦敗戦後のインフレに伴う貧困に喘ぎながら、それでも人々が懸命に生きていた。
テレビアニメ版最終話でパラレルワールドへ飛ばされたエドワード・エルリックは18歳になり、錬金世界・アメストリスへ戻るためにロケット工学を研究していたが、先の見えない現実に焦燥していた。その頃、エドの同居人にして「自らの手でロケットを作りたい」と夢見る少年、アルフォンス・ハイデリヒは、パトロンを得て念願のロケット製作に着手する。しかし、その裏には謎の組織・トゥーレ協会の陰謀が隠されていた。
あるとき、街のカーニバルに来ていたエドは1人の女性、ノーアに出会う。自分が触れた相手の心や記憶を観ることができるという不思議な力を持つノーアは「ジプシー」と呼ばれる被差別民族で、自分たちのことは「ロマ」と呼んでいた。そのことをきっかけに、エドはドイツで起ころうとしている壮大な計画に巻き込まれてゆく。それは同時に、アメストリスに破滅をもたらす危機をも意味していた。
一方、アメストリスでは13歳に成長したアルフォンス・エルリックが、エドを探す旅に出る。しかし、甦った際にエドとの4年間におよぶ旅の記憶も失くしていたアルは、「兄さんに会いたい」という純粋な希望が予想だにしない悲劇を引き起こす場合もあるということすら、忘れていた。
引き裂かれた兄弟、シャンバラを求める者、門の鍵を為す者といったさまざまな人間の思惑と欲望を孕み、物語の幕は再び上がる。
本作はテレビシリーズの後日談となっているが、監督の水島精二によれば最初にプロデューサーや脚本担当の會川昇と本作の打ち合わせを行った際にはどのような形でも良かったという。その後、改めて本作についての打ち合わせが行われた際にはオーソドックスなアニメ映画を本作でする必要性がないと判断されたことから「番外編」が選択肢から外された。水島は「錬金術世界に科学者が存在する」という話はどうかと提案したものの、結局ありがちな番外編になってしまうのではという懸念もあり没となった。そして、その日の帰りがけに會川が水島に「ふたつの世界を股にかける話ならば、キャラクターも全部出てくるし、水島さんが言ってた科学と科学者と錬金術師の話もできるよね」と言ったことで水島も納得し、結果的には會川の案が本作の雛形として採用された[25]。
「兄弟の絆」がテーマだったテレビシリーズとは異なり、劇場版となる本作では「世界と自分とは無関係でいる事はできない」というテーマとなっている[9]。これについて水島は以下のように述べている。
今はテレビやインターネットなどで、日々のニュースや世の中の動きは常に見えているわけじゃないですが。それなのに、自分が日々生活している世界の出来事を他人事のように受け止めている。自分たちを取り巻いている身近な状況だけが世界で、その外の現実に対して、フィクションのような感じかたをしている気がするんです。それに対して、映画の中でみなさんの気持ちに伝わるようなメッセージを描きたかった。 — 水島精二[9]
「現実世界」の世界観は1920年代のドイツがナチス・ドイツへと向っていく時代背景が根底に存在するが、水島によれば第三者からみた「狂気」としてではなく、ドイツ人から見た「日常」として描いているという[9]。
會川はテレビシリーズや原作漫画しか読んでない人にも楽しんでもらいたいと考えており、なるべく「映画らしい映画」にしたかったと述べている[26]。例えば、冒頭でロマたちが「KELAS」を歌唱するシーンがあるが、これは本来必要性のないシーンであるものの「KELAS」からオープニングの「LINK」に繋がることで映画らしい気分が醸し出されるという[27]。
キャラクターデザインを担当する伊藤嘉之はデザインをする上で「錬金術世界」と「現実世界」で落差を付けることを意識しており、「錬金術世界」は漫画っぽさを出していたが、「現実世界」ではリアルな絵になるようにしているという[28][注 2]。色彩設計の中山しほ子も「錬金術世界」と「現実世界」で色の違いを出すことを意識しており、「現実世界」は「錬金術世界」よりも色の彩度を低く設定しているという[29]。
劇伴担当の大島ミチルは本作の持つ独特な世界観や匂いを視聴者に伝えたいと考え、民族楽器(マンドリンやブズーキなど)を取り入れた[30]。大島曰く、民族楽器には「哀愁や郷愁といった味わい深くて、まるで生きている『人の思い』のようなものが含まれている」とのこと[30]。
本作ではハイデリヒ、ノーア、エッカルトの3キャラクターにそれぞれ実力派俳優が声優として起用されている[9]。
『おたくま経済新聞』のライター・コートクは『鋼の錬金術師』は架空の物語ではあるものの『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』に関しては「1923年のワイマール共和国、ミュンヘン一揆の前後を描いた物語になっており、当時の歴史的背景をかなり真面目に描いた作品」と評している[32]。また、コートクは同サイトの別記事で本作は第一次世界大戦後となる1923年のドイツを舞台としており、この時期のドイツ人の鬱積した不満を表す台詞が随所に登場していると述べている[33]。コートクは同サイトにていくつか例を挙げているため、それを下記表に記す。
「アニメージュプラス」編集部は本作の舞台となった1920年代のヨーロッパにおける時代背景や実在の人物が巧みに物語に組み込まれていると称賛しており、『機巧奇傳ヒヲウ戦記』や『天保異聞 妖奇士』でも発揮された會川昇の真骨頂といえる手法であると述べている[2]。また、同編集部は以下のように述べている。
現実世界の風景を丁寧に描写しながら展開する感情ドラマと、錬金術を活かしたアクションの組み合わせから生まれる濃厚な味わいは、“『鋼の錬金術』らしさ”を主軸に据えると同時に“劇場映画であること”を意識した水島監督と、制作を担当したスタジオ・ボンズのスタッフによって生み出されたものだ。 — 「アニメージュプラス」編集部[2]
賞 | 部門 | 結果 | 出典 |
---|---|---|---|
第9回文化庁メディア芸術祭 | アニメーション部門・審査委員会推薦作品 | 選出 | [34] |
第60回毎日映画コンクール | 毎日映画コンクールアニメーション映画賞 | 受賞 | [35] |
第10回ソウル国際マンガ・アニメーション映画祭 | 長編部門 | ノミネート | [36] |
東京国際アニメフェア2006 | アニメーション・オブ・ザ・イヤー | 受賞 | [37] |
音楽賞 | |||
原作賞 | |||
ファンタジア国際映画祭 | ベストアニメ映画賞 | 受賞 | [38] |
日本のメディア芸術100選 | アニメーション部門 | 選出 | [39] |
アニメーション部門(年代別 / 2000年代) | 5位 | [40] | |
AnimaniA Award 2009 | Bester Movie | 受賞 | [41] |
第28回アニメグランプリ | グランプリ作品部門 | 3位 | [42] |
男性キャラクター部門 | エドワード・エルリック:5位 ロイ・マスタング:10位 |
[43] | |
女性キャラクター部門 | ウィンリィ・ロックベル:9位 リザ・ホークアイ:17位 |
[44] | |
アニメソング部門 | 「Link」:5位 「LOST HEAVEN」:19位 |
[45] |
2006年1月25日にはDVD「劇場版 鋼の錬金術師」が発売された[46][47]。
2009年1月29日にはシリーズ初となるDVD-BOX「鋼の錬金術師 BOX SET -ARCHIVES-」が発売された。本DVD-BOXにはテレビアニメ全51話と本作のDVD・Blu-Rayディスクに加えて主題歌集やオリジナルサウンドトラック全集、アートワーク集、公式レプリカグッズ集などが付属されている[48]。
2014年10月29日には本作のBlu-Rayが発売された[49]。
本作のオリジナルサウンドトラック。2005年7月20日にアニプレックスから発売された。各楽曲の作曲は大島ミチルが担当した。
トラック | 曲名 | 時間 |
---|---|---|
01 | Scientist of the Alchemic World | 00:44 |
02 | Fullmetal Alchemist | 02:06 |
03 | Weapon of Mass Destruction | 00:51 |
04 | Castle of Science Goes Kablooey | 00:36 |
05 | Sibyl | 00:36 |
06 | KELAS (LET'S-DANCE) | 03:01 |
07 | Creeper in the Shadow of Time | 00:24 |
08 | Darkness Looms Upon Her | 00:46 |
09 | Automated Right Arm | 00:37 |
10 | Burden of Her Past | 00:20 |
11 | Her Dream | 00:15 |
12 | Vanishing Existence | 00:55 |
13 | Thule Society | 00:48 |
14 | Seeking a New Thrill | 01:01 |
15 | Dragon 〜 Unlocker of the Gate | 02:44 |
16 | Road to Shamballa | 01:30 |
17 | The Alchemic World 〜 Two Years Thereafter | 00:59 |
18 | Citizen of the World | 00:44 |
19 | Stranger from Another World 〜 The Young Alchemist | 02:29 |
20 | Beyond the Light......! | 00:26 |
21 | Search for the Professor | 00:32 |
22 | The Incomplete Alchemic Circle | 01:27 |
23 | Dietlinde Eckart | 02:08 |
24 | A Temporary Reunion | 00:59 |
25 | Harmonized Feelings | 01:33 |
26 | Parallel World 〜 Another Self in an Alternative World | 01:15 |
27 | The Lord of Shamballa Shall Reign Over the World | 02:17 |
28 | Shadows Surrounding Her | 00:19 |
29 | Soul Slides Away | 01:00 |
30 | To the Vanished City | 00:48 |
31 | Shadows Swallow Her | 00:50 |
32 | Other Side of the Gate 〜 Shamballa | 01:13 |
33 | Overture of Destiny | 01:28 |
34 | Evanescence | 04:06 |
35 | When the Gate of Destiny is Revealed | 01:25 |
36 | Beyond the Gate 〜 Conqueror of Shamballa | 03:02 |
37 | Reunion 〜 Dear Beloved Place | 00:56 |
38 | Invasion of the Intruders | 01:34 |
39 | Guardian of the Motherland | 01:03 |
40 | Destruction of Shangri-La | 03:52 |
41 | Guardian of the World | 01:48 |
42 | Reason of War | 01:34 |
43 | Sad Resolution 〜 Separation | 01:34 |
44 | Unceasing Lunacy | 00:56 |
45 | Requiem | 01:49 |
46 | KELAS (LET'S-DANCE) [instrumental version] | 02:19 |
TBSテレビで本作が放送された際には「本作には特定の民族に対して差別的とも取れる表現がありますが、差別の肯定、助長を意図するものではありません。」という注意書きが表示された[33]。
2022年3月にBS12 トゥエルビにて劇場版アニメや長編アニメに特化した「日曜アニメ劇場」の一作品として放送された[51]。
公開日前日となる2005年7月22日には東京国際フォーラムにて本作の上映会が行われる前夜祭が行われた。上映終了後にはスペシャルゲストとして本作の主題歌を担当したL'Arc〜en〜Cielが登場し、オープニングテーマソングである「Link」を歌唱した[54]。
公開日となる2005年7月23日には丸の内、新宿、川崎の3か所で本作の初日舞台挨拶が行われ[55]、朴璐美(エドワード・エルリック役)や釘宮理恵(アルフォンス・エルリック役)、小栗旬(アルフォンス・ハイデリヒ役)などメインキャスト5人と監督の水島精二が登壇した[54]。
2008年9月27日には池袋テアトルダイヤにて本DVD-BOXの発売を記念したオールナイト上映イベント「鋼の錬金術師 MIDNIGHT LOUNGE」が開催された。本イベントではテレビシリーズからの話数セレクションや本作の上映、大川透(ロイ・マスタング役)と藤原啓治(マース・ヒューズ役)によるトークショーが行われた[56]。
2012年7月21日にはテアトル新宿にて本作を含む制作会社ボンズの作品を集めた上映イベント「ボンズオールナイトEX」が開催された。本イベントはアニメーション映画『ストレンヂア 無皇刃譚』(以下「ストレンヂア」)の放映5周年を記念したものであり、水島は本作が成功したことで「ストレンヂア」を作ることができたと述べている[57]。
2018年1月12日から2月2日まで丸の内ピカデリーにて本作を含む18作品のアニメ映画を爆音で堪能できるイベント「丸の内ピカデリー アニメーション爆音映画祭」が開催された[58]。
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