ロンドン警視庁
イギリスの警察機関 ウィキペディアから
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ロンドン警視庁(ロンドンけいしちょう、英語: Metropolitan Police Service, MPS)は、イギリスの警察組織の一つ。首都ロンドン一円(中心部のシティを除くグレーター・ロンドン全域)を管轄する首都警察であると同時に[2]、国家全体の警備公安警察や王族・政府要人警護といった特別な任務も担っている[3]。初代本部庁舎の一般入口がウェストミンスター区のグレート・スコットランドヤードという通りに面していたことから、スコットランドヤードの通称で知られる[注釈 1]。1890年に初めて移転して以来、2代目以降の庁舎は「ニュー・スコットランドヤード」と呼ばれる。
ロンドン警視庁 Metropolitan Police Service | |
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ニュー・スコットランドヤード本部 | |
役職 | |
警視総監 | マーク・ロウリー |
副総監 | リン・オーエンズ(代行) |
組織 | |
上部組織 | 市長公安室 |
内部組織 | 専門刑事・業務部、専門活動部、地域部、警務部 |
概要 | |
所在地 |
グレーター・ロンドン シティ・オブ・ウェストミンスター ニュー・スコットランドヤード 北緯51度30分10.1秒 西経0度7分27.7秒 |
年間予算 | 41億ポンド[1] |
設置 | 1829年9月29日 |
ウェブサイト | |
Metropolitan Police Service(ロンドン警視庁) |
2017年6月末現在、32,493人の正規警察官、9,816人の事務職員を含む、計43,571人の常勤職員を擁している。なお、この数字には1,262人の特別巡査(正規警察官と同等の権限を有するが、パートタイム勤務である警察官)は含まれない[4]。これらの人員規模から、ロンドン警視庁はイギリス国内で最大規模の警察組織であり、世界最大の警察組織の一つでもある[5]。
イギリスでは、古来より地域の秩序・平和を維持する責任は地域住民各々が負うべきであるという自治の意識が強く、組織的な警察機構には反発が強かった[6]。しかし18世紀以降の工業化に伴う都市化に伴い、従来のコミュニティに依拠した警察機構では、複雑化する犯罪への対処が難しくなっており、大都市ロンドンではその傾向が特に顕著であった。このことから、ロンドンのボウ・ストリート(英語: Bow Street)に置かれた治安判事法廷の判事ヘンリー・フィールディングは、従来の無給・素人コンスタブルのかわりに、適切な給与・教育を施したプロフェッショナルとしてのコンスタブルの必要を認め、1749年、教区内のコンスタブルから6名を選任してボウ・ストリート巡察隊(英語: Bow Street Runners)を組織した。この隊は極めて能率的に活動し、地区の犯罪を大幅に減少させたことから、全国的に有名になり、現在では英国の近代警察の萌芽と評されている。政府もその有効性を認め、1797年には大尉を指揮官とする68名のボウストリート徒歩警邏隊、1798年にはテムズ川警邏のための水上警察(River Thames Marine Police Force)を設置した。水上警察の設置に貢献したコルコーン治安判事は、更に進めて、単一の首都警察隊の設置を提唱したが、同時期のナポレオン・ボナパルトのフランス第一帝政における秘密警察体制が連想されたためもあって反発が強く、実現しなかった[7]。
しかし19世紀に入ると、英仏戦争終了に伴う戦後の停滞や労働紛争の激化を受けて、急進派戦争 (Radical War) に代表されるような騒擾・騒乱事件が多発するようになった。大部分のコンスタブルには暴動鎮圧を行うだけの能力はなく、治安判事は、暴動を放置するか、あるいは(ピータールーの虐殺に見られるような)軍の治安出動による多数の犠牲者を容認するかという深刻な二者択一を迫られることになり、新たな治安対策が急務となった。この情勢を受けて、1822年に内務大臣に就任したロバート・ピールは首都警察の創設を提唱し、一度は挫折したものの、説得工作を進めるとともに法案自体も漸進的に改訂し、1829年7月、ついに首都警察法が成立した。これによって設置されたのがロンドン警視庁である[8]。
ロンドン警視庁には、the Met、Met Pol、MP、the MPSなど、非公式の呼び名や略称が数多くある。ロンドンのコックニー方言では、俗に "Old Bill" と呼ばれた[9]。成文化された法律の記述においては、"service" の代わりに、"metropolitan police force" や "metropolitan police" の表記が用いられる例がある。また、初代の本部庁舎が所在していたホワイトホールのグレート・スコットランドヤードの地名に因む、スコットランドヤードという換喩は、ロンドン市民にとどまらず、世界中に広く知られ親しまれている通称である。特に日本においてはロンドン警視庁と訳されることが専らである[10][11]。これは、MPS側が公式に使用している名称であるが[10]、日本の警視庁に倣って訳された名称であるとする説もある[12]。
イギリスの地方警察では関係地方自治体ごとに設けられた警察管理者 (Police authority) が警察の維持管理にあたるのが通例であるが、警視庁では、内務大臣が直接に警察管理者となり、12名の委員で構成される警視庁委員会がこれを支援していた[13]。その後、1999年ロンドン広域自治体法を受けたロンドン広域自治体の創設に伴い、その一部として首都警察管理委員会 (Metropolitan Police Authority) が設けられた。そして2011年の警察改革及び社会責任法の制定によって警察管理者が原則廃止されたのを受けて、2012年には、新設された市長公安室 (Mayor's Office for Policing and Crime) がその業務を引き継いだ[14][15]。
ロンドン警視庁は、首都であり国際都市であるロンドンを担当する地方警察であるとともに、国の公安に係る事案や王室の関係者・施設の警備、外国政府関係者・関係施設の警備など特殊な業務を負っている。その特殊性から、首長である警視総監 (Commissioner of Police of the Metropolis) は閣僚に次ぐ栄誉を担うほか[16]、警視総監、副総監および総監補は、内務大臣の奏請によって国王が任命することとなっている[13]。
内部部局として、警察管理にあたる警務部(headquarters)のほか、総監補のもとに、それぞれの特命事項を扱う部署が配されている[17]。
専門刑事・業務部 (Specialist Crime & Operations) は内部部局として最大の部門であり、殺人や強姦、人身売買、詐欺などの凶悪犯罪を取り扱う[18]。2012年の専門刑事部 (Specialist Crime Directorate) と中央活動部 (Central Operations) の統合により発足した[19]。
上級職については、下記の通りにそれぞれの所掌事項が定められている[17]。
これらの指揮のもと、捜査員は下記のような活動指揮部署(OCU)に編成されて活動する。これらのOCUは、適宜に編成と解体を繰り返しており、また部署番号にも重複や移行が見られ、複雑である。2016年3月現在で活動しているOCUは下記の通りである[20][21]。
専門業務部 (Specialist Operations) は、高度の専門知識が必要で、また、地域との関連性が低い犯罪を取り扱う。銃器部門や組織犯罪対策部門、知能犯対策部門などは、当初はこちらの所属であったが、後に専門刑事部ないし専門刑事・業務部に移管された。また2010年代にも大規模な再編成が行われた。
このうち、RaSPは2015年に王室警護指令部(Royalty Protection Command, SO14)と警護専門指令部(Specialist Protection Command, SO1)が統合されて設置された部署である[23]。SO14は以前は王室警護群(Royalty Protection Group)と称されており[24]、王室警護群には英陸軍特殊部隊(SAS)で訓練を受けた185人の警護官が所属し、グロック17のほか、無線機、救急用具を装備していた[25]。
地域部(Territorial Policing)は外勤・交通警察部門である。
ロンドン警視庁の管轄する区域は首都警察管区(Metropolitan Police District, MPD)として知られている。当初は、グレーター・ロンドンを中心に、エセックス、ハートフォードシャー、サリーの一部を加えた地域が、8個の方面管轄区域(geographical command area)に区分されていた。その後、方面管轄区域は1994-5年度より5個に再編された[26]。また2000年には、上記のロンドン広域自治体創設を受けた警察再編の一環として、管轄区域はグレーター・ロンドンと合うように縮小された[27]。
一般警察活動の基本単位として、自治区ごとに自治区活動指揮部署(BOCU)が設置されている。またこの他、2015年には、路線バスやタクシーなどの公共交通機関を担当する道路・輸送機関警察指令部(RTPC)が設置された[28]。
なお、ロンドン中枢部のシティは、歴史的な独立性や特殊性を考慮して、専任の市警察が設置されていることから、警視庁の管轄からは外されている。また国防省施設(国防省警察)や鉄道施設(鉄道警察)についても、それぞれ専任の特別警察が設置されている。グレーター・ロンドン内の王立公園の警察業務を管轄していた王立公園警察は、2004年4月1日にロンドン警視庁に吸収合併された[29]。キュー王立植物園の警備にあたるキュー警察など、数少ないながらも条例により公園警察を残しているバラ(特別区)も幾つか存在するが、それらの公園警察は警察法により定められた警察官を有しないため、公園内で万一の凶悪犯罪や重大な事件が発生した場合は、ロンドン警視庁がそれらの事件に対処する。
ニュー・スコットランドヤード本部に加えて、ロンドン市内には140の警察署が置かれている[30]。これらの警察署は、24時間警察官が常駐する大規模警察署から、一般的な勤務時間の間あるいは一週間のうち決まった曜日のみ応対する小規模警察署まで様々である。
ほとんどの警察署は入口前に設置された一つまたは複数の青い街灯によって簡単に見分けることができる。この街灯は1861年に導入された。
1881年にボウ・ストリートに設置された最も歴史のある警察署は1992年に閉署し、2006年7月14日に最後の訴訟を処理したボウ・ストリート治安判事裁判所の隣接地に移転した。[31]現在まで運用を続けている最古の警察署はワッピングにあり、1908年に開署した。テムズ川の警備を司るロンドン警視庁海上保安部(旧・テムズ局)の本部もここに置かれている。また、霊安室やテムズ川警察博物館も併設している。
パディントン・グリーン警察署は地下にテロ容疑者の収容施設をもつことで世間から多くの注目を集める警察署である。
ロンドン警視庁の警察署は様々な役割を担っており、そこには多くの警察職員の階級が存在する。
ほとんどの警察署には逮捕者を一時的に勾留するための独房がある。
2004年には公共政策研究所から、警察権力とより広いコミュニティの間の関係を改善する助けとなる、より想像力に富んだ警察署の構想が提示された。[32]
(2011年10月末現在)
ロンドン警視庁は8,000以上[44]の車両・船舶等を管理・維持しており、幅広い任務で使用している[45]
ロンドン警視庁の最前線で用いられている車両の一覧はこちら。[45]
大多数の車両は3年から5年の運用寿命で、毎年およそ800台から1,000台の間で置き換え、更新が進んでいる。
また、航空支援隊は3台のヘリコプターユーロコプター EC 145を所有しており、India 97、India 98、India 99、のコールサインを使用している。これらのヘリコプターはロンドン警視庁向けの塗装が施され、幅広い任務に使用されている。各々の運用経費は520万ポンドで、運用寿命は10年とされており、2017年に更新される予定である。[45]
ロンドン警視庁海上保安部はロンドン東部ドックランズのワッピング地区を拠点に、計22隻の船舶を運用している。
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ロンドン警視庁が捜査を担当、または関わることになった事件・事故のうち、著名かつ重大なものを以下に示す。
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