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石灰岩などでできた大地が水に溶食されることで生じる地形 ウィキペディアから
カルスト地形(カルストちけい、ドイツ語: Karst)とは、石灰岩などの水に溶解しやすい岩石で構成された大地が雨水、地表水、土壌水、地下水などによって侵食(主として溶食)されてできた地形(鍾乳洞などの地下地形を含む)である。化学的には、空気中の二酸化炭素を消費する自然現象である。
広義には、クロアチアのプリトヴィツェ湖群国立公園や中国の九寨溝、トルコのパムッカレ、アメリカのイエローストーン国立公園などの、大量の石灰分を溶解した地下水や温・熱水から石灰華が大規模に再沈殿して作り出される地形も、カルスト地形に含まれる。これらの場合、基盤地質が石灰岩であるとは限らず、化学的には空気中に二酸化炭素を放出する。
また、石灰岩やチョーク(白亜)、泥灰岩、白雲岩(ドロマイト)などの炭酸塩岩以外にも、蒸発岩類(石膏岩、岩塩など)には溶食性の地形が大規模に形成されることがあり、カルスト地形に含められる。空気中の二酸化炭素量の増減には関係しない。
岩石はごく微量であるが水に溶解する。その溶解性は岩石を構成する鉱物種の化学性によって大きく異なる。石灰岩は大体において石灰質の殻をもつ生物の遺骸が海底に厚く堆積して生じたものであるが、鉱物学的には主として方解石(炭酸カルシウムCaCO3)からなり、他の岩石に比べて酸性水に対する溶解性が非常に高い。地表流によって削り取られる侵食が作用することももちろんあるが、そのような侵食作用が働かない所でも、炭酸の作用による溶食で石灰岩が少しずつ水に溶け、地表にはドリーネが、地下には鍾乳洞が発達する特異な地形が生じていく。こうして生じた地形をカルスト地形と呼んでいる。
炭酸を生じる二酸化炭素の主要な供給源は土壌である。一般に高温湿潤な地域ほど土壌中の微生物活動が活発なため、二酸化炭素の生産量が大きく、また降水も豊富なため、カルスト地形の発達が激しく、石灰岩が高い尖塔/柱状、あるいは塔状、円錐状に残る地形が生まれる。カルスト地形を形成する岩石には、石灰岩のほかに苦灰岩(白雲岩)や石膏岩などがあるが、後二者のカルスト地形は日本では見られない。
カルストという語は、スロベニアのクラス地方(岩石を意味する古代の地方名Carusadus、Carsusに由来)に語源がある。この地方には中生代白亜紀から新生代第三紀初頭にかけて堆積した石灰岩が厚く分布し、溶食による地形が広く見られるが、地政的にスロベニア語でKras、ドイツ語でKarst、イタリア語ではCarsoと呼ばれてきた。とくに1893年のヨヴァン・ツヴィイッチによるドイツ語論文「Das Karstphänomen」によって、同種の地形を表す呼び名として「カルスト」がヨーロッパで広く使われるようになり、世界的に定着した[1]。
土壌による被覆が少なく、石灰岩の露岩が主の地帯を裸出カルスト、逆のものを被覆カルストという。石灰岩の構成成分は大部分が風化(溶食)により流れ去ってしまうため、日本のような純度の高い石灰岩では土壌構成鉱物の微粒子が生成しにくく、石灰岩起源の風化残留性土壌(テラロッサ)の蓄積が少ない。
ナンテンやビワ、アザミなどの好石灰岩植物がよく見られる反面、ツツジやシイなどは石灰岩質の土壌を嫌うせいか、ほとんど生育していない[2]。しかし地域によっては長い地質時代の間に、風成のレス(黄土)や降下火山灰が厚く堆積し、それらが温暖湿潤な気候のもとで土壌化した赤茶色の土壌が見られることもある。そのようなところでは一般的な森林の発達も良い。一般に土壌の発達が少なく、かつ岩盤中の浸透水も流れやすいという性質を併せ持つため、カルストの山地は一般に保水性が悪い。このため植物群落の発達が限定されることがあり、森林が形成されず草原となっている例が多い。
地表地形の特徴により、多角形カルスト、コックピットカルスト、円錐カルスト、円頂カルスト、塔カルストなどの、気候や場所等の違いにより、乾燥カルスト、地中海カルスト、亜熱帯カルスト、熱帯カルスト、海岸カルスト、高山カルスト、温水カルストなどの総称語がある。
雨水が石灰岩の割れ目に沿って集中的に地下に浸透する過程で周囲の石灰岩を溶かすため、地表にはドリーネ(doline: 擂鉢穴・落込穴; 語源はスロベニア語の谷、米語ではほかにsinkhole)と呼ぶすり鉢型の窪地が多数形成される。直径は10mから1,000m、深さは2mから100mくらいである[3]。ドリーネは地下の空洞の天井部が陥没することによってもできるが、このような陥没型のものは側壁が急で、グラス形や湯呑み形が多い。沖縄県宮古島市下地島の通り池は、陥没ドリーネに海水が浸入した例である[4]。
ドリーネが徐々に拡大して隣り合った複数のドリーネがつながってより大きな窪地に成長したものがウバーレ(uvala: 連合擂鉢穴; 語源はセルボクロアート語)である。地下水位が浅くあるドリーネでは、豪雨時に一時的なドリーネ湖が生じることがあり、珍しい(代表例: 秋吉台の帰水ドリーネ)。
雨水がドリーネを通じて地下に流入するため、一般には地上に川が生じない。そのため他種岩石の地帯のように、谷による地表地形の侵食が起こらない。地下に浸透した雨水はやがて割れ目に沿って集まり、地下川をなし、大小の洞窟をつくりながら下流へと流れ、山麓に開口した洞窟や湧泉から再び地上へと現れる。
ドリーネと共に地表には、土壌水の溶食から溶け残った石灰岩の突出部(石灰岩柱[5] / ラピエ岩柱[6]; ピナクル pinnacle)が無数に土壌中から顔を出す。古く日本ではこのような地形を「石塔原」や「墓石地形」と呼んだ。通常、石灰岩柱は雨水による溶食でギザギザと尖っていることが多いが、熱変成をうけた結晶質の石灰岩(大理石)では石灰岩柱は丸みを帯びた形を成す。福岡県の平尾台にはこのような円頂型石灰岩柱が無数に発達し、これらを羊群に例えて、それらが特徴的によく発達した地域を羊群原と呼んでいる。
石灰岩柱の表面や、石灰岩柱の間の土壌に埋もれた潜在部には、雨水や土壌水の溶食によって形成された小溝が多く生じ、カッレン(karren; 語源は独語の車の轍)と呼ばれている。石灰岩柱が林立し、カッレンがたくさん生じた小起伏の地形は、カッレンフェルト(karrenfeld)と呼ばれている。
上述したカルスト地形の形成は、気候の影響(二酸化炭素生産量や降水量)が大きいが、一般には起伏量の小さい地帯で教科書的に進行し、カルスト台地をつくっていることが多い(西南日本内帯の秋吉台、平尾台、阿哲台、帝釈台など)。また南西諸島には、隆起サンゴ礁からなる段丘地形を示すカルストが多くみられる。いずれも溶食によって原面よりも低下してはいるが、その平坦な地形は原地形の平坦性、例えば西南日本内帯の例では中新世の吉備高原面(隆起準平原)、南西諸島の例では過去の礁原面に由来するといわれる。
地下川のもつ流域面積が分かれば、カルストから流れ出る地下川水に溶けている石灰分の量を測定し、溶食によって原地形が時代とともに低くなる速度を推定することができる。世界各地で行われた研究から、降水の多寡によって異なるが、中緯度帯の多くの場合に1万年で0.2〜1.2m厚さの石灰岩が地表から溶食されると推定されている[7]。山口県秋吉台の場合、1万年で0.5〜0.6mという[8]。
逆に起伏量の大きい地帯では、石灰岩の地塊はしばしば急斜面や急崖をもち、上部にカッレンフェルトやドリーネをもつこともある独立峰的な高い山をつくる(四国カルストや青海カルスト、伊吹山、霊仙山、藤原岳、武甲山、碁盤ヶ岳など)。地域によっては、頂上部に平坦面を残すことがある。
これは地表流が生じないという特性に加えて、石灰岩が化学的溶食性を有する反面、他種の岩石に見られるような化学風化を受けないために、軟岩化が進まず、岩盤としての抗侵食性が大きいためである。起伏量の大小を決めるものは、最近の地質時代における隆起速度とその継続時間、ならびに河川侵食の進行度(降水量や隆起後の経過時間、海岸からの距離、下流域の地質による)である。
カルストの山地には一般に地表流は見られないが、低地には非石灰岩地帯から流れ込んでくる外来の川や、カルストの地下水が洞窟や湧泉から流れ出る川などがあり、これらの河谷にはポノール(吸込穴・飲込穴・嚥穴)や湧泉、洞窟跡、天然橋、岩壁、石灰華の滝など、独特の景観が見られる。谷壁が急峻で、峡谷状を呈することが多い。
溶食が進み、ウバーレからさらに大きくなった盆地底に地下水面が現れ、広い沖積地が生じた地形をポリエ(polje; 語源はセルボクロアート語の平野)という。大きいものでは数百平方kmの広がりを有することがある。代表的なポリエでは、洞窟や湧泉から流れ出る地下川がポリエ内を流れた後、再び下流側のポノールから地下へ流れ込んでいく。日本には完全な例はないが、山口県秋吉台の上流側にある美東町赤郷地区にはこれに近い型のものがあり、縁ポリエ(もしくは縁辺ポリエ)と分類される。
ポリエ内は湿性で、季節的な氾濫が起こることが多い。しばしば広い範囲に湛水し、一時的なポリエ湖を生じることがある。単なる河川の氾濫ではなく、石灰岩体内の地下水位が広く沖積面よりも高く上昇し、生じるものである。このような時には普段のポノールが逆に吐出洞へと変わる。赤郷地区小川(こがわ)の沼ポリエでは数年に一度くらい、豪雨時にポリエ湖が発生することがある。数日から1週間くらいにわたって水田や畑地が広く冠水する(排水路短絡工事が行われ、近年は発生がなくなった)。
カルストの山地は雨水が地下に浸透するため、一般に水に乏しく、例外的なものを除いては湧泉は見られない。しかし山麓や沖積地などには石灰岩体に貯留した地下水が流れ出たり、湧き上がったりするところが多く、これらを総称してカルスト泉と呼ぶ。
特異なカルスト地形として、地質時代に形成された沿岸域のカルストが気候変動等による海水準の上昇によって海面下に没した沈水カルストがある。カリブ海沿岸のもの(ドリーネの沈水地形であるブルーホールや海中鍾乳洞など)が有名で、その奇観が洞窟潜水による探検記録としてよくメディアによって紹介されている。日本では沖縄海域沿岸部で海中鍾乳洞が幾つか発見されている。石垣島の名蔵湾には日本最大級といわれる沈水カルストがあり、九州大学大学院比較社会文化研究院の菅浩伸教授らのグループが2014年に3次元海底地形図を完成させている[11]。小笠原諸島南島の沈水カルスト地形は、天然記念物に指定されている[4]。
石膏岩は石灰岩と違って二酸化炭素を必要とせずに水に溶解する(溶解度は0.2g/100cc程度)。そのため石灰岩地と同じように地下水系が発達し、洞窟やドリーネなど、カルスト地形が形成される。ウクライナ、ドイツ、ポーランドなどにみられ、ウクライナのOptymistychna Cave(総延長230km/2005時点)は、中新世に堆積した厚さ約20mの石膏層中に、約2km四方にわたって広がる迷宮状の洞窟をつくっている。
後述する石灰岩の溶食過程と違い、石膏カルストの溶食は次のように表される。
CaSO4 → Ca2+ + SO42-
古カルストとも。過去に生じ、現在はそのカルスト化作用が停止しているカルスト地形をいう。例えば、降水がほとんどない砂漠気候下にあるカルスト地形は過去の湿潤な気候の元で発達した化石カルストである。また、過去に生じたカルスト地形がより新しい時代の地層に被覆され、保存されているものも化石カルストである。
後者の例としては、中新世の海成層(備北層群)によって被覆され、後に同層が削剥されたという地史をもつ吉備高原[12]にある帝釈台や阿哲台は化石カルストの性格を併せもつものともいえるが、詳細はよく分かっていない。
鍾乳洞の多くは、地下川による活発な洞窟形成作用が働いているものを除けば、その多くは化石カルストといえる。
炭酸塩岩類(石灰岩、白雲岩など)や蒸発岩類(石膏岩、岩塩など)以外の非溶解性の岩石等にもカルスト地形に似た凹地や洞穴、溶食性の微地形が見られることがあって、地下水系が発達することがある。これらを偽カルスト(擬似カルストとも)という。次のような岩石や土壌等の地帯に見られ、寒冷カルスト、氷河カルスト、レスカルスト、蛇紋岩カルストなどの語がある。
カルストの地下地形が発達していく過程には、大きく3つの過程がある。第一の過程は、石灰岩の割れ目に沿って流れる地下水の作用で溶食が進み、洞窟空間ができていくものである(石灰洞の形成)。第二の過程は、地下水中に溶けた石灰分が洞窟内において晶出し、石灰分からなる特異な沈殿物(広義の鍾乳石)が生じ、洞窟が装飾されていく過程である(鍾乳洞の形成)。第三の過程は、年齢を重ねた洞窟が終末期を迎え、崩壊していく過程である。
水H2Oに溶けた二酸化炭素CO2から炭酸H2CO3が生じ、炭酸と石灰岩の主成分である炭酸カルシウムCaCO3との化学反応によって溶食が進むものである。土壌中を浸透した地下水には多量の二酸化炭素が土壌空気からとけ込んでいる(大気から雨水に溶け込む量の数倍から百倍程度)。最初は微小な割れ目に沿って石灰岩が溶食されていくが、やがて水みちは大きくなり、いずれかの流れやすい流路を選んで水が流れるようになる。こうして流量が増えてくると、砂礫や砂などが流れ込むようになり、溶食以外に水流による侵食(磨食)も加わって洞窟と呼ばれるような大きな空間が形成される。空間がある程度大きくなると天井や壁面の崩落・崩壊が起こることがあり、空洞が一時的に埋まるが、地下川がある場合には局所的に流速が早くなり、溶食作用が強く働くようになって洞窟の拡大がより進行する。
この溶食過程を化学反応式で示すと次のようになる。
反応の結果生じる炭酸水素カルシウムCa(HCO3)2はカルシウムイオンと炭酸水素イオンに分離した形でのみ存在し(つまり水に溶けている状態、その結果流れ去って溶食が起こる)、次のように記される。
稀には火山性温/熱水中の硫酸H2SO4、あるいは石油鉱床等からくる地下水中の硫化水素H2Sの酸化によって生じる硫酸による溶食が働くことがあり、その化学反応式は次のように表される。
次に、洞窟形成環境を水文地質学的な観点からみると以下の3つの型(循環水帯型、地下水面型、飽和水帯型)に分けられるが、実際には各タイプの洞窟が時間的、空間的に組み合わさり、他の地質的な要因(石灰岩の岩質、非石灰岩の挟在・重なり・接触、割れ目系などの地質構造)も加わって複雑に発達していることが多い。このような地質的な要因は地表地形の溶食型にも大きく影響する。
石灰分の晶出は、外気と洞内気の温度差によって人が通過できないような割れ目や穴をも流れる気流(煙突効果)のために、洞内気の組成は外気とほとんど変わらないという理由で起こる。つまり洞内気の二酸化炭素は外気(0.04%)とそう変わらない(せいぜい数倍)ために、土壌空気に由来する多量の二酸化炭素によって多量の石灰分を溶かしている地下水が洞窟内に滲出すると、二酸化炭素は水中から洞内気の方へ逃げていく(ビールから二酸化炭素が逃げるように)。すると溶存していた石灰分は二酸化炭素が逃げた分だけ水に溶けていることができなくなり、沈殿を始める。こうして鍾乳石(洞窟生成物、二次生成物、石灰生成物、洞窟装飾物)ができ、洞窟内が装飾されていく。
この沈殿過程を化学反応式で示すと、上述の式とは逆に次のように記される。
鍾乳石はできる場所や水量、不純物の量などによって様々に形や色、大きさを変えるので、色々の形態名があるが、成分は炭酸カルシウム(鉱物名は方解石、岩石名は結晶質石灰岩)である。まれに同じ化学組成で、結晶構造が異なる霰石からなるものも見られる。これらが洞窟内に特異な風景をつくっている。中には光を当てるときらきら光り美しいものがあるが、細かい方解石の結晶面が暗い洞窟内で照射光を反射するためである。主な種類には次のようなものがある。
地表の侵食(溶食)が進んで洞窟の天井をなす岩層が薄くなったり、空洞が極度に大きく成長した場合などには、洞窟は崩壊を始める。また、地下水面下で発達中の地下川洞窟系が、何らかの原因(地下水の汲み上げや鉱山開発による排水など)による地下水位の急激な低下によって浮力による支持を失い、大きく陥没することがある。
地下川系をなす空洞の天井の一部が崩落し、陥没ドリーネが生じると、地上から底を流れる地下水が見えることがある。これをカルストの窓(天然井戸、地下水流の窓とも)という(代表例: 鹿児島県沖永良部島の水蓮洞や田皆暗川、ユカタン半島のセノーテなど)。
洞窟内の局地的な天井や壁の崩落は、地表侵食の進行度とは関係なくよく見られる現象である(代表例: 山口県秋芳洞の千畳敷)。
洞窟系全体にわたって崩壊が進んだり、盲谷とポケット谷の連結に際して、一部が橋のように残ることがある。これを天然橋と呼び、カルスト地帯に多い(代表例: 広島県帝釈峡の唐門や雄橋、岡山県阿哲台の羅生門など)が、天然橋は石灰岩地以外にも海食作用や風食作用によって多く生じている。
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