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ダニ目マダニ科に属するダニの総称 ウィキペディアから
マダニ(真蜱)は、節足動物門鋏角亜門クモ綱ダニ目マダニ亜目マダニ科(Ixodidae)に属するダニの総称である。マダニ亜目(もしくはマダニ目)には他にヒメダニ科(Argasidae)とニセヒメダニ科(Nuttalliellidae)が含まれるが[1]、本項では主にマダニ科に関する記述を行う。
マダニは、第一脚先端近くにハラー器官と呼ばれる感覚器を持ち、これらによって哺乳類から発せられる酪酸の匂いや体温、体臭、物理的振動などに反応する。その吸血行為によって、マダニの体は大きく膨れあがる[2]。
マダニ科の特徴の一つに背板の存在が挙げられる。これは胴部の背面に存在する外皮を覆う硬い組織である。これを持つことにより、マダニ科のダニは硬ダニ(hard-tick)と呼ばれる。一方でヒメダニ科のダニは背板を持たず、外皮が軟らかいため軟ダニ(soft-tick)と呼ばれる[1]。
電子顕微鏡用の真空には耐え、生きたままの状態を観察する事ができる[3]がクマムシほど研究されておらず、なぜ耐えられるのかのメカニズムは解明されていない[3]。
マダニの口器は鋏のような形状をしており、これにより皮膚を切り裂く。さらに、口下片と呼ばれるギザギザの歯を刺し入れて、宿主と連結し、皮下に形成された血液プールから血液を摂取する[2]。
この時、マダニは口下片から様々な生理的効果のある因子を含む余剰体液を宿主体内に分泌し[4][5]、吸血を維持している。また、フタトゲチマダニ等をはじめとした、マダニ属、キララマダニ属以外のマダニは、口下片を唾液に含まれる、セメントの様な物質で包むことで連結を強固にしている[2]。
このような吸血方式の違いのためマダニの吸血時間は極めて長く、雌成虫の場合は6 - 10日に達する。この間に約1mlに及ぶ大量の血液を吸血することができる[2]。
マダニ科のダニは長期の活動停止期を持つことが知られる。例として日本に広く分布しているフタトゲチマダニを挙げる。フタトゲチマダニの幼虫は夏から秋にかけて活動が見られるが、次の発育段階に当たる若虫は春から夏に活動し、秋以降に活動が見られない。また、成虫は夏に活動のピークを持ち、秋以降はみられない。幼虫が秋まで活動しているのに、秋以降に若虫の活動が認められず、また若虫が春から夏にかけて活動しているのに、成虫が秋以降にみられないのは不自然であり、各発育段階において秋から春にかけて活動が停止している。
これはマダニが発育段階の間に休眠をとることから説明される。吸血を行ったダニは脱皮を経て次の発育段階へ進むが、この時に長期の休眠を行うのである。休眠行動はマダニ科のダニでも種によって、時期や期間、さらには休眠の有無が異なることが知られる。この休眠行動は日長の変化により支配されると考えられており、発育に適した時期と吸血行動の同調や、高温や低温に対する抵抗性の獲得に役立っていると考えられている[6]。
マダニ科は14の属と702種から構成される[7]。この中にはボレリアやリケッチアのベクターとして生態学的に重要なものが含まれる[8]。
マダニ科には以下の属が含まれる:
マダニ科のダニは、吸血の際に様々な病原体を伝播させるベクターとして知られる。2020年代になって新たに確認されるウイルスもある[9]。以下に、媒介する感染症の代表例を挙げる。
草木の多い場所になるべく入らない、入る場合は長袖の上衣や長ズボンを着用し、草に直接座らない、虫除けスプレーを使用する[16]、帰宅後すぐ着替え入浴するなどが望ましい[17]。
マダニ科は口器を皮膚に刺し込んだ際にセメント様物質を唾液腺から放出する。このセメント様物質は半日程度で硬化するため、これ以降1 - 2週間程度は体から離れない。そこで無理にマダニを引き抜こうとすると、消化管内容の逆流により感染リスクの上昇を招いたり、体内にマダニの頭部が残ったりしてしまう可能性が高い。1 - 2週を経過した後は、セメント溶解物質を唾液から出し、これによって皮膚から離れる。
ヒメダニ科はセメント様物質を放出しないため、容易に取り除くことが出来る。
感染症罹患の恐れがあるため、マダニ咬症の場合は医療機関を受診すべきである。切開してマダニを除去するのが一番確実であるが、ダニ摘除専用の機器も存在している。民間療法ではマダニ虫体にワセリンを塗り[18]、約30分後に虫体を取り除く[19]、食塩を塗る[20]、アルコール、酢や殺虫剤をつけたり、火を近づけたりするとマダニが嫌がって勝手に抜けることがあり、それが成功した例も報告されているが、無理に自己摘除しようとするとダニ媒介感染症の感染リスクが上昇するので推奨されない[21]。除去後、セフェム系やペニシリン系、テトラサイクリン系などの抗生物質を投与する[19]。
少数の場合はピンセットなどを用いて除去するが、局所の炎症や膿瘍を誘発する可能性がある。体表に多数の寄生が見られる場合は殺ダニ剤を直接適用して殺虫・除去を行う[1]。
ダニの防除法としては殺ダニ剤が用いられる。世界各地で有機リン系、ピレスロイド系、アミジン系、ニコチン系、マクロライド系の抗生物質や成長阻害剤などが用いられる。また、これらの合剤が用いられることもある。しかしながら、アメリカ合衆国、南米、オーストラリアなどの畜産国では殺ダニ剤抵抗性のマダニが出現し問題化している。最近ではマダニの中腸に由来する糖タンパク質の組み換え体をワクチンとして用いる方法がオーストラリアや中南米で実用化されている[1]。
マダニの唾液腺や消化管には、galactose-α-1, 3-galactose(以下α-gal)という糖鎖を持つ蛋白質が存在する[22]。マダニ咬傷によって人体がα-galに感作される(α-galアレルギー)ことがある[22]。α-galは牛肉や豚肉、羊肉に広く存在し、また抗腫瘍薬であるセツキシマブの分子構造中にも存在するために、マダニ咬傷後にこれらの物質に対して蕁麻疹やアナフィラキシーショックを起こす体質になってしまうことがある。またα-galはカレイの魚卵の蛋白とも交差抗原性を持つために、子持ちカレイの料理などに対してもアレルギーを持つようになる[22]。ただしAB型およびB型の血液型の人はこれらのα-gal関連アレルギー反応を起こし難いことも知られている[22]。α-gal関連アレルギーがあるかどうかは、α-gal特異的IgE検査(CAP-FEIA法)で調べることが出来る[22]。
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