ヒメハマトビムシ は日本 全国の海岸に生息する小型の陸棲甲殻類である。体長は15mm程度( 平山 1995 ) 。20世紀中は世界各地にみられる汎存種 と考えられていたが、近年の研究によって、複数属・種を内包する総称として位置づけられるようになった。
概要 ヒメハマトビムシ, 分類 ...
ヒメハマトビムシ
分類
閉じる
砂浜,礫浜,岩礁など多様な海岸の汀線上に生息し、昼間は海岸漂着物の下側あるいは砂質に潜りこんでいる。
雑食性を示し、打ち上げられた海藻 やその他生物の遺骸,砂粒の表面に付着した珪藻 を食べていると考えられている。
隠れている漂着物が取り除かれると、四方八方に飛び跳ねて逃げる。
ヒメハマトビムシ種群に噛まれたとする証言も散見されるが、等脚類 と混同している可能性も否定できない。一方で、タイヘイヨウヒメハマトビムシPlatorchestia pacifica による噛みつきを指摘する観察例もある[1] 。
多くの文献において「ヒメハマトビムシ」という和名はOrchestia platensis ( Iwasa 1939 ) ( 永田 1965 ) あるいはPlatorchestia platensis ( 平山 1995 ) に対応されてきた。しかし、2004年に真のPlatorchestia platensis はアジア に分布しないとの知見が示され、台湾 の標本を元にPlatorchestia pacifica という新種が記載された( Miyamoyo & Morino 2004 ) 。台湾のPlatorchestia platensis がPlatorchestia pacifica に置換されたことから、日本においても同様の処遇が行われ、「ヒメハマトビムシ」に対応する学名はPlatorchestia pacifica とされた( 笹子 2011 ) 。その後、森野・向井(2016)はこの対応を認めつつも、これまでPlatorchestia platensis と同定されてきたサンプルにPlatorchestia joi (=Demaorchestia joi )が含まれることを示唆し、「ヒメハマトビムシ」に対応する学名として暫定的にPlatorchestia joi (=Demaorchestia joi )を当てた。その後、Platorchestia pacifica にはタイヘイヨウヒメハマトビムシとの和名が与えられた( 有山 2022 ) 。
従来「ヒメハマトビムシ」と呼ばれていた日本の個体群は、現段階で本邦から発見されていないP. parapacifica ,P. munmui ,P. koreanensis なども含まれている可能性が指摘されており( Morino 2024 ) 、研究の途上にある。
有山啓之『ヨコエビ ガイドブック』海文堂 、2022年、160頁。ISBN 9784303800611 。
平山明 著、西村三郎 編『原色検索日本海岸動物図鑑[II]』保育社、東京、1995年。
Iwasa, M. (1939), “Japanese Talitridae (With Plates IX-XXII and 27 Textfigures)” , 北海道帝國大學理學部紀要 (北海道帝國大學) 6 (4): 255-296, NAID 120000962371 , https://hdl.handle.net/2115/27016
Державин, A. (1937), “TALITRIDAE Советского Побережья Японского Моря”, Исследования морей СССР. : 87-106
Lowry, J.; Myers, A. (2022), “Platorchestiinae subfam. nov. (Amphipoda, Senticaudata, Talitridae) with the description of three new genera and four new species”, Zootaxa 5100 (1): 1–53, doi :10.11646/zootaxa.5100.1.1
Miyamoto, H.; Morino, H. (2004-07), “Taxonomic studies on the Talitridae (CrustaceaAmphipoda) from Taiwan. -II. The genus Platorchestia ” , PUBLICATIONS OF THE SETO MARINE BIOLOGICAL LABORATORY (京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所) 40 (1-2): 67-96, doi :10.5134/176317 , ISSN 0037-2870 , NAID 120005300455 , https://hdl.handle.net/2433/176317
Morino, H. (1975), “Studies on the Talitridae (Amphipoda, Crustacea) in Japan. II. Taxonomy of seashore Orchestia , with notes on the habitats of Japanese seashore talitrids”, Publications of the Seto Marine Biology Laboratory 22 (1/4): 171–193, doi :10.5134/175882
Morino, H. (2024), “Variations in the Characters of Platorchestia pacifica and Demaorchestia joi (Amphipoda, Talitridae, Talitrinae) with Revised Diagnoses Based on Specimens from Japan”, Diversity 16 (1), doi :10.3390/d16010031
森野浩; 向井宏(Japanese)『砂浜フィールド図鑑(1)日本のハマトビムシ類 』海の生き物を守る会、京都市、2016年。http://e-amco.com/activity#fieldguide1 。
永田樹三 著、岡田要 編『新日本動物圖鑑』北隆館、東京、1965年。
小川, 洋 (2020), “12 汎甲殻類” , in 坂本明弘; 中田和義; 福田宏, 岡山県野生生物目録2019 Ver1-2 , https://www.pref.okayama.jp/page/602836.html
笹子由希夫「日本産ハマトビムシ科端脚類の分布と分子系統解析 」『修士論文. 三重大学』2011年。https://hdl.handle.net/10076/13048 。
Stephensen, K. (1945), “Some Japanese Amphipodes”, Videnskabelige Meddelelser fra Dansk Naturhistorisk Forening 108 : 25–88
濵邉昂平「小笠原諸島父島におけるヨコエビ類について 」『小笠原研究年報』第40号、首都大学東京小笠原研究委員会、59-72頁、2016年。ISSN 0387-9844 。 NAID 120006354554 。https://hdl.handle.net/10748/00009728 。