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アガサ・クリスティの小説 ウィキペディアから
『ゼロ時間へ』(原題:Towards Zero)は、1944年にイギリスの小説家アガサ・クリスティが発表した長編推理小説である。
ゼロ時間へ Towards Zero | ||
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著者 | アガサ・クリスティー | |
訳者 | 三川基好 ほか | |
発行日 |
1944年6月 1944年7月 1976年7月31日 | |
発行元 |
Dodd, Mead and Company Collins Crime Club 早川書房 | |
ジャンル | 推理小説 | |
国 | イギリス | |
前作 | 動く指 | |
次作 | 死が最後にやってくる | |
ウィキポータル 文学 | ||
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ロンドン警視庁のバトル警視が活躍する本作品においては、犯人が殺人の計画を策定する時間から始まり、犯行の瞬間「ゼロ時間」へ遡っていく独特な叙述法が採用されている。
金持ちの未亡人のもとに、被後見人の男が訪れる。彼は前妻と現妻の両方を連れてくる。そしてこの未亡人の旧友が死に、さらには彼女も殺される。そこにバトル警視と彼の甥が呼ばれる。
トレリシアン夫人は寝たきりであったが、夏の間、海辺の家ガルズポイントに客を招く。トレリシアン夫人の亡夫の被後見人でテニス選手のネヴィル・ストレンジは例年どおり彼女を訪問するが、今年は例年と異なり、新妻のケイと前妻のオードリイを同時に招待しようと提案する。トレリシアン夫人は、この相容れない客人を不承不承了承する。長年オードリイに想いを寄せているトーマス・ロイドも海外勤務から帰国して訪れる。ケイの友人のテッド・ラティマーと、元弁護士の老人でトレシリアン夫妻の長年の友人であるトリーヴスも近くのホテルに滞在している。
トレリシアン夫人の予想通り、屋敷のパーティは居心地の悪いものであった。夕食会に招かれたトリーヴスは昔の事件の話をする。子供が矢で友だちを撃ってしまう事故だったが、近所の男性はその子が事前に弓矢の練習をしているのを目撃していたのだった。トリーヴスは、その子には身体的特徴があったので覚えていると語る。翌朝、トリーヴスがホテルの部屋で死んでいるのが発見され、死因は前夜に部屋の階段を上ったことによる心不全とされる。トーマスとテッドは、トリーヴスをホテルまで送った際、エレベーターに故障中の札が下がっていたことを覚えていたが、ホテルの従業員はその夜エレベーターは正常に作動していたと証言する。
数日後、トレリシアン夫人がベッドで惨殺されているのと、メイドが薬で眠らされているのが発見される。現場からネヴィル・ストレンジの指紋が付いたゴルフクラブが発見される。トレリシアン夫人の遺産相続人はネヴィルとオードリイであった。ネヴィルは事件当夜トレリシアン夫人と口論しているのが聞かれていた。しかし、メイドはバトル警視に、ネヴィルが夫人の部屋を訪れた後、テッドを探しにイースターヘッド湾に向かう前に、生きているトレリシアン夫人を見たと証言する。オードリイの部屋の窓の下のツタから血のついたオードリイの手袋が発見され、次いで本物の凶器、すなわちテニスラケットの柄と暖炉の縁にあった金属製のボールが発見される。
アンドリュー・マクハーターは、1年前に自殺未遂をした崖の上に立つ。オードリイは同じ崖から飛び降りようとするが、彼は飛び降りる前に彼女をつかまえる。彼女は恐怖を告白し、彼は彼女の無事を約束する。マクハーターは、地元のクリーニング店で別人の洗っていないジャケットを間違って受け取ってしまう。彼はガルズポイントの関係者ではないが、地元の新聞で報道されている捜査の進捗状況を読んでいたので、ジャケットにある奇妙な模様のシミが何なのかを察する。彼はガルズポイントを訪れ、メリイ・アルディンに頼んで一緒にロープを探してもらう。2人は屋根裏部屋に湿ったロープを発見し、警察が来るまで鍵をかけておく。
バトル警視は、オードリイの犯行を示す証拠と、彼女がすぐに罪を認めたことから、彼女を逮捕する。しかし彼は、自分の娘が以前、圧力に屈して無実の窃盗を自白したことがあったので、オードリイの自白も疑う。マクハーターはバトルに対して、事件当夜に川を泳いで渡ってロープで館の中に入った男を目撃したことなどを話す。トーマスは、ネヴィルとオードリイの離婚は彼女がネヴィルを恐れるようになったことが原因だったと明かす。彼女はネヴィルと別れてトーマスの兄であるエイドリアン・ロイドと結婚しようとしていたが、エイドリアンが交通事故で亡くなってしまったのだった。バトルは関係者を船に乗せ、ここまでの情報をもとにネヴィル・ストレンジから自白を迫る。彼は一連の事件の首謀者であり、最終的に前妻をトレリシアン夫人殺害容疑で絞首刑にするという目的(ゼロ地点)に向けて計画的に行動していたのだった。
ネヴィルは他の2人(トリーヴスとエイドリアン・ロイド)の死については証拠が不十分であった。彼の自白、よじ登るために使ったロープ、トレリシアン夫人の呼び鈴のトリックが説明されたことで、バトルは彼をトレリシアン夫人殺害容疑で逮捕する。オードリイはマクハーターを探し出して礼を言い、2人は結婚を決意する。2人はチリに行き、そこで彼は新しい仕事を始めることになる。オードリイは、いつかトーマスは自分がメリイ・アルディンとの結婚を望んでいることに気づくだろうと思う。
1944年7月22日付のタイムズ・リテラリー・サプリメント紙に掲載されたモーリス・ウィルスン・ディシャーの書評は次のように圧倒的に肯定的であった。「クリスティを無条件に崇拝する者は、彼女が最高の状態にあるということを実感しそこねるだろう。もしこの主張が正しいなら本書はまさにそれである。海辺の町に住むある人物の幸福が、卓越したストーリーテリングによって、今この瞬間に世界の何よりも重要であると思わせる。精密な頭脳の持ち主は、犯人が警察を使って犯罪を「完成」させることに異議を唱えるかもしれないが、迷路に曖昧さがあるとしてもこの物語には心を掴まれる。読者は登場人物たちに感情移入し、彼らの最終的な運命を知るまで満足できない。どちらも几帳面で、饒舌で、ポーカーフェイスな二人の男が、実は決して似ていないと気づくとき、二人が生き生きとしていることが明らかになる。好きでも嫌いでもない妻と元妻もまた、創造力を発揮している。『ゼロ時間へ』は、現代的な人間模様の表現として、優れた探偵小説として評価されるよりも高い評価を受けるに値する。」[1]
1944年8月6日発行のオブザーバー紙でモーリス・リチャードソンは次のように述べた。「アガサ・クリスティの新作は、おいしい葉巻と赤い革靴のように都会的で居心地の良い、長くて凝った作り込みをしている。ポアロは出てこないが、彼の影響力によって敏腕警察官は慎重に仕組まれたハウスパーティーの悪巧みと、ポアロの事件と見紛うような巧妙な二重のはったりをくぐり抜けることができる。アガサ・クリスティが、昔ながらの古典的な犯人探しの旗を、これほどまでに誇らしげに掲げているのを見るのは、なんと嬉しいことだろう!」[2]
ロバート・バーナードの評は、以下の通り。「超一流。複雑なプロットで、異彩を放っている。殺人事件は後から起こり、殺人犯の陰謀の本当のクライマックスは最後になってからである。工夫を凝らすと奇想天外になるのは仕方がない。子供と弓矢の話(第2部第6章)が非常に効果的で、プレイボーイでスポーツマンの中心人物の性格付けも良い。ウィンブルドンでは、紳士的な振る舞いが求められる時代なのだ。」[3]
1971年に行われた日本全国のクリスティ・ファン80余名の投票による作者ベストテンでは、本書は9位に挙げられている[4]。
題名 | 出版社 | 文庫名 | 訳者 | 巻末 | カバーデザイン | 初版年月日 | ページ数 | ISBN | |
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殺人準備完了 | 早川書房 | 世界傑作探偵小説シリーズ 第9巻 | 三宅 正太郎 | ― | ― | 1951年月日 | 297 | B000JBF8WK | 絶版 |
ゼロ時間へ | 早川書房 | 世界傑作探偵小説全集(ハヤカワ・ポケット・ミステリ) | 田村隆一 | ― | ― | 1958年月日 | 297 | B000JBF8WK | 絶版 |
ゼロ時間へ | 早川書房 | ハヤカワ・ミステリ文庫1-8 | 田村隆一 | 「ソルトリークの方へ」 福永武彦 | 真鍋博 | 1976年7月31日 | 327 | 4-15-070008-7 | 絶版 |
ゼロ時間へ | 早川書房 | クリスティー文庫82 | 三川基好 | 解説 権田萬治 | Hayakawa Design | 2004年5月14日 | 375 | 4-15-130082-0 | |
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