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『地を穿つ魔』(ちをうがつま、原題:英: The Burrowers Beneath)は、イギリスのホラー小説家ブライアン・ラムレイによるホラー小説。クトゥルフ神話の1つ。長編シリーズ『タイタス・クロウ・サーガ』6部作の第1作であり、1974年に執筆され、2006年に邦訳刊行された。
初版はDAW Booksからから刊行された。編集者はドナルド・A・ウォルハイム[1]。
解説は笹川吉晴。カバーイラストは山田由海。
東雅夫は「ラムレイの初期作品は、神話アイテムが列挙される単純なアイディア・ストーリーの域を出ないものが多かったが、タイタス・クロウがアンリ=ローラン・ド・マリニーとコンビを組み、邪神ハンターとなって活躍する長編の連作に取り組むようになって、次第に独自の路線を見いだした観がある」「良くも悪くも初期のラムレイらしさが全開といってよい」と解説している[2]。
タイタス・クロウは、頻発する地震と悪夢から、地底よりイギリス侵攻を企てる邪神シャッド‐メルを察知する。タイタスは敵の卵を入手し駆け引きに持ち込もうとするが、先手を奪われ、アンリと共に船上に避難する。米国ミスカトニック大学のピースリー教授は、2人を対邪神組織「ウィルマース財団」にスカウトする。財団はシャッド‐メルに追撃をかけ、英国からの撤退に追い込む。しかし風神の大嵐がブロウン館を襲い、タイタスとアンリは消息を絶つ。
構成はアンリ編纂による全14章。
作中時について、本作中では196X年や19XX年と記されているが、次作にてタイタスの失踪日が1969年10月4日と明記されている。
1968年5月、タイタスは複数の人物に手紙を送る。ラッパム氏には新聞記事を集めてくれるよう頼み、プラント氏には昨今の地震について尋ねる。ハーヴェイ氏は、ポール・ウェンディ―‐スミスの最後の小説が出版保留にされているという噂は誤りであり、両ウェンディー‐スミスが死亡認定された後に刊行され、最近短編集にも収録されたと回答する。
タイタスの手紙に応じて、炭坑調査員レイモンド・ベンサム氏は、自分が地底で目撃したものを証言する。タイタスはさらに返信で、ベンサムが「持ち帰って来たもの」が危険であることを説明し、タイタスに郵送するか、もとあった炭坑に投げ込んでしまうよう進言する。
6月、フランスから帰国したアンリがブロウン館を訪れたところ、タイタスが憔悴していた。タイタスは、今まさに世界に危機が迫っていると、太古の<生きのこりしものども><旧支配者>の脅威を語り始める。タイタスは30年以上にわたり夢見でそいつらの存在に触れていたが、ついに「忌まわしき大いなるクトゥルー」が地上への総攻撃を始めたのを感知した。夢は、クトゥルーの先兵たる地底にひそむ怪生物<地をうがつもの>の侵攻を告げる。
アンリもまた、かつての『ニトクリスの鏡』事件をきっかけに、クトゥルー神話について調べたことがあり、禁断の書物を読み漁った経験があった。いわゆる、神話上の「クトゥルー眷属邪神群」は、はるかな太古にオリオン座の旧神に反乱を起こし、旧神は彼らを幽閉したとされている。
だがタイタスは、そいつらはあくまで「未知の生物」であり「超自然的な怪物」ではないと断言する。タイタスはアンリに幾つかの書類群(1章、3章)を読むように告げると、仮眠をとる。
失踪した作家ポール・ウェンディー‐スミスの草稿。1973年の短編『セメントに覆われたもの』(セメントにおおわれたもの、原題:英: Cement Surroundings)を組み込んだもの。
考古学者エイマリー・ウェンディー‐スミス卿は、探検隊を組織し、『グ=ハーン断章』の記述を頼りに古代都市グ=ハーンを探してアフリカ奥地へと出かける。探検隊は全滅し、エイマリーただ一人が錯乱状態で生還し、「シャッド‐メル」や「クトゥルー」などわけのわからない世迷言をわめきちらす。
エイマリーはヨークシャーの湿地帯に建つコテージへと移り住み、独りでは不安だからと甥のポールを招いて同居させる。エイマリーは地震への恐怖から、自宅に地震計を置いていた。彼はアフリカから持ち帰った奇妙な「球」をポールに見せる。卿は悪夢にうなされ、わずかな揺れにすら怯えて狂乱する。
ある日、ポールは地震計のネジが外れていたことに気づき、計測器は今まで正常に動いていなかったことを知る。直すとすぐさま、異様な震動が検知され、伯父の怯えは単なる妄想ではなかったことが判明する。ポールが外出から帰宅すると、コテージが倒壊しており、エイマリーは行方不明で、「球」がなくなっており、書斎には床下から突き破られたとみられる大きな穴が開いていた。
ポールは別のコテージに移住し、伯父の手紙を読み始める。そこには、「球」が「やつら」の卵であり、筐が孵卵器だったことが記されていた。また、シャッド‐メルが「球」を取り返しに来るであろうことや、既に孵化した幼生2匹はエイマリーが焼き殺し、彼が幼生の親からの報復を恐れていることも記されていた。彼の遺稿には、ポールに国家権力とウィルマースに助力を求めるよう指示があったものの、地震が起こってポールのコテージも倒壊し、本人も行方不明となる。
地震後の廃墟で、地元警察は、ポールの手記とエイマリーの手紙を発見する。作家ポールによる、事実を装った小説であり、失踪は単に評判を集めるための宣伝戦略と結論された。
目覚めたタイタスは、アンリに4個の球体を見せる。ベンサムから郵送してもらった「シャッド‐メルの卵」である。分厚い殻はX線を通さないが、聴診器を当ててみると中身が蠢いているのがわかる。やつらはテレパシーで卵を追跡してくるだろう。だが卵回収はいわばついでであり、本命の侵攻作戦はすでに始まっていると、タイタスは説明する。すでにブリトン島には何ヵ所かやつらの巣が構えられているようだ。
アンリが、なぜシャッド‐メルは幽閉されてないのかと問うと、タイタスは「ネクロノミコン新釈」を取り出し、「五芒星の力」の章を読む。シャッド‐メルはグ=ハーンに幽閉されていたようだが、解放されたようである。アンリはクトゥルー神話には半信半疑であったが、マイナー邪神シャッド‐メルでさえ実在しているというならば、メジャー邪神たちも本当に実在していると考えざるを得ず、危機感を覚える。タイタスは、邪神と戦うためには、旧神が遺してくれた武器(魔法または太古の科学力)が欲しいと述べる。
タイタスは最優先対策として、卵をブロウン館の外に出し、敵の追跡を攪乱する作戦を思いつく。国内外の3人の協力者に協力を仰ぎ、航空便でタイタス→米国のピースリー教授→スコットランド諸島のマクドナルド氏→ブリストルの教母クォリー→アンリの順に郵送する計画である。卵が戻って来るまで、見積3週間ほどの時間を稼ぐことができるだろう。
アンリは卵を預かりブロウン館を後にするが、激しい頭痛に見舞われる。また地盤沈下が起こりベンサムが死んだと報道され、タイタスは後手に失したと悟る。計画を練り直そうにも時すでに遅く、アンリはすでに卵をアメリカに郵送していた。電話口で状況を報告しつつ頭痛を訴えるアンリの様子から、タイタスはアンリが敵のテレパシーに苛まれていると理解し、急遽アンリ邸に向かう。
アンリを苛む魔の精神攻撃を、タイタスは白魔術(ワク‐ウィラジの呪文)で祓う。また例の3人には緊急の電報を打ち、荷物が届いたら「決して封を開けることなく即次の相手に郵送する」よう指示する。そして2人はロンドンを脱出し、アンリが私有する館船でテムズ川に避難する。やつらは水を嫌うため、とりあえずこの船上を作戦基地としよう。タイタスは五芒星と霊液で簡易的な結界を張る。
タイタスは、やつら=クトーニアンに対抗策を積極的に仕掛けていくべきだろうと結論透ける。だが睡眠中に夢でやつらに接触され、敵意をぶつけられる。タイタスは夢の中でワク‐ウィラジの呪文を唱えてみたが、なにせ敵は大群であり、呪文のパワーがまるで足りない。さらに霊液が尽き、居場所がばれる。まだテムズ川の水の防御があると思っていたが甘かったようだ。
2人が昼食のために陸に上がったとき、店主が話しかけてくる。店主は、店に「タイタス・クロウ氏」を呼び出す電話がかかってきたことを告げ、船に住んでいる紳士2人の片方が氏であることを本人確認する。そして電話の相手の名前は「エイマリー・ウェンディー‐スミス」だと言う。その名に、タイタスとアンリは驚愕する。
船に戻ったタイタスとアンリは作戦会議をする。電話の怪人物が、敵の姦計であることは明らかで、適当な誰かを洗脳した傀儡であろう。2人に恐怖を与えて陸に上げるための罠であり、乗ったら敵の思う壺と結論付ける。
そのとき、悪臭芬々たる人影が船に近づいてきて、「エイマリー・ウェンディー‐スミス」を名乗り話しかけてくる。そいつは自分が30年以上前に失踪したエイマリー卿本人であると述べ、とうに人間の肉体を失っており、脳だけを汚穢の器に移植されているのだという。卿は地底イカに拉致され、知識を搾取され尽くし、今タイタスたちへの伝言役に遣わされて来た。卿は、やつらは30年間で変わった現代地理、社会情勢、原子力科学の進捗状況などを特に知りたがっていることを説明する。喋りすぎたことをテレパシーで感知されたために始末されるが、死にたくて仕方がないと思い続けていた彼にとっては望むところであった。卿はタイタスに「原子力だ。アザトースを読め。「妖蛆の秘密」から学べ」と遺言を告げると、汚泥となり崩れ果てた。
直後、船にウィンゲート・ピースリー教授がやって来る。教授は、タイタスから郵送された卵は誰も手を触れないようにと指示して大学に保管してあると説明し、2人をウィルマース財団の邪神狩人(ホラーハンター)に勧誘する。また2人に工業量産化した「五芒星の石」の護符を授ける。
ウィルマース財団は、故アルバート・N・ウィルマース教授が創設し、ピースリーが統括責任者を、ミスカトニック大学の老教授陣が運営委員会を務める、非公式の共同体である。構成員は500名。ウィルマース教授はポール・ウェンディー‐スミスから原稿を受け取ったことがきっかけでこの組織を立ち上げた。財団は故ウィルマースの目的を完遂するために活動を続けている。
またシャッド‐メル種族は、アフリカを根城としつつも、傀儡人間に卵を運ばせることで、世界中に卵をばら撒いている。やつらは1964年には北米に侵入を果たし、ミスカトニック大学や財団にもスパイを送り込もうと画策している。やつらはテレパシーで情報共有するため、撲滅が難しい。巣を1つ叩いても、他の巣のやつらに知らされ対策されてしまう。
財団は、陸棲の邪神(地の精)は水で倒せることを科学的に実証している。クトーニアンは水を浴びると、組織が冒されて溶解して死ぬ。また敵がばら撒いた卵を奪い取り、大学の実験室で孵化させる。生後半年の幼体には酸も熱もレーザーも物理も効かなかった。有効なのは、水と、あとひとつ。教授の問いに、タイタスは「放射能だろう」と推測して的中させる。エイマリー卿の遺言は「プリンのアザトースに学べ」であり、アザトースは「原子の混沌」と呼ばれている邪神である。ピースリー教授は、プリンの書には核物質の使用が記されていたことを肯定する。
財団は、やつらを罠にかけて一網打尽にする作戦を準備している。教授は文書を取り出し、2人に読むよう言う。
ポンゴ・ジョーダンによる報告書。短編『海が叫ぶ夜』(うみがさけぶよる、原題:英: The Night Sea-Maid Went Down)を組み込んだもの。短編版は1971年のアーカム・ハウスの単行本『黒の召喚者』に収録され、単行本がそのまま国書刊行会から朝松健訳で邦訳刊行された。
海底油田採掘船・海精号(シーメイド号)で監督を務める<ポンゴ>・ジョーダンは、あるとき、北海の海底掘削600メートルの箇所から、「星の形をした石」を掘り出す。ポンゴはその石を別の船で見せてもらったことがあった。その船は海難に遭って沈没しており、ポンゴはまったく別の場所から同じ石が出てきたことを不思議がる。
ボルゾフスキーという船員は、石を見たとたんに「このあたりの海域は呪われている」と狂乱し、陸に戻るべきだと言い張って聞かない。作業員たちの意欲が下がるのを懸念したポンゴは、彼の迷信をやわらげようと、石を砕いて成分分析にかける。ポンゴは、石を単なる「ヒトデの化石」と予想していたが、鑑定結果は全く未知の物質とされた。もちろんこのような結果をボルゾフスキーに伝えるわけにはいかず、掘削を続けていると同じ石がさらに幾つか発掘され、ポンゴは内心不安を抱くもあえて無視をする。やがて海底聴音機からコンピュータを介して異音が検出されるも、ポンゴたちは愚かにも機械の不調のせいだと判断する。
あるとき「釣った鱈が凶暴化して船員に噛みつく」という事件が起きる。休暇を取って陸に上がっていたボルゾフスキーは、言い訳をして船に戻って来ない。船員の一人ロバートソンは、おびただしい魚の群れに呑まれて海に消える。
やがて海精号は石油を掘り当てるも、船は転覆して何人も死ぬ。海に投げ出されたポンゴは、怪生物を目撃し、運よく救助される。噴出したのは、石油ではなく邪神の血であった。海底岩中の生物に、掘削ドリルが突き刺さったのである。ポンゴは社長宛に手紙を書き、海底に化物が棲んでいることを警告した後に、退職する。
海棲ショゴスが船に攻撃を加えてくるが、ピースリー教授が石と呪文で退散させる。3人は船を降り、ブロウン館に戻る。
8月下旬。邪神1匹の場所を特定した財団は、討伐のために隊を出す。場所はとある湿原であり、地下に「下級の邪神」が眠っている。タイタス、アンリ、ピースリー教授、ポンゴ・ジョーダン、ゴードン・フィンチなどが揃い、車輛が何台もやって来て準備を整える。だが、感知能力で邪神を探っていたフィンチが勘付かれ、逆に精神攻撃をくらう。さらに邪神は天候を操り、豪雨と強風を起こして抵抗する。邪神の体に削岩装置が銛を打ち込み、爆弾を起爆するが、邪神は断末魔の反撃を試みる。最終的に討伐は成功したが、たかがザコ1匹を倒すだけの作戦でありながら、財団側の被害も大きく、作業員の死者6名、行方不明者5名、負傷者多数、フィンチは発狂した。フィンチが報告した邪神の名を、英語でむりやり表現すると「Cgfthgnm'o'th」となる。財団はイギリス政府に結果を報告する。
9月。財団は別の邪神1匹を罠にかけ、水攻めを用いて討伐に成功する。
一方、財団員の不審死が相次いでいた。タイタスとアンリも狙われ、タイタスが運転する自動車の前に、地底イカ=シャッド‐メルの仔が出現する。2人はなんとか回避して事なきを得る。どうやら敵は新戦術として、財団員に精神侵犯を仕掛け、隙を作って狩りを遂行しているようである。五芒星石の防衛力が突破されつつある事実を、タイタスはピースリー教授に報告する。
対邪神群の組織戦。1968年10月から翌1969年9月まで。
この節の加筆が望まれています。 |
アンリ宅に泥棒が侵入し、現金が盗まれる(アンリの五芒星石が偽物とすり替えられた)。(敵のテレパシーの影響で)アンリは鬱症状に陥り、静養するためダラム州に出かける。またブロウン館にもならず者が入り込み、電話が壊される。かくして、タイタスとアンリは分断された。タイタスは敵の罠に気づき、アンリに手紙で一刻も早くロンドンに戻るよう指示する。
アンリとタイタスはブロウン館に籠城するが、10月4日、邪神イタカの大嵐が襲来する。館は崩壊し、タイタスとアンリは「大時計」に入って異次元へと避難する。
瓦礫跡からは、2人の遺体と大時計が発見されなかった。本書『地を穿つ魔』は、13章までをアンリが執筆編纂し、さらに廃墟から発見された14章をピースリー教授が付け加えたものである。
クトーニアンという語そのものは多義語である。あるときは陸棲の邪神(地の精)の総称であり、より狭義には地底イカの種族を指し、一定しない。
ウィルマース・ファウンデーションは、「CCD」(クトゥルー眷属邪神群)と名付けた。
太古に邪神群を封印した勢力。タイタスは、邪神が未知の生物なのだから、彼ら旧神は太古の「科学者」だろうと推測している。
彼ら旧神の実像は、シリーズ2作『タイタス・クロウの帰還』にて明らかとなる。
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