オニグルミ(鬼胡桃[6]、学名: Juglans mandshurica var. sachalinensis)は、クルミ科クルミ属に属する、落葉性の高木である。実は縄文時代から食用として利用され、リスなどの食料としても重要である。材はかたく、家具材などにして使われる。
オニグルミ | ||||||||||||||||||||||||||||||
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オニグルミ Juglans mandshurica var. sachalinensis | ||||||||||||||||||||||||||||||
分類(APG IV) | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Juglans mandshurica Maxim. var. sachalinensis (Komatsu) Kitam. (1949)[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
オニグルミ、 カラフトグルミ[1]、 カラフトオニグルミ[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Japanese walnut |
名称
別名で、カラフトグルミ(樺太胡桃)[1]、カラフトオニグルミ(樺太鬼胡桃)[1]ともよばれる。地方名で、オグルミ、ヤマグルミなどともよばれている[7]。中国植物名では「核桃楸」(かくとうしゅう)という[8]。 俗に野生のクルミ全般を「オニグルミ」と呼ぶ場合もある。なお、日本列島においてクルミ属で自生する種には、他にヒメグルミが挙げられる。
分布域・生育地
日本の北海道・本州・四国・九州と、樺太にかけて広く分布する[6][9]。沖縄にはなく、鹿児島県の屋久島が南限とされる[10]。本州の中北部に最も多い[10]。湿気のある林内や林縁などに生え[8][11]、主に山野の川沿いや河畔など湿り気の多いところで多く見られる[12][13][14]。
形態・生態
落葉広葉樹の高木[6]。高さは7 - 20メートル (m) [15]、大きいもので高さ30 mに達し、幹径も1 m以上になる[10]。樹冠は丸くなる[14]。樹皮は暗褐色や灰褐色で、若木の樹皮は滑らかで、老木になると幹の表面は縦に割れて、深いしわができる[12][6][14]。若い枝は太く、黄褐色の短毛や腺毛が密に生える[12][15][14]。葉は、大型の奇数羽状複葉で枝の先に集まって互生する[13][9]。小葉は4 - 10対つき、長さ7 - 12センチメートル (cm) 、幅4 cm前後の卵状長楕円形で先端が尖り、基部は円形から切形、表面は濃緑色で無毛、裏面は灰緑色で黄褐色の星状毛が多い[12][15][11][9]。小葉の葉縁には細かい鋸歯がある[13]。葉柄は短くて根元が太い[11]。
花期は晩春から初夏(5 - 6月ごろ)で[12][9]、若葉は開くと同時に花序が出る[13]。風媒花で雌雄同株である[12]。雌花は新枝(本年枝)の先に花穂(雌花序)が直立して10個ほど咲き[6]、雌蕊は柱頭が赤い二股で目立つ[12][15]。雄花は、前年の枝の葉腋から雄花序が出て、緑色で長さ20&bsp;cm近いひも状の房の形で垂れ下がって多数つき、人目につく[15][6][11]。
果期は9 - 10月[6]。果実は核果(石果)で、長さ3 - 4 cmの卵球状をしており、核果の周囲を肥大して肉質になった花床が包み、10月ごろに熟す[9]。核果(いわゆる殻)は硬く、細長く先端が尖り、表面には深いひだがある[13][6]。核果の中にある種子(仁)は食用になり[9]、リスやネズミなどの齧歯類の食糧として重要である[6][14]。彼らは食糧を貯蔵すべくオニグルミの実を、母樹から離れた場所まで運んで地中に埋める習性を有し、その一部が発芽する事で子孫を残している[6]。オニグルミが川沿いで多く見られる理由の1つに、実は水に浮く性質を有しており、渓流に実が流されて、河川の下流でも発芽して植生域を広げる[6]。洪水の際に、少々の深さに実が埋まったとしても、大きな実に蓄えられた養分を利用して、太陽光を利用できる地上まで発芽する能力を有する。種子の仁には、父親と母親由来の遺伝子が半分ずつ入っている[6]。
冬芽は裸芽で、黄褐色の毛が密生した幼葉が集まっている[14]。枝先の頂芽は円錐形で特に大きく、外側につく1対の葉は芽鱗の役目をして、早くに脱落する[14]。枝に互生する側芽は小さい[14]。葉痕は倒松形や三角形で、維管束痕が3個つく[14]。
ヒトによる利用
実は食用になり、ウォールナット材は建築や家具に使われる。観賞性はあまり高くないが、収穫を楽しむことができる植栽として庭木などにも使われる[12][16]。植栽する場合、植え込みの適期は12月 - 3月とされる[9]。堅果の果皮ははじめ緑色だが後に黒色になり、その液汁から黒色の染料がとれる[12]。いわゆる草木染めに使われ、北海島のアイヌ民族もこの染料で繊維などを黒く染め、魚を採る毒流しの材料にも使ったという[17]。
食用
オニグルミの実は食用にでき、日本産のクルミでは唯一の食用種である[12]。採取時期は9 - 10月ごろで、熟した果実を竿などでたたき落とすか、落ちているものを拾い集める[13]。果実は外皮をかぶっているので、土に浅く埋めて外皮を腐らせたり、靴底で地面に強く踏みつけて転がすなどして取り除き、殻を水洗いして天日干しして保存する[13][11]。広く市販されるテウチグルミやシナノグルミと比較して実はやや小さく、殻(核果)が厚めで非常に堅いので[6]、食べられる殻の中の種子(仁)を綺麗に取り出す事は容易ではない。クルミを割って食べるときは、尖っているほうを下にして縦位置に置いて、金槌で底を叩き、渋皮は熱湯に通して竹串で剥く[18][11]。
種子はそのまま生で食べるか、軽く炒って食べる[13][11]。多くの油分とたんぱく質を含み[19]、味は濃厚で保存性が良い。山菜をクルミ和えで楽しむほか、クルミ豆腐、クルミ味噌、甘煮、和菓子、洋菓子、パンの材料、料理のトッピングなど、広範囲に利用される[7][13]。中部地方や東北地方では、オニグルミを使った菓子や餅も多い[19]。長期保存が利くので、かつては山村の各家の保存食に利用したり、和・洋菓子用に出荷するなどもされたが、昨今では扱いやすいテウチグルミやシナノグルミのほうが人気が高く、オニグルミは自家消費用に採るぐらいだという[18]。
植物体としては土の中でも残り易く、古くから食用にされていたことを示すものとして、日本列島の縄文時代の遺跡からも、多量のオニグルミの殻が出土している[20][6]。特に東北・関東・中部地方に多い[20]。
材木
木材としてはかたく[12]、「ウォールナット」の名で知られる。ウォールナットは製材後の狂いが少なく、加工も容易という長所を有するため、机や椅子、洋風家具、建築、フローリング、彫刻、小銃の銃床などにも用いられる[6][21][22]。
薬用
種子が薬用され、生薬名を胡桃仁(ことうじん)と称し、喘息、便秘、インポテンツ、腎結石に薬効があるといわれている[8]。一般的にはオニグルミよりもテウチグルミ(胡桃)がよく使われる[8]。
民間療法では、1日量5 - 10グラムを400 ccの水で煎じて、3回に分けて服用する用法が知られるが、そのまま食べても同様に効果があるとされる[8]。体力が落ちてころころしたときの便秘や、咳をしたときに尿漏れするような喘息に良いといわれている[8]。
タイヤ
日本では粉塵の発生原因になったり、道路が痛むなどとして、自動車が凍結路面などを走行するためのスパイクタイヤの使用に、規制が行われた。そのような中で、殻が非常に堅く、破片が鋭利である点を、東洋ゴム工業が注目した。こうして金属製のスパイクの代用品として、オニグルミの実の殻を用いた「ガリットシリーズ」が開発された。なお、ガリットシリーズはスタッドレスタイヤに分類されており、スパイクタイヤの使用規制を免れている[23]。
写真集
- 葉
- 雌花序。直立して赤い柱頭が目立つ。
- 雄花序。緑色で垂れ下がる。
- 発芽(地上部)
- 発芽(種子である胡桃の様子)
- 幹
- 落ちる直前の実
- オニグルミの冬芽
- 展葉直前のオニグルミの冬芽
- オニグルミの実。洗った物(左)と、それを割った物(右)
出典
参考文献
関連項目
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