エンジンスワップ

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エンジンスワップ

エンジンスワップ英語: Engine Swap)とは、乗り物(特に自動車)の性能向上を目的に元来搭載されているエンジンを取り外し、別のエンジンに載せ換えることを言う。

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オースチン・ミニにホンダVTECエンジンを載せた例

概要

自動車におけるエンジンスワップは、性能向上を目的としてより大きい排気量・強力な出力のエンジンに載せ替えることが特にポピュラーであり、チューニングにおいてしばしば見られる手法である。また、修理や環境対応などを目的に行われる場合もある。

設計や構造の異なるエンジンに載せ替えるため、多くの場合エンジンマウントやプロペラシャフト等の加工、組み合わせるトランスミッションの検討、エンジン制御を担うECUの再セッティングなどの様々な作業が必要になる[1]。ただし、基本設計を共有する車種・エンジン間であれば比較的容易に行える場合も多い。ケースによっては車体を大きく加工する必要[2]もあり、その作業工数は場合によって開きがある。

日本においては、異なる型式のエンジンに載せ替えた場合は構造変更申請を行い、車検を取り直して車検証の記載内容を書き換える必要もある。そのため日本ではそれほど一般的ではないが、これらの手続きが煩雑でない海外では比較的よく見られるチューニングである[1]

「エンジンスワップ」という語は一般的には自動車に関して使用されるが、本記事では鉄道車両航空機船舶におけるエンジン交換に関しても扱う。

バリエーション

要約
視点

同系車種・エンジン間

最もポピュラーといえるエンジンスワップである。車種やエンジンによるが、大規模な加工などの作業を伴わず行うことができる場合もあり、車検証上のエンジン型式が同じであれば構造変更申請も不要である。

異なる系列の車種・エンジン間

同系車種・エンジン間と比べ、作業や構造変更申請の手間がかかることが多い。しばしば異なるメーカーの車種間で行われるばかりか、時には自動車にバイク用のエンジンを搭載する例まで見られる。

背景・目的

要約
視点

基本的には自動車の基本性能(最高出力/トルク、燃費、エミッション、耐久性等)を向上させるためにより高性能なエンジンに載せ替える、というパターンが多い[12]が、それ以外にも様々な背景がある。

基本性能の向上

  • 動力性能の向上[13]
  • パワーウェイトレシオを追求し、軽量な低グレード車にホットモデルの高性能エンジンを載せる(先述したスズキ・アルトのバン仕様へのターボエンジン搭載など)
  • 低公害化・低燃費化[13]

元々のエンジンの継続使用の困難

  • 排ガス規制で使用している車両に使用規制(例えばいわゆる自動車NOx・PM法)がかかり、それに対応(=環境性能の向上)するために規制基準を満たす環境性能のエンジンを換装する。
  • 元来使用している燃料が入手困難または高価になったことによるもの。ガソリンの無鉛化が進められていた時期には、有鉛ガソリンを指定されていた車種において無鉛化対応済みのエンジンにスワップすることもあった。
  • 旧車においては、部品供給終息への不安を解消するために、世代が新しいエンジンへのスワップが行われることがある[12]en:Automobile engine replacementも参照。

コンバージョンEVの制作

フリートユーザーにおけるEV導入コスト削減策として行われるケースがみられるほか、旧車のレストモッドの手法としても取り入れられることがある。

  • SGホールディングスは「ボディはキレイだが、エンジン等が先に寿命を迎えてしまった」ために廃車部品取りにせざるを得なくなった軽トラックを有効活用しようとコンバージョンEVの製作を試みたことがある。(ただし車種別の開発が必要であるがゆえコスト面で断念している)[14][15]
  • 一方、西鉄バスにおいては60万 kmオーバーのバスをコンバージョンEV化しているが、この背景には(上述の佐川のケースとは異なり)EVバスの導入コスト(脱炭素を実現しようにも新型コロナウイルス流行で経営が厳しかったところに、1台4000万円・保有車両の1割だけ代替するのにも100億円かかるとしていた)があり、コンバージョンEV制作によりコストを3割抑えることができるという。[16]

箱替え

  • ある車両のモノコックが破損・老朽化した際、その交換用ボディとして同系の廉価/量販グレードを安価に入手し、元のエンジンや駆動系を移植することを俗に「箱替え」(はこがえ)という。特に高価、あるいは希少なホットモデルで行われることが多い。名目は逆であるが行う作業は同様である。
    • マークII3兄弟(マークII・チェイサークレスタ)」の「ツアラーV」(ターボエンジンの1JZ-GTEを搭載し、ドリ車として需要が高い)がクラッシュした際、NAエンジンを搭載する「グランデ(マークII)」「アバンテ(チェイサー)」「エクシード(クレスタ)」といったグレードの車両を入手し、1JZ-GTEエンジンや駆動系、足回りを移植する。
    • ランサーエボリューションVがクラッシュした際、ミラージュのボディを交換用として安く入手し、ランサーエボリューションの部品を総移植する[4]

特定の仕様・グレードの再現

  • また、当該市場で販売していたとしていても、上述の「箱替え」や「85改86」のようにそのグレードの中古車価格が他のグレードと比較して著しく高額だった場合や程度が悪い場合、希少な場合はエンジンスワップは安価または良質な車両を作ることができる手段の一つとなりうる。[17]
    • 特に新興国や途上国にあたる地域(ただしこれらの地域に限った話ではなく、車種によってはいわゆる先進国でも間々ある)では、自動車の国産化に力を入れる関係で、完成車輸入に高額の関税が掛けられていたり中古車の輸入が規制されたりしている国がある[注 10]。一方、国によっては現地ブランドはもとより、海外ブランドであっても自国の工場で生産していれば国産車と見なされ関税が免除される[5]。そのため、以下の事例のように中古エンジンを輸入し載せ替え、人気だが国内では手が届かない・購入できないグレード・仕様を再現することがある。

法規制

シリンダーブロックに刻印されている型式と車検証上の型式が一致すれば構造変更申請は不要である。ただし、載せ替えるエンジンの排ガス記号(車両型式の前につくE-、GF-、DBA-などの文字列)より元々車両に搭載されているエンジンの排ガス記号の方が古くなる場合、公認取得が必要になる。

型式の異なるエンジンを載せ替える場合や、排ガス記号燃料の種類を変更する場合は、改造後に排気ガス規制を満たすことを証明する書類が必要となる。

また、原則として車台の製造時期の保安基準が適用されることから、550 cc規格以前の軽自動車のエンジンを現行規格の660 ccのものに載せ替えた場合、車台の製造時期の軽自動車規格を逸脱するため普通車(登録車)として扱われる。その場合は排気ガス規制値や車体強度(衝突安全性)なども登録車の保安基準が適用されることとなり、搭載するエンジンのほか、車型や生産年次によっては登録を行えないケースも存在する。

鉄道車両におけるエンジン交換

自動車の場合と同様、鉄道車両においてもエンジンの交換が行われることがある。理由としては、

  • 車両の走行性能向上
  • 低燃費化によるランニングコストの低減

が挙げられる。

特に、気動車では長らく国鉄設計によるディーゼルエンジン(DMH17系DMF15系DML30系)が用いられたが、これらは基礎設計が第二次大戦以前に行われた高燃費で低出力、熱効率の悪い物であった[注 13]。国鉄最末期から分割民営化直後にかけてカミンズ小松製作所新潟鐵工所[注 14]の3社の参加でコンペが行われ(いずれも直列6気筒ターボ付)、JR各社の新型気動車だけでなく既存の国鉄型気動車も性能向上と延命を図るため3社の新型エンジンへの交換が行われた[注 15]

特に印象的な事例として次の2例が挙げられる。
JR東日本が『アルカディア』号の火災事故を起こした際、当時の会長でエンジン技術者出身の山下勇が原因となったDMH17系エンジンの図面を見て「おい、このエンジンは戦前の設計だぞ」と驚愕し、急ぎこのエンジンを搭載する全車両のエンジン交換に取り掛からせた。(詳細は山下勇#逸話を参照)
また、九州で用いられたキハ66系気動車では、DML30系エンジンのオーバーヒート対策として屋根上に強制通風式の巨大なラジエーターが搭載され、その後も追加の強化改造が施された。しかし、機関換装によりDML30系が降ろされたことでオーバーヒート問題が解消されたため屋根上のラジエーターが撤去された。また、屋根上のラジエーターの撤去と機関自体のサイズダウンによって車重が軽くなり、新エンジンの出力自体はDML30系より下がったものの走行性能は向上した。

気動車では自動車と異なり、エンジンが車体内部ではなく床下から吊り下げられ露出しているため、交換が比較的容易である。(ディーゼル機関車は内蔵式)

航空機におけるエンジン交換

有鉛ガソリンである航空用ガソリンは、日本では給油できる飛行場が減少し、価格も上昇している。そのため、[20]より安価で給油できる場所が多いジェット燃料が使える航空用ディーゼルエンジンを販売するメーカー(Technify Motorsなど)の製品に換装する事業者もある[21]

また、ダグラス DC-8の静粛性と燃費の向上を狙って、プラット・アンド・ホイットニーJT3Dを搭載したDC-8-60シリーズのエンジンをCFMインターナショナルCFM56に換装し、DC-8-70シリーズとした例も見られる。

船舶におけるエンジン交換

漁船などの小型船舶においても、エンジンの経年劣化に伴うエンジン交換がしばしば行われる[22][23]。とりわけ船舶の場合、自動車とは異なり大抵は船体とエンジンの製造元は別の会社であり[22]、メンテナンスコストの低減とパワーアップの両立を狙ってエンジン交換が行われる[23]

注釈

  1. 2JZ-GE搭載車は海外仕様車やワゴン(ジータ)にのみ存在し、日本仕様セダンにはない。その逆に3S-GEは日本仕様セダンにしかない。
  2. T230系セリカなどにも搭載される2ZZ-GE+6M/Tの組み合わせがランクス/アレックスフィールダーWiLL VSヴォルツには設定があるがセダンにはない(ただし、北米専売のE130系カローラセダンには「XRS」というスポーツグレードのみ2ZZ-GE+6M/Tの組み合わせが存在していた)。
  3. E140系/E160系フィールダーやE180系トヨタ・オーリス、T260系プレミオ/アリオン、GE20系ウィッシュなどにも搭載される2ZR-FAEの設定があるがE160系アクシオにはない(ただし、E140系アクシオには後期最終型の「1.8 LUXEL」のみ2ZR-FAEの設定が存在していた)。
  4. ミニカのトールワゴンとして枝分かれした経緯のあるトッポBJには4気筒20バルブツインカムインタークーラーターボの設定があるが40系ミニカにはない。またミニカ・トッポともに1100cc車(ピスタチオ及びトッポBJワイド)が存在するが、ピスタチオは総生産台数わずか50台の非常に希少な車種である。
  5. 海外仕様車であるクレシーダはジンバブエや南アフリカでも生産された。
  6. 例:マレーシアでの三菱・ランサープロトン・インスピラ - インスピラは現地生産車、ランサーは完成輸入車のためほとんど同じクルマなのに車両価格に格差が存在している。
  7. 輸出先の規制・関税などの関係でコンプリート状態での輸出が困難という事情から切断された輸出用車両のこと。下記の岡野自動車商会のページによると、本当に部品として輸出するために切る場合が大半で、まれに「これは部品です」と言う建前で切断するケース(いわばノックダウン生産用)もあるという。
  8. 実際、ワイルド・スピード第1作目においては「レース前にはSR20は高値で売れる」と言うセリフが存在しており、人気のほどがうかがえる。
  9. 国鉄末期である1983年にやっと新潟鐵工所製の新型「DMF13系」がキハ37形をはじめ一部の車両に採用された。このエンジンは後述のコンペにも参加し、現在も改良が加えられJR東海を除くJR旅客5社の最新型気動車に採用されている。
  10. 現在はIHI原動機が製造。
  11. 民営化後にJR四国保有車を除くキハ40・47・48の大半でエンジン交換が行われたのはその一例である。

出典

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