ウィリアム・ブレイク (William Blake , 1757年 11月28日 - 1827年 8月12日 )は、イギリス の詩人 、画家 、銅版画 職人。預言書『ミルトン』の序詞「そして古代にあの足は[1] (And did those feet in ancient time )」に1918年 にヒューバート・パリー によって音楽が付けられたものが、聖歌『エルサレム 』として、または事実上のイングランドの国歌 として現在のイギリスではたいへんよく知られている。
概要 ウィリアム・ブレイクWilliam Blake, 誕生 ...
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1757年 11月28日 、ロンドン 、ソーホー地区 のゴールデン・スクエア、ブロード・ストリート(現ブロードウィック・ストリート )28番地に、靴下商人ジェイムス・ブレイク、キャサリン夫妻の間に第3子として生まれ、同年12月11日にピカデリー 教区のセント・ジェームズ教会 で洗礼 を受ける。幼少期から絵の才能を示して絵画の学校に入り、1772年 に彫刻家ジェイムス・バザイア(James Basire )[2] に弟子入りした。長じてからは銅版画 家、挿絵 画家として生計を立てていた。
1787年頃、新しいレリーフ・エッチング の手法を発明。その手法を用いた彩飾印刷(Illuminated Printing )によって、言語テクストと視覚テクストを同列に表現することが可能となっただけでなく、出版者から独立し、自分の印刷機 で自分の本を印刷することも可能となった。 ブレイクは1803年、イングランドの南岸の小さな町フェルファム(Felpham)に住んでいた時ジョン・スコフィールド(John Schofield )という兵隊と口論になり、国家扇動行為(seditious statements )を行ったとして裁判にかけられる。勝訴するもそれが彼に大きく影響し、難解な表現をすることでシンプルな表現を隠すという特有の表現技法を取るようになったと思われる。なお、ブレイクの生涯で唯一ロンドンの外に住んだフェルファム在住は3年ほどで終わった。
ブレイクは「幻視者」(Visionary )の異名も持ち、唯理神ユリゼン (Urizen )やロス (Los )などの神話的登場人物(ゾアたち )が現れる中期から後期の「預言書」と呼ばれる『四人のゾアたち 』『ミルトン 』『エルサレム 』などの作品群において独自の象徴的神話体系を構築する。初期においては、神秘思想家スヴェーデンボリ (Swedenborg)の影響も見られた。詩の中では詩集『無垢と経験の歌 』(The Songs of Innocence and of Experience )が最もよく読まれており、「経験の歌」に収められた、「虎よ! 虎よ!」(Tyger Tyger )で始まる「虎」(The Tyger )が20世紀半ばに最もよく読まれ、指摘された詩であるが、その後は中期から後期預言書の研究も進んでいる。
晩年には聖書『ヨブ記への挿絵』などグラフィック作品を創作しつづけたが、ダンテ にも傾倒、イタリア語 も学び、病床で約100枚にのぼる『神曲 』の挿画(未完成)を水彩で描いた。しかし彼は世にほとんど知られないまま極貧のうちに1827年8月12日に亡くなり、シティのバンヒル・フィールズ(Bunhill Fields)に葬られた。
日本では、1894年 (明治 27年)、大和田建樹 により初めてブレイクの詩が日本語訳され、紹介された。大正 期には、白樺派 の柳宗悦 による本格的ブレイク研究が手がけられ、以後、日本におけるブレイク受容と研究がきわめて盛んに行われるようになる。近現代の作家では、大江健三郎 の一方ならぬ傾倒がつとに知られるところである。中でも『新しい人よ目覚めよ』にその影響が最も現れているといってよかろう。
2012年ロンドンオリンピックの開会式の冒頭の英国の農村風景のアトラクション。少年による『エルサレム』の歌唱の中で演じられた。
ステッドマン 作『スリナムの黒人反乱に対する五年間にわたる遠征の物語』にブレイクがつけた版画の挿絵「絞首台に生きたまま肋骨でつるされる黒人」(1796年)
「虎」(The Tyger )。『無垢と経験の歌 』のブレイク自身による彩飾本(1794年)
ブレイクは多くの思想家、アーティストたちにインスピレーションを与え続けている。
オルダス・ハクスリー はエッセイ集『知覚の扉』(The Doors of Perception 、1954年)の中で、たびたびブレイクに言及しながらドラッグ による幻視 体験について語っている。この本はブレイクの『天国と地獄の結婚 』から "If the doors of perception were cleansed every thing would appear to man as it is: infinite "(知覚の扉が清められたなら、物事はありのままに、無限に見える)という言葉をエピグラフ として引用している。
ロック・グループ、ドアーズ のバンド名もブレイクに由来する。これはハクスリーの本から影響を受けていたジム・モリソン の提案によるものである。
ビート の詩人アレン・ギンズバーグ が1948年 自宅でブレイクの詩集『無垢と経験の歌 』を読んでいるとき、「ひまわりよ」(Ah! Sun-flower )、「病める薔薇」(The Sick Rose )、「迷子になった女の子」(The Little Girl Lost )を朗読するブレイクの声が外側から聞こえてくる幻聴体験をしたと言われている。ギンズバーグが初めてブレイクを知ったのは、1943年にウィリアム・バロウズ の家を初めて訪れその本棚を見た時であり、その際バロウズはブレイクのことを「完璧な詩人」(a perfect poet )と称したとの逸話が残されている。
アルフレッド・ベスター による長編SF 作品『虎よ、虎よ! (Tiger! Tiger! 、1956年)の題名はブレイクの詩『虎』(The Tyger )に由来し、エピグラフとして "Tyger, Tyger, burning bright " からはじまる一節が引用されている。
イギリスのロックバンド、アトミック・ルースター の1970年のアルバム『デス・ウォークス・ビハインド・ユー 』のジャケットで、ブレイクの色刷版画『ネブカドネザル』(Nebuchadnezzar )が使われている。
レイ・ファラディ・ネルスン (Ray Faraday Nelson )は、SF作品『ブレイクの歴程』(Blake's Progress , 1975年)に、ブレイクとその妻キャサリンを、ユリゼンをはじめとするブレイクの神話体系の登場人物たちと同じように登場させ、異次元と異空間の探索に旅立たせている。この作品は1985年に『ブレイクの飛翔』(Time Quest )という題名で再出版されている。
ブレイクの後期預言書のひとつ『ミルトン』の序詩に、サー・チャールズ・ヒューバート・パリー が、1916年 に曲をつけ "And did those feet in ancient time "(「そして古代にあの足は[3] 」)という聖歌を作った。この聖歌は一般に『エルサレム 』という曲名で知られており、労働党 が保守党 に圧勝した1945年 以来、労働党の党歌として歌われている。また、BBC が主催する音楽祭プロムス では、この曲が最後の楽曲の一つとして歌われる。
経済学者カール・ポランニー は著書『大転換 』(1944年)で、産業革命以降の市場経済化のたとえとして、ブレイクの『ミルトン 』序詩の第2節にある「悪魔のひき臼(dark Satanic Mills )」を引いている。
ヒュー・ハドソン 監督の映画『炎のランナー 』(1981年)でもこの聖歌が歌われる。"Chariots of Fire " という映画の原題も、この聖歌の "Bring me my chariot of fire "(ぼくに炎の戦車を)という一節に呼応している。
イギリス のプログレッシブ・ロック ・グループ、エマーソン・レイク・アンド・パーマー のアルバム『恐怖の頭脳改革 』(Brain Salad Surgery 、1973年 )に収録されている「聖地エルサレム 」(Jerusalem )はこの聖歌をアレンジした曲である。
イギリスのミュージシャン、ビリー・ブラッグ も、この聖歌を「ブレイクのエルサレム」(Blake's Jerusalem )というタイトルで、左翼 のプロテスト・ソングの焼き直しやカバー曲を集めたアルバム『インターナショナル 』(1990年)に収録、自らのアレンジによるその曲を「ブレイクが目にしていた資本家 どもの新バージョンへの攻撃」と称している。
カール・セーガン 原作の小説『コンタクト 』(1985年)はブレイクの「蠅」("The Fly" )をエピグラフに用いている。
アイアン・メイデン のボーカリスト、ブルース・ディッキンソン のソロ・アルバム『ケミカル・ウェディング 』(1998年)には、『ミルトン』の序詩にディッキンソン等が独自に曲をつけた「エルサレム」(Jerusalem )というタイトルのオリジナル曲が収録されている。このアルバムでディッキンソンは、ブレイクのテンペラ画『蚤のゴースト 』(The Ghost of A Flea )をジャケットに用い、ブレイク神話の登場人物セルやユリゼンについての曲「セルの書」(Book of Thel )や「ユリゼンの門」(Gates of Urizen )を歌う。またこのアルバムでは『ユリゼンの書』(The Book of Urizen )および『ミルトン』の一節が朗読され、次の楽曲への導入的効果を果たしながら楽曲同士を繋げている。
映画『炎のランナー 』は『ミルトン』の序詞にある「炎の戦車」が題名の由来であり、オリンピックを目指す青年群像という内容もこの詞を意識したものである。
トマス・ハリス の小説『レッド・ドラゴン 』(1981年)の中で、ブレイクの水彩画『巨大な赤い龍と太陽の衣をまとった女』(The Great Red Dragon and the Woman Clothed in the Sun )が重要な役割を与えられている。
ロック・グループ、タンジェリン・ドリーム のアルバム『タイガー 』(1988年)は、ブレイクの詩と思想に対するオマージュ となっている。彼らは斬新な曲作りをすることで、「虎」(The Tyger )や「ロンドン」(London )をはじめとするいくつものブレイクの詩に新たな息吹を吹き込んでいる。
大江健三郎 の短編連作集『新しい人よ眼ざめよ 』(1983年)において、語り手の「僕」は、一流のブレイク研究者と言っていいほどの読解力で、難解なブレイクのテキストを丹念に読み続け、ブレイクの言葉を自分の人生に重ね合わながら、人間存在や人類の運命についてのヴィジョンを展開していく。この作品のタイトル『新しい人よ眼ざめよ』は、『ミルトン』の序の一節からインスピレーションを得たものであり、さらに収録された短編のタイトルもすべてブレイクの作品に由来している。
リドリー・スコット 監督による映画『ブレードランナー 』(1982年)で、チュウのラボに現れたロイの台詞「Fiery the angels fell. Deep thunder rode around their shores, burning with the fires of Orc. 」は、ブレイクの『アメリカ ひとつの預言』の「Fiery the Angels rose, & as they rose deep thunder roll'd / Around their shores: indignant burning with the fires of Orc 」に由来すると思われる。Orc (オーク)はブレイク独自の象徴体系に基づく神話の登場人物の名前である。
マイク・ニューウェル 監督の映画『フォー・ウェディング 』(1994年)の後半の教会の結婚式で「エルサレム 」が披露される。
ジム・ジャームッシュ 監督による映画『デッドマン 』(1995年)も、ブレイクの詩と思想に対するオマージュ 作品であり、登場人物たちの名前や多くの台詞がブレイクの作品に由来している。
ロック・ミュージシャンのパティ・スミス は、2001年にパリで行われたライブで、『オオカミが来たと叫ぶ少年』(Boy Cried Wolf )の演奏の前に「子羊」(The Lamb 、『無垢の歌』の中の短詩)を朗読している。この朗読は、アルバム『ランド』(LAND 、2002年)のディスク2に収められている。
映画版『Vフォー・ヴェンデッタ 』(2005年)で、V の部屋の壁にブレイクの色刷版画『アダムを造るエロヒム』が飾ってある。
ケン・ローチ 監督の映画『麦の穂をゆらす風 』(The Wind That Shakes The Barley 、2006年)の中で、主人公が入れられた牢獄の壁に「愛の園」(『無垢と経験の歌 』の「経験の歌」のなかの短詩)の一節が刻まれている。
2012年ロンドンオリンピックの開会式 のアトラクションは「エルサレム」で知られる『ミルトン』の序詞をコンセプトにしており、作中の「緑なす豊潤なイングランドの大地」「暗い悪魔の工場」「炎の戦車」という言葉をキーワードにアトラクションが演ぜられた。
小泉堯史 監督・脚本による映画『博士の愛した数式 』(2006年)でクレジットタイトル が流れる直前に、「無心のまえぶれ 」(Auguries of Innocence 、ピカリング原稿 に収められた詩)の冒頭の一節が朗読される。
アメリカのTVドラマ『メンタリスト 』では主人公パトリック・ジェーンが宿敵である連続殺人鬼レッド・ジョンを追う中でブレイクの詩の中から「虎よ、虎よ」のフレーズが手掛かりとしてそこかしこに頻出する。またレッド・ジョンの率いる悪徳警官の組織も「ブレイク結社」と名付けられている。
その他、ブレイクの言葉は聖書やシェイクスピアに次いで日常的に報道やジャーナリズムでも引用されることが多い。
『ニュートン』(1795年)。薄暗い海底で、ニュートン がコンパスを用いて物質世界の解明を試みており、その体は岩と同化しつつある。科学万能主義への痛烈な批判である。
彩飾印刷された作品
『すべての宗教はひとつである 』(All Religions are One 、1788年頃)
『自然宗教は存在しない 』(There is No Natural Religion 、1788年頃)
『セルの書 』(The Book of Thel 、1789年)
『無垢の歌 』(Songs of Innocence 、1789年)
『無垢と経験の歌 』(Songs of Innocence and of Experience 、1794年)
『天国と地獄の結婚 』(The Marriage of Heaven and Hell 、1790年から1793年頃)
『アルビオンの娘たちの幻想 』(Visions of the Daughters of Albion 、1793年)
『アメリカ ひとつの預言』(America a Prophecy 、1793年)
『子供たちのために 楽園の門 』(For Children: The Gates of Paradise 、1793年)
『ユリゼンの[第一の]書 』(The [First] Book of Urizen 、1794年)
『ヨーロッパ ひとつの預言』(Europe a Prophecy 、1794年)
『ロスの歌』(The Song of Los 、1795年)
『アヘイニアの書』(The Book of Ahania 、1795年)
『ロスの書』(The Book of Los 、1795年)
『ミルトン 』(Milton 、1804年)
『エルサレム 』(Jerusalem 、1804年)
『両性のために 楽園の門 』(For the Sexes: The Gates of Paradise 、1818年頃)
その他の詩・散文作品
『詩的素描』(Poetical Sketches 、1783年)
『月の中の島 』(An Island in the Moon 、1784年頃)
『ティリエル』(Tiriel 、1789年頃)
『フランス革命 』(The French Revolution 、1791年)
『四人のゾアたち 』(The Four Zoas 、1797年、未完、草稿版)
『永遠の福音 』(The Everlasting Gospel 、1818年)
主な色刷版画、色刷ライン・エングレーヴィング
『日の老いたる者』(エッチング と水彩 、1794年)
「アルビオンは立ち上がった (歓びの日あるいはアルビオンの踊り)」(Glad Day or The Dance of Albion 、1793年) 大英博物館 蔵
「アダムを創造するエロヒム 」(Elohim creating Adam 、1804年 - 1805年) テート・ギャラリー 蔵
「ネブカドネザル 」(Nebuchadnezzar 、1804年 - 1805年頃) テート・ギャラリー蔵
「ニュートン 」(Newton 、1804年 - 1805年頃) テート・ギャラリー蔵
主な銅版画
「エドワード・ヤング『夜想』(Night Thoughts )の挿絵」(1797年)
「ロバート・ブレア『墓場』(The Grave, a Poem )の挿絵」(1808年)
「『ヨブ記 』の挿絵」 (1825年)
主な水彩画
「巨大な赤い龍と太陽の衣をまとった女 」(The Great Red Dragon and the Woman Clothed in the Sun 、1803年 - 1805年頃) ブルックリン美術館 蔵
「最後の審判 」(The Last Judgement 、1808年)
「ダンテ『神曲 』の挿絵」(1824年 - 1827年)
邦訳について安藤潔「ブレイクの名詩再読」(関東学院大学人文学会紀要137号、2017)P.15、PDF-P.3 を採用した。
バーシアはフリーメイソンリーのグランドロッジの向かい、第31グレートクイーンストリート(No. 31 Great Queen Street)に住んでいた。ブレイクが1785年から1790年まで、第28ポーランドストリート(No. 28 Poland Street )に住んでいた頃、「古代ドルイド儀礼」(The Ancient Order of the Druids )の集会はブレイクの家からほんの数ヤード離れたエールハウスで行われていた。ブレイクは1799年から1827年まで、「ドルイド儀礼」のグランドマスターだったとする説がある。また、ブレイクの友人のかなりの数がフリーメイソンだったとされる。
邦訳について安藤潔「ブレイクの名詩再読」(関東学院大学人文学会紀要137号、2017)P.15、PDF-P.3
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