や行え

五十音図における「や行え段」 ウィキペディアから

や行え

この項目では、や行え段(やぎょうえだん、𛀁、ye)について述べる。

  • 万葉仮名では「延」などの文字でこの発音が表された。
  • 国頭語沖縄語八重山語与那国語では、あ行えとは異なる発音として、現在でもつかわれている。
  • 現代の日本では、この発音を表す仮名文字はない(もしくは定まっていない)。ただし外来語に対して「イェ」などの表記が見られる。
概要 平仮名, 文字 ...
平仮名
文字
𛀁
字源 江の草書体
Unicode U+1B001
片仮名
文字
字源 江の旁
JIS X 0213 1-5-8
Unicode U+30A8
言語
言語 ojp
発音
IPA je̞
種別
清音
上代日本語における「や行え」
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ヤ行とア行のエ段を区別した五十音表の画像

発音

日本語では、古くは「e」と「ye」とは異なる発音と認識され、区別があった。

  • 標準語においては10世紀後半に両者の区別が消滅し[1][2]、「ye」と発音された。
    • なお、13世紀までには、「we」(わ行え)の発音も消滅し、同じく「ye」と発音された。
  • 江戸時代に「e」と発音されるように変化し、現在に至る。
  • 国頭語、沖縄語、八重山語、与那国語には現在でも区別が残ったままとなっており、や行、およびや行の発音として区別される[3]

古代の発音

「ye」と発音された語の例

古代に「ye」と発音された音節を含む語には、次のようなものがある(「e (あ行え[4])」とは区別された)。

  • 兄(え)
  • 江(え)
  • 枝(え)
    • 枝(えだ)
    • 楚(すはえ)
    • 机(つくえ)
  • 鵺鳥(ぬえどり)
  • 笛(ふえ)

また、十干の「〜え」という読みは「兄」に由来するため、甲(きのえ)から壬(みずのえ)まで全てが、や行えである。

助動詞「ゆ」

受け身の助動詞「ゆ」は、や行えにも活用した。後にこの助動詞は用いられなくなったが動詞の一部として残った。

さらに見る 未然形, 連用形 ...
助動詞「ゆ」
未然形連用形終止形連体形已然形命令形
ゆるゆれ
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ヤ行下二段活用

動詞「越ゆ」の例では、未然形・連用形・命令形内の「え」は、「ye」と発音された。 他例は、「覚ゆ」、「聞こゆ」、「見ゆ」、「絶ゆ」、「消ゆ」など。

さらに見る 未然形, 連用形 ...
ヤ行下二段活用
未然形連用形終止形連体形已然形命令形
越ゆ越ゆる越ゆれ
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文字

要約
視点

奈良時代 - 平安時代

万葉仮名の時代には、文字でも「e」と「ye」を区別した。また、平仮名・片仮名の誕生初期も区別した。

さらに見る e, ye ...
eye
万葉仮名[5] 愛、哀、埃、衣、依、榎、荏、得、可愛(2字1音) 延、曳、睿、叡、盈、要、縁、裔、兄、柄、枝、吉、江
平仮名[6][7] え 他
片仮名[8] 𛀀 エ 他
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10世紀後半以降

10世紀後半、発音上の区別がなくなった(双方とも ye の発音へ変化した)。上記の平仮名・片仮名は異体字の扱いとなった。


江戸時代 - 明治時代

江戸時代から明治時代の間に、あ行え段 (e) 、や行え段 (ye) の仮名をふたたび区別しようとする者が現れた[9]。字の形は文献によってまちまちである。「」と「」はその内の二つに過ぎない。

ただし、この時に作られた仮名は、奈良時代や平安時代に於けるeとyeの書き分けにそぐわない字母を持つものもある。

明治時代の教科書の一例[10]
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平仮名の五十音図
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片仮名の五十音図
片仮名の五十音図ではや行えに「エ」が用いられ、あ行えには「衣」の省画「」が用いられている。
さらに見る e, ye ...
e ye
古くからある仮名
  • [11] (平仮名)
  • (「え」の変体仮名。平仮名)
  • エ (片仮名)
  • え (平仮名)
  • [11] (「え」の変体仮名。平仮名)
  • [12] (「え」の変体仮名。平仮名)
  • [13] (「え」の変体仮名。平仮名)
  • [12] (「え」の変体仮名。平仮名)
  • [11] (片仮名)
新しく作られた仮名
  • [15](点付きの「え」。平仮名)
  • [16](「衣」の草書。平仮名)
  • [15](点付きの「エ」。片仮名)
  • [17] (「衣」の省画。片仮名)
  • [18] (「衣」の省画。片仮名)
  • [19](「衣」の省画。片仮名)
  • [20] (「衣」の省画。片仮名)
  • [21][22][23] (「衣」の省画。「グレーン」の活字で代用することがある。片仮名)
  • [24][25] (「衣」の省画[24]。片仮名)
  • [26][27] (「イ」と「エ」の合字、或いは「延」の省画[12]。片仮名)
  • [13] (「延」の省画。片仮名)
  • [28] (「兄」の省画[28]。片仮名)
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このような使い分けは、音義派の学説に基づいて考え出された。音義派は、あ行い段とや行い段、あ行え段とや行え段、あ行う段とわ行う段は、本来違う音であると主張していた。そこで、それぞれに違う仮名を当て嵌めようとしたのである[29]

しかし、日本語の研究が進み、それぞれに区別はないとする学説が出た[29]琉球諸語では区別されていたにも拘らず、区別がないとされたのは、研究時点では琉球が合併する前だった場合や、琉球諸語に関する研究が行われていなかったためである。

しまくとぅば正書法では「イェ」および「イェ」(「ˀイェ」)と表記される。

天地の詞などでの「ye」

天地の詞

天地の詞」に「え」が2回出てくるのは、成立時期が「e」と「ye」を区別していた九世紀にさかのぼるためと考えられている。「えのえを」を「榎の枝を」と解釈する[2]。万葉仮名で榎はア行のエ、枝はヤ行のエである[30]

大為爾の歌

天地の詞よりも後に作られた「大為爾の歌」には「え」は1回しか出てこないが、本来「e」と「ye」の二つが含まれていた可能性が指摘されている[31]。なお、「e」と「ye」を区別した場合、この歌の「え」衣は万葉仮名で、ア行のエである[32]

いろは歌

大為爾の歌よりも後に作られた「いろは歌」にも「え」は1回しか出てこないが、こちらも本来「e」と「ye」の二つが含まれていた可能性が指摘されている[33]

なお、「e」と「ye」を区別した場合、この歌の「え」は「けふこえて(今日越えて)」で、「越えて」は「越ゆ・越ゆる・越え」と活用していたことから、ヤ行のエである[34]

符号位置

2010年10月11日、Unicode 6.0 に「𛀀 (𛀀)」(U+1B000, KATAKANA LETTER ARCHAIC E) と「𛀁 ()」(U+1B001, HIRAGANA LETTER ARCHAIC YE) が採用された[35]

2017年6月20日、Unicode 10.0 に「𛀁 ()」が採用された。「𛀁 ()」は「𛀁 ()」と統合され、「HENTAIGANA LETTER E-1」という別名が与えられた。

2021年9月14日、Unicode 14.0 に「」(U+1B121, KATAKANA LETTER ARCHAIC YE) が採用された[36]

さらに見る 記号, Unicode ...
記号UnicodeJIS X 0213文字参照名称
𛀁U+1B001-𛀁
𛀁
Hiragana Letter Archaic Ye
𛀀U+1B000-𛀀
𛀀
Katakana Letter Archaic E
𛄡U+1B121-𛄡
𛄡
KATAKANA LETTER ARCHAIC YE
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脚注

関連項目

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