や行え
五十音図における「や行え段」 ウィキペディアから
この項目では、や行え段(やぎょうえだん、𛀁、エ、ye)について述べる。
- 万葉仮名では「延」などの文字でこの発音が表された。
- 国頭語、沖縄語、八重山語、与那国語では、あ行えとは異なる発音として、現在でもつかわれている。
- 現代の日本では、この発音を表す仮名文字はない(もしくは定まっていない)。ただし外来語に対して「イェ」などの表記が見られる。

発音
日本語では、古くは「e」と「ye」とは異なる発音と認識され、区別があった。
- 標準語においては10世紀後半に両者の区別が消滅し[1][2]、「ye」と発音された。
- 江戸時代に「e」と発音されるように変化し、現在に至る。
- 国頭語、沖縄語、八重山語、与那国語には現在でも区別が残ったままとなっており、や行、およびつや行の発音として区別される[3]。
古代の発音
「ye」と発音された語の例
古代に「ye」と発音された音節を含む語には、次のようなものがある(「e (あ行え[4])」とは区別された)。
- 兄(え)
- 江(え)
- 枝(え)
- 枝(えだ)
- 楚(すはえ)
- 机(つくえ)
- 鵺鳥(ぬえどり)
- 笛(ふえ)
また、十干の「〜え」という読みは「兄」に由来するため、甲(きのえ)から壬(みずのえ)まで全てが、や行えである。
助動詞「ゆ」
受け身の助動詞「ゆ」は、や行えにも活用した。後にこの助動詞は用いられなくなったが動詞の一部として残った。
ヤ行下二段活用
動詞「越ゆ」の例では、未然形・連用形・命令形内の「え」は、「ye」と発音された。 他例は、「覚ゆ」、「聞こゆ」、「見ゆ」、「絶ゆ」、「消ゆ」など。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|
越え | 越え | 越ゆ | 越ゆる | 越ゆれ | 越えよ |
文字
要約
視点
→「仮名遣い § 上代特殊仮名遣とヤ行のエ」も参照
奈良時代 - 平安時代
万葉仮名の時代には、文字でも「e」と「ye」を区別した。また、平仮名・片仮名の誕生初期も区別した。
10世紀後半以降
10世紀後半、発音上の区別がなくなった(双方とも ye の発音へ変化した)。上記の平仮名・片仮名は異体字の扱いとなった。
江戸時代 - 明治時代
江戸時代から明治時代の間に、あ行え段 (e) 、や行え段 (ye) の仮名をふたたび区別しようとする者が現れた[9]。字の形は文献によってまちまちである。「」と「
」はその内の二つに過ぎない。
ただし、この時に作られた仮名は、奈良時代や平安時代に於けるeとyeの書き分けにそぐわない字母を持つものもある。
e | ye | |
---|---|---|
古くからある仮名 |
|
|
新しく作られた仮名 |
このような使い分けは、音義派の学説に基づいて考え出された。音義派は、あ行い段とや行い段、あ行え段とや行え段、あ行う段とわ行う段は、本来違う音であると主張していた。そこで、それぞれに違う仮名を当て嵌めようとしたのである[29]。
しかし、日本語の研究が進み、それぞれに区別はないとする学説が出た[29]。琉球諸語では区別されていたにも拘らず、区別がないとされたのは、研究時点では琉球が合併する前だった場合や、琉球諸語に関する研究が行われていなかったためである。
しまくとぅば正書法では「イェ」および「ツイェ」(「ˀイェ」)と表記される。
天地の詞などでの「ye」
天地の詞
「天地の詞」に「え」が2回出てくるのは、成立時期が「e」と「ye」を区別していた九世紀にさかのぼるためと考えられている。「えのえを」を「榎の枝を」と解釈する[2]。万葉仮名で榎はア行のエ、枝はヤ行のエである[30]。
大為爾の歌
天地の詞よりも後に作られた「大為爾の歌」には「え」は1回しか出てこないが、本来「e」と「ye」の二つが含まれていた可能性が指摘されている[31]。なお、「e」と「ye」を区別した場合、この歌の「え」衣は万葉仮名で、ア行のエである[32]。
いろは歌
大為爾の歌よりも後に作られた「いろは歌」にも「え」は1回しか出てこないが、こちらも本来「e」と「ye」の二つが含まれていた可能性が指摘されている[33]。
なお、「e」と「ye」を区別した場合、この歌の「え」は「けふこえて(今日越えて)」で、「越えて」は「越ゆ・越ゆる・越え」と活用していたことから、ヤ行のエである[34]。
符号位置
2010年10月11日、Unicode 6.0 に「𛀀 ()」(U+1B000, KATAKANA LETTER ARCHAIC E) と「𛀁 (
)」(U+1B001, HIRAGANA LETTER ARCHAIC YE) が採用された[35]。
2017年6月20日、Unicode 10.0 に「𛀁 ()」が採用された。「𛀁 (
)」は「𛀁 (
)」と統合され、「HENTAIGANA LETTER E-1」という別名が与えられた。
2021年9月14日、Unicode 14.0 に「」(U+1B121, KATAKANA LETTER ARCHAIC YE) が採用された[36]。
記号 | Unicode | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
𛀁 | U+1B001 | - | 𛀁 𛀁 | Hiragana Letter Archaic Ye |
𛀀 | U+1B000 | - | 𛀀 𛀀 | Katakana Letter Archaic E |
𛄡 | U+1B121 | - | 𛄡 𛄡 | KATAKANA LETTER ARCHAIC YE |
脚注
関連項目
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