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1994年にアメリカで発生した殺人事件 ウィキペディアから
O・J・シンプソン事件(O・J・シンプソンじけん、O. J. Simpson murder case)は、アメリカ合衆国・カリフォルニア州ロサンゼルス、ブレントウッドで発生した殺人事件。
著名なアメリカンフットボール選手のO・J・シンプソンが1994年6月16日に逮捕されて、1995年1月25日から10月2日まで裁判が行われた。全米のみならず世界中の注目を浴びた裁判の結果は刑事裁判では殺人を否定する無罪判決となったが、民事裁判では殺人を認定する判決が下った。
1994年6月13日午前0時10分頃、シンプソンの元妻のニコール・ブラウン)とその友人ロナルド・ゴールドマン)の刃物で刺された血だらけの死体がカリフォルニア州ロサンゼルス、ブレントウッドにあるニコールの自宅玄関前で発見されたことから始まった。ゴールドマンは180cmと長身であり格闘技の達人であったため、体格や腕力の勝る男性による犯行が濃厚と考えられた。
事件発生後、イリノイ州シカゴにいたシンプソンは警察からの連絡でブレントウッドに一番早い便で帰った。飛行機から降りたシンプソンはいきなり手錠をはめられたが、顧問弁護士であるハワード・ワイズマンによりすぐに解かれている。
その後もシンプソンは冷静に対処し、一度釈放された。しかしその後、6月16日に第1級殺人罪で逮捕令状が下りた時、シンプソンは友人のアル・カウリングズの運転するフォード・ブロンコの助手席に乗り、ロサンゼルスのフリーウェイでパトカーの追跡を振り切ろうとしたため、カーチェイスを展開する事態となった。その際には逃げ切ったものの、それから2時間後にシンプソンは逮捕された。
なお、この逃亡劇は全米のテレビで生中継されたために、ロサンゼルスでは逃亡するシンプソンの車を追いかけるものが多数出現した。また、全米中がテレビに釘付けとなり、食事の手間を省くためにピザの注文が急増している。ちょうど行われていたバスケットボールリーグ、NBAファイナル・ニューヨーク・ニックス対ヒューストン・ロケッツの第5戦は忘れられて(NBCが放送を予定していた)、テレビ視聴者の中からは「GO!OJ!」(OJ逃げろ!)という声も起きた[1][2]。
シンプソンがブレントウッドの自宅に到着した直後、その後裁判でシンプソンの主任弁護人となるロバート・シャピーロもシンプソンの自宅に到着し、シャピーロ立会いのもとで逮捕されることとなった。なお、この際にシンプソンとカウリングズは武器を所持していたことが確認されている。
シンプソンが逮捕された後、多数の出版物が彼の写真を掲載した。タイム誌は彼の皮膚を暗くし、囚人ID番号のサイズを縮小した顔写真を表紙に用いた。一方ニューズウィーク誌はオリジナルの写真を表紙に用い、対照的な二誌が書店のスタンドに並ぶこととなった。タイム誌には市民グループからの抗議が続いた。後に写真を加工したタイム誌のイラストレーター、マット・マフリンは「より巧妙に、より注意を引きたかった」と語っている。
O.J.シンプソンを第1級殺人罪の被告人として、ロサンゼルス郡のカリフォルニア州最高裁判所で1995年1月25日から行われ、10月2日に殺人を否定する無罪判決が行われた。
太字になっている人物はリーダーである。
ランス・イトー
リーダーが2人となっているのは、リーダーを争って最後に喧嘩別れとなったためだといわれている。
シンプソンは全面無罪を主張し、陪審裁判で決着をつけることとなる。シンプソンの裁判ではロバート・シャピーロやジョニー・コクランなど全米で有名な弁護士・検察官が出揃い、「世紀の裁判」と呼ばれた。しかし弁護団のほうが質量ともに検察を凌いでいることは誰の目から見ても明らかであり、これは弁護団は「ドリームチーム」と呼ばれるほど経験豊富で有名な弁護士ばかりだったからである。
そのためか[独自研究?]、この事件を題材にした書籍『グレイゾーン』では「単独」の検察、「全米選抜」の弁護団と称された。なお、シンプソンの弁護費用は当時の日本円にして5億円といわれており[4]、その規模の大きさが窺える。
検察は検察側に有利な大陪審で起訴の決定を行おうとしていたが、その直前ロス市警は、OJに脅えるニコールが警察に助けを求めた911番の録音テープを公開。弁護士側は「警察が漏らした911番のテープや他の情報は大陪審の裁定に著しく偏った予断を与えた」として大陪審の解散を要求した。判事はこの動議を受け入れて大陪審を解散し、予備審問へ起訴の審理が持ち込まれることになった。
被害者が白人で、加害容疑者が黒人だったため、この裁判では人種問題が大きく取り上げられた。「人種偏見によって裁判が行われてはならない」として、判事は黒人でも白人でもない日系アメリカ人のランス・イトーが選出された。なお人種問題は検察の求刑にも影響した。死刑を求刑すれば「黒人だからだろう」と黒人住民に非難され、有期懲役を求刑すれば「スーパースターだからか」と白人から非難されたからである。そのこともあって結果的に検察側は仮釈放無しの終身刑を求刑した。
弁護団は陪審員を黒人が多い地区から選出することを要求し、採用された。また白人が選出されても検察・弁護側に認められている専断的拒否権(理由を述べることなしに、選出された陪審員を除外することが一定回数以下は可能な権利)を弁護団が最大限に行使した結果、陪審員12人のうち9人を黒人にすることに成功した。このように、弁護団は「殺人事件」ではなく、「人種問題」という観点を裁判に持ち込んだ。
裁判の過程は全米のメディアで逐一報道され、全米ネットワークのテレビ局やゴシップ誌は専門のチームを結成し裁判の報道にあたった。真実の解明よりもスキャンダル性を重視したこれらマスコミの報道によって陪審員の判断が左右されるのを防ぐため、陪審員は裁判所によって一時期ホテルに隔離され、新聞を読むことやテレビを見ることも禁止された。
裁判の過程で検察側の証人として登場した、シンプソンの家で犬の散歩などさせていた「居候」で、俳優のケイトー・ケイリンが、シンプソンのアリバイを崩す重要証言をして一躍有名になり、様々なメディアに出演し、ファンクラブが結成されるなど「この裁判で一番得をした男」と呼ばれた。
検察は下記の点からシンプソンがニコールを殺害した犯人だと主張した。
一方、弁護側は検察側の反証として以下の点をあげて反論した。
検察は「凶悪事件を裁くのが好き」といわれる検察官クラークを筆頭に、被害者の血液がついた証拠品が多数発見されたことや加害者の傷や過去の振る舞いから犯行を立証しようとした。一方、警察に対し根強い不信感を持つ黒人弁護士のコクランを主とした弁護団は、検察側のあげた証拠品の信憑性や人種問題について反証した。
手袋を発見したとされるマーク・ファーマン刑事が人種差別主義者であったこと、警察の証拠管理の杜撰さも重なって裁判は弁護側へ有利に傾いた。 特に「犯行に使用したと思われる手袋がシンプソンの手に合わなかったこと」が必要以上に注視させられて陪審員に合理的疑問を抱かせてしまった。 最終的には1995年10月2日に陪審員は全員一致で「無罪」と結論し、そのまま判決となった。アメリカでは無罪における検察の上訴は憲法修正第5条により認められていないので、シンプソンの無罪が確定した。
リジー・ボーデン以来のアメリカ史における犯罪学の象徴となり、以降様々なジャンルで取り上げられることとなった重要な事件となった。DNA解析の専門家として召還されたキャリー・マリス博士は、上記にある”血痕が見つかる前にシンプソンの採血を行った”という科学的手順に則っていない捜査を批判し、自身の著書'Dancing Naked in the Mind Field'の中でLA市警科学捜査班について「車のナンバーの2桁を見ただけで犯行車両と断定するに等しい」と(当時の)DNA解析技術の低さを指摘している。
無罪を勝ち取ったシンプソンは二度と起訴されることなく(憲法修正第5条により)、それ以上刑事裁判に立つ必要はなくなったが、シンプソンにはもうひとつの裁判が待ち受けていた。フレッド・ゴールドマン(ロナルドの父親)らによる民事裁判である。裁判長には日系人のヒロシ・フジサキが選ばれた。憲法修正第7条によって、民事裁判による補償賠償と懲罰賠償をするよう加害者に求めたのである。刑事裁判と民事裁判での違いは以下の4点であり、シンプソンに不利な要素も多かった。
これらのほかに、刑事裁判にて金銭的に苦しくなったシンプソンがジョニー・コクランを雇う金がなく、代わりにコクランの友人を使ったのに対して、原告側の弁護士がチームワークで最強を誇っていたことやファーマンの人種差別発言を武器にしないことなど、不利な要素は多くあった。
このような中で1997年に原告側の請求が認められ(認められた補償はゴールドマンのみ)父親に722万5千ドル、母親に127万5千ドルの補償をするように命ぜられた。しかし、シンプソンの主な収入であるNFL選手年金は「賠償金支払のために取り上げることが許されない性質を持つ」ため法的に保護されている[5]。
1994年この事件は映画化された[8]。
2016年、米ケーブルテレビ局FXによって『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』として連続ドラマ化され、同年のエミー賞リミテッドシリーズ部門で作品賞他9部門を獲得した。
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