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不動産の物理的現況と権利関係を公示するために作られた登記簿に登記すること ウィキペディアから
不動産登記(ふどうさんとうき)は、不動産(土地および建物)の物理的現況と権利関係を公示するために作られた登記簿に登記することをいう[1]。土地と建物につきそれぞれ独立した登記簿が存在し(区分所有の例外あり)、登記事項も若干異なる。不動産登記は、民法・不動産登記法およびその他政令等によって規律される。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
立木登記など、不動産登記法以外の特別法によって登記される物もある(立木法)。
説明の便宜上、次の通り略語を用いる。
江戸期の土地の支配については、農地に関しては「検地帳」[2]、都市部においては、売買記録である「沽券状」及びそれを元にして町役人が作成保有した「沽券帳」などにより、その所在を証明した。山林などについては、これら支配(入会など)を証する制度的な文書がなく、多くは慣習により取り扱われた。
明治維新になって、まず、徴税の目的から、明治4年12月27日(1872年2月5日)、東京府下の市街地に対して地券が発行され、続いて明治5年2月15日(1872年3月23日)の田畑永代売買禁止令の廃止に伴い、これまで貢租の対象とされていた郡村の土地を売買譲渡する際にも地券が交付されることとなった。当初、地券は取引の都度発行するという方式であったが、この方法では全国の土地の状況を短期間に把握することは不可能であったため、同年7月4日(同年8月5日)に大蔵省達第83号を発し、都度の地券発行を改め、人民所有のすべての土地に地券を発行する地券の全国一般発行とした結果、全ての私有地に対して地券(壬申地券)が交付されることになった。地券の発行は、旧来の町名主や庄屋を取り込んだ戸長役場においてなされ、割印を押した一通を所有者本人に渡し、役場で控えを「元帳」に綴じ込み保管した。この元帳を地券大帳といい、毎年その写しを大蔵省に提出させることとした。この、地券大帳が後の土地台帳の基礎となる。続いて明治6年(1873年)7月28日には地租改正条例が発布されるとともに、地券制度にも改正が加えられ、壬申地券に代わって一筆の地に一枚ずつ交付される全国共通の地券に変更された。
土地の譲渡においては、地券を書き換えるべきものとされていたところ、明治12年(1879年)2月、これに替え裏書移転となったが、翌明治13年(1880年)11月土地売買譲渡規則の制定により、所有権移転は戸長役場の公証手続によっておこなわれることになったため、地券の裏書は納税義務の移転のみを示すものとなったなど、制度上複雑なものとなっていた。また、戸長による公証制により、二重登記・虚偽登記といった問題が頻発した。
このため、公証制度の整備(公証人規則制定)や登記法の実施(明治19年(1886年)8月13日公布、翌年2月1日施行)によって近代的登記制度が公法的に導入され、地券は、法的な意味合いを失い、明治22年(1889年)3月22日の土地台帳規則制定とともに廃止された。
しかしながら、当時の不動産登記は、不動産の権利関係のみを公示するものであり、不動産の物理的現況を明らかにするものとしては、税務署に、課税台帳としての土地台帳及び家屋台帳が備えられていた(地租法、家屋税法)。戦後、台帳事務は登記事務と密接な関係があることから、台帳が登記所に移管された。なお、明治31年(1898年)7月16日、民法が施行されたが、登記制度に未整備な点があることも考慮され、物権変動については、民法制定に多くの範をとったドイツ法流の形式主義・登記主義ではなく、フランス法流の意思主義が採用され、登記は成立要件ではなく、対抗要件として取り扱われることとなった。
その後しばらく、登記所において、不動産の権利関係を公示する登記制度と、不動産の現状を明らかにする台帳制度が併存することとなったが、登記簿は申請主義が基本であるのに対し、台帳は登記官の職権によって登録することができたから、両者の間に不一致が生じるなどの問題が生じた。
そこで、1960年(昭和35年)、台帳を廃止して、台帳の現に効力を有する事項を登記簿の表題部に移記する一元化を行うこととなり(昭和35年法律第14号「不動産登記法の一部を改正する等の法律」)、一元化作業は、1971年(昭和46年)3月31日、全国のすべての登記所について完了した。この結果、登記は「表示の登記」と「権利の登記」の両方を含むこととなった。
なお、移記の終わった台帳は当分の間保存することとされ、現在登記所に保存されている旧土地台帳は、登記簿に登記される以前の所有者や分筆の経緯を知るための資料となる。なお、家屋台帳は廃棄された。
登記簿(とうきぼ)とは、不動産に関する権利関係及び物理的現況を記載するために設けられた、登記所が保管する帳簿をいう(法2条9号)。
変更履歴が順に記載され、変更があった場合には、変更部分が下線付きで示され、次の行にその変更後内容が示される。
登記簿は、当初、大福帳式の帳簿であったが、1951年(昭和26年)6月29日に公布された不動産登記法施行細則の一部を改正する府令(昭和26年法務府令第110号)によって、1960年(昭和35年)頃までの間に、登記用紙の加除が自由なバインダー式の帳簿となった。1個の不動産について登記事項を記載した書面を登記用紙といい、これを一定数編綴した帳簿を登記簿といったが、1個の不動産についての登記用紙そのものを登記簿ということもあった。
このような紙製の帳簿による処理を『ブックシステム』という。
2008年(平成20年)現在、日本全国の一般的な土地、建物の登記簿はコンピューターに移行が完了し、ブックシステムの登記簿は閉鎖された。なお、従来通り登記所にて証明書は発行される。
登記事務の大量・複雑化に対応するため、1988年(昭和63年)、登記事務のコンピュータ・システム化を行うこととする法改正が行われ(昭和63年法律第81号「不動産登記法及び商業登記法の一部を改正する法律」)、移行作業が完了した登記所について順次法務大臣が指定を行い、指定された登記所においてコンピュータ・システムによる登記事務を行うこととなった(旧不動産登記法151条ノ2、新不動産登記法附則3条)。移行作業は、東京法務局板橋出張所(指定の効力発生 昭和63年10月6日)が最初に完了し、松江地方法務局西郷支局(指定の効力発生 平成20年 3月24日)を最後に、日本全国の登記所がコンピュータ化され、移行が適さない登記簿を除き移行作業は完了し、オンライン申請ができるようになっている。
コンピュータ・システムにおいては、登記は磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。)に電磁的データで記録することとされている。この電磁的データを登記記録といい(法2条5号)、記録媒体である磁気ディスクを登記簿ということとされている。
移記された登記記録には、「昭和63年法務省令第37号附則第2条第2項の規定により移記」と記載されている。順位番号は移記の際にリセットされ、改めて1番から付番し、「順位何番の登記を移記」と記載されている。
不動産登記の事務は、登記所(法務局)において登記官が行う(不動産登記法6条、9条)。
登記簿(登記記録)は、表題部と権利部に分かれ(法12条)、権利部は、所有権に関する登記を行う甲区と、所有権以外の権利に関する登記を行う乙区に分かれる(規則4条4項)[3]。
不動産の登記には、表示に関する登記と権利に関する登記とがあり(2条3号、4号)、表示に関する登記は登記簿の表題部に、権利に関する登記は登記簿の権利部に記録される(同条7号、8号)[4]。
表示に関する登記は、不動産の物理的現況を明らかにすることを目的としており、権利に関する登記の前提ともいえる。表示に関する登記には対抗力は認められないが、例外として、借地上の建物(借地借家法10条)について最高裁判所は対抗力を認めた(最判昭50.2.13)。
法27条から法58条までに主要な規定があり、その他の法令・通達が実務における運用の補強・潤滑化のために規定・発令されている。
登記事項としては、登記年月日等のほか(27条)、土地の場合は「土地の所在」「地番」「地目」「地積」に関して登記がなされ(法34条)、建物の場合には「建物の所在」「家屋番号」「種類」「構造」「床面積」などが登記されている(法44条)[4]。
表示に関する登記には、次のようなものがある。
権利に関する登記は、不動産についての権利の保存、設定、移転、変更、処分の制限又は消滅を公示するための登記である(法2条4号、法3条)[4]。 権利に関する登記は第三者対抗要件である(民法177条)。不動産についての権利の優先関係が問題となるときは、登記の有無、先後が基準となる。一般に登記といえば、権利に関する登記のことをいうことが多い。
法59条から法118条に主要な規定があり、各種法令・通達が実務のため規定・発令されている。
登記事項には、登記の目的、受付年月日・受付番号、登記原因及びその日付、権利者の住所・氏名等がある(法59条)。
権利に関する登記のうち、所有権に関する登記は、権利部の甲区に記録される(規則4条4項)。所有権に関する登記には、次のようなものがある。
登記されている所有権の登記事項に変更等があったときは、次のような登記がされる。
権利に関する登記のうち、所有権以外の権利に関する登記は、権利部の乙区に記録される(規則4条4項)。所有権以外の権利で登記されるのは、用益物権(地上権、永小作権、地役権)、担保物権(先取特権、質権、抵当権)、賃借権、採石権である(法3条)。不動産に関する権利であっても、同三条に列挙されていない占有権や留置権などは登記できない。また甲区のない登記簿に乙区のみを登記することはできない。なお敷地権は建物の表示に関する登記事項である。
これらの権利の変更、消滅等が生じたときは、所有権に関する登記と同様、変更・更正・抹消ならびに回復の登記がされる。
本登記(終局登記)を申請する要件が調わないとき、具体的には
に、順位を確保するために行われる登記を指す(法105条)。仮登記自体に対抗力はないが、後に本登記を行うことで、仮登記の順位で本登記が行われたことになる。(法106条)。
権利に関する登記のうち、既にされた権利に関する登記についてする登記であって、当該既にされた権利に関する登記を変更し、若しくは更正し、又は所有権以外の権利にあってはこれを移転し、若しくはこれを目的とする権利の保存等をするもので当該既にされた権利に関する登記と一体のものとして公示する必要があるものをいう(法4条)。
登記の順位は原則として登記申請受付の時間的前後によって決まるが、付記登記では既存の登記と一体のものとして、当該既存の登記と同じ順位で公示される。
登記は、当事者の申請又は官庁・公署の嘱託(法116条)に基づいて、登記官が登記簿に登記事項を記録することによって行う(法11条、法16条1項)。
不動産が2以上の登記所の管轄区域にまたがる場合、法務省令で定めるところにより、法務大臣または法務局もしくは地方法務局の長が、当該不動産に関する登記の事務を司る登記所を指定する(法6条2項)。そして、登記の申請を当該2以上の登記所のうち、1の登記所にすることができるのは、登記事務を司る登記所の指定がされるまでの間に限られる(法6条3項)。
表示に関する登記は、登記名義人やその代理人からの単独申請によるほか、登記官が職権ですることができる(法28条)。
以下の者には申請義務が課せられている(いずれも1か月以内)。
権利に関する登記は、登記権利者と登記義務者が共同して申請するのが原則である(共同申請の原則、法60条)。どのような場合に登記権利者が登記義務者に登記手続への協力を求めることができるかは登記請求権の項参照。以下の場合には、単独で申請することができる。
要式性が極めて厳格であるため、各専門家(表示に関する登記は土地家屋調査士、権利に関する登記は司法書士)に依頼し登記手続きを行うのが一般的である(1年の権利に関する登記申請のうち95・8%程度が司法書士によって行なわれているとの2004年(平成16年)5月11日衆院法務委員会法務省政府答弁がある)。なお、登記権利者と登記義務者が1人の司法書士に委任することは双方代理(民法108条)に反しないとされる(最判 昭和43年3月8日民集22巻3号540頁)。
登記を申請するためには、登記所に登記申請情報と添付情報(以下に挙げたのは主なもの)を提供する必要がある。
申請の方式
登記の申請に当たっては、登録免許税を納付しなければならない。
である(登録免許税法31条1項各号)。
登記の申請があったときは、登記官はこれを受け付け、受付番号を付す(法19条、規則56条1項)。受付番号は毎年更新される(規則56条3項)。
登記官は、権利に関する登記の実体については形式的審査権しかないとされ、登記簿及び提供された情報(書面)のみをもとに、法25条各号(11号以外)の却下事由に当たるか否かを審査し、それ以上、真実そのような物権変動が生じたか否かまで審査することなく、登記を行う。
ただし申請人については、登記官が申請人となるべき者以外の者が申請していると疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、申請人の申請の権限の有無を調査しなければならない(法24条、規則59条)。この調査はあくまで申請権限の有無についての調査であり、申請人の申請意思の有無は調査の対象ではない(2005年(平成17年)2月25日民二457号通達第1-1(6))。
これに対し、表示に関する登記については、登記官は実質的審査権を有し、必要に応じて実地調査を行う権限も有している(法25条11号、法29条)。
法25条の却下事由に当たらない場合は、登記官は、申請に基づいて登記簿に記録する。これによって法律上登記が完了する。
登記は、本来は権利関係について一般的に公示されることを目的として、誰でも、登記事項証明書(コンピュータ・システム上の登記記録を書面に出力して登記官が認証したもの)の交付請求はできるが(119条)、近時、不動産会社の営利目的による広範な交付請求・情報取得および権利者への営業活動(例:ダイレクトメール・勧誘電話)等、本来の規定趣旨を逸脱した交付請求がみられるようになった。登記簿には権利者等の氏名および住所等個人情報の記載があり、また、認知症等による高齢の権利者の判断力(意思能力)低下とその相続予定者の権利確保の点から、個人情報保護の観点および無権利者による不測の侵害行為の防止から、立ち遅れている交付請求の現状について、当事者としての権利性要件の議論が行われつつある。
登記事項証明書には、登記記録の全部を記載した「全部事項証明書」(旧法の登記簿謄本に対応するもの)と、一部を記載した「一部事項証明書」(旧法の登記簿抄本に対応するもの。現在事項証明書、何区何番事項証明書、所有者証明書などがある)がある。ただし、移記に適さない登記簿などは、旧法21条に従って「登記簿謄本」・「抄本」が交付される(附則3条4項)。コンピューター化された登記簿の登記事項証明書等は、どこの登記所でも日本全国の証明書が取得できる。登記事項証明書の交付を請求するときは、収入印紙で手数料を納付しなければならない(119条4項)。1985年度から2020年度までは、登記に関する手数料の歳入が登記特別会計の歳入とされたことから経理を区分する必要性から収入印紙ではなく登記印紙だったが、2011年(平成23年)3月31日限りで、登記特別会計が廃止されたため同日限りで登記印紙は廃止された。既に販売された登記印紙は現在でも、使用可能である。
なお、登記事項証明書はすべて「書面」によって作成され、電磁的記録によって作成された登記事項証明書の交付を請求することはできない。ただし電気通信回線による登記情報の提供に関する法律(平成11年法律第226号)により、登記所が保有する登記情報を、インターネットを利用して、一般利用者が自宅又は事務所のパソコンで確認することができるようになっている。提供される登記情報の内容は登記事項証明書と同一のものであるが、証明書としての効力がないものである。更に登記情報の交付の際に、照会番号が付与され、行政機関への電子申請の際に登記事項証明書にかえて照会番号の付記により手続ができる(すべてではない)[7]。
登記官の処分に不服がある者又は登記官の不作為に係る処分を申請した者は、審査請求をすることができる(法156条1項)。
「登記官の処分」について内容を限定する条文は存在しないことから、不動産登記法に関するすべての行為が含まれる。ただし、登記官が職権で登記を抹消できる場合は限られている(71条1項)ので、それ以外の場合について登記を抹消するよう請求することはできない(最判 昭和37年3月16日民集16巻3号567頁等)。
監督法務局又は地方法務局の長は、法157条3項の処分を命ずる前に登記官に仮登記を命ずることができる(法157条条4項)。この仮登記又は法157条3項の命令に基づく登記をするときは、当該命令をした者の職名・命令の年月日・命令によって登記する旨・登記の年月日を記録しなければならない(規則191条)。
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