といった指示を出すことによって A がドライバー部門のポイントを獲得しやすくする。この指示をチームオーダーと呼ぶ。単に第2ドライバーが第1ドライバーの前を走行している場合にもこういった指示が出される場合もある。主にシリーズ戦形式のカテゴリにおいて、ドライバー部門チャンピオンをチームドライバーに獲得させる事が目的である。
マクラーレンのデビッド・クルサードが優勝したレース。ラスト2周までフェラーリのルーベンス・バリチェロが2位を走行し、チームメイトのミハエル・シューマッハが3位を走行していたが、当時チーム監督をしていたジャン・トッドよりバリチェロにチーム無線で「Rubens, last lap. Let Michael pass for the championship. Rubens. Please. (ルーベンスよ最終ラップだ。チャンピオンシップの為にミハエルからパスされてくれ。ルーベンス、お願いだ。)」と伝えられる。バリチェロは命令通りファイナルラップでミハエルに自身をパスさせて3位でチェッカーフラッグを受けた。
スタートでトップに立ったフェラーリのフェリペ・マッサとそのすぐ背後を追うチームメイトのフェルナンド・アロンソという展開になった。フェラーリのマッサ側のエンジニアであるロブ・スメドレーはチーム無線でマッサに対し「OK, so, Fernando, is, faster, than, you. Can you confirm you understood that message?(フェルナンドは君より速い。この意味が解るか?)[17]」と、一語一語区切って強調した口調で伝える。その直後のヘアピンでマッサは若干スローダウンし、アロンソに先頭を譲った。後にスメドレーは「Good lad. Just stick with it now. Sorry.(よくやった。そのままにしておいてくれ。すまない。)[17]」とマッサに対して任務を遂行したことに対する労いの言葉を無線で伝えた。レースはそのままアロンソとマッサの1-2フィニッシュとなったものの、レース後の記者会見では先述の通りあまりにも露骨な指示はチームオーダーそのものではないか?と、記者から激しく責め立てられる事となった[18]。
前述にあるように、2003年のチームオーダー禁止以降、チームが意図的にチームオーダーを行う場合、チーム内で無線暗号を決めるなり、わざとピットの順番をずらして前にいかせるなどという手が常套手段となっていたが、今回のフェラーリは堂々と指示を無線に乗せてしまった上、マッサの譲り方があまりにもあからさまだったために問題となってしまった。又、この事件は様々なF1関係者に対してチームオーダーの是非を問う切っ掛けにもなった。この問題を深刻に受け止めたFIAは、9月8日にパリで開催される世界モータースポーツ評議会(※:World Motor Sport Council WMSC)の特別公聴会にフェラーリを召喚し最終的な審議を問う事を発表した[20]。9月8日、フェラーリ関係者はパリのコンコルド広場で開かれた特別公聴会に出席した。尚、アロンソ、マッサはイタリアGPを控えているのもあってビデオリンクでの参加であった。審議の結果、先述のドイツGPでの行為はチームオーダーに該当し、10万ドルの罰金は認めながらもフェラーリに対してそれ以上のペナルティを与えないものとした。又、この件に関してWMSC側もスポーティングレギュレーション第39条の1項を見直す必要がある事を認め、将来的にチームオーダーがルール改訂によって消滅する、あるいは何らかの形によって合法になる可能性がある事を示唆していた[21]。
レース終盤、レッドブルの2台が2・3位を走行し、マーク・ウェバーが後方からセバスチャン・ベッテルを追い上げていた。チーム代表のクリスチャン・ホーナーからウェバーに対して「Maintain the Gap(差を保て)」という指示が出されたが、ウェバーは尚もベッテルを攻め立てた。レース後のインタビューでは、ウェバーが無線の指示を無視したことを認めたため話題となった[25]。
F1運営組織のFOM(Formula One Management)、FOA(Formula One Administration)のCEOであったバーニー・エクレストンもチームオーダーに対して賛成派である。チームオーダー禁止令の発端となった2002年のオーストリアGPの後、フェラーリに対し処分が行われたがこの件に関しチームオーダーを自転車レースを引き合いに出し「レース」というものがチームで行うスポーツである以上は、ルールを変更すべきではないと発言し、ルール上ではフェラーリの行いは間違っていないと擁護している[41]。(※:但し、フェラーリに対するペナルティの名目は「表彰式での違法行為」[42])2010年のドイツGPにおける一件も同様にチームオーダーを賛成する立場をとっており、チームオーダーという行為がチーム内の方針や作戦の一つとして存在すると考え、彼らの独自性までもルールで縛り付けるべきではないとしている[40]。一方でFOM会長職を退いた後の2018年のオーストリアGPでは、2位を走るキミ・ライコネンに対して「3位を走る(ルイス・ハミルトンと激しいドライバーズタイトル争いを展開している)セバスチャン・ベッテルへ譲るようにチームオーダーが出されるのでは?」と言う観測も出る展開になったが、「レース終了直前にベッテルに抜かせることは簡単だっただろうが、フェラーリはそうさせなかった。彼らはスポーツの公平性だけでなく、キミの士気も保ったのだ」と、チームオーダーを出さなかったことを称賛するコメントも発している[43]。