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食虫植物(しょくちゅうしょくぶつ)は、食虫という習性を持っている被子植物門に属する植物の総称。食肉植物、肉食植物と言われる場合もある。食虫植物は「虫を食べる植物」ではあるが、虫だけを食べてエネルギーを得ているのではなく、基本的には光合成能力があり、自ら栄養分を合成して生育する能力がある[1]。
食虫植物とは、種子植物門の被子植物亜門に属する高等植物のうち、食虫習性を獲得した様々な段階の分類群の植物を総称した生態学上の呼び名である[2][3][注釈 1]。現生種は12科19属600種強[注釈 2]に達すると考えられている。なかでも、タヌキモ属、モウセンゴケ属、ウツボカズラ属、ムシトリスミレ属は種数が多い。
自生地の多くは湿った荒野や湿原で、土壌中の窒素・リン・ミネラルなどの栄養素が不足がちな土地に生育し、世界中に分布する[2]。特徴としては、光合成によって独立栄養で生活する緑色植物でありながら、葉などを変形させて飛来する昆虫などの小動物を捕食することで栄養分を補い、成長と繁殖に役立てるという生活様式を兼ね備えたところにある[2]。この特徴を「食虫習性」とよび、昆虫などの獲物をおびき寄せて捕食し、溶かして消化し、その養分を吸収して栄養を補い、成長と繁殖に役立てるという一連の流れが組み合わさった機能のことを指している[2]。ただし、この食虫習性を完備した食虫植物は、モウセンゴケ科、ムシトリスミレ属、トリフィオフィルム属などに限られ、サラセニア科では消化液を分泌する器官を持たないため、微生物によって分解された栄養分を横取りして吸収するだけのものが多い[2]。食虫植物は虫を捕れなくとも枯れることはないが、長期間捕虫しなかった個体は、捕虫したものと比べると、大きさ、色、繁殖力は劣る[4]。
葉や茎などが捕虫器官になっており、昆虫や動物プランクトンをおびき寄せて捕らえ、消化吸収する能力を持つ。種によっては誘引する機能や消化機能がないものもあり、食虫植物に分類するかどうかで議論が分かれる場合もある。
虫を捕らえるしくみを持つ植物はかなりの数に上る。例えば葉や茎に粘毛や粘液腺を持つ植物(ムシトリナデシコ、モチツツジ)や、花に仕掛けがあって、入り込んだ昆虫を閉じこめるもの(クマガイソウなど)などである。中にはムシトリナデシコのように、食虫植物のような名前を付けられているものもある。しかし、基本的には、捕まえるだけではなく、消化液を分泌し、さらに吸収するしくみを備えていなければ食虫植物とは認められない。ただし、吸収については、通常の植物であっても葉の面から肥料を吸収できるし、逆に食虫植物であっても、捕らえた昆虫の成分を根から吸収するのではと言われるものもある。
つまり、食虫植物とは、表面で昆虫を捕らえ、殺して分解し、そこから何らかの栄養分を取るものである。植物が昆虫を捕らえる目的は他にもあり、多くの粘液を出す植物は、昆虫からの食害を防ぐためであると考えられる。他方、花が虫を捕らえるのは、たいていの場合は花粉媒介をさせるためで、しばらくすると放してやるしくみになっている。
現在のところ、食虫植物として認められているものは、主として葉や茎で微生物及び昆虫や小動物を捕らえる。よく言われるような、花で虫を捕らえる食虫植物は存在しない。とはいえ粘着式の植物にはがくや花弁の裏側に幾分かの粘毛が見られる場合もある。
一般に食虫植物は日光や水は十分であるが、窒素やリン等が不足しているため他の植物があまり入り込まないような土地、いわゆる痩せた土地に生息するものが多く、不足する養分を捕虫によって補っていると考えられる。一般に根の発達は良くないものが多い。
捕虫方式は
に分けられる。
寒冷地から熱帯雨林、高山から低湿地や池と、世界中に分布しているが、個々の種としてみた場合、ハエトリグサや日本のコウシンソウのように限られた地域にしか自生していないものも多い。
自生地には他の希少な植物が生えていることも多く、自治体によって保護されている場所もある。例えば栃木県のコウシンソウ自生地は国の特別天然記念物[5]、千葉県山武市と東金市にまたがる「成東・東金食虫植物群落」は国の天然記念物[6]、愛知県武豊町の壱町田湿地は愛知県の天然記念物に指定されている[7]。
希に外来種として繁殖する種もある。タヌキモ属でアメリカ合衆国原産のウトリクラリア・ラディアタ、ウトリクラリア・インフラタは、兵庫県や静岡県の池で繁殖して話題になったことがある。
日本の場合、各地で自生地が消滅している。理由は以下のものがあげられる。
その形や性質の面白さから、園芸植物として観賞用に栽培され、食虫植物は一つのジャンルをなしている。ただし一般に広く認められるほど美しいものは少なく、むしろ珍奇なものが多いことから、多くは特定の趣味家の楽しみの範疇である。理科教材として栽培されることもある。水湿地の植物が多いため、水草として栽培される例もある。
しかし、栽培が広く行われ、園芸的な品種改良が行われる例もある。特にその面で目立つのはウツボカズラであり、非常に多くの交配品種が作出されている。ほかにモウセンゴケ属でもアフリカナガバノモウセンゴケやヨツマタモウセンゴケにも園芸的な品種がある。またミミカキグサ類では捕虫の構造は目立たないが、花が面白い形と美しい色を持っていることから栽培されるものが複数ある。
ただしそのために野生品が乱獲され、絶滅を危惧されるようになっている例もあり、保護の必要性が言われるものも多い。
入手方法は愛好者同士の交換や売買、業者による通販があるが、ハエトリグサやモウセンゴケ、サラセニアなど一部の種類は夏に花屋やホームセンターなどで入手できる事もある。
栽培方法は種によって自生地の環境が違うため一概には言えないが、用土は水苔を用いる事で育てられるものが多い。
基本的には一般の植物と同じく光合成により栄養を得ているため、栽培下では人手をかけて虫を与える必要はなく、逆に虫が腐敗して植物に悪影響を与える場合があるので注意が必要である。貧栄養の土地で育つため、肥料も原則として必要はない。
分類体系はAPG IIによる。
この他にも食虫植物もしくはその進化途中ではないかと指摘される植物種は数多く存在する(例:ナズナ)。パイナップル科プヤ属のプヤ・ライモンディやプヤ・チレンシスの棘は鳥類やリャマなどを捕食するためのものとする説がある[9][10]。
コケ植物ではColura zoophagaが初めて食虫性として確認された。
いずれも被子植物に属するが、必ずしも特定の系統に多いわけではない。しかしモウセンゴケ科やタヌキモ科のように科の全種が食虫植物のものが多い。またナデシコ目のモウセンゴケ科、ウツボカズラ科やディオンコフィルム科などを含む系統は、大部分の種が食虫植物であるため、食虫植物クレードと呼ばれている。
ツノゴマ科、ディオンコフィルム科、パイナップル科、ホシクサ科では一部の種だけが食虫植物になっている。これらは、粘液を分泌する、葉が重なって水を貯めるといった各科の特徴をさらに発達させて食虫化しているように見え、食虫植物の進化の様式を示唆していると思われる。
ツボウツボカズラはかつては食虫性だったものが捕虫葉から落ち葉を摂取消化できるように進化したと考えられている[11][12][13]。
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