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要指導医薬品ネット販売規制事件(ようしどういやくひんネットはんばいきせいじけん)とは、要指導医薬品の対面販売を義務付けていた旧薬事法(現:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法))の規制が、憲法22条1項に違反するかが争われた訴訟である。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
2009年に市販薬のネット販売を規制した改正薬事法と厚生労働省令が施行されたが、ネット販売業者から訴訟を起こされ、2013年1月に最高裁から市販薬のネット販売を規定した厚生労働省令が改正薬事法の委任から逸脱して無効とされた(医薬品ネット販売訴訟)。それを受けて、同年12月に薬事法改正案が成立した。
改正後の旧薬事法4条5項3号は、以下の各要件に該当する医薬品で、「その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものを、「要指導医薬品」に指定していた[1]。
また、旧薬事法は、「店舗販売業者等は、要指導医薬品につき、薬剤師に販売させ、又は授与させなければならない」(36条の5第1項)と定めていた。そして、要指導医薬品の適正な使用のため、要指導医薬品を販売し、又は授与する場合には、薬剤師に、対面により、所定の事項を記載した書面を用いて必要な情報を提供させ、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない(36条の6第1項)とし、情報の提供及び指導を行わせるに当たっては、当該薬剤師に、あらかじめ、要指導医薬品を使用しようとする者の年齢、他の薬剤又は医薬品の使用の状況等を確認させなければならない(36条の6第2項)。そのうえ、その情報の提供又は指導ができないとき、その他要指導医薬品の適正な使用を確保することができないと認められるときは、要指導医薬品の販売・授与を禁じていた(36条の6第3項)[1]。
要するに、旧薬事法(薬機法)は、「要指導医薬品」について、薬剤師による対面販売を義務付け、インターネットによる販売を禁じるものであった。
2014年、ケンコーコムから改称したRakuten Direct社(現在は楽天に統合)は、旧薬事法(薬機法)36条の6第1項及び第3項が、職業活動の自由(営業の自由)を保障する憲法22条1項に違反する、と主張し、国に対して、要指導医薬品として指定された製剤の一部につき、インターネットによる医薬品の販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認等を求める訴訟を、東京地方裁判所に提起した[1]。
2019年2月6日、東京高等裁判所(裁判長:斉木敏文)は、第一審判決を支持し、楽天側の控訴を棄却した[3][注釈 1]。
最高裁判所判例 | |
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事件名 | 要指導医薬品指定差止請求事件 |
事件番号 | 令和1(行ツ)179 |
2021年(令和3年)3月18日 | |
判例集 | 民集第75巻3号552頁 |
裁判要旨 | |
医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律36条の6第1項及び3項は,憲法22条1項に違反しない。 | |
第一小法廷 | |
裁判長 | 小池裕 |
陪席裁判官 | 池上政幸、木澤克之、山口厚、深山卓也 |
意見 | |
多数意見 | 小池裕、池上政幸、木澤克之、山口厚、深山卓也 |
意見 | なし |
反対意見 | なし |
参照法条 | |
憲法22条1項、「医薬品,医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」36条の6第1項、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」36条の6第3項 |
2021年3月18日、最高裁判所第一小法廷(裁判長:小池裕)は、薬機法(旧薬事法)36条の6第1項及び第3項は、憲法22条1項に違反せず合憲であるとし、原告の請求を棄却した[1][5]。
まず、本判決は、「薬局距離制限事件」上告審判決の判示[注釈 2]を引用し、憲法22条1項が職業活動の自由(営業の自由)を保障していることを確認しつつ、職業活動の自由への規制は、「規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる」場合には「そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきものであるところ、その合理的裁量の範囲については事の性質上おのずから広狭があり得る」[1][5]との枠組みを示した。
まず、本判決は、要指導医薬品が「製造販売後調査の期間又は再審査のための調査期間を経過しておらず、需要者の選択により使用されることが目的とされている医薬品としての安全性の評価が確定していない」ことに着目し、販売方法の規制は、「不適正な使用による国民の生命、健康に対する侵害を防止し、もって保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止を図ることを目的とするものであり、このような目的が公共の福祉に合致することは明らかである。」と判断した。
次に、本判決は販売方法の規制の手段については、下記の点を指摘している。
そして、本判決は上記の要素から、販売方法の規制は「職業選択の自由そのものに制限を加えるものであるとはいえず、職業活動の内容及び態様に対する規制にとどまるものであることはもとより、その制限の程度が大きいということもでき」ず、要指導医薬品の販売方法の規制に「必要性と合理性があるとした判断が、立法府の合理的裁量の範囲を超えるものであるということはできない」と判断した[1][5]。
本事件の上告審判決と、「あはき師法19条訴訟」上告審判決とを比較した上で、本事案のような国民の安全の保全を目的とする規制(消極目的規制)と、経済弱者の保護を目的とする規制(積極目的規制)に全く同じ枠組みの違憲審査がなされたことから、これらの規制に異なる違憲審査基準を用いるべきとした規制目的二分論が廃棄されたとの見解もある[6]。
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