Loading AI tools
ウィキペディアから
失神(しっしん、英語: syncope)とは、大脳皮質全体あるいは脳幹の血流が瞬間的に遮断されることによっておこる一過性の瞬間的な意識消失発作である。気絶(きぜつ)、卒倒(そっとう)とも言う。
通常は数分で回復し、意識障害などの後遺症を起こすことはない。失神が起こる前に、目の前が真っ暗になる感じや、めまい感、悪心などがあり、その後顔面蒼白となり、ついに意識が消失する。また、失神の発作は、立っている時に起こることが多い。ただし、座位で発症する場合が30-40%あり、たとえば背もたれのある椅子に座った状態で失神すると寄りかかったまま意識を失い、失神が長く続く原因となる。失神が立位で発症する場合にも、突然に血圧が低下して転倒する場合、徐々に血圧が低下して、くず折れるように座り込む場合など、発症時の様子は様々である[1]。
失神が起こるのは通常、数十秒から数分間と比較的短い時間であり、その後は自然に意識が戻り何らかの後遺症が残ることはないが、以下のような場合には注意が必要である[2]。
このような場合には、脳などに重篤な病気が起こっている危険性があるため、救急車の要請が必要である。
失神は横から見るととても恐ろしいものだが、意外にも疫学的には比較的良性の症状である。すでに心臓病を患っており、失神している場合は、すぐに医師の診察を受けること[3]。
発症機序のよって、「起立性低血圧」「反射性(神経調節性)失神」「心原性(心血管性)失神」の 3つに大別される[4][5]。
失神の診断・治療ガイドライン2012年改訂版[4]では、下記との鑑別が必要とされている。
大脳皮質全体、あるいは脳幹の血流が瞬間的に遮断されるような病態で失神は起こる。頻度としてはほとんどが循環器疾患である。脳血管障害、特にTIAによるものは非常に稀である。これは解剖学によって説明ができる。大脳皮質全体の血流を遮断するには脳を灌流する4本の血管(左右の内頚動脈と椎骨動脈)を同時に遮断しなければならない。血管病変では、これは非常に可能性が低い。事実、多くの格闘技でいわゆる絞め技でも瞬時に相手を失神させることはできないことから明らかである。例外として脳底動脈が遮断された場合は失神を起こしえる。症状が意識障害のみではTIAの診断基準を満たすことはできない。脳底動脈領域のTIAの場合は意識消失の前または後に神経脱落症状(多くは複視、片麻痺、小脳失調、脳神経所見)が認められるのが一般的である。
失神で特に危険なのは致死的不整脈、すなわち心室細動や心室頻拍が一過性に起こった場合である。致死的不整脈による失神は本当に瞬時に起こるため受け身をとることができない。そのため顔面外傷などの合併をみたら念入りに心疾患を探さなければならない。失神の患者を診る場合は必ず失神の原因検索(大抵は不整脈が原因なのでまずは心電図、必要なら不整脈の原因となる心疾患を検索する)と外傷検索を同時に行うことである。特に頭部打撲ではネックカラーによる固定、必要ならばJATECプロトコールにて対処を行う。わずかながら存在する脳血管性の失神の場合は失神後、頭痛や麻痺などの症状が伴う場合が多い。このような神経学的異常や頭部外傷を認める場合は頭部CTも施行する価値はあるがルーチンとしては特に必要ではない。失神後痺れを訴える患者などでは非常に悩ましい。近年、脳ドック普及などによって微小梗塞が数多く指摘されるようになり、それに伴い痺れを脳梗塞の前駆症状ととらえる人もいる。しかし基本的に痺れはほとんどの場合は脳血管障害と関係はないとされている。
重要な情報としては病歴に疼痛、悪心、下痢、吐血、下血、メレナなどがあるか、バイタルサインの動き、眼瞼結膜の貧血、頸動脈狭窄音、心雑音、直腸診による便潜血などがある。検査としては一般的な検査のほかに血糖、ラピチェック、トロップT、D-ダイマーを測定することが望ましい。血液ガスにて代謝性アシドーシスがないということは痙攣との鑑別となる。
救急室では34%もの失神の原因が不明となってしまうとされている。厳密な原因の分析が困難な場合は重篤な疾患のスクリーニングを行う場合がある。この時に重要視する失神の原因は大きく分けると4つであり、心血管性失神、起立性失神(特に出血、脱水、貧血)、血管迷走神経反射性失神、薬剤性失神である。これらの原因のスクリーニングとしては心電図、血算、妊娠反応がよく用いられる。
失神の患者は重篤な不整脈がある可能性があるので原則としては入院が必要である。ただし、神経原性失神、起立性低血圧、飲酒時の失神、心因性失神と診断がついていればそのまま帰すことができる。またこれらの診断のみならば予後が変化することはない(見落としがなければ)。高齢者の場合は入念な精査が必要になる場合もあるので、入院を念頭に置いた方が無難だとされている。
心血管性失神であった場合は1年後の突然死のリスクが18 - 33%もあるため最も重要な原因のひとつである。心血管性失神を除外できない場合は入院が必要となることがある。心血管性失神の赤旗徴候(red flag)としては以下の項目が知られている。
心電図異常には心室性不整脈、MobizⅡ型やⅢ度房室ブロック、虚血性変化、QT延長症候群、徐脈性心房細動、脚ブロック、WPW症候群などであり非特異的ST変化は含めないことが多い。リスクの評価としては予後分析であるOESIL risk scoreや入院適応を決めるサンフランシスコルールというものが知られている。
65歳以上、既往歴で心疾患、前駆症状なし、心電図異常ありがそれぞれリスクとなり、その数によって生存率が分かれる。該当項目が0個ならば1年後死亡率0%、1個ならば0.8%、2個ならば19.6%、3個ならば34.7%、4個ならば57.1%となっている。
収縮期血圧90mmHg以下、息切れ、鬱血性心不全の既往、心電図異常(洞調律以外、以前の心電図より変化)、ヘマトクリット30%以下のうちいずれも認めない場合は入院精査を行わなくてもよい。
肺梗塞、大動脈解離の否定にはDダイマーの測定が有効とされている。
特に出血、脱水、貧血が重要な原因となる。出血の原因としては女性器、消化器が最も頻度は高い。潰瘍の既往、タール便、血便の有無、肝硬変、生理の状態は確認する。起立性失神の場合は起立後3分以内にバイタルサインの変動が認められることが多く、血圧が20mmHg以上低下したり収縮期血圧が90mmHg以下になったり眼前暗黒感を訴えたりする。起立試験は救急室でも施行が可能である。
急性期出血の場合はHbの低下を伴わないことが多い。潰瘍の既往があった場合、心窩部痛や圧痛がある場合、頻脈を認めた場合は経鼻胃管を用いて胃からの出血を確認することができる。また直腸診にて消化管出血を確認することが多い。
頻度としては最も多く、予後は最も良い。立位や座位で発症することが多い。長時間の起立、疼痛、驚愕、怒り、予測外の視覚、聴覚刺激、排便、排尿、咳、ストレスが先行する場合が多い。老人は食後の頭部挙上状態で起こりやすい。またアルコールや睡眠薬の使用も血管迷走神経反射性失神を起こしやすい。酔っ払いが居酒屋のトイレで排尿し失神したといった病歴が典型的である。「学校の朝礼などで生徒が貧血で倒れた」などの事例も貧血の場合もあればこの血管迷走神経反射性失神の事もある。
近年は原因不明の失神の約50%が神経調節性失神ではないかとされている。これは血管迷走神経反射性失神、状況失神、経動脈過敏症、自律神経失調症、POTS(post-orthostatic Tachycardia Syncope)が含まれる概念である。ヘッドアップティルト試験にて診断がつくが、ティルト後約45分ほどのモニターが必要であり救急室では診断はまず不可能である。
起立性低血圧を起こすもの、QT延長症候群をおこすもの、徐脈を起こすものが原因となりやすい。
α遮断薬、硝酸薬、利尿薬、降圧薬、抗パーキンソン病治療薬、睡眠薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬などが知られている。
Ⅰa抗不整脈薬、マクロライド系抗菌薬、三環系抗うつ薬、抗アレルギー薬、有機リン、ハロペリドールなど。
ジギタリス、β遮断薬、カルシウム拮抗薬など。
失神の原因は多岐にわたるため、海外ではSyncope Unitと呼ばれる専門の診療部門を設置している病院がある。日本では「失神外来」などの専門外来のある病院もあるが、通常は循環器内科・神経内科・一般内科などが診療することが多い。
失神患者は、救急室受診者の3%を占める。一般の市民を対象としたフラミンガム研究によると、26年間に失神歴を有した人は、男性3.0%、女性3.5%であった。失神の原因としては2000年代中盤のデータでは反射性(36 - 62%)、心原性(10 - 30%)、起立性(2 - 24%)、脳血管性(1%)とされている。
日本語のオープンアクセス文献
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.