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ニューロパチー(ニューロパシー[1]、Neuropathy)は、末梢神経の正常な伝導が障害される病態。障害される神経の種類は運動神経、感覚神経、自律神経に及び、ミクロ的な障害部位は軸索であったり髄鞘(シュワン細胞)であったりする。マクロ的にどこが障害されるかによって、単神経炎・多発性単神経炎・多発神経炎に区別される。
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主な疾患は、ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーが炎症性・感染性のものとして有名であり、その他の原因によるものに、糖尿病性ニューロパチー、腫瘍随伴性ニューロパチー、Crow-Fukase症候群、あるいはSLE、PN等の膠原病性血管炎に伴うニューロパチー、シャルコー・マリー・トゥース病、家族性アミロイド多発ニューロパチー等がある。外因性としてはアルコール、ヒ素、水銀、タリウム、スチレン、n-ヘキサン、またビタミン欠乏により脚気なども有名である。薬剤性としてはイソニアジドやビンクリスチンによるものが多い。
ニューロパチーは大雑把に脱髄性のものと軸索変性のものに分けられる。軸索変性はさらにワーラー変性によるものと後退変性によるものに、脱髄性のものは原発性節性脱髄と続発性節性脱髄に分類される。障害される神経線維によって症状が異なる傾向がある。大径線維優位型はAβ線維の障害のため深部感覚の障害が目立つ。特に後根神経節に病変の主座がある場合は感覚失調を伴う。こういった病気はPNSやシェーグレン症候群が知られている。小径線維優位型AδおよびC線維の表在感覚や自律神経障害が目立ち、痛みを伴うことが多い。これはアミロイドーシスや一部の糖尿病で見られている。痛みのメカニズムは内部リンク疼痛に詳しい。後根神経節に病変があると考えられる場合はシェーグレン症候群や傍腫瘍症候群(PNS)を考える。後根神経節の障害では経過が長くともaxonal aproutingが認められないのが特徴である。
ワーラー変性は外傷性や局所的軸索切断によって起こり、後退性ニューロパチー(dying back neuropathy)は悪性腫瘍や代謝障害で起こるとされている。軸索変性性の場合は急性のものではmyelin ovoidが、慢性のものではaxonal sproutingが認められる。軸索変性性ニューロパチーの場合は障害する神経線維の選択性が認められることがある。
電気生理学的には神経伝導速度の減少、限局性ブロック(conduction block)、時間的分散(temporal dispersion)が認められる。
ニューロパチーは病歴と身体所見からもいくつかのパターンに絞り込むことができる。このパターンの絞り込みを行うには7つのKey questionが重要とされている。
患者の症状や徴候が運動神経、感覚神経、自律神経かこれらの複合かを見極めることである。多くのニューロパチーは感覚性である。運動症状のみならば運動性ニューロパチー、ミオパチー、神経筋接合部疾患を考慮する。
筋力低下の原因は四肢の遠位だけなのか、近位と遠位の両方なのか、筋力低下は局所性で非対称性なのかあるいは左右対称なのかが重要になる。たとえば左右対称で近位、遠位の筋力低下があり感覚障害を伴う場合は炎症性の多発ニューロパチーを疑う。これらの代表疾患はギラン・バレー症候群や慢性炎症性脱髄性多発神経炎が該当する。また非対称性や多巣性パターンの筋力低下が見られる場合は鑑別が絞り込めることもある。感覚障害やその徴候がなく、筋力低下が週や月単位で悪化する場合は運動ニューロン病が疑われる。筋萎縮性側索硬化症が有名であるが治療可能な多巣性運動ニューロパチーの除外が重要である。非対称性で亜急性または急性の運動と感覚の障害をきたす患者では神経根症、神経叢症、圧迫性単ニューロパチー、多発性単ニューロパチーを考慮する。
C線維の伝達する灼熱感や局在のはっきりしない痛み、Aδ線維の伝達する電撃性の痛みなど感覚障害の性質がニューロパチーの重要な情報となることがある。痛覚と温度覚が失われる一方で筋力と位置覚、振動覚、腱反射保たれ伝導速度も正常な場合は最も考えやすいのは小径線維ニューロパチーである。小径線維ニューロパチーは糖尿病性ニューロパチーやアミロイドーシスによるニューロパチーとして有名であるが、多くの小径線維ニューロパチーは原因不明となる。固有感覚の重篤な消失も鑑別診断を絞り込める情報である。振動覚の著しい低下と正常の筋力を認める場合は感覚性神経細胞障害や感あっ区制神経節障害を疑う。この感覚低下が非対称であった場合や足よりも腕のほうが障害が重篤な場合は感覚性神経細胞障害でみられるような長さ依存性ではない経過の疾患を示唆している。
左右対称性、遠位の感覚障害をしめしさらに上位運動ニューロンの徴候がある場合はニューロパチーを伴う亜急性連合変性症などの疾患を考慮する。ビタミンB12欠乏の亜急性連合変性症は最も有名であるが、銅欠乏、HIV感染、重篤な肝疾患、副腎脊髄ニューロパチー(副腎白質ジストロフィーの異型)などの疾患も考慮する。
急性(数日から4週)、亜急性(4週から8週)または慢性(8週)をこえる経過か、単相性か進行性かまたは再発性かという情報が重要である。多くの場合、ニューロパチーは緩徐進行性である。急性や亜急性を示す疾患としてはギラン・バレー症候群、血管炎、糖尿病やライム病が関係した神経根症が含まれる。慢性炎症性脱髄性多発神経炎やポルフィリン症では再発性の経過をとる。
感覚症状がわずかであっても診察では相当の感覚障害が認められ、多年にわたる緩徐進行性の遠位部の筋力低下を示す患者では遺伝性ニューロパチー(シャルコー・マリー・トゥース病)を考える。足は弓型で変形し脊柱側弯症が見られることもある。患者だけではなく家族も電気生理検査ができると望ましい。
糖尿病、全身性エリテマトーデスなど関連した医学的問題の問診は重要である。感染症の既往、手術(胃バイパス術と栄養欠乏性ニューロパチー)、薬物(中毒性ニューロパチー、アルコール)また義歯も安定剤に亜鉛が含まれており銅欠乏の原因になりえる。
上記7つの分析からニューロパチーは9つのパターンに分類でき鑑別の手助けになる。
炎症性脱髄性の多発ニューロパチーでありギラン・バレー症候群や慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)が該当する。これらの疾患では遠位部神経終末、神経根の病変は神経長に依存しないため近位筋、遠位筋ともに筋力低下をきたすと考えられている。
特発性または原因不明の感覚性多発ニューロパチー(CSPN)、糖尿病や他の代謝性疾患、薬物性、毒物性、遺伝性(シャルコー・マリー・トゥース病やアミロイドーシス)
多数の神経にまたがる場合は多巣性のCIDPや、血管炎、クリオグロブリン血症、アミロイドーシス、サルコイドーシス、感染症(ハンセン病、ライム病、B型肝炎またはC型肝炎、HIV、サイトメガロウイルス)、遺伝性圧脆弱性ニューロパチー、腫瘍浸潤を考える。一本の神経または領域に留まる場合は上記のほかに圧迫性単ニューロパチー、神経叢症、神経根症を考える。
糖尿病による多発神経根症や神経叢症、髄膜癌腫庄やリンパ管症、遺伝性神経叢症(遺伝性圧脆弱性ニューロパチー、遺伝性神経痛性筋萎縮症)、特発性を考える。
上位運動ニューロン徴候がある場合は筋萎縮性側索硬化症をはじめとする運動ニューロン病を考える。上位運動ニューロン徴候がない場合は進行性筋萎縮症、若年性一側性上肢筋萎縮症(平山病)、多巣性運動ニューロパチー、multifocal acuired motor axonopathyを考える。
ビタミンB12やビタミンE、銅欠乏による末梢性ニューロパチーを伴う広範な変性症、進行性白質ジストロフィー(副腎脊髄ニューロパチー)を考える。ミエロパチーの合併疾患を検討する。
近位遠位の筋力低下がある場合脊髄性筋萎縮症を考える。遠位部優位の筋力低下があった場合は遺伝性運動性ニューロパチー(遠位型脊髄性筋萎縮症)または非典型的なシャルコー・マリー・トゥース病を考える。
感覚性神経細胞障害(神経節障害)の原因となるものを考える。代表例としては悪性腫瘍(傍腫瘍性神経症候群)、シェーグレン症候群、特発性感覚性神経細胞障害(ギラン・バレー症候群の亜型の可能性がある)、シスプラチンとその他の抗がん剤、ビタミンB6中毒、HIV関連感覚性神経細胞障害などが考えられる。
自律神経機能障害が目立つニューロパチーを考える。遺伝性感覚性自律神経性ニューロパチー、アミロイドーシス(家族性、後天性)、糖尿病、特発性汎自律神経異常症(ギラン・バレー症候群の亜型の可能性がある)、ポルフィリン症、HIV関連自律神経ニューロパチー、ビンクリスチンとその他の抗がん剤などが考えられる。
腓腹神経生検はニューロパチーの評価としては滅多に行われなくなった。アミロイドニューロパチーや血管炎を疑った場合は行われる。
皮膚生検は小径線維ニューロパチーの診断でときおり用いられる。
全身左右対称性の末梢性ニューロパチーでは標準として全血球計算、生化学検査(電解質、腎機能、肝機能)、空腹時血糖、HbA1c、尿検査、甲状腺機能、ビタミンB12、葉酸、赤血球沈降速度、リウマトイド因子、抗核抗体、血清蛋白麺系泳動、ベンズジョーンズ蛋白を含んだ検査を行うべきである。感覚性ニューロパチーでは空腹時血糖とHbA1cが正常であっても30%程度の患者ではOGTTで異常をきたすため検査が薦められる。M蛋白が陽性の場合は血液内科にコンサルトも行う。多発性単神経炎では上記に加え、血管炎の精査としてANCA、クリオグロブリン、肝炎、ライム病のウエスタンブロット法、HIV、サイトメガロウイルスの力価の精査を行う。典型的なギラン・バレー症候群や慢性炎症性脱髄性多発神経炎では髄液検査で細胞の増加は認められない。細胞の増加があった場合はHIV感染、ライム病、サルコイドーシス、神経根へのリンパ腫や白血病浸潤を考える。重篤な感覚性運動失調がある患者では感覚神経節障害や感覚性神経細胞障害が考えられる。感覚性神経節細胞障害の最も多い原因は傍腫瘍性神経症候群とシェーグレン症候群である。
シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は神経伝導速度検査、神経病理学、遺伝形式、特定の変異遺伝子によって分類される。CMT1は遺伝性脱髄性感覚運動ニューロパチーであり、CMT2は軸索感覚性ニューロパチである。正中神経のMCVがCMT1では38m/sに満たず、CMT2では38m/sよりもはやい。多くの場合CMT1では20~25m/sである。CMT1とCMT2は通常は小児期か成人早期に発症するが、特にCMT2ではより遅い時期に発症もある。両方共少数の例外をのぞいて常染色体優性遺伝である。CMT3は常染色体優性のニューロパチーであり幼少期に発症し重篤な脱髄またはミエリン形成不全と関連している。CMT4は常染色体劣性遺伝のニューロパチーで典型的には小児期や成人早期に発症する。X染色体性遺伝するものをCMTXという。遺伝子検査では次世代シークエンサーが用いられることもある。シャルコーマリートゥース病に対しては理学療法や装具に使用以外は明らかなものはない。
CMT1は遺伝性ニューロパチーで最も多い。脱髄性感覚運動ニューロパチーであり、CMT1とCMT2の比は約2対1である。通常は20歳代までに下肢遠位の筋力低下を示すが、もっと遅い時期まで無症候無症候の症例も認められる。シャルコー・マリー・トゥース病の患者は感覚障害の訴えをすることが少なく、感覚障害が目立つことが多い後天性のニューロパチーと鑑別になる。感覚障害は無症状であるが診察すると感覚低下が明らかになる。膝から下腿の筋萎縮がしばしば認められシャンペンボトルと表現される。CMT1AがCMT1の中で最も多い亜型で70%を占めている。CMT1Aの原因はPMP22が重複し3コピー存在することと考えられている。20%ほどがCMT1BでありMPZなどの遺伝子変異でおこる。
CMT2はCMT1より遅い時期に発症することが多い。しかし臨床的にはCMT1と区別するのは困難であり末梢神経伝導速度検査で区別する。
乳児期または幼児期に発症する。原因がCMT1の原因でもあるPMP22、MPZ、ERG2の点変異である。
劣性遺伝で重篤で幼児発症の感覚運動性ニューロパチーである。
X染色体連載電の疾患である。男性が女性にくらべてはるかに重篤となる。
遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)は常染色体優性遺伝でありCMT1Aと関連する。遺伝子レベルではCMT1AではPMP22が重複するがHNPPではPMP22が欠失する。蛋白質レベルではCMT1AではPMP22が増加するがHNPPではPMP22が減少する。患者は通常では10歳代から20歳代のい1本の神経支配域に起こる痛みのないしびれ感と筋力低下で発症し多発性単ニューロパチーが起こる。症候性の単ニューロパチーまたは多発性単ニューロパチーはバックパックを背負う、肘でもたれる、短時間足を組むなどといった姿勢のときにみられ、些細な神経の圧迫でしばしば突然起こる。これらの圧迫に関連した単ニューロパチーは改善するのに数週から数ヶ月かかる。付け加えると増悪寛解性や全身性または左右対称性のシャルコー・マリー・トゥース病に似た感覚運動性の末梢性ニューロパチーを呈する患者もいる。
遺伝性神経痛性筋萎縮症(HNA)は常染色体優性遺伝形式の疾患であり、腕神経叢の分布内に再発性の疼痛発作、筋力低下、感覚障害が起こり、しばしば小児期に発症する。これらの発作は特発性の腕神経叢炎と類似している。発作は分娩後、周術期、ストレスがかかったときに起こる。大半の患者は数週か数ヶ月にかけて回復する。両眼接近、内眼角贅皮、口蓋裂、合指症、小顎症、顔面の左右非対称といったわずかな形態異常の特徴がみられる。電気生理学では軸索の問題が示される。遺伝性神経痛性筋萎縮症はセプチン9の変異で起こるとされているがそのメカニズムは不明である。
稀な遺伝性ニューロパチーに関してまとめる。原因は脂質代謝による遺伝病、ニューロパチーを伴う遺伝性運動失調、DNA修復障害、巨大軸索ニューロパチーの4種類が知られている。脂質代謝による遺伝病としては異染性白質ジストロフィー、Krabbe病、Fabry病、副腎白質ジストロフィー、Refsum病、タンジール病、脳腱黄色腫などがある。ニューロパチーを伴う遺伝性運動失調としてはフリードライヒ失調症、ビタミンE欠乏、脊髄小脳変性症、無βリポ蛋白血症などが知られている。DNA修復障害としては毛細血管拡張性運動失調、Cockayne症候群などが知られている。巨大軸索ニューロパチーではボルフィリン症や家族性アミロイドポリニューロパチーなどが知られている。ポルフィリン症には急性間欠性ポルフィリン症、遺伝性コプロポルフィリン症、異型ポルフィリン症が知られている。家族性アミロイドポリニューロパチーではトランスサイレチン関連、ゲルゾリン関連、アポリポ蛋白A1関連が知られている。
異染性白質ジストロフィーはセレブロシドスルファターゼ(アリルスルファターゼA)の欠損によりスルファチドが主に脳、末梢神経、腎に蓄積する常染色体劣性遺伝疾患である。セレブロシドスルファターゼの欠失は乳幼児期に発症するが酵素活性低下例は成人発症となる場合がある。成人型は20歳代以降の発症で30代の発症が多い。集中力の低下と知能低下で発症し、多くの例で統合失調症または若年性認知症と診断されている。錐体路症状、錐体外路症状も加わり末期には除脳硬直、植物人間化する。頭部MRIでは左右対称性に白質がT2高信号を呈して、合わせてびまん性脳萎縮が観察される。これらは中枢神経の脱髄を反映する。末梢神経も脱髄を反映して伝導速度の低下がみられる。末梢白血球のセレブロシドスルファターゼ活性で診断される。なおスルファチドが異染性をもちトルイジンブルーなど青色色素で染めた際に青色に染まらず赤紫色に染まるため異染性白質ジストロフィーという。
ガラクトセレブロシターゼ欠損により中枢、末梢のミエリン形成細胞が障害をうけ、脱髄を引き起こす常染色体劣性遺伝疾患である。ガラクトセレブロシターゼの主要な基質であるガラクトセレブロシドではなくサイコシンの蓄積が脱髄の原因と考えられている。幼児期発症型は異染性白質ジストロフィーに類似する。頭部MRIではびまん性の大脳皮質脱髄像が得られる。末梢神経伝導速度は著明に低下する。確定診断は末梢白血球のガラクトセレブロシターゼ欠損の証明である。通常2歳までに死亡する。成人Krabbe病は10~40代に歩行障害、四肢筋力低下で発症する。凹足と脱髄性多発ニューロパチーがみられ、構音障害、失調、認知症、視神経萎縮を高率に伴う。頭部MRIでは錐体路と脳室周囲にT2高信号が認められる。骨髄移植や造血幹細胞移植で中枢神経障害が停止するだけではなく改善する。これは骨髄由来のミクログリアがドナー由来になるためと考えられている。
Fabry病はX染色体連鎖優性遺伝の形式の疾患である。ライソゾーム病のひとつである。αガラクトシダーゼというライソゾーム酵素の遺伝子変異で引き起こされ神経や血管にセラミドトリヘキソースの蓄積が起こる。末梢神経系では神経節細胞(後根神経節細胞、交感神経節細胞、副交感神経節細胞)に蓄積が起こりこれがニューロパチーの原因となる。男性ヘミ結合体の患者に重篤な症状が出る。女性(ヘテロ結合体)では無症状から男性並みの重症例まで様々である。皮膚の被角血管腫(アンギオケラトーマ)や角膜混濁が高頻度に認められる。被角血管腫は赤紫色の斑点状丘疹であり下腹部、臀部、会陰部、肘などに好発する。症状は学童期に始まる四肢の疼痛や発熱、低汗症が極めて特徴的である。四肢の疼痛は発熱時や高温環境下で誘発され、数分から長いもので数週間続く。年齢が進むにつれ腎臓や心血管系にセラミドトリヘキソースが蓄積し腎不全、心筋障害、血栓症などをおこし。これらが死因となる。ニューロパチーはNSAIDSが無効でありカルバマゼピンが効果を示すことが多い。Fabry病の治療は酵素補充療法である。
副腎白質ジストロフィー、副腎脊髄ニューロパチーはX染色体連鎖劣性遺伝の疾患である。ATP結合カセット(ABC)トランスポーターの変異で起こるペルオキシゾーム病である。脳白質や副腎皮質に炭素数が22以上の極長鎖脂肪酸を有するコレステロールエステルの蓄積がみられる。極長鎖脂肪酸の蓄積はペルオキシソーム病で共通に認められる所見であり副腎白質ジストロフィー特異的所見ではない。
副腎白質ジストロフィーは小児期発症の中枢神経異常を伴う疾患である。5~15歳が好発年齢であり、多くは行動異常、性格変化、知能低下などの精神症状ではじまり、続いて四肢痙性対麻痺、視力低下、聴力低下、てんかん発作が出現する。四肢麻痺と知能低下は進行性で除皮質硬直、除脳硬直を示すようになる。経過中に皮膚色素沈着や低血圧、嘔吐などの副腎不全症状を示すこともある。経過は進行性であり1~3年で植物状態となる。同じ遺伝子変異でも30%の患者では副腎脊髄ニューロパチーの表現型を示す。副腎脊髄ニューロパチーでは20~40歳代に軽度から中等度の末梢性ニューロパチーと進行性の痙性対麻痺を示す。成人発症の脊髄小脳変性症や副腎不全を示す患者もまれにいる。保因者となる女性も一部では副腎脊髄ニューロパチーの臨床症状を示すことがある。病名にニューロパチーとあるがニューロパチー自体の症状は軽度である。頭部MRIでは大脳白質(高右方優位)、錐体路に高信号域が認められる。髄液検査では蛋白の軽度から中等度の上昇がある。中枢での脱髄を反映してSEPやABRの潜時延長が認められる。ACTH刺激試験で副腎皮質機能低下が認められることもある。血清の極長鎖脂肪酸の分析を行い増加がみとめられれば診断できる。ロレンツォのオイルは大規模オープン研究では有効性が示されなかった。
レフサム病はフィタン酸の代謝異常による常染色体劣性遺伝疾患である。多くの例は20歳前後に症状があらわれるペルオキシゾーム病である。網膜色素変性症、シャルコー・マリー・トゥース病類似の多発ニューロパチー、小脳性運動失調症、脳脊髄液蛋白増加の4つが主症状である。初発症状は夜盲症であることが多く、皮膚症状として魚鱗癬がみられる。大半の患者では20歳代までに下肢遠位部の感覚障害と筋力低下が進行し下垂足を呈する。続いて下肢近位と腕の筋力が低下する。さらに感音性難聴、心伝導障害、魚鱗癬、嗅覚消失をきたす。未治療では平均30歳前後で死に至る。臨床症状に加え、血清のフィタン酸の増加を証明すれば確定診断ができるが日本での報告例はない。フィタン酸制限で末梢神経障害や小脳性運動失調、魚鱗癬の改善がみられる。
タンジール病は常染色体劣性遺伝のまれな疾患である。非対称性の多発性単ユーロパチー、緩徐進行性下肢優位の対称性多発ニューロパチー、感覚障害に解離のある脊髄空洞症類似の症状を呈する(上肢において位置覚や振動覚が保たれ痛覚や温度覚は低下する)。扁桃腫大、脾腫、リンパ節腫脹があり、HDLコレステロールは著明に低下している。
ポルフィリン症はヘム合成酵素の欠損によって起こる遺伝性疾患の総称である。常染色体優性遺伝である。ヘムはいくつかのポルフィリン体を経て合成される。ヘム合成系の酵素のいずれかに異常を生じるとヘム生産量の減少と同時に体内のポルフィリンまたはその前駆体が大量に生産、蓄積されることにより多彩な症状を呈する。これがポルフィリン症である。ポルフィリン症には急性ポルフィリン症4病型と皮膚型ポルフィリン症4病型が知られているが神経障害を起こすのは急性ポルフィリン症のみである。急性ポルフィリン症は急性間欠性ポルフィリン症、ALAD欠損性ポルフィリン症、異型ポルフィリン症、遺伝性コプロポルフィリン症がある。光線過敏は 急性間欠性ポルフィリン症、ALAD欠損性ポルフィリン症では認められない以外、急性の神経症状は類似している。ポルフィリン症の発作はある種の薬物(通常P450で代謝される薬物、バルビツール酸系、フェニトイン)、 ホルモンの変化(妊娠、月経周期、経口避妊薬、エストロゲン製剤)、食事制限によって誘発される。ポルフィリン症の急性発作は疝痛で始まることがある。腹痛、嘔吐などで急性腹症と診断されることが多い。続いて興奮、幻覚、痙攣などが起こる。数日経過した後に背中と四肢の痛みと筋力低下が起こりギラン・バレー症候群に似た症状になる。筋力低下は顔面筋や球麻痺症状を呈するだけでなく腕と脚に広がり、その分布は非対称性のことや近位と遠位に広がることもある。自律神経異常症と交感神経系の活動亢進(瞳孔散大、頻脈、高血圧)はよくみられる。便秘、尿閉、失禁も起こることがある。グルコースとヘマチンの静注が治療では有効である。急性期の死亡率は1 - 10%である。
ALアミロイドーシスは多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症、リンパ腫、他の形質細胞腫またはリンパ球増殖性疾患や原発不明の疾患が背景にあって起こる。ALアミロイドーシスの約30%の患者では多発ニューロパチーがあり通常は足での有痛性感覚障害と灼熱感がある。ただし体幹でにも症状は起こり患者によっては多発単ニューロパチーのパターンを呈する。手根管症候群は25%の患者で起こり初発症状となることがある。ニューロパチーは緩徐進行性であり、大径線維の感覚脱失とともに筋力低下がやがて進行する。大半の患者は起立性低血圧、失神、膀胱直腸障害、便秘、インポテンス、発汗異常といった自律神経症状を呈する。患者は一般には漸進的な疾患(腎不全、心不全)で死亡する。
糖尿病は先進国の末梢性ニューロパチーの原因としては最も多い。遠位対称性の感覚性多発ニューロパチーまたは感覚運動性多発ニューロパチー、自律神経ニューロパチー、多発神経根ニューロパチー、脳神経障害、その他の単ニューロパチーなどがある。
糖尿病性ニューロパチーの中で圧倒的に多い。感覚神経の障害はつま先からはじまる感覚消失に呈し、しだいに脚を上行し指先、腕にひろがる。運動神経の障害は短趾伸筋の萎縮などに現れる。
典型的には遠位対称性の感覚性多発ニューロパチーと複合的に認められる。
糖尿病性根神経叢障害は糖尿病の症状の1つであり、約3分の1の患者に起こる。通常強い痛みが背中下部、腰、片方の大腿部に起こる。まれに糖尿病性多発神経根ニューロパチーでは両下肢同時に起こってくる。患側脚近位筋と遠位筋の筋萎縮と筋力低下が数日から数週で明らかになってくる。ニューロパチーはしばしば顕著な体重減少を伴うか、前触れとしておこる。筋力低下は通常は数週から数ヶ月にわたって進行するが18ヶ月を超えて進行することもある。続いて緩徐な回復が見られるが多くの症例では筋力低下、感覚障害、痛みが残存する。
単ニューロパチーがおこる。脳神経領域で瞳孔回避を伴う動眼神経麻痺などが有名である。
甲状腺機能低下症では近位部のミオパチーとよく関連するがニューロパチーをきたす場合もある。典型的には手根管症候群の症状を呈する。
多くの症例では膠原病による血管炎を背景とした末梢神経系の虚血性梗塞である。少数例だが後根神経節細胞、自律神経節細胞、三叉神経節細胞などの神経細胞体に対するニューロノパチーがある。血管炎の基礎疾患としてはANCA関連小血管炎、関節リウマチ、SLE、サルコイドーシス、全身性強皮症、巨細胞性動脈炎などが知られている。ニューロノパチーとしてはシェーグレン症候群、MCTD、全身性強皮症、overlap症候群などが知られている。
腎不全患者の約60%で長さ依存性の多発ニューロパチーがおこり、しびれ感、ピリピリ感、アロディニア、軽度の遠位筋の筋力低下がみられる。透析回数を増やしたり腎移植などで改善する。まれにギラン・バレー症候群を起こし急速進行性の筋力低下を示すことがある。
肝疾患をもつ患者の大半はそれだけでニューロパチーの原因となる疾患(アルコールやウイルス性肝炎)の二次的な結果として肝疾患を呈している。そのため肝不全だけで末梢性ニューロパチーが起こるのかは不明である。
ICUで重篤疾患の筋力低下が起こる場合、通常は重篤疾患多発ニューロパチー(critical illness polyneuropathy CIP)または重篤疾患筋症(critical illness myopthy CIM)である。両者とも人工呼吸器からの離脱困難で気づかれる。併存する脳症が特に感覚系の評価などの神経学的評価を困難にする。重篤疾患多発ニューロパチーはおそらくは敗血症と多臓器不全に関連した有害物質と異常な代謝産物が軸索輸送障害やミトコンドリア機能不全を起こした結果、軸索変性が起こると考えられている。
HIV感染は末梢性ニューロパチーを含めた様々神経症状を起こす。HIV関連の末梢性ニューロパチーには遠位対称性多発ニューロパチー、炎症性脱髄性多発ニューロパチー、多発性単ニューロパチー、多発神経根症、自律神経ニューロパチー、感覚神経節炎が知られている。
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染による末梢性ニューロパチーは潜伏しているウイルスの再活性化または一時的な感染によっておこる。大人では感染者の3分の2で皮膚の帯状疱疹が出現し、強い疼痛と感覚障害が皮節に起こり、1~2週間後に同部位に小水疱を伴う発疹が出現する。皮膚病変に一致した根支配の筋力低下が5~30%の患者に起こる。
悪性腫瘍のある患者にはニューロパチーが起こる。神経への浸潤や圧迫などの直接浸潤、遠隔効果または腫瘍随伴症、治療の副作用、免疫抑制剤の結果などによっておこる。
特に頻度として多いものは抗結核薬のイソニアジド、抗がん剤ではビンカアルカロイド系であるビンクリスチン、ビンブラスチンなど、白金製剤であるシスプラチンなど、ボルテゾミブが有名である。抗菌薬ではクロラムフェニコール、メトロニダゾール、ニトロフラントインがよく知られている。抗不整脈薬ではアミオダロンで頻度が多い。その他の薬剤としてはサリドマイド、ピリドキシン、フェニトイン、ジスルフィラム、クロロキンなどがある。
ピリドキシン(ビタミンB6)はアミノ基転移反応と脱炭酸反応の補酵素として働く必須アミノ酸である。しかし116mg/day以上の高用量の摂取は感覚異常と感覚性運動失調を伴う重篤なニューロパチーを起こす。またピリドキシンの欠乏は非特異的な多発ニューロパチーを起こす。
とくにn-ヘキサン中毒が有名である。シンナー遊びや工場での作業で起こりえる。
コバラミン欠乏の最も多い原因は悪性貧血である。他のゲニンとしてはベジタリアンなど食事の問題、胃切除、胃バイパス術、炎症性腸疾患、膵機能不全、細菌過剰繁殖、PPIやH2ブロッカーなどが含まれる。高齢者の場合は原因不明のこともありコバラミンの吸収不良と考えられている。コバラミン欠乏は亜急性連合変性症の原因となる。ニューロパチーとミエロパチーの合併のため四肢の腱反射が消失するがバビンスキー徴候が陽性となるのが特徴的である。
脚気やウェルニッケ脳症の原因として有名である。
ビタミンE欠乏から長年経過するまで臨床的特徴は現れない。発症は潜在的な傾向があり進行もゆっくりである。おもな臨床症状は脊髄小脳変性症と多発ニューロパチーでありフリードライヒ運動失調症や他の脊髄小脳変性症に似ている。
ピリドキシンは欠乏症と中毒症両方で神経症状を示す。欠乏症は多発ニューロパチーである。
ペラグラの原因であり神経症状は様々である。
ビタミンB12正常の亜急性連合変性症と言われてきたもの多くは銅欠乏症であったと考えられている。ミエロパチーとニューロパチーを合併する。亜鉛の過剰は銅欠乏の原因となる。
胃切除後に多発ニューロパチーが出現する。多くの例では特定の栄養欠乏は指摘できないがチアミンを含んだビタミン補充で治療を行い、改善することもある。
原因不明の感覚ニューロパチーまたは感覚運動性多発ニューロパチー(cryptogernic sensory and sensorimotor polyneuropathy CSPN)は除外診断である。病歴、家族歴、社会生活歴、神経学的診察と検査データを慎重にとった後に診断されるものである。広範囲におよぶ精査にもかかわらず、約50%にのぼる患者で多発ニューロパチーは原因は不明である。本症は末梢性ニューロパチーの他と全く別な診断のサブセットとかんがえるべきである。発症はおもに50歳代と60歳代である。患者は遠位部のしびれ感、ピリピリ感としばしば灼熱感があり、常に足から始まりやがては手指にも広がる。患者はつま先や足など遠位部に針でさす感覚、触覚、振動覚の感覚低下を示し、時には指にも症状がある。歩行の不安定さを訴える患者においても固有感覚の顕著な脱失を認めることは稀である。主観的にも客観的にも筋力低下の根拠は顕著には見られない。神経伝導速度検査ではSNAPの異常(通常は消失)から軸索性の感覚運動性ニューロパチー、そして完全に正常(おもに小径線維の障害)の例まで幅がある。原因不明な遠位優位の末梢性ニューロパチーを改善させる治療はないが予後は良好である。
主要な圧迫性ニューロパチーをまとめる。絞扼性ニューロパチーでは障害された末梢神経に限局した症状が出現する。しびれ感や痛みに先行し、病変の進行とともに支配筋の萎縮や筋力低下が明らかになってくる。絞扼部は被刺激性が亢進し叩打で支配領域に放散するしびれ感や痛みが出現する。これをチネル徴候という。NCSやEMGで検査可能である。原因は外傷、圧迫(微小外傷)、反復性ストレスの結果生じている。
疾患名 | 障害神経と部位 | 症状 | 原因その他 |
---|---|---|---|
手根管症候群 Carpal tunnel syndrome | 正中神経、手根管入口部 | 疼痛、しびれ感、知覚異常、母指対立筋力低下、夜間痛 | 橈骨骨折、腫瘍、ガングリオン、妊娠、糖尿病など。中年女性に多い。 |
肘部管症候群 Cubital tunnel syndrome | 尺骨神経、尺骨神経溝、肘部管 | Ⅳ、Ⅴ指放散痛と感覚異常、手の脱力と筋萎縮、巧緻運動障害 | 原因不明のものが多いが頻度は高い。外反肘による遅発性尺骨神経麻痺 |
Guyon管症候群 Ulnar tunnel syndrome | 尺骨神経、Guyon管 | Ⅳ、Ⅴ指放散痛と感覚異常、手の脱力と筋萎縮、巧緻運動障害 | ガングリオンが多い。骨折、脱臼、手首を酷使する職業。 |
撓骨神経麻痺 Radial nerve palsy | 橈骨神経、上腕骨外側部 | 手関節背屈障害、感覚障害は軽い(腋窩部での圧迫では上腕三頭筋麻痺) | 泥酔後(Saturday night palsy)など比較的回復しやすい。 |
異常感覚性大腿神経痛 Meralgia paresthetica | 大腿外側皮神経、鼠径部 | 疼痛、灼熱感、知覚異常、立位歩行で増悪 | 肥満、妊娠、コルセット着用の圧迫 |
総腓骨神経麻痺 Common peroneal nerve palsy | 総腓骨神経、総腓骨頭 | 感覚障害、足関節背屈障害、垂れ足、鶏歩 | 手術や病気での長期臥床、泥酔、ギプスや下肢装具による圧迫 |
足根管症候群 Taral tunnel syndrome | 後脛骨神経、足根管 | 足底の疼痛、しびれ感、灼熱感、筋力低下の訴えは少ない | 足関節の外傷、ガングリオン、妊娠 |
骨および筋膜によって構成された閉鎖空間をコンパートメントという。コンパートメントの圧上昇によって阻血性神経麻痺、さらに横紋筋融解や壊死が進行する。その後クラッシュ症候群となる。この一連の症候群をコンパートメント症候群という。
母指対立運動や短母指外転筋(APB 母指を垂直にたてる)の筋力低下や母指球筋の萎縮の結果の猿手が有名である。円回内筋症候群や前骨幹神経障害を含んだ、他の近位部における神経障害は非常に珍しい。これらは腕神経叢炎の部分型としておこることが多い。
手根管は底部を手根骨、上部を屈筋支帯で形成される狭い空間である。この中を正中神経と9本の健が通過する。何らかの原因で手根管内の圧力が高まると正中神経の絞扼性障害が出現する。橈骨骨折、腫瘍、ガングリオン、手根骨の骨折、妊娠、糖尿病、甲状腺機能低下症、長期の血液透析などが原因として知られているが原因不明なことも多い。通常は利き手側に発症し症状も強いが、中年女性の半数以上は両側性である。橈側の3指の異常感覚で発症し夜間に増悪する。重症例では短母指外転筋の筋力低下で母指球萎縮にいたる。手関節掌側、正中神経直上でチネル徴候がよく認められる。ファーレン徴候も認められる。軽症例は夜間の副木で手首の可動性を制限させたり、副腎皮質ステロイド局注が有効である。進行れに対しては手根管開放術を行う。筋萎縮が明らかになる前に行うのがよいとされる。母指球筋が萎縮した場合を猿手という。
正中神経は肘部で円回内筋の双頭間を通過する。この双頭間で絞扼がおこるのが円回内筋症候群である。正中神経の障害なのでCTSとも類似するが前腕の回内、肘屈曲、示指の浅指屈筋収縮によって症状が悪化する。絞扼部位のチネル徴候は陽性だが、ファーレン徴候や症状の夜間増悪は稀である。
母指内転筋(AP 母指を内転)の筋力低下のほか、母指球以外の手内筋の萎縮の結果、鷲手となる。Guyon管症候群は稀である。
尺骨神経は肘部管の高さで上腕骨内側上顆の背後から尺骨神経溝を通過し、続いて内側側副靭帯と尺側手根屈筋上腕頭、尺骨頭の間に張る弓状靭帯で囲まれた場所、すなわち肘部管を通る。絞扼は尺骨神経溝でも肘部管でも起こりえる。肘部管症候群は絞扼性ニューロパチーで最も多いが多くの症例では原因を明らかにできない。尺骨神経麻痺の症状は特徴的である。まずは尺骨神経領域の感覚障害、第Ⅴ、第Ⅳ指の鷲手変形(PIP関節の屈曲を伴う)、小指球の萎縮も生じる。背側骨間筋も萎縮する、最初に侵されるのが第一背側骨間筋で侵され方も最も強い。母指内転障害も出現する。母指内転筋麻痺を長母指屈筋で機能を代償するため、母指内転時に指節間関節が屈曲し、これをフローマン徴候という。
尺骨神経は肘だけでなく手関節でも絞扼される。尺骨神経は手関節では豆状骨と有鉤骨鉤との間のGuyon管を通過する。
長母指外転筋(APL、母指を外転)の筋力の他、手関節や手指の伸展障害の結果起こる下垂手、腕橈骨筋の筋力低下が認められる。
橈骨神経病変は上腕骨神経溝(ラセン溝)で最も頻度が高い。意識障害や睡眠中に圧迫損傷されるためSaturday night palsyとも言われる。下垂手と腕橈骨筋の筋力低下が認められる。腋窩など高位で絞扼されない限り上腕三頭筋は通常おかされない。感覚障害は手背の母指と示指の指間部に限局するか、さらに中指の近位部までおよぶこともある。
外傷や橈骨頭骨折によっておこる。
肩外側の感覚障害と三角筋の筋力低下が特徴である。C5神経根障害が重要な鑑別となる。 肩の脱臼や上腕骨骨折など外傷で起こることが多い[2]。その他全身麻酔で腕をあげた状態でうつ伏せの姿勢で眠ったあとや、松葉杖の使用で外側腋窩隙部位の圧迫でも起こり得る[3]。
大腿外側の異常感覚や痛みを症状とする。症状は立位又は歩行で増強し坐位で軽減する。筋力は正常で膝蓋腱反射も保たれる。末梢神経の血管障害であり、太っている人がきつい下着やジーンズをはいた際などにおこりえる。
大腿神経麻痺は後腹膜の血腫、砕石位、股関節形成術や股関節脱臼、腸骨動脈閉塞、大腿動脈の処置、悪性腫瘍の血行性浸潤、鼠径部の穿通性の外傷、子宮摘出術や腎移植術といった骨盤の手術、糖尿病に続発して起こる。特発性の大腿神経麻痺もある。大腿神経麻痺では膝の進展や屈曲が困難となる。
坐骨神経麻痺は股関節形成術、長時間砕石位におかれた患者における骨盤の処置、外傷、血腫、腫瘍浸潤、血管炎に併発して起こる。さらに多くの坐骨神経障害は特発性である。代表例は股関節骨折による骨頭の後方脱臼や大腿後方コンパートメントへの出血でおこる。梨状筋では坐骨神経、総腓骨神経、上殿神経あるいは後大腿皮神経が絞扼されることも報告されており梨状筋切開で治療される。
腓骨神経麻痺は腓骨頭で外からの外傷で損傷されることが最も多い。通常下肢を組むことで圧迫が加わる。体重が減少した患者では神経が侵されやすい。腓骨神経麻痺では垂れ足(下垂足)と深腓骨神経領域や浅腓骨神経領域におよぶ様々な感覚障害を起こす。通常痛みはない。L5神経根症との鑑別が必要である。
深腓骨神経が足関節背側の伸筋支帯下を通過するときに生じる。
脛骨神経は坐骨神経の1分枝であり、坐骨神経病変と同様の機序で損傷される。足根管症候群は通常稀である。
足関節の内果後方で脛骨神経が絞扼される。後足根管症候群は足底感覚障害と足内在筋の筋力低下からなる。踵の感覚はしばしば正常である。腓腹部あるいは大腿にまでおよぶ近位部への放散痛があり、この痛みは歩行や長時間の立位によって増悪し、夜間増悪もある。感覚障害は圧迫やあるいは足部内がえし強制でも悪化する。
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