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保険外併用療養費(ほけんがいへいようりょうようひ)とは、健康保険法等を根拠に、日本の公的医療保険において、被保険者が保険給付の対象外のものを含んだ療養について、保険対象部分の保険給付を行うものである。健康保険法等の改正により、2006年(平成18年)10月より従前の特定療養費制度を置き換える形で導入された。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
日本の保険医療では混合診療が禁止されていて、保険外診療を受けた場合は保険が適用される診療も含めて、医療費の全額が自己負担となる(医療保険各法による「療養の給付」を受けることができなくなる)。しかし、保険外診療を受ける場合でも、厚生労働大臣の定める療養については、保険診療との併用が認められており、通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用については、一般の保険診療と同様に扱われ、その部分については一部負担金を支払うこととなり残りの額は「保険外併用療養費」として保険者から給付が行われる。以下では健康保険に基づいて述べるが、他の公的医療保険(船員保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度、共済組合等)でも内容はほぼ同一である。
21世紀初頭、医療技術の進歩や情報の普及が進んだことから、小泉内閣下の規制改革・民間開放推進会議では、混合診療の解禁を厚生労働省に求めていた。この議論の末、2006年10月の改正法施行により、国民の安全性を確保し、患者負担の増大を防止するといった観点も踏まえつつ、国民の選択肢を拡げ、利便性を向上するという観点から、従前の特定療養費制度が見直され、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて以下の2点に再編された。
さらに2016年(平成28年)4月の改正法施行により、新たに「患者申出療養」が加わった。
保険外併用療養費では保険対象外と保険対象が混じった費用の扱いになるが、あくまで国民皆保険の堅持を前提とするものであり、混合診療を無制限に解禁するものではない。しかし、少数ながら選定療養を、医療保険制度の中で例外的に許された「混合診療」と捉える人もいる。選定療養が「混合診療」か否かは、「混合診療」という言葉の定義の問題である。
また、特別料金部分は、高額療養費支給の対象にはならない。
被保険者が、保険医療機関等のうち自己の選定するものから、評価療養、選定療養又は患者申出療養を受けたときは、その療養に要した費用について、保険外併用療養費が支給される(第86条)。また、被扶養者の保険外併用療養費にかかる給付は、家族療養費として給付が行われる(第110条)。日雇特例被保険者も、保険料納付要件を満たすことにより、日雇特例被保険者本人及びその被扶養者について保険外併用療養費・家族療養費の支給が行われる(第131条)。
これらの療養を受けた場合、特別料金部分については被保険者が全額負担しなければならない。しかし、診察、検査、投薬、入院料などの基礎部分(保険給付と共通する部分)については保険外併用療養費として保険給付の対象となり、被保険者は一部負担金(原則3割。食事療養標準負担額・生活療養標準負担額は別料金)を窓口で支払えばよい(現物給付)[注 1]。療養を受けようとする者は、やむを得ない場合を除き、被保険者証を(70歳以上の者は、高齢受給者証を添えて)当該保険医療機関等に提出しなければならない(施行規則第53条)。
保険外併用療養費の支給対象となる診察等は、患者に対する情報提供を前提として、患者の自由な選択と同意がなされたものに限られる(平成24年3月26日保医発0326第5号)。そのため、その内容を患者等に説明することが医療上好ましくないと認められる診察等は、保険外併用療養費の対象とならない。具体的には、
評価療養とは、厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、療養の給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養(患者申出療養を除く)として厚生労働大臣が定めるものをいう(第63条2項3号)。具体的には以下のとおりである。
先進医療とは、大学病院など厚生労働大臣が定める施設基準に適合する医療機関で実施される先端技術を用いた医療のうち、厚生労働大臣の承認を受けたものを指す。2006年10月の改正法施行により、従来の高度先進医療から改編され開始された。医療機関からの申請に基づき、厚生労働省内の先進医療会議が新技術の安全性、倫理性、有効性などを審査し、確認した上で、一定の要件を満たす病院などで行われる。2013年(平成25年)3月現在、106技術が承認されている。またこれまでに63技術が保険適用となり、38技術が効果が確認されなかったために承認を失った。
先進医療は、先進医療会議において先進医療A(未承認・適用外の医薬品・医療機器の使用を伴わない医療技術、人体への影響が極めて小さい医療技術)と先進医療B(未承認・適用外の医薬品・医療機器の使用を伴う医療技術、あるいは伴わない場合であっても特に重点的な観察・評価を必要とするもの)とに振り分けられ、特に先進医療Bは先進医療技術審査部会において技術的妥当性、計画書等の入念な審査が行われる。審査の結果、妥当と判断されれば、先進医療Aは実施可能な医療機関の施設基準を設定し、先進医療Bでは医療機関ごとに個々に実施の可否を決定する。
選定療養とは、被保険者の選定に係る特別の病室の提供その他の厚生労働大臣が定める療養をいう(第63条2項5号)。患者が選定し、特別の費用負担をする追加的な医療サービスのことである。具体的には以下のとおりである。
従来、入院診療のみを対象としてきたが、2020年(令和2年)の改正により外来診療にも選定療養費の徴収が認められることとなった。
1994年(平成6年)の医療法改正により、医療施設はその規模や特質に応じて機能分担をすることが推進されている。「初期の診療は地域の医院・診療所で、高度・専門医療は200床以上の病院で」行うことを目的に、「200床以上の病院」を訪れる患者は、特別な医療を求めていると考えられ、「選定療養」の対象となる。
さらに2016年(平成28年)4月1日からは、フリーアクセスの基本は守りつつ、機能分化をさらに進めるとともに、病院勤務医の負担軽減を図るため[2]、特定機能病院・500床(令和2年4月1日より200床)以上の地域医療支援病院においては、自己負担金の「徴収義務化」が決定した[注 3]。
患者の疾病について医学的に「初診」といわれる診療行為が行われた場合に徴収できるものであり、自ら健康診断を行った患者に診療を開始した場合等には、徴収できない。同時に2以上の傷病について初診を行った場合においても、1回しか徴収できない。1傷病の診療継続中に他の傷病が発生して初診を行った場合においても、第1回の初診時にしか徴収できない。なお医科・歯科併設の病院においては、お互いに関連のある傷病の場合を除き、医科又は歯科においてそれぞれ別に徴収できる(平成28年3月4日保医発0304第12号)。
この料金については、その徴収の対象となる療養に要するものとして、社会的にみて妥当適切な範囲の額とすること。またこの料金等の内容を定め又は変更しようとする場合は、地方厚生(支)局長にその都度報告するものとすること(平成28年3月4日保医発0304第12号)。
なお以下の場合は徴収は行わない。
2020年(令和2年)7月1日現在、初診の選定療養費を徴収していると地方厚生(支)局長に報告した病院が1165、そのうち過半の659が「4951円~5500円」の範囲内の金額を徴収しているとした。徴収額の平均は3987円、最高額は11000円、最低額は200円であった[4]。
その実施の取り扱いは、以下による(平成28年3月4日保医発0304第12号)。
2020年(令和2年)7月1日現在、予約診療の選定療養費を徴収していると地方厚生(支)局長に報告した医療機関が790、徴収額の平均は2603円、最高額は33000円、最低額は20円であった[4]
入院医療の必要性が低いが患者側の事情により長期にわたり入院している者への対応を図る観点から、通算対象入院料、特定機能病院入院基本料及び専門病院入院基本料を算定する保険医療機関への180日を超える入院については、患者の自己の選択に係るものとして、その費用を患者から徴収することができることとしたものである。保険医療機関を退院した後、同一の疾病又は負傷により、当該保険医療機関又は他の保険医療機関に入院した場合(当該疾病又は負傷が一旦治癒し、又は治癒に近い状態(寛解状態を含む)になった後に入院した場合を除く)にあっては、これらの保険医療機関において通算対象入院料を算定していた期間を通算する(令和2年3月5日保医発0305第5号)。
当該制度は、入院医療の必要性が低いが患者側の事情により入院しているものへの対応を図るためのものであることから、以下に掲げる状態等にある患者の入院については、選定療養には該当せず、特別の料金を徴収することは認められないものである(令和2年3月5日保医発0305第5号)。
2020年(令和2年)7月1日現在、180日を超える入院の選定療養費を徴収していると地方厚生(支)局長に報告した医療機関が620、1人1日当たりの徴収額の平均は1981円、最高額は4710円、最低額は500円であった[4]
患者申出療養とは、高度の医療技術を用いた療養であって、当該療養を受けようとする者の申出に基づき、療養の給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養として厚生労働大臣が定めるものをいう(第63条2項4号)。国内未承認医薬品等の使用や国内承認済みの医薬品等の適応外使用等を迅速に使用したい場合、先進医療の実施基準に外れてしまった場合等を想定している。将来的に保険適用につなげるためのデータ、科学的根拠を集積することを目的とする点で先進医療と共通するが、先進医療は、医療機関が起点となり、先進的な医療を実施するものであったのに対し、患者申出療養は、患者の申出が起点となって、安全性が一定程度確認された上で、身近な医療機関において実施できる仕組みである点に違いがある。
患者は主治医等と相談のうえ、患者申出療養を希望した場合、臨床研究中核病院または特定機能病院に申出を行う。患者は治療の有効性や安全性等の説明を受けたうえで、臨床研究中核病院等が作成した意見書を添えて(意見書の作成が困難な場合、保険外併用療養費の対象とならない)、国に患者申出療養の申請を行う。国による審査期間が大幅に短縮されているのが特徴である(先進医療では6ヵ月程度だったが、患者申出療養では原則6週間(前例がある医療については原則2週間))。なお患者の希望に基づき、保険医療機関において申出に係る相談を実施した場合及び臨床研究中核病院において意見書その他必要な書類を作成した場合には、当該相談及び書類作成に係る費用について、患者から徴収しても差し支えない(平成28年3月4日保医発0304第12号)。
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