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2019年に成立・発効したEU著作権指令 ウィキペディアから
デジタル単一市場著作権指令(CDSM指令)(英: Copyright in the Digital Single Market Directive)[5])は、欧州連合 (EU) 加盟国に対する著作権指令の一つである。デジタル化や国際化の社会変化に対応して著作物利用の例外規定を拡充したほか、著作者や実演家への公正な報酬の保障を通じたデジタル著作権市場の健全化などを目的としている[3]。2016年9月14日に欧州委員会が提案[4][6]、2019年3月26日に欧州議会で承認され[1]、同年4月15日に欧州連合理事会 (EU理事会) が採択したことにより[1]、2019年4月17日に成立した[2]。EU指令としては2019年6月7日に発効しており[3]、これを受けてEU加盟国は2年後の2021年6月7日までに国内法化して履行する義務を負っている[3]。
この記事は特に記述がない限り、欧州連合の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
欧州連合指令 | |
EEA適用対象 | |
名称 | Directive (EU) 2019/790 of the European Parliament and of the Council of 17 April 2019 on copyright and related rights in the Digital Single Market and amending Directives 96/9/EC and 2001/29/EC |
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法源 | EU機能条約 第53条 (1)、第62条、第114条[1] |
EU官報 | Document 32019L0790 (L130, 17.5.2019, p. 92–125収録) |
歴史 | |
欧州議会 賛成票数 |
348 / 622 |
制定日 | 2019年4月17日[2] |
発効日 | 2019年6月7日[3] |
各国導入期限 | 2年以内 (2021年6月7日まで)[3] |
立法審議文書 | |
欧州委員会提案 | 2016年9月14日[4] |
関連法令 | |
改正対象 | 情報社会指令 (Directive 2001/29/EC) など |
改正先 | なし |
現行法 |
インターネットを介して流通するデジタル著作物の保護を規定した指令としては、2001年の情報社会指令などがあるが、2019年のDSM著作権指令は2001年以来の大型改革であり[6]、その可決を巡って激しい対立を生み出したことでも知られている。特に物議を醸したのが、通称「リンク税」と呼ばれる第15条 (原案では第11条) と[7]、「アップロード・フィルター条項」と批判された第17条 (原案では第13条)[8]の2点である。これらは著作権侵害を抑止して公正な報酬を保障する内容であることから、著作権者や新聞・出版社などの伝統的なメディアからは概ね好意的に受け止められているものの、著作物の二次的利用を提供するインターネットサービス事業者や一般ユーザなどからは反発が強い[9][8]。また、各国の憲法で保障されている表現の自由が侵害されうるとして、人権擁護団体からも懸念の声が上がっている[10]。
DSM著作権指令の主な目的は以下の3点が掲げられている[3]。
これらの目的の背景には、2001年の情報社会指令以降、国を越えたデジタル著作物の流通が加速し、新たな技術革新に伴って著作権市場のビジネスモデルも多様化したことがある。例えば、ビデオ・オン・デマンド (VOD) 型の映像、音楽のストリーミング配信、他社の配信した報道記事などを集約して閲覧できるサービスを提供するニュースアグリゲータ、ビッグデータを活用した人工知能 (AI) の研究開発などの存在感が増した。また、一般ユーザ自らがコンテンツを容易にオンライン公開できるようになった。このようなオンラインサービスを提供する事業者と著作権者、および一般ユーザとの間で、ライセンス許諾や利用料の徴収・分配、著作権の権利放棄といったルール整備が必要となったことが、DSM著作権指令制定につながっている (説明条項 (2) および (3))[11][6]。
2016年に欧州委員会が行った調査によると、一般インターネット・ユーザの57%がソーシャルメディア、ニュースアグリゲータまたは検索エンジンを介してニュース記事に触れている。また47%はニュース記事の大元となる新聞・雑誌社などへのサイトリンクをクリックせず、アグリゲートされた媒体上だけで閲覧を完結している。映像・音楽に関しても、これらのコンテンツをインターネット経由で視聴しているユーザは全体の49%に上り、うち40% (すなわち全体の約20%) は15歳から24歳であり週1回以上の頻度でテレビ番組のインターネット配信を視聴していると報告されている[12]。
このようなデジタル時代において、EUの著作権指令は漸進的に対応してきており、DSM著作権指令以前にもデジタル著作権関連の指令は11本が存在する。そして2019年のDSM著作権指令は、これら既存の指令を完全に廃止・上書きするものではなく、あくまで強化・改正するものとして位置づけられている[3]。特にDSM著作権指令と深い関係にある過去の指令としては、以下が挙げられる。
目的1点目の「制限・例外規定」とは、著作権者の独占的な権利を一部緩和し、第三者による著作物の自由な利用を認めるものである。具体的には以下の3用途が著作権侵害に当たらない行為として、DSM著作権指令上で明文化された[6]。
2001年の情報社会指令では第2章 第5条で21の制限・例外ケースを規定しており[23]、EU加盟国が国内著作権法で21の制限・例外ケース以外を追加してはならないとしている[24]。この21ケースをベースに、2019年のDSM著作権指令によって新たに上述の3ケースが追加されたことになる。
DSM著作権指令におけるTDMとは「パターン分析、トレンド把握や相関分析などを行うためにテキスト文書やデータを自動解析する手法」であると定義されている (第2条)[注 9]。科学研究機関や文化遺産機関[注 10]が第三者の著作物を使ってTDMを行う際、著作権者の排他的な権利は及ばず、著作物のデータ保存におけるセキュリティ対策を講じている限りにおいて、著作権侵害に当たらないと定められた (第3条)[28]。また科学研究目的以外でも、検索エンジンなどクローラによるオンライン公開データの取得・分析は、著作権侵害に当たらない (第4条)[29]。
教育目的の著作物利用に関しては、出典と著作者名 (判明している場合) を表示する必要がある。ここでの教育目的であるが、教育機関の監督責任の下、あるいは教育施設内での利用であり、かつ利用者が学生や教職員に限定されている場合である。つまり、教材販売や楽譜といった、一般的に市場で販売される用途は含まない。なお、教育目的であっても著作権者に公正なライセンス料を支払うべきかについては、EU加盟各国で別途定めることができる (第5条)[30]。
文化遺産機関による著作物の複製についても、その保全・記録媒体を問わず合法と定められた (第6条)[31]。
上述の制限・例外ケースに該当しなかったとしても、著作権者から許諾を取れば著作物を第三者が利用できる。しかしどの著作物の権利を誰が持っているのか、そして利用料はどのように支払うのかが不透明では、せっかく創作された著作物が社会で利用されずに埋没してしまう。そこで、著作権者と利用者を円滑に結びつける窓口として、著作権管理団体 (英: collective management organizations、略称: CMO) の役割がDSM著作権指令でも規定されている。CMOは一般的に、書籍や音楽など著作物の業界ジャンルごとに複数存在し、著作権者の代わりにライセンス料の決済・分配を集中的に担っている。例えばフランス著作権法のように、既にCMOの組織運営や許諾に関する手続などが細かく成文化されている国もEUには存在する (知的財産法典 第1部 L321条-1以降)[32][注 11]。これは元々、2014年の著作権集中管理指令 (2014/26/EU) に対応したものであり[36]、DSM著作権指令がこれを継承している[37]。
DSM著作権指令において、CMOは絶版となった著作物の複製・頒布・公衆伝達を非営利目的で行うため、これらの著作物を管理する文化遺産機関との間で非独占ライセンス契約を締結できると定められている。利用にあたっては著作者の氏名を表示する必要があるものの、非営利であればウェブサイトにも公開できる。ただし、映画やテレビ番組などの視聴覚著作物の著作者が第三国に本拠を構えている場合や、視聴覚著作物以外で第三国で最初に公表されたものについては、このようなライセンス契約の定めの対象外となる (第8条)[38]。また、ライセンス許諾を付与する文化遺産機関は、EU加盟国内で設立されていることが条件となる (第9条)[39]。
ビデオ・オン・デマンド (VOD) 型の映像コンテンツ配信に関しても特別規定が設けられている。コンテンツ配信のライセンス許諾上に問題が生じた場合は、中立機関または仲裁機関に紛争解決を付託することができ、その詳細手続はEU加盟各国の国内法で定めることができる (第13条)[40]。
目的3点目の「市場健全化」とは、著作物を第三者が利用した際に、著作権者に公正な報酬が支払われる仕組みを目指した内容である。しかし、第15条 (原案では第11条) と第17条 (原案は第13条) はそれぞれ「リンク税」「アップロード・フィルター条項」と批判的に呼ばれ、指令の提案から成立にかけて世論は賛否両論を繰り返したことで知られている[9][8][7]。
※指令が欧州議会で可決した2019年3月時点でも、メディアでの報道は原案の条番号で表記していることがあり[9][41][8][7]、留意が必要である。
まず「報道著作物」(英: press publications) についてである。DSM著作権指令における報道著作物とは「編集・校閲体制を整えた新聞、雑誌、ニュース報道など、いわゆるジャーナリズム活動によって創作される言語著作物を主体とする。ただし、科学論文雑誌など科学・学術を目的とした定期刊行物については、当定義に含めない」とされる (第2条 定義)[27]。第三者の報道著作物をニュースアグリゲータなどインターネットサービス事業者が利用する場合、利用料を支払わなければならないとDSM著作権指令で規定された (第15条)[42]。例えばGoogleニュースで新聞や雑誌記事が使われた場合、発行元である新聞社や雑誌社はその記事利用料をGoogleニュースに対して要求できる[6]。なお、このような報道著作物の執筆者 (つまり著作者) が例えばフリーランスなどの立場で新聞・雑誌などに寄稿している場合、新聞社・雑誌社に対して原稿利用のライセンス許諾を与えているか、または著作権そのものを譲渡しているケースが考えられる。このような場合でも、インターネットサービス事業者が利用料を支払う相手先は新聞社・雑誌社であり、ライセンス許諾または譲渡契約の内容に基づいて、利用料を執筆者に分配するマネーフローとなる (第16条)[43]。
第15条はあくまでインターネットサービス事業者を想定していることから、以下の条件に該当する場合は利用料の支払義務は発生しない[42][6]。
続いて、一般ユーザが創作してYouTubeやFacebookなどにアップロードした文章や画像・音声などの扱いだが、ユーザ本人に著作権が発生することから、アップロード先 (いわゆるプラットフォーム事業者) との間で権利関係の問題が発生する。DSM著作権指令では、2001年の情報社会指令の方針を踏襲する形で、プラットフォーム事業者がユーザからライセンス許諾を得るなどの権利処理を求めている[44]。これにより、アップロードしたユーザは報酬に関してプラットフォーム事業者との間で交渉しやすくなることが期待されている[45]。ただし、コンテンツ共有が非営利目的あるいは少額の収益に限定される場合は、たとえライセンス許諾などの手続を怠ったとしても免責される (第17条)[44]。
なお、非営利で運営されるウィキペディアや、教育・科学目的のオンラインレポジトリー、GitHubに代表されるオープンソース向けソフトウェア開発プラットフォーム、B2Bのクラウドサービスなどは第17条の適用対象外となる[6][46]。
また表現の自由を擁護するため、同17条では引用、批判、解説、カリカチュア (風刺画)、パロディないしパスティーシュ (模倣) の目的であれば、ユーザがコンテンツを自由に創作してアップロードできると定めた。換言すると、これらのコンテンツをプラットフォーム事業者が著作権侵害のおそれがあるとして、みだりに削除してはならない。過去にこのような制限・例外規定を導入するかはEU加盟各国の判断に任されていたが、DSM著作権指令によって明示的に義務化されている[45][6]。
プラットフォーム事業者に課された規定には、"best efforts" (最善を尽くして)、"with high industry standards of professional diligence" (業界の慣行に基づいた高水準の対応に基づき) といった表現が使われており、ライセンス許諾や利用料などの具体的な手続がDSM著作権指令上で定められているわけではない。よって、あくまで業界や時世に則したEU加盟各国の国内法化に任されており (第17条)[44]、私的契約の自由と著作者・著作隣接者が受け取れる報酬の公正性の間で、バランスをとることが求められている (第18条)[47]。
上述の指令内容が固まるまでの間、欧州連合では議論と修正を重ねる必要があった。その経緯を解説していく。
デジタル社会に対応した著作権問題に国際社会が本格的に取り組み始めたのは、1996年に署名されたWIPO著作権条約 (著作者本人の権利保護) およびWIPO実演・レコード条約 (著作隣接者の権利保護) である。これら2本の条約は、インターネットを介したインタラクティブ送信を想定しており、デジタル著作物の違法コピー (海賊版) といった技術的保護手段の回避への対策などを規定に盛り込んでいる[48]。EUではこれを受け、2001年に情報社会指令を成立させている[49][50]。情報社会指令では特に複製権、公衆伝達権、および頒布権について言及するとともに、著作者や著作隣接者が有するこれらの独占権に一定の制限・例外を設ける規定が含まれている[50]。
しかしながら、著作権者などからの情報社会指令への批判が強かったことから、欧州委員会にて欧州単一市場・サービス担当委員を務めるフランス出身のミシェル・バルニエが、情報社会指令の抜本的な改革に向けた当事者検討会合を2013年初頭から開始すると宣言した。検討課題として挙げられたのは、著作物の越境流通、テレビ・映画著作物のオンライン配信への法的保護、音楽著作物の複製に対する利用料などである。ところが、欧州委員会には改革に後ろ向きな姿勢をとる委員も少なくなかった。なぜならば、2004年にはソフトウェア特許、2007年には著作物利用料に関し、欧州委員会は改正提案を行ってきたものの、いずれも廃案に追い込まれた苦い経験があったためである[51]。
このような背景理由から、欧州委員会は改革に向けて慎重に歩みを進めた。80問から成るアンケート形式のパブリック・コメントを2013年12月から2014年3月にかけて募り、その結果を2014年7月にとりまとめて公表した[52]。また、著作権の例外・制限規定によってどのような経済的インパクトが生じるかも2014年5月に調査・分析されており、テキストおよびデータマイニング (TDM) や教育目的、または私的利用目的などについて考察されている[53]。
同2014年には、ルクセンブルク元首相のジャン=クロード・ユンケルが欧州委員会委員長に選出されている。ユンケルは強固な「フェデラリスト」(欧州中央集権派) と評され、欧州統一通貨ユーロの立役者の一人としても知られている。その選挙キャンペーンでは「労働者への最低賃金を保障しつつ、デジタル単一市場を達成する」と目標を掲げた[54]。この公言に即し、ユンケル委員会では、重要政策の一つとしてデジタル単一市場を挙げ、副委員長 兼 デジタル単一市場・サービス担当委員にはエストニア元首相のアンドルス・アンシプを起用している[55]。DSM著作権指令も、このデジタル単一市場戦略の一環として位置づけられ、指令案策定の準備が進められていった[4]。
EU指令を成立させるには、欧州連合の通常立法手続を踏む必要がある。すなわち、欧州委員会 (Commission) が法案を提出し、欧州議会 (Parliament) の単純過半数[注 12]、および欧州連合理事会 (Council) の特定多数[注 13]から共同採択されて初めて成立する。仮に欧州議会で原案そのままあるいは修正付きで承認したにもかかわらず、欧州連合理事会が難色を示した場合は、「三者対話」(英: trilogue) の機会が持たれる。これは欧州委員会、欧州議会、欧州連合理事会からそれぞれ代表者を出して行う公式に定められた交渉であり、共同採択の迅速化を目的としている[58]。
DSM著作権指令もこの手続に則り、欧州委員会が2016年9月14日に指令案を提出した[4][59]。続いて欧州議会司法委員会 (略称: JURI) にて審議が開始され、2016年10月12日には本件の特別報告者 (仏: Rapporteur) としてマルタ出身で欧州人民党 (EPP) 所属のテリース・コモディーニ・カチアが任命された[59]。2017年6月15日には特別報告者がカチアからアクセル・ボス (ドイツ出身、EPP所属) に交代し[60]、2017年9月下旬に欧州議会司法委員会での採決が予定されていた[61]。しかしながら、2016年の欧州委員会が提出した原案に対する修正項目が996か所にも及んだことから、採決は複数回先送りされることとなった[61]。この間、人権およびデジタル関連を擁護する非営利56団体が共同で公開質問状を提出したり[10]、電子商取引指令で掲げられた一般ユーザの行動にインターネット・サービス事業者が監視責務を負いかねない条項は、2000年の電子商取引指令の方針に反するとする学術研究レポートが公表されるなど[62]、強い反発を受けることとなった。その一方で、著作権者や出版業界の権利保護強化を支持する学術研究レポートも提出されている[63]。
賛否両論ありながら、欧州議会司法委員会ではようやく2018年6月に指令案の承認までこぎ着けた[59][注 14]。ところが、欧州議会司法委員会の修正案は2018年7月の欧州議会本会議で否決され、指令案をさらに修正して2018年9月に再採決が行われた結果、可決した[59]。この可決は指令案そのものへの可決ではなく、指令案を欧州連合理事会と交渉することへの合意決議 (英: position[注 15]) である[59]。これにより、欧州委員会、欧州議会、欧州連合理事会による三者対話が2018年10月よりスタートした[60]。その後2019年2月には、三者対話の結果を踏まえて、第15条 (通称リンク税) と第17条 (通称アップロード・フィルター条項) を中心に修正が加えられることとなる[59]。最終案は2019年3月26日に欧州議会で、同年4月15日に欧州連合理事会でそれぞれ承認された[1]。
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欧州議会の政党略称であるが、欧州人民党グループ (EPP)、社会民主進歩同盟 (S&D)、欧州自由民主同盟 (ALDE)[注 16]、欧州緑グループ・欧州自由連盟 (Greens-EFA)、国家と自由の欧州運動 (ID)、欧州保守改革グループ (ECR)、欧州統一左派・北方緑の左派同盟 (GUE-NGL) となっている[66]。
2019年3月の欧州議会における最終投票は、賛成348票、反対274票、棄権129票であり、投票数に占める割合は賛成55.9%、反対44.1%となっている[65]。投票間違いを修正後は賛成338票 (54.3%)、反対284票 (45.7%) である[65]。この集計修正は、最終投票の直前に別途、部分修正についての投票が行われていたことに起因する。これは通称リンク税と通称アップロード・フィルター条項をそれぞれ個別に投票するか否かについて問う投票であった。仮に可決していれば、リンク税とアップロード・フィルター条項を最終投票の対象から外すことができた可能性があった。結局、この個別投票方式は賛成312票、反対317票、棄権24票で否決された。ところが、投票者のうち10名は誤って反対を投じ、2名は誤って賛成を投じ、1名は棄権のつもりだったと主張した。彼らが正しく投票していた場合、個別投票方式は可決されたはずであった[67][68]。
欧州議会議員の出身国別に見た場合、賛否比率の傾向 (修正前) は大きく異なる[69]。
2019年4月の欧州連合理事会における最終投票は、賛成19か国、反対6か国、棄権3か国の結果となった[70]。賛成19か国でEU人口の71%超に達することから、可決に必要な特定多数[注 13]を満たすこととなった[71]。
欧州連合理事会の国別投票結果 (50音順)[70][71]:
なお、反対した国のうちオランダ、ルクセンブルク、イタリア、ポーランド、フィンランドの5か国は、「改悪である」として最終採決に先駆けて共同反対声明を提出している[72]。
こうして紆余曲折しながらも欧州議会と欧州連合理事会で共同採択されたことから、欧州委員会が法案提出してから約2年半後の2019年4月17日にDSM著作権指令は成立した[2]。EU指令としては2019年6月7日に発効しており[3]、これを受けて、EU加盟国は2年後の2021年6月7日までに国内法化して履行する義務を負っている[3]。なお、先例となる2001年の情報社会指令の際には、国内法化に約1年半の猶予期間を設けていたものの、実際に期限内に国内法化を済ませることができたのは、ギリシャとデンマークの2か国のみである。特に遅れた8か国 (ベルギー、スペイン、フランス、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、フィンランド、スウェーデン) に関しては、欧州委員会から欧州司法裁判所に不履行が通達された経緯がある[73]。
2019年5月24日、ポーランド政府はDSM著作権指令が検閲を助長し、EU諸条約に反するとの理由から、欧州司法裁判所に抗議申し立てを行った[74][75]。
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